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花月演義 ~~花月の乱~~  作者: のわ〜るRion
第10章 狭間の山の小さな三国戦
128/138

125.変わる状況と変わらない日常


~~~ロロリアの住居 兼 大樹の村の管制室~~



『魔導拠点No.003 ~~ラクロアシステム~~

 使用可能エナジー残量低下…限界領域Lv7・最終段階に入ります…

 スリープモード移行までの限界日数…119日と7時間24分…』



「…あら…? おかしいわね…」


部屋奥側の天然の木の壁…

もとい、大樹の幹に手を当て、思念を読み取るように目を閉じているロロリアが、ふとつぶやく。


先の会議に参加したメンバーも、ほぼ全員その管制室に集まってきた。


「ロロリア…? どうかしたの…?」


代表するような形でクレージュが尋ねた。

脚を怪我しているので、歩行補助用の杖を手にしている。この大樹の末端の枝でできた、治療効果を高める“樹”系統の魔法が込められた杖だ。


「…残り時間が半分ほどになっているわ…」


森妖精(ドライアード)(オサ)であり、このラクロア大樹の管理者であるロロリアは、大樹と交信するような姿勢を崩さず答えた。


「えっと…残り時間、って…何の…?」

「…ま、まさか…♭#」


「…ええ、もちろん…この大樹の、よ」


ロロリアは表情も声色もそのままに…

この重大すぎる重大事を、ややすれば平然と言ってのけた。



どうやら…オノア難民村に出かける前に確認した残り日数から、大幅に短くなっているようだ。



「「「なんですってー!?」」#」



一同驚くのも無理はない。


この村が終焉を迎える事は、ここにいる中心メンバーのみならず、花月兵団の女子全員が知っている。


問題は、その時期に関して、だ。

防衛戦に出る前の情報では、来年の春先頃までもつ予定だった。

それがどうやら…


「今年の冬まで保たない、という事ね…」


突然の期間短縮を受け…

クレージュは、少しうつむくようにして拳を口元に添え、困った事を考えるような表情になった。



横並びにフローレン、アルテミシア、レイリアたちが、驚愕し言葉を失う中…


「…大樹の加護の力を使いすぎた影響かしら…?」


ロロリアは目をつむった物静かな表情も変えず、淡々とそんなことを(つぶや)いている。





この重大すぎる重大案件について話し合うため、再び先ほどの席について会議が再開される。



「春まで保たない…って!?」

「ど、どうなっちゃうの!#♭」

「まずいだろ! いきなり言われても!」


フローレン、アルテミシア、レイリア、歴戦の三人もこれには混乱気味だ。


ニクを食べ終わったユーミは、ぽけーっとしてる感じ…話題の理解以前に、話を聞いていたかどうかもあやしい。

アルジェーンは変わらず無表情、銀色のツインテも微動だにしないほど動きがない。いつもどおりだ。


ここにいる中では唯一冒険者組じゃないニュクスは、おっとりした笑みを崩さない感じだけど、事の重要性に、冷たい汗を流すような表情をしている。




席についたクレージュは、仕事の話をする時の姿勢、背筋を正して大きすぎる胸を両手で抱える姿勢を取った。

先程の片手で杖を突いた立ち姿勢では、大きすぎる胸を両手で支えられないので、ちょっとしんどそうではあった…


「蓄えがあれば、ある程度凌ぐことはできそうだけど…」


クレージュは冷静に意見を述べた。

さすがに行商のリーダーであり、この女子たちを束ねる花月兵団の総帥である。


「…大樹の加護がないと…ここの冬は、厳しいと思うわ…」


大樹の「声」を聞いたロロリアが、続けるように口を開く。

少し憂いを感じさせるその口調には、この村で実に長い時間を過ごした彼女ならではの想いが込められている。


「…仮に…冬を(しの)ぐことができたとしても…

 転移システムが使えなくなるのが、一番の問題かしら…」


つまり…


「虹の橋が使えなくなる、って事は…!?」

「スィーニ山にでられなくなる…って事よね…?#♭ じゃあ…」


「王国に戻るには、夜光樹の森を抜けるしかなくなるねえ」



花月兵団は、ラクロア大樹の中の村から、通称「虹の橋」と呼ばれる転移門(ゲート)にて、真西にあるスィーニ山に移動、そこから馬車を走らせルルメラルア国内に出入りしている。


その転移門を使えない…となると、レイリアの言うとおり、大樹の下に広がる夜光樹の森を抜けるしかない。

夜光樹の森を南下すれば、大聖堂のあるエルロンド郊外に出るのはわかっている。


「でも、あの森って…」

「かなり、危険よね…♭」


そう。夜光樹の森には、多種の魔物が無数に徘徊してる。

彼女たち高レベルな冒険者ですら、初めて見る魔物も生息している…

フローレンほどの剣士が警戒し、アルテミシアほどの魔女が「危険」という言葉を口にするレベルだ…


この大樹の真下に時々現れる合成魔獣ラキアなどは、まだカワイイレベルだ。

夜光樹の森には、あの手の合成獣がかなりバリエーション多く存在していると思われる。


フローレンたちは二度ほど、その森を抜けて王国に戻った事があった。

その彼女たちが確認しているものだけでも、キケンなイキモノを多数確認しているし、実際に戦ったこともある。かなり手強いのもいた。


全身金属のケモノとか、半透明なヤツとか、光を放ちながら浮いてるやつとか…そういうのはそもそも生き物かどうかすら怪しい。円盤状の黒い亜空間から女の下半身だけが歩き回っている集団とか…そんなのはまだマシなレベルで、中には見ただけで卒倒しそうなくらいキモチワルイ姿をしたイキモノも多数…

いや、弱い者なら近くに寄ったり、あるいは叫び声を聞いたり、匂いを嗅いだりするだけでもヤバい魔物や植物まで生息?している。


この森では、そういった動物、植物、生物?の、生息?が確認されている訳で、

冒険者組の女子ならいざしらず、それ以外の女子が通り抜けるのは危険が大きい。大きすぎる。


中には好戦的ではない、関わらなければ無害なイキモノも多い…のだが、

その常軌を逸した光景に、女子たちが恐怖するのは目に見えている…

たとえば誰かが驚いて大声をあげれば、相手を刺激し、それに反応して攻撃を受けるような事もありうるのだ。



「そもそも下の森を抜けるとすると、荷馬車が通れるような道はないでしょ?」


荷を運べないから、行商が行えなくなる。

ので、クレージュとしては危険度を抜きにしても、下の森を「道」とは見ていない。




「じゃあ…どうすればいいの!?」


フローレンはちょっと混乱気味だ。

自分や冒険者組は何とでもなるけれど、ここにいる他の女子たちの事を心配しているのだ。


「確定事項としては、大樹が休眠状態(スリープモード)に移行する前に、全員でこの村を出る必要がある…って事ね♪」

「だね…ここに留まると、あの子らが身動き取れなくなるからねえ」


アルテミシアやレイリアは、やや冷静さを取り戻してきている。

その二人の意見に対し、クレージュもロロリアもニュクスも、異論はない様子だ。



「とりあえず…スィーニ山に、移住?♪」


そこでアルテミシアが出した意見が、冬までに備えをしてスィーニ山に籠もる案だ。

民族主義的な右派のオノア難民はこの山に残るだろうから、一緒に生活することも考えられる。

冬さえ乗り切れば、山の実りは多くなるので、食べるには事欠かなくなる。



「冬を越せるだけの食料や備えがあれば、それが最後の手段ね」


ただ、山ごもりになると、消費するだけでその先がない。

スィーニ山では主力商品のあの甘い(キビ)どころか、イアーズ村の葡萄(ブドウ)やアヴェリ村の大きな豆すら実るかどうか疑わしい。

大樹の元での生産が行えなくなるという事は、今後の交易での利益は求められなくなる。

だからクレージュは、山に籠もるのはあくまで、食いつなぐための最終手段だと考えている。



「オノア難民と一緒に山を下りて、ラナの開拓地で暮らす、とか?」


フローレンが思いついたのは、彼女らしい率直な意見だ。

民族の価値観より安定した衣食住を求める左派なオノア難民は、冬までに山を下るだろう。

彼らと一緒に山を下りてラナの民になる、という事になる。


「まあ、それもあり、と言えばありね。ただ…」


クレージュは重たい胸を抱え直すように腕組みを強め、続けて口調も強めにこう言った。


「その場合、花月兵団は解散、という事になるわよ」


ブロスナムと同盟国であった神聖王国ラナは、ルルメラルア王国にとっては敵対国である。

ラナの国民になる者は、ルルメラルアの爵位を持つ三人とは、縁を切らなければならないだろう。


「あ~…そこまでは…考えてなかったな~…」


フローレンはそこまで深く考えていない。

いつも直感で物事を判断するタイプなので、考えるのは苦手だ。



「じゃあ、クレージュ… あの計画、前倒しするつもりか…?」


レイリアは足を組んだ姿勢のまま、お酒のグラスを手のひらで転がすように回しつつ、尋ねた。



そのクレージュの計画、とは。


現在フルマーシュの町には、空き家になっている商店が数多くある。

それらを買い取って、様々なお店を開く。

今あるクレージュの酒場を中心に、パン屋さん、お肉屋さん、お花屋さん、衣類の店にアクセサリ店、雑貨店に魔法品店、小さな鍛冶屋に占いの店…

クレージュ商会の元に、女子それぞれが特技や趣味を活かして、それぞれのお店を持つ、という計画だ。


このラクロア大樹村での、砂糖やその他生産物のお陰で、花月兵団は莫大な利益を上げている。


最初は、全員が十分に食べることができる環境を求めていた、

砂糖やその他の物資で儲けようなんて考えは後からついてきたものだ。

だけど、稼げるときに稼ぐ、商人であるクレージュは当然そう考え、行商に力を入れてきた。


その結果、資金もかなり貯まり、フルマーシュの中央通りの空いているお店を軒並み買い取り、商売を始めるだけなら可能な程度の財力はある。


あとは稼ぎながら、規模を大きくしていけばいい。

通常ならそうなるのだけれど…


「でも、今のフルマーシュの閑散とした状況だと…」


フルマーシュの町は、不景気が不景気を呼ぶような状況である。

町の人も大勢、北の開拓地へ行ってしまった。

町が廃れすぎていて人が少ない。

商売を興しても、お客が来ないのでは、十分に稼げる見込みが薄く、すぐに生活が行き詰まる事になるだろう。

そこから先の生活の目処はつかない…



「じゃあ、土地を開いて、みんなで農場をする、っていうのは?」


フローレンの意見は率直だ。

この村で女兵士たちが仲良く農耕に勤しんでいる姿をいつも見ている。

時に彼女も畑を耕したり水をやったり、収穫を手伝ったりもしている。

だからフローレンがこういう意見を出すのは当然だ。


クレージュはもちろん、それも考えていた。


何人かがフルマーシュの町中に店を構えつつ、そちらで商売をする傍ら、別のグループがフルマーシュの西にあるヴァイ村あたりで土地を開墾して、大きな農場を作る。


そもそも大樹村に来る前、店の女の子たちをどうやって食べさせていくか必死に考えた時にも、この考えはあった。

だけどあのときは、農場を持つ案は即座に選択肢から外された。

食料を生産するまでに時間がかかる。

実りを得るまでの生活が成り立たなかったからだ。


ただ今はあの時とは違って、元手は十分にある。

作物ができるまでは、食料を他から購入して食いつなぐことはできるだろう。


この計画も、不可能じゃあない。

ただ…


「農地を持つと、税を取られるわよ。かなりの量を、ね。

 それに…作物を実らせるのは、そう簡単じゃあないわ」


大樹の村で生活していると、あまりに実りがよく、しかも毎月収穫できるくらいに速いので、感覚が狂いがちになる…

その感覚からすると、通常の土地での生産は、かなり遅く、そして少ない事になる… 天候にも左右されるし、有害な虫や獣への対策も必要なのだ。



その後も、いくつか意見は出た。

フローレンが「みんなで冒険者になるのは?」とか言い出したり、

ユーミが珍しく口を開いたかと思えば、「みんなでカリをしよう!」と、彼女らしい事を言ったりしたのだけれど…

現実味のある意見はでてこなかった。


とりあえずはスィーニ山に籠もって耐える。

フルマーシュに活気が戻ってきたら、商売を始める。

それが落とし所、といったところだ。


「やっぱり…北の内乱が収まらないと、どうにもならないわね…」


クレージュが、この話題を締めくくるように言った。

結局、すべての要因は内乱にあり、行き着く先も内乱の終結なのだ。


そして、いまちょうど北の情勢は動きつつある。

それを見越しての行動…


(戦乱の収束が予想されるなら、先にフルマーシュの店舗を抑えておくかどうか、というところだけど… ああ、でも…ルルメラルア側が敗れれば、北の地は奪還されて…情勢が悪化する可能性もあるわね…)


と、クレージュが思案をしていたところに…



「あー…占いの結果なんだけど~…」


今回「そこにいたのか」というくらい途中から影が薄かったレメンティ…金ピカ派手派手衣装のくせに。

会議が再開された時から、例の十二枚の微妙に色違いの金属板を並べて遊び…もとい占いを行っていたのだ。

けど…


「なんかね…意味が読みづらい感じの答えが出てて…」

いつものレメンティはほぼ一瞬でその板の並びから意味を見て取るのに、今回は解釈に時間がかかりすぎている。


「あなたの占い、いつもわかりにくいじゃない?」


フローレンの言い方はちょっと失礼を伴うかもしれないが…

実際、レメンティの占いの結果は、彼女自身が「なにこれ?」というくらい意味不明な事が多い。


「いや、そういうのじゃあなくって!

 なぜかね、今回は啓示的な文言が浮かんでこないのよ…」


そういうナニソレ系の占い結果ではない、ようだ。


「で、この並びの意味を解釈しようと頑張ってるんだけど…

 どう読んでも、なんて言うのか…

 んー…まあ、端的に言うと…」


彼女の前に置かれた、三段に四枚ずつ並んだ十二の金属板に、みなの目が集まる。

その並びの意味など常人にわかるはずもなく、一同は固唾をのんでレメンティの言葉を待った。

が…


「普通に行動しろ、って事になるのよね」


その答えに…

場の空気が冷めた。

一同やっぱり、例によって「なにそれ…?」といった感じだ。


で、レメちゃんもその空気を悟って、


「な、なによっ! あたしだって、頑張ってるのよ!

 必死に解釈して、そうとしか読めないんだから!

 …もう、知らない! 信じなくたって、いいんだからねっ!」


で「プンっ!」とそっぽを向いてしまう。

いつもの微褐色神秘的がっかり美女はお変わりない…。



なんか気まずいような…何ともいい難い雰囲気になった…


「まあまあ。一度フルマーシュに戻ってから考えましょう」


そういう空気を収めるように、レメンティの占いの結果に従うような意見で、クレージュがこの話題を切った。

ここで会議は終了だ。



まだ三ヶ月以上の時間はある。

まあ、残り時間が短くなる可能性はあるので、あまりのんびりもしていられないけれど…


とりあえずいつもどおりの事、今するべき事をする。それだけだ。





その会議の二日後には行商に出発。



…フローレンたちは、この行商に先駆けて、スィーニ山南側の捜索を行った。


同行するのは、冒険者組ではアルテミシア、レイリアとユーミ、つまりいつもの四人組。

そして女兵士隊長格のミミア、メメリ、キューチェ、ハンナの仲良し四人組。


くわえて森妖精(ドライアード)からも四人。

先の戦いにも参戦した、食品加工担当のプレーナと、果樹園担当のスヴェン。それと、戦いには参加していない、畑担当のクリスヴェリンに、森妖精副長のメラルダだ。




あの戦いの翌日。

ロロリアは南に向けて小鳥たちを放った。


戦いに敗れたブロスナム残党は、元いた南の拠点に退いた、と思われる。

それを調べるためだ。


その結果、敵の拠点らしき開けた場所は発見した。

だけれど、残党の姿は見当たらなかった。


ブロスナムの指揮官クラスのうち四人は討ち取ったけれど、あのバルバロットとかいう赤(ヒゲ)の猛者だけは取り逃がしている。

指揮をとれる将の元に残党をまとめられ、この辺りに居座られると、交易の妨げになる可能性があった。

のだけど、どうやらその様子はなさそうだ。




行商隊はラクロア大樹村を出発し、オノアの難民村に一泊。

クレージュたちは彼らがの生活に不足しているものを聞き取り、販売に回せそうな作物を選んで受け取る。


その間にフローレンたち十二名は、さらに南へ。

払暁と共に出発し昼過ぎには、ロロリアが小鳥の耳目で見つけた敵拠点の跡地にたどり着いた。


「ここね」

「わりと大きな拠点だわね♪」

「ま、あれだけ人数がいたからなあ」


森の中の、所々が開けたような広場のようになっている、

雑な材木作りの粗末な建物がいくつかあるだけの、村とも呼べない粗末な拠点だ。


各所にいた小動物が、彼女たちの姿を見て一斉に森に逃げた。

動物がうろついている、ということは、人がいないという事だ。



《反応感知》センス・リアクション



「小さな動物しかいないわね… 人の反応は、ナシ♪」


それでも一応、誰かが隠れたりしていないかを魔法で確認する事は(おこた)らない。



拠点の中心あたりにある、粗末な布張りの幕舎。

誰もいない、とわかっているけれど…

フローレンとレイリアは一応、警戒しながら中に入った。


「これは…あの村の…地図…?」


その古い机の上に、オノア村の地形を書き込んだ地図のようなものが残っていた。


「ここで作戦を行っていたのは間違いないみたいね」

「木片が村の建物…石ころは敵の兵配置、って感じだね」


図面の上には、木片や石ころがいくつも、並ぶように置かれている。

その図面は、南側の外壁の並びがやや正確で、北は適当に描かれていた。


再び攻略を企てるような事はないだろうけれど…

念の為、レイリアが指先に灯した炎で地図を焼き捨てた。




「こっち方面に足跡多数…」

「そうね~。そろって南方面に向かってるわね~」

「何か引きずったような跡も…多分ここにあった食料とかだね」


プレーナとスヴェンとクリスヴェリンが、拠点周囲の様子を伺っている。

森妖精(ドライアード)たちは、森の中の探索に優れている。

冒険者の間でレンジャー技能とか呼ばれるスキルだが、森妖精(ドライアード)の彼女たちの場合、より森に馴染み精密に調べる事ができる。



粗末な建物を順々に調べて回っていた、ミミアたち四人も収穫なしだ。


「ご飯になるもの、何もないわよ~!」

「食料が、どこにもありませんねえ」

「ですです! 食べるものぜーんぶ、ないんですから!」


ミミア、メメリ、ハンナの三人は、食料しか探してないんじゃないか、という不安にはあるけれど…


「…ここを放棄した、と考えるのが妥当です…」

可愛いキューチェがしっかりしてるので、大丈夫、だろう。




そうやって手分けして拠点を調べるも、他に目ぼしい物は見つからず、早い段階で捜索を終了した。


この拠点を再び使わせないために、破壊しておく。


「ぶっこわすよー!」

森の木に近い建物は、ユーミが次々に大斧でぶった斬る。


「燃やすよ!」

森に火が飛ぶ心配のない位置の建造物は、レイリアが次々に発火させる。


壊さず燃やさずに残しておいた中央の小屋にみんな集まった。

フローレン、アルテミシア、レイリアが座って、机の上に地図を広げた。

先に燃やした図面ではなく、この山の南北からエルロンド大聖堂あたりまで描かれた、行商用の地図だ。

その地図を他のみんなが後ろから見下ろしている。


「私達の追撃があれば、この拠点では持ち堪えられない、と考えたみたいね」

「それだけ逃げ延びた敵は少なかった、って事かな♪」

「圧倒的勝利だったからねえ」


ここから更に南方面へ逃げ出した形跡があり、そして物資が持ち出されている…ということは、どうやらここに戻ってくる事はなさそうだ。


「逃げたのがここから南の森の方面…ということは」

「断崖の山道からは大きく離れるわね♪」

「行商のジャマにはならないね」


フローレンが地図のその南の森の場所をつんつん、と指でさす。

アルテミシアが指すその横の山道の場所とは、かなり離れている。


「じゃあ、探索は完了、って事ね」

リーダーのフローレンが、任務の終了を宣言した。



「メラルダ、連絡をお願いね♪」


「りょーかーい! (オサ)()らせるよー」


小柄でちょっと褐色肌の森妖精(ドライアード)副長のメラルダが、連絡用の青い鳥を放ってこの情報を村に伝達する。伝令の青い鳥は、ものすごい速さで北東方面へ飛び去って行った。


「じゃあ、わたしたちも移動しよっか!」

「クレージュたちと合流ね♪」


クレージュは三両の馬車を率いて、オノア難民村から山道を進んできている。


フローレン一行はこのまま断崖側の山道に移動してそこで待ち、

クレージュたちと合流し、そのまま行商に参加する。


日暮れまでには、山を降りた森の中にある、二本木の広場までたどり着けるだろう。





廃棄された拠点を捜索したした翌日。

エルロンド大聖堂南にある、いつもの行商宿にたどり着いた。


「おー! これが、人間(ニンゲン)(マチ)だな!」

「おっきいお家…ヤドヤって言うのね?」

「すごい~! 立派な建物ですね~!」

「あー、美味しそうな匂いがするね!」


ずっとラクロア大樹村にいた森妖精の四人にすれば、初めて“人間の”世界でのお泊りという事になる。


森妖精副長メラルダ、食品加工担当プレーナ、果樹園担当スヴェン、畑担当クリスヴェリン、この森妖精(ドライアード)四人が選ばれたのは、先の南の敵拠点の探索の事よりも、今回の行商に参加させるのが目的だった。


今回の行商では、まだ一度も町を見たことのない森妖精(ドライアード)たちを連れて行く事にしていた。

この先…彼女たちは、ずっと生まれ育ったラクロア大樹を出ることになるので、少しでも王国の町など見せておいたほうがよい、という、ロロリアとクレージュの親心だ。



で、さっそく、行商宿での食事にありつくわけだ。


「ユーミ! ここのお(ニク)おいちいな!」


やけに子供っぽい口調で言うのは、森妖精(ドライアード)副長のメラルダだ。

ロロリアに次ぐ副長というくらいだから、さぞしっかりした森妖精のお姉さんかと思いきや…

ユーミと並んでがつがつ肉を食べてる、ちょっと日焼け色肌のちびっっこい森妖精がそれだ。


「メラルーよ! おどろくなー! あんぐろーのマチには、もっとおいしいおニクやさんがいっぱいあるのだ~!」


本当(ホント)かー!? ユーミー! そのオニクたべれるとこ、あたちにもショーカイちてね!」

そのメラルダは、外見通り、話し方もかなり子供っぽい…


「おー! あーしに、まかしとけー! いっぱいたべるぞー!」

だからユーミとはある意味いいコンビだ。



この副長のメラルダや、ものづくり担当のマラーカは、森妖精(ドライアード)だけでなく、闇妖精(ナイトシェード)の血も混じっている。はるか古代にはダークエルフと呼ばれ、エルフ、つまり森妖精(ドライアード)と対立していた一族だ。闇森族とも言う。

だがこの地の森妖精(ドライアード)闇妖精(ナイトシェード)、つまりエルフとダークエルフは、やがて対立をやめ協力するようになった。


それは、森亜人(オーク)という共通の大敵が現れたからだ。


色が白いか黒いかだけの違いの、美しい森の妖精族と…

その妖精の乙女たちを捕らえては(もてあそ)ぶ事を喜びとする、豚に似た醜い亜人となら…

どちらと手を組むかは言うまでもない。


やがて二つの妖精たちは種族が合わさって森妖精(ドライアード)に統合された。

ロロリアは純正の森妖精(ドライアード)だけれど、大樹村の森妖精は闇妖精(ナイトシェード)の血も混じっている子が多く、褐色肌のメラルダやものづくり担当の武闘派マラーカはその闇の側の血も強く出ているのだという。



こっちではレイリアが残り三人の森妖精(ドライアード)と盛り上がってる。

食品加工担当プレーナと、畑担当クリスヴェリン、果樹園担当スヴェンの三人とも、レイリアが大樹村に来た時からの、酒飲み友達である。

基本的にラクロアの森妖精(ドライアード)はお酒が大好きだ。

実はこの三人は、酒好きだからそれぞれ食関係の担当になった、という…


「このエ~ルってやつ! ムギから作ってるとか、以外~! 

 にんげんのおさけも、けっこういけるのね~」


「こっちはお芋のお酒だって~? イモだよ、おいも~!

 イモからお酒作るとか、発想なかった~」


クリスヴェリンとプレーナは、もうかなり出来上がってしまっている…

畑と食品加工の担当だけど、お酒とそれにまつわる材料作りには、他の食品の倍は熱意を見せるこの二人…

アングローシャで酒の作成に関する書物を沢山買ってもらうとか意欲ありあり。

この調子だと大樹村を離れたとしても、お酒の醸造とその材料の農作物作りを、十分に生業(なりわい)にしていけるだろう…


「つぎ~! これ、いってみない? ダイセードーのデントーのお酒、だって!」

「この、ぶらんでい、ってやつ~? えーなになに…ブドー酒を、さらにジョーゾーした、お酒…? めっちゃ、おいしそ~! いっちゃえ~!」


「こらー! クリス! プレーナ!

 オマエら! やたら高い酒ばっか飲むなっ!」

酒飲み仲間のレイリアからお叱りが入った。


「何よ~? レーリアも、いっぱい飲んでるじゃん!」

「てゆーかぁ、レイリアのほうがいっぱい飲んでるよ~」


森妖精の二人が言うように…レイリアの前にはかなりの数の酒ビンが並んでいて…

で、そのうちの一つをプレーナが、「いっただき~!」と取って、直接口をつけて飲み始めた。


「こら! それ、アタシの大事な酒! 数が少ないヤツなんだよ! 取るな!

 あ! クリス! オマエも、何勝手に飲んでんだよっ!」


レイリアは先輩風を吹かせるが、酔いどれ森妖精(ドライアード)たちは意にも介さず。


「こらぁ! オマエら! アングローシャのいい飲み屋、紹介してやらないぞ!」


「いや~~ん! レーリアの~、イヂワル~!」

「そんなコト言わないでよ~ レイリアちゃ~ん!」

クリスヴェリンとプレーナがレイリアの隣りに来て、酔った勢いでぴったりくっついた。

森妖精(ドライアード)たちが持つ豊満な胸が、ぷにゃ、っと姉御の身体にくっつく。


「こら! なつくな!

 オマエら、酔い過ぎ!

 ちょ! ちょ…!

 ヘンなとこ触んな!!」


魔物や男相手なら容赦ない炎の女王様レイリアも…

後輩の女子たちにはある意味、手を焼くようだ…



そんな酔っ払い森妖精二人がレイリアに絡んでいる向かいの席では…


果樹園担当のスヴェンが、おしとやかに静かにお酒を(たしな)んでいる。

スヴェンは並外れた美貌を持つ森妖精で、しかもまだ少女のような外見… にもかかわらず、不似合いなお酒を黙々と…まあ見かけどおりの歳じゃあないのだろうけど…

しかも、静かなようで実は、この中では一番飲んでいる…

けれども、ちょっと頬が赤くなった程度の、軽く酔った程度の変化しか見られない…



森妖精(ドライアード)の食い気飲み気は底しれず…

おまけに、ずっと森で暮らしてきた彼女たちには金銭感覚というものがないので、値段なんてものも知らず、お肉もお酒も、安いも高いも構わず注文仕放題だ…

これが普通の行商隊だとしたら、稼ぎ全部飲み食いに使ってしまう勢いだ…


冒険の時だったら、金銭感覚のないこういう連中に代わってお金を払うのは、だいたいレイリアやアルテミシアの役回りになるのだが…

まあ今回はクレージュが一緒なので、金払いは心配ない。はずだ。


そのクレージュは優しげな微笑みで、彼女たちのやり取りを見つめている。

大樹村の作物で十分以上に儲けさせてもらっているので、森妖精(ドライアード)たちの金遣いにはわりと寛容なのだ。

クレージュは脚の痛みもわりと楽になったようで、換装した歩行用の杖で一人で歩けるようにまで回復した。食事の傍ら、ゆっくりとお酒も(たしな)んでいる。



「ここの料理~、けっこうイケるのよね~!」

「たまにはいつもと違う味付けも、いいですねえ!」

「明日からは安宿が続くのです!

 今のうちにしっかり食べておかないと、ですよ!」


こっちの四人席では、仲良しな四人が食べまくっている。

ミミアとメメリは相変わらずよく食べる…

二人に負けずとハンナも、小柄な割に大食いだ…


「…三人とも…食べ過ぎ…」


可愛いキューチェだけは、小さなお口でちょっぴりずつ…

キューチェはお上品すぎて、横にいる二人の小さな子供にも食べ負けてる…


その二人の小さな子たち…


「おいしいね、ここのお料理~」

「うん! ママの料理には、まけるけどね!」


ちびっ子のプララ、レンディも一度フルマーシュに里帰りする。

二人の母、商業助手カリラと料理長セリーヌに会うのは久しぶりになる。


「ここ、スィーツもけっこうイケてるのよ♪」


二人の前では、アルテミシアが各種スィーツを並べている。


「そうなんだー! 食後の楽しみー!」

「じゃあ、ちょっとおなか、空けとかなきゃね!」


「スィーツ女子にはベツバラがあるから、いっぱい食べても大丈夫よ♪」


別腹(ベツバラ)も何も、眼の前のアルテミシアは食後じゃなく、最初からスィーツばっかり食べてるのだが。



今回の他の同行メンバー…


チアノ、アジュール、セレステ、ラピリスの海歌族(セイレーン)四人組は…

食事もそこそこに、色っぽ~い眼で…向こうの席の若い男性四人の集団にあたりをつけてる。男好きなこの子たちは、食い気より夜遊びが目当てらしい。


今回は四人一緒に、しばらくフルマーシュの店で手伝いをする。

現在店にいる温泉村の不良三人娘と交代だ。



フローレンと一緒にいるのは、ベルチェ、アルセ、ナールのオノアの三人娘だ。

この子たちも、ルルメラルア王国内の町には、初めて行く事になる。

その後しばらくは、クレージュに付いて行商の手伝いをさせる予定だ。

基本マジメなこの三人娘は、各地でルルメラルアの文化に触れて、多くの事を学んでくれるだろう。





翌朝。

エルロンド南の宿場を後にする。


「じゃあ、五日後に、フルマーシュで」


ここで二組に別れる。


クレージュ組は二両の馬車で東へ。

商業都市アングローシャで生産品を売却し、自分たちや難民村の必要な物資を仕入れる。


フローレン組は馬車一両でここから南へ。

エヴェリエ公国で麗将軍ファリスと面会し、酒や砂糖を納品する。




フローレンには、ミミア、メメリ、キューチェ、ハンナの仲良し四人組が同行。


アングローシャ歓楽街の怪しい店から助け出されたハンナは、まだあの町に近づくべきではない、

という訳でハンナと、仲の良いキューチェ、ミミア、メメリはエヴェリエ公国経由の南まわりルートだ。




フローレンたちがエヴェリエ領の馴染みの宿屋を訪れると、いつものように食べ放題の接待を受け…


「お待ちしておりました。フローレン様。花月兵団の皆様」


食後しばらくした頃に、ピンク髪の小柄なレーナが迎えにきた。

何度も会っている、麗将軍ファリスの侍女だ。


エヴェリエ公国の公用馬車でお城へ。


フローレンは何度目か、だけど、女兵士四人はお城に初めて入る。


「お城って、広いのね~」

ミミアは初めて訪れるお城に戸惑い、


「ああ…なんだか…私、場違いのような…」

メメリはやや表情固く恐る恐る、


「…おしろなんて…はじめて…」「…ですですぅ…」

キューチェとハンナも、手をつなぎ合って緊張を和らげ…




そしてファリスに面会する。



城の兵士が運んでくれた花月兵団からの品々を、フローレンがファリスに受け渡す。

可愛いキューチェが、ファリスのもう一人の長身なほうの侍女、雷竜族(ブリッツニュート)のルドラ

から代価を受け取っている。

その横で…

侍女レーナともう仲良くなった食い気女子三人が(さんざんお宿で飲み食いしてきたにもかかわらず)出された高級菓子に夢中になる中…



「フローレン…実は、貴方がたにお願いがあるのだけれど…」



そこで麗将軍ファリスから花月兵団に、ある相談が…

行商に関する事ではない、ある依頼がもちかけられた。





~~麗将軍ファリスによる、その依頼によって…

  花月兵団は、大きな運命に巻き込まれてゆく事になる…


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