11.ぶった斬るのと、燃やすのと
話の切り方がヘタで、文字数多い回と少ない回に差が出ております…申し訳ない。
激しい物音が、階下から響いてきた。
「始まったわね♪ あ、待って、行く前に守りの魔法をかけるわ♪」
武器を構えて進み出そうとする二人の武闘派村娘ネージェとディアンを手で制する。
《月光☆防護盾》プロテクションシールド☆ムーンライト
窓から月の光が当たる位置で魔法をかけた。四人の女の子の身体に、月の光の幕のようなものが張られ、そして消えた。魔法による守りだ。月の力の乗った今の状態なら、軽装な鎧を着ているくらいの効果はある。それも全身にだ。剣撃や飛矢を受けても多少は防げるはずだ。
アルテミシアは先行して階下の様子を見ながら進み、女の子たちがゆっくりとついてくる。最後尾を守っているのはレイリアだ。
段を下りた先、砦の内部一階部分は屋根もない。ただ広い空間になっていて、均された土の地面が続き、四方には壁が見える。
この広い一階の方々に、荷を置く場所や、賊共が寝泊まりする粗末な木組みの壁なしの小屋などがあり、
この位置からまっすぐ先の北東の端には、馬を繋いでいる場所も見える。その厩の上が、この子たちが囚われていた部屋の辺りのはずだ。
砦の中央部には、木箱や資材、建材が大量に置かれている。
その陰になってよくわからないが、砦の逆側にあたる南東のほうでも火が焚かれているのが垣間見えた。
この子たちを助けるちょっと前、ユーミが下の階から匂いがする事を言っていたことを思い出すと、ちょうどその位置にあたる感じだ。
火が焚かれている、という事は、あちらでも何人かが宴会をしているのかもしれない。
と、いきなり激しい、砕けるような音が響いた。
すぐ下の、山賊の宴会所では…
ユーミが賊の固まっている西の壁際を、思い切り叩き斬っていた。
ユーミの大斧の一撃は、そこにいた賊ども、どころか、壁ごとぶった斬るような硬さと重さだ。その部分の石の壁が、砕けて飛び散っている。
と同時に、その衝撃は壁に沿って周囲に伝わってゆく…。
足元の揺れを感じながら、まだ二階にいるレイリアには、下で何が起こっているか、だいたい想像できていた。
下から響いてくる轟音は、ユーミが壁ごと殴ったに相違ない。
振動と共に、レイリアの近くの壁からも、崩れた小石が散った。
「アイツ… 崩れやすいから殴るな、って言ったのにな…」
まあ…アタマの中に暴れる事と食べる事しかないような、あの相方に対しては、大概の警告は意味をなさない。わかってはいるのだ…。
そうしているうちに、外壁二階通路の南側の奥の方から多数の賊が、こちらへ駆け向かってくる。
さっきユーミが発見し、下がることで避けた敵だ。が、結局戦う事になった。
もはや隠れる段階ではなくなっている。侵入はとっくにバレているのだ。
右手に火色金の剣を出現させる。炎の力を強める、赤銅系金属の変幻武器だ。
火色金は、緋々色金という希少な炎の金属を模して作られた、人造の合金だ。
模造品だけど、炎の力を増幅させる効果は充分だ。
レイリアは炎を構えた。
外壁通路の途中、石の床が砕けていて、通した木の板だけになる場所がある。
通路が狭い。つまり、一人ずつしか渡ってはこれない。
レイリアが迎え撃ったのはそういう場所だ。
木の板の上を渡ってくる先頭の敵を、炎の剣で大振りにぶった斬る。
賊は剣を構えていたが、レイリアは炎で斬ったのだ。剣では防げない。
合わせた剣から抜けてきた炎を浴び、先頭の賊がのけぞるように倒れ込む。
倒れたのは木の渡し板の上だ。
アルテミシアの魔法で硬化はしているが、木である事には変わりない。
つまり、当然、火が回る。
レイリアは間入れず、Xを描くように、二度大きく炎で空を斬った。
剣の軌跡から二つ、斬撃の形の炎が飛び、次に迫る賊のところで破裂した。
飛び散った炎は命中した賊のみならず、周囲の木の渡し板や、それを支える支柱にも、次々に引火する。
レイリアの炎はそもそも、普通の、そこに掛けてある松明の炎よりも熱い。
そこに彼女の武器を構成する火色金が炎を増幅させ、さらに熱を上げる。
つまりレイリアは炎自体をコントロールできる。
通常より熱い炎、燃えやすい炎を扱うこともできるのだ。
だがこれは、彼女の操炎術の中でも、ほんの初歩にすぎない。
見る見る間に辺り一帯の木の足場は炎上し、賊どもの行く手を阻んだ。
やがて燃え落ちるだろう。この通路は使えなくなる。
(このくらいでいいだろ)
レイリアは焔色の髪を靡かせながら背を向け、仲間を追って階下に向かった。
壁の石が細かく降ってきている。
階下の派手な戦いが、振動となって上まで伝わってくる。
レイリアは、階段の途中で四人の村娘に追いついた。
二階から一階に降りる階段の途中にある、踊り場の部分でだ。
その時、後ろから気配がした。
賊が駆けてくる気配だ。
重さで開かない扉を、壊して進んできたのだろう。
アルテミシアはあの扉を重たくしたけれど、硬さまで変化させた訳ではなかったのだ。
レイリアがそちらを迎え撃つべく居直った時…
ひときわ激しい揺れが来た。
階下でユーミが壁ごとブッ叩いたに違いなかった。
それも、かなり激しく、だ。
「あの…バカ…!」
右手の壁に大きくヒビが入った。
そして、ヒビは連鎖するように上へ上ってゆく。
(崩れる…!)
そう直感したレイリアは、自分でも気付かないうちに、
「走って! 早く!」と叫んで、女の子たちを先へと誘導していた。
…後で考えれば、
レイリアは咄嗟に周囲を確認していた。そして、前方つまり一階に続く方面の壁に亀裂がない事を見て取った。即ち、そちらは崩れない。
それを伝えるべき、と頭が考えるより先に、この子たちを先に行かせるべく、叫んでいた、という事になる。
切羽詰まった状況や、死の直前などに、一瞬で多くの事が頭を巡る事があるというが、まさにその状態に近いようだった。
と、四人を急いで行かせた訳だけど…
焦らせると良くない事を忘れている…
そう…
ちっちゃなアーシャがまた転んだ。しかも、この最悪のタイミングで…。
次の瞬間、右手側の薄い石の壁が、音を立てて崩れた。
それが、上の方からも、落ちてくる。
崩れた石壁の破片は、小さなアーシャに向け、容赦なく落ちてくる…!
「きゃあぁぁぁ!!」
「くっ!」
駆け寄ったレイリアが、アーシャを庇うように抱き寄せた。
頭上に炎の剣を掲げる。
掲げられた火色金は大きく広がり、それは盾を形取った。
そこからさらに燃え広がるように炎が厚みを増し、二人の姿を覆い隠す。
そこに襲いかかる崩落。
大小の石壁の残骸が容赦なく降り注いだ。
だが…
炎の盾は、崩落をほぼすべて弾き逸らしていた。
火色金だけじゃあない、レイリアが呼び出した炎がすべて固形化し、盾を成したのだ。
炎を一時的に固形化させる高度な炎術だけれど、レイリアはほぼ自発的にこれを扱う事ができるのだ。
その炎ももう消しているけれど、一部は飛び散るようにして、瓦礫のあちこちに移って燃え残っていた。
「立てる?」
まだ小石が散らばってくる中、レイリアは膝をついて呆然としている少女に手を伸ばした。
「あ…ありがとうございますぅ…」
ちっちゃなアーシャは、また自分を庇ってくれた、格好のいい年上女性が差し伸べてくれた手を取って立ち上がった。
炎の映りのためか、頬を赤らめているようにも見える。
「あっ…怪我してますぅ…」
左腕から血が流れていた。落ちてきた破片を、防ぎきれなかったのか。
「いいよ。このくらい。炎でも付けときゃ、治るから」
レイリアの右手から発された炎が、傷を覆う。
傷を焼いたように見えただろう。
だが、炎竜族の血を引き、炎に馴染むレイリアは、火傷を負う事はない。
傷が消えるまでに時は要するが、その傷跡は残ることはないのだ。
レイリアが庇ったお陰で、アーシャは怪我ひとつしていなかった。
アルテミシアの防御魔法の守りも効いたのだろう。
ついでに二階から追ってきた山賊も完全に下敷きになって果てている、はずだ。
何しろ、通路が完全に瓦礫で埋まってしまったのだから。
階下では山賊たちの宴会場が、殺戮場に変貌していた。
ほんの少し前まで宴会に興じていた十数人の山賊共が、今は全員、原型留めぬ屍と化して転がっている。
フローレンは手向かってきた山賊は切り捨てたが、それは僅かに三人だけだ。
他の十人以上は、全部ユーミが殺ったのだ。
「はい、こっち、見ないほうがいいわよ#」
村娘たちがその惨劇の跡を目にしないように、アルテミシアが視線を南や東方向へ誘導する。
耐性のない村娘にはこの切り刻まれた屍の山は刺激が強すぎるだろう…。見ただけでまた気を失いかねない。
当のユーミはというと、自分の顔ほどの大きさのある骨付きの焼き肉を頬張っている。
山賊たちが焼いていた途中の、まだ手つかずな物だろう。ユーミもさすがに他人の、それも賊の男の食べさしになんかは手を付けない。
ついでにその宴会場は、壁まで派手に崩れていた。
壁に、斧で斬ったような跡が残っていたりする。先程の崩落の原因はあきらかにこの小さな破壊娘の仕業としか見ようがない。
「ユーミ、オマエなあ…!!」
レイリアはお怒りである。
火色金の剣が、彼女の怒りに呼応して炎を吹いている。
まあ彼女と、あとそこにいるちっちゃな子にしてみれば、下手すれば死ぬところだった訳で、お怒りになるのは当然である。
「ふが?」
やや生焼けな大きなニクのカタマリを頬張りながら、ユーミが「?」の表情を浮かべている。
「崩れやすいから、壁殴るなって、言・っ・た・よ・な・?!」
言いつつレイリアはそこにあった安酒の中で、一番マシそうな酒瓶を手に取っていた。しかもまだ未開封のものを選んでいる。ひと目見てその中から一番良いものを一瞬で抜き取るあたり、かなりの目利きである…。事、酒に関しては…。
で、ユーミは無視して肉を食べ続けている。全く聞くつもりがないのか、食べてから聞くつもりなのか…その辺りは不明だ。
で、その態度に、相方、キレる。
「おい! 聞いてんのかっ!」
と、いきなり炎で薙いだ。軽い威嚇といったところで、届かないのはわかっているので、ユーミは眼の前を炎が横切っても瞬き一つしない。ただ、持っていたおニクは炎に包まれた。
「やったな! この!」
ユーミが一瞬出した斧を振った。もちろん当てるつもりはないけれど、それをレイリアは手にした酒瓶の上部でわざわざ軽く受けた感じだ。
「わからん! きいたけど、あーし、わかんないもん!」
ユーミはちょっとウェルダンになったおニクを噛み切りながら、ふくれ顔で、目の前で怒っている相方に負けないくらいに声を荒げる。実際、ユーミは少しでも複雑な事は、説明しても理解できない。…自慢げに言うのはどうか、と思われるが…。
「オマエなぁ…もうちょっと考えて行動しろって! いつも言ってるだろっ!」
そう言うとレイリアは、持ってた酒瓶に直接口をつけて飲みだした。栓を開けなくてもユーミの斬撃を受けた場所がキレイに切れていた。
「壁、壊れてきたって! 危なかったから言ってるんだ!」
「なによ! あーしにいわないでよ! くずれるカベがわるいんでしょ!」
ユーミは悪びれた風もなく、反論した。
まあ普通は、カベなんてそんな容易には壊れないので、ユーミの言うことは半分は当たっている。
が、ユーミが全力で殴ればもっと堅固な石壁でも平気でぶっ壊す事ができるので、半分は間違っている。
「壁なんて壊すの、馬鹿力のオマエくらいだ!
アタシだったら、敵だけ片付けて、オマエみたいなヘマする事なんて…」
そう言ってる途中で、今度はいきなり二人の横、西側の壁が崩れた。崩れた薄い石壁の合間から、木組みが派手に燃え上がっているのが見える。
上の階でレイリアが燃やした渡し板の、下で支えていた木組みまで引火して落ちてきたものと思われる。
(あ…)
炎は以外に大きく燃え広がっていく。石壁と思いきや、崩れた部分から中の木材の部分に引火した様子だった。
で、火が回って、ここでまた脆くなった壁が、派手に崩れた。
「なによー! レイリだって、ぶっこわしてるんじゃないのよ! ひとにばっかり、いうなー!」
相方の表情を見ながら、合間にニクを引き千切るように食べながら、ユーミも反論する。
「んだとぉ! オマエのほうが、もっと大量に壊してるだろ!」
…という感じに、二人の喧嘩というかじゃれ合いみたいな遣り取りは続いている。
村娘たちはあっけにとらっれ、そこをアルテミシアは
「はい、いい子はこっちも見ちゃダメよ~♪」てな感じに彼女たちを諭している。
しかし、ここまで壁が崩れやすいというのも心もとない。
ユーミの斧が勢いを余せば、崩れ、
レイリアの爆炎が広がれば、崩れ、
アルテミシアの魔法も威力が余れば、崩れるだろう。
さらには、ここまで各所が崩れたなら、残りの連結する部分も脆くなり、いつどこが崩れるか、わかったものではない。
「ちょっと! 仲がいいのはそれくらいにしてくれる?」
いつまで続くかわからないじゃれ合い…もとい仲良し喧嘩に、フローレンが割って入った。
その理由は簡単。ゆっくりしていられないからだ。
逆側の南東側でも宴会していたらしい五、六人が、ようやっとこちらの異変に気づいて向かってきている。
誰が仲良しだ!、と言わんばかりにレイリアとユーミは不機嫌を隠さない感じだ。
だが、新たな敵を見つけると、二人とも揃って休戦し、一瞬のうちに戦闘モードに戻った。こういう喧嘩はいつもの事で、その直後でも、息の合った戦いをするのがこの二人だ。
新たな敵に向かう。
二人とも、酒とニクは手に持ったままだった。




