115.花月女子たちの山中防衛戦 弐
~~村の東側 花月兵団営舎近辺~~
当初はこの東側を、花月兵団の本営に、という予定だった。
村を襲う、という敵の目的からすれば、村の外れであるこの東側は主戦場になる可能性が低かったからだ。
だけど、本営は村中央広場の付近に決まった。
森妖精の長ロロリアが村じゅうに大樹の加護を配るには、中央にいるほうが都合が良いためだ。
そのロロリアが大樹加護内の索敵と、他の森妖精との連絡を全部行っているので…
司令官のフローレンもその側にいる必要がある、という訳だ。
フローレンに総指揮を預けたクレージュは、自分も現場指揮官の一人として、本営ではなくなったこの東側の守りについている。
ただこの東側は、どちらかと言うと村の外れにあたり、それ程の攻略価値もない、と予想された。
ロロリアからの思念伝達を受ける森妖精マラーカからは、こちら側に配置されている敵兵はおよそ五十ほど…西側や中央の敵数の、およそ半分と聞かされている。
もし東を攻めてくる敵を軽くいなせそうなら、ここから中央に援軍を回す事も考えている。
この東側にいるのは…
指揮官のクレージュと、連絡係のマラーカ、
ウェーベルの壱番隊八人と、チアノたち海歌族の四人、それだけだ。
壱番隊は治癒系の術や技を使えるメンバーが多い。
隊長の未亡人なウェーベルをはじめ、ちっちゃなアーシャ、料理人娘トリュール、花屋のリマヴェラ、とメンバーの半数が治癒を行える。
また一緒にいる海歌族の四人も、“水”系統の術使いであり、その中には癒やしの水の術が含まれる。
ので、治癒が得意な森妖精は中央・西。北へ配し、こちらの連絡係には森妖精の中で最も術を苦手とするマラーカが来ているのだ。
彼女は大樹村ではもの作りの担当だ。術は苦手だけれど、村にいる森妖精八人の中では近接戦闘を最も得意としている、武闘派エルフだ。
フローレン並に露出の多い鎧姿に、やや褐色の肌がいかにも武闘派っぽい感じ。
槍を構える姿はかなり様になっている。深緑と明緑の絡むウェーブヘアをなびかせ、頭のバンドには孔雀の羽を飾っているのが特徴だ。
この武闘派エルフは、とにかく前に出たがるけれど…連絡員としての役割が重要なので自重するようにクレージュは言っている…けれど、かなり好戦的なので心配だ。
マラーカは槍だけでなく、弓の扱いも森妖精随一。
もの作り担当か、狩猟の担当か、わからなくなる程。
まず村の西側で戦いが始まり、やがて中央、その直後に東でも敵が攻めてきた。
村の東側は、直接南に抜ける道がない。
つまり門扉がないので、柵が続いている。
山賊どもはその背丈ほどの柵をよじ登ってくる訳だけど、その所々に罠が仕掛けてある。
気づかず踏んづけた木の板が跳ね上がり、板の先の仕掛け槌がその賊の頭を叩いて気絶させる。
柵の真下に散らばった木の葉にトゲの鉄鋲が隠され、踏んづけると足を怪我する。
木の葉に隠された縄輪を踏むと、身体が木の上に釣り上げられる。
これらは物作りの森妖精マラーカ作の手製の即席罠だ。
柵の上に仕掛けられた粉の罠もある。
柵を掴んで上って来た敵山賊がその粉を拡散させ…酔ったようになって柵から転がり落ちる…
吸い込んだその粉は、幻覚作用のあるキノコの菌糸らしい…
キノコ好きな料理人娘トリュールの仕掛けた罠…だそうだ。
既に十人ほどの山賊が、脚をやられたり気絶したり高く吊られたりで戦闘不能に陥っている… こういう罠を調べも警戒もせず進んでくるところが…いかにも戦いに不慣れな山賊どもらしい。
山賊たちはそれでも数で押してくる。
数がいるからこそ、こういうただ押すだけの戦いができる、とも言える…
壱番隊が交戦に入った。
ノンスリーブなタンクトップ胸当てにショートパンツ姿のネージェとディアンのアヴェリ村コンビと、黄銅と赤銅ビキニアーマー姿のヘーメルとイーオスの一歳差姪叔母コンビ、剣を手にしたその四人が前衛を務める。
その後ろから残りの四人が援護。
スリット入りロングスカートに胸当て姿の未亡人なウェーベル隊長が、防護盾の魔法で全員をさらに固く守る。
ちっちゃなアーシャはおっきな胸を強調したキャミソール胸当てにフリルミニスカートのカワイイ姿で、お得意の地面泥濘化で足止め。
料理人娘のトリュールは下着のようなビキニアーマーの上からエプロンを羽織った姿で、キノコ爆弾とかいう、彼女にしか使えない(キノコ好きな彼女以外だれも使おうとしない)レア魔法をぶっ放す…
魔法を唱えると、キノコらしきものが発生し、それが敵中に投げ入れられ…破裂する。
すると粉が霧状に飛び散り…視界を奪う目眩の効果と…、そして吸うと朦朧とする、毒胞子だ。ただし威力はそれほど高くなく、敵もすぐに立ち直ってくるのだが…
花屋のリマヴェラは、花柄の短いチュニック姿に、頭にはフローレンのようにお花の飾りを乗せてる。お香の花術で味方の集中力を高めると、そのまま横合いから攻めてきた敵に対し、花型柄の細身剣を手に現して立ち向かう。あの清楚でおとなしい花売り娘だったリマヴェラが…親友フローレンの手ほどきもあり、今ではもうかなりの戦士になっているのだ。
女だと舐めてかかった山賊兵どもは…
壱番隊の前に成すすべもなく倒されていく事になる…
その隣はクレージュと、武闘派森妖精のマラーカだ。
蔦を編んだ自作の森色ビキニ鎧姿で、褐色肌の森妖精マラーカが躍動する。
マラーカは長槍を振り回し、五人も並んだ山賊どもを相手に引けを取らない。
一瞬の隙を見せた者から順に、槍の穂先に薙られてゆく…
クレージュは愛用の剣、七種の宝石で彩られた宝剣を鞘から抜いた。
大きすぎるお胸を包みこんだ東方ドレスの切れ込みから生脚をちらつかせながら、華麗に剣を舞う。
流星鋼特有の、虹色の光が薙ぐたびに、山賊が血を噴いて倒れる。
行商人とは言え、その戦士としての実力にも何ら衰えはない。
彼女の剣技を恐れ、引こうとした山賊どもに対し…
<<虹刃 蜺喰斬>> プリズミック・サーペントバイト
まるで色違いの七つの連なる剣閃に見える…虹色の剣波が襲いかかる…!
蜺色の大蛇に食われるように、山賊どもは追ってきた七色の剣閃の中で切り刻まれ、息絶える。
そこより村中央にやや近い内側、小川の流れる辺りでは、海歌族の四人が迎え撃っている。
リーダーのチアノ“部長”は、小振りな片刃の舶刀、
パン屋のラピリスは、それより少し長い軍刀、
歌うウェイトレスのアジュールは、短めの投槍、
その相方のセレステは、片手用の三叉槍、
四人ともショコール水兵時代からの得意武器を手に山賊共を圧倒する。
それに海歌族であるショコールの女兵士たちは、水を扱う術にも長けているのだ。
敵との距離が空くと、四人が放つ弾丸魔法、水撃弾
水鉄砲が直撃した山賊は打ち倒される。そのまま立ち上がらない者もいる。
たかが水と侮れない…そこにある川の水を用いるので威力は充分なのだ。
だが、その水術を防ぐ敵が迫ってきた…
軽装鎧を着込んだ兵士が二人…装備からすると、山賊らしくない。
元ブロスナム兵の隊長と副隊長といったところだ。
水弾を見切って、手にした盾でふさいで進んでくる。
直線に飛ぶ水弾は、見切れば防御されやすいという欠点があるのだ。
「じゃあこれは…!」「どうかしら…!」
アジュールは空色の、セレステは雲色の髪をなびかせ…フルマーシュの店での歌のステージの時みたく、左右対称の揃った動きの身振りを見せた。
でもそれは、歌じゃあなくて、攻撃魔法。
そして、水じゃあなくて、風だ。
手を繋いで左右対称ポーズの二人、その外側の手から同時に放たれるのは、風。
楕円形の軌道で両側から迫る、鋭い風飛刃だ。
前に構えた盾も虚しく、横後方からの風刃に斬られた隊長格の二人が体勢を崩し…その怯んだところを、チアノとラピリスが駆け寄って斬り捨てた。
この四人は「風と水の島」というショコール王国領の同郷で、
その島の民は海歌族と空歌族、両方の末裔に当たるという。
そこの住民は、一番強い血は海歌族だけど、実は空歌族の血も混じっている。
個人差はあれど、こういった“風”元素由来の魔法も、得意な子もいるのだ。
アジュールもセレステも、アルテミシアに弟子入りしてから、初めて気付いた特性だった。
残った山賊どもには、また水撃を立て続けに食らわせる。
そしていま一人…瑠璃色髪のラピリスも、異なる魔法をつなげた。
ラピリスはこの四人の中では、武器よりやや術のほうが得意だ。
彼女の手から放たれたのは…何も見えない。
だが…迫る敵が次々に凍りついていく…水撃を浴びせられたた部分がだ。
凍結の魔法。
実家がパン屋で素材を冷蔵保存する術を子供の頃から使えたラピリスの、生活魔法を戦闘に転用させた術戦術だ。
海歌族(+実は空歌族な)四人は、ひるみ、凍てついてなすすべもない山賊兵どもを、近接で武器を振るって、順番に倒していく。
東の戦線も、花月兵団が圧倒的に押している。
東側は敵もあまり数を揃えていないので、柵を越えてくる山賊兵の姿もまばら…
この調子だと、少しずつ迫る敵を各個撃破していく形、花月兵団の圧倒的な有勢になると思われる…
だが…
森の中…
じっと村の中の様子を伺う目があった…
「さ~て…頃合いはいいかな~」
その男は、木の上から村の柵の中の様子を見渡している。
山賊どもが、あわせて一部隊ほどやられた。
だが、この男にとって、その山賊連中はただのオトリである。
ブロスナムの狙撃手ア゙ーヴェンは、静かに弓を構えた。
遠目に見てもよく目立つ、ビキニアーマー姿の女戦士が二人…
窪んだ陰惨な目で、その露出した女の腹部に、じっくり狙いをつける…
「やっぱ腹だよ~は・ら~!」
卑しい笑みを浮かべた、陰鬱な目の狙う先、矢が放たれた…
それは、ただの矢ではない…周りの風を巻き込み、轟音を上げる一撃となる…
敵の一団を片付け、少し息をついた頃。
森の中で、いま、何かが光った。
陽の光を弾いた何か…
それが何か、気づく前に…
「危ない!」
イーオスがいきなり、一歳違いの姪ヘーメルを突き飛ばす。
「な、なにするのよ! オb…きゃ!!」
そのイーオスの身体が飛んだ。
軽く十歩ほどの後方まで。
何かが直撃し、イーオスの身体が飛ばされたように見えた。
「矢…?」
大きさ的には、矢、というよりは、短い棒のような…かなり太い矢だ。
射たれたイーオスの身体には刺さらず、彼女を吹き飛ばした後、地面に転がっていた。
「狙撃されてるわ! 盾を!」
クレージュの指示が飛ぶ。
身を守る盾を即座に出す訓練も、花月兵団では行っている。
女兵士たちが、手にした武器を大型の盾に換装した。
屈めば全身を守れるほどの大盾だ。
またその矢が飛んでくる…
風を纏って飛んでくる…すごい勢いだ。
「きゃ!」
矢を盾で受け止めたはずのネージェが体勢を崩した。
怪我はないけれど、盾を持つ手が衝撃でかすかに痺れたような様子だ。
軌道を下に逸らされた矢は地面を削り、地を走るように土煙を上げた。
並ならない矢の威力だ。
「下がって! 営舎の後ろまで!」
クレージュの指示で全員が一斉に動く。
盾を向けたまま、ゆっくりと…二つある営舎の陰まで下がる。
ここなら狙撃される事はない…はずだけれど、念の為、盾は出したまま、南の森の方に向けている…
「叔母さん! 大丈夫!?」
ヘーメルは駆けつけた花屋のリマヴェラと一緒に、負傷したイーオスを、狙撃手からは見えないであろう営舎の陰に運んだ。
クレージュたちが隠れたもう一つの営舎の陰より、やや後方に当たる場所だ。
「オバ…さん…言うな…!」
「あ、それ言えるなら大丈夫そうね!」
貫通…は、していない…
さすがにLV1アクセサリ、防護の魔法、ロロリアの大樹の加護、魔法三枚重ねの防備は強力だ。このうちどれか一つでも欠けていたら、腹を貫かれていたかもしれない…
それでも矢の突きの威力は衝撃のダメージとして身体に入っている。
受けた横腹にかなりの痛みがあるようで、ヘーメルは耐えるようにうずくまり身体を起こせない…
リマヴェラが、お花の術で治癒をかける。親友フローレンの直伝の花術だ。
「叔母さんったら…わたしの事かばって怪我するなんて…!」
「当たり前…でしょ…! あなた、領主の娘だし…! 何より…私の姪だし!
で…いちいちオバさん言うな!」
二人のいつもと変わらない物言いが交わされる。
かなり心配していたリマヴェラも、イーオスのそのいつもの言葉、元気な口調を聞いて、ちょっと安心したようだ。
「打撲、と同じような感じね…身体の内部は…大丈夫みたい…
治療しても衝撃による痛みはしばらく抜けないだろうから、安静にしてて」
リマヴェラが掛けた花の術は、身体の回復機能を高める術と、痛みを和らげる術だ。フローレンには遠く及ばないけれど、それでも人を助ける役に立っている自覚がリマヴェラにはあった。花を売ったお客さんに喜んでもらえた、あの時の感覚に似ている。
「それより…」
柵の方からは、多数の敵兵が降り立ってきているのが見えた。
迎え撃ちたいところだけど…この営舎の陰から出ると、またあの矢が飛んできかねない…
敵と交戦中はさすがに撃ってはこないだろう…味方に当てる事になるからだ。
だけど武器に換装して盾の無い状況だと、敵を倒した後の無防備な瞬間を狙われる。
換装武器は一人に一つ。つまり、盾を出せば武器を出せない。
䦉番隊が使うような、剣と小盾のセットもあるけれど、その盾の大きさでは、全身を守ることはできない。
それに、大盾だけを構えていたら、迫る敵を倒せない。
いや…固まって前衛が盾で守り、後ろから魔法で倒していく…そういう消極的な戦い方しか選べない。
前の営舎の陰に避難しているウェーベルたちアヴェリ村の四人の姿があり、トリュールと森妖精マラーカがクレージュと話をしている様子が見えた。
クレージュが何か指示を出しているのが見える…ここからではよくわからない。
負傷したイーオスを守って、ヘーメルとリマヴェラで敵を往なしていくしかない。
~~村南側の中央広場~~
一小隊を閉じ込めて殲滅したけれど…
休む間もなく、敵の第二波が来た。
敵は中央門を壊すのをあきらめ、背丈以上もある柵を乗り越えてくる。
だが、門扉左手側の柵を乗り越えてきた山賊どもは…
柵の上あたりで動きを止めて、こちらやあちらの地面に次々に落ちる。
<<月夜の子守唄>> スリープソング☆ムーンナイトモード
<<上記魔法の発生位置を指定>>
→前方の空間、十五米先を起点に指定
アルテミシアの眠りの魔法だ。
並の山賊風情が…彼女の魔法に耐えられる訳もない。
真昼の月は、うっすら白いだけだけれど…月兎族であるアルテミシアの魔法威力を上乗せするには十分だ。
山賊共が、柵の上から落ちる。
よほど強く効いたのか…柵の上で眠って、体勢を崩して地面に落ちても、ぴくりとも動かない…受け身も取れないまま地面に激突して落下死してる可能性もある。
逆側、右の柵のほうでも、アルテミシアの一番弟子である、可愛いキューチェが同じような魔法を掛けている。ただこちらは“師匠”程の眠りの威力は出ていない。
こちらの地面に落ちた山賊どもは、眠気が飛んで痛そうにもがいている…痛みに耐えながら立ち上がってくる者もいる。
周りの山賊より身なりの良い敵兵が一人立ち上がった。部隊の隊長らしい。
眠りの魔法をかけた後の隙だらけなキューチェの方に襲いかかろうとして駆け寄るが…
その身体に鎖が巻きつき、動けないまま鎖の先にある鎌に切り裂かれた。
活発なハンナは換装武器の鎖鎌を手に、相方のキューチェを死守するのだ。
続いて、副隊長らしい敵二人が襲いかかってくる。
ハンナは巻き付いた武器がすぐに使えない、キューチェは武器を持っていない…
と、二人の副隊長は判断したのであろう。
さすがに元ブロスナム正規兵だ。その判断は、通常なら正しいのだろう。
通常、なら。
通常の女子でないのが花月兵団であり、その装備も通常レベルではない。
…油断した二人の副隊長はあっけなくやられる事になる。
ハンナは巻き付いたままの鎖鎌を一度消滅させると、二呼吸後、手に現した大鎌で、迫る副隊長一人を刈り捨てた。
キューチェもいきなり手に現したノコギリ剣で、もう一人をぶった斬った。
その連中よりさらに両外側の柵から上ってくる敵の姿が見えた。
山賊姿の敵兵が、次々と村の内部に降り立ってくる…
だけどその位置には、村人たちによって仕掛けられた罠があって…
愚かな山賊どもが何人か、地面に隠された網に包まれて宙吊りになったり、粘性の樹液まみれになって行動不能になったり、姿が消えた…と思えば落とし穴に落ちたりしている。
それでも数が多い。
小刻みに押し寄せてくるのは、数に余裕があるからできる事でもある。
何も考えず数で押せばいい、細かい戦術を無視できるほどの、圧倒的な数…
ロロリアの索敵によると、敵兵は総数で二百を軽く上回る…
この山中に、それだけの数のあぶれ者がいた、という事がまず驚きではあるが。
この中央の戦場の予想敵数は、おおよそ百二十…
先遣の一隊、二十ほどを、罠にかけて倒したが、まだまだ押し寄せてくる…
柵を越え、罠を抜けた山賊共が、数に任せて一気に中央に集まってきた…
先程とは逆に、花月兵団のほうが大きく包囲される形になった。
それでも女兵士たちは、距離を空けずに纏まり、連携を崩さない。
敵の包囲に対し、四方に構える形に陣を組むよう、フローレンが指示を出した。
䦉番隊の五人が、最も敵の多い南西向きに並んで、迫る敵を受け持つ。
その逆の北東側では、参番隊のメンバーが、武器を交えつつ魔法を浴びせている。
参番隊メンバーの戦い方は…
小柄なのに胸だけはかなりのチェイリーは、桜桃爆弾という“炎”系統の魔法を投げつける。火の弾というより、小さく爆発する火球の魔法で、七大元素の“火”ではなく、戦闘に特化した九大属性のほうの“炎”魔法だ。
小さなツインのシニオンにした真っ赤な桜桃色の髪とどこか似てる。
剣を交えながら時々来る小さな爆発攻撃、といった感じだ。
豊満な胸をしたミミアの母型の従姉妹であるヴェルは、ミミアと髪型は似ているけれど色は全く違う光沢の強い真鍮色の髪をなびかせる。
九大属性の“響”系統という、アルテミシアでもあまり詳しくない、珍しい魔法を使う。なぜか素養があったようだ。
その珍しい鐘音波という魔法を受けた相手は、振動による衝撃で朦朧として倒れてしまう。この系統の強力な魔法には、振動で内部から破壊するような術もある…らしいが、さすがにヴェルはまだそこまでの使い手ではない。
ミミアの幼馴染みで、胸部のふくらみが目立つ青紫の李色の髪のプラマは、七大元素の“風”系魔法を使う。風を受けて育つ木の実を育てる農家の娘である事も関係ある…のかもしれない。
この子の魔法だけは、攻撃というよりは妨害、風圧を発生させる魔法で、敵の動きを制限することで、他の子に再動攻撃の機会を与えている。
爆乳メイドのメローナは、影部が黒のメッシュに見える深緑色という西瓜色の波打つ髪をなびかせながら、かなり強力な水柱を発生させる。実家が水っぽい作物を作る農家という事もあってか、七大元素のうち“水”系統の魔法が得意なようだ。
ただの水とは言え…圧縮された大量の水を頭上から落とされれば、敵兵は数人単位でまとまって打ち倒され、そのまましばらく立ち上がれない者も出る。
頻発はできないけれど、忘れた頃に来る大技といった感じだ。
四人が動き回るたびに、大きなお胸が躍動する。
四人とも他の子の動きに合わせて、近距離と遠距離を使いこなせる。
四人の自由奔放な動きが見事に絡み合っている。
四人とも使える魔法は一つずつだけれど、それでも充分だ。
みんなの後ろの中央から、アルテミシアが魔法で援護し、魔法で攻撃する。
アルテミシアは四方の味方の戦いを見ながら、弱いところ、敵の多いところへ攻撃魔法を放つ。
魔法の強さも然ることながら、支援を要する箇所の状況判断の的確さも、彼女の戦闘能力と言えよう。
可愛いキューチェも、師匠を見習うように魔法で援護だ。
彼女にとっても、経験豊富なアルテミシアの戦い方を目にしながらの魔法戦は大いに参考になる、この経験は成長に繋がるだろう。
相方の活発なハンナは、敵は少ないが北西側を警戒しつつ、キューチェを守る前衛を務める。
もし迫る敵がいれば…換装武器の鎖鎌をぶんぶん振り回し、敵の身体を締め付け、刈る。
フローレンは割と敵の多い南東側を一人で受け持ち、それでもまだ余裕だ。
この場の指揮官として冷静に戦場を見渡しながらも、全軍の司令官として、ロロリアからの情報を逃さない。
その連絡係としてここにいるのが、果樹園担当の森妖精スヴェン。
黄緑色の炎が揺らめくようなウェーブヘアの、人間基準で言うと、ものすごい美少女だ。ただし見た目通りの年齢じゃない…けっこう酒飲みでもあるし。
スヴェンはロロリアからの情報に耳を傾けながらも、得意な“樹”系統の魔法を繰り出す…
迫る山賊どもの足元にいきなり蔓草が現れて、瞬く間に成長し、身体を縛る…
敵が多く固まる南西側、䦉番隊に向かってくる敵が、みるみる蔦に拘束されてゆく…
果樹園のスヴェンは、魔法だけなら副長のメラルダ以上の術士、とロロリアが評価するくらいの術使いなのだ。
山賊兵どもは、散らされても、仲間が倒されても、何かに憑かれたように迫ってくる…
(敵兵の目がちょっと、普通じゃないわね…♭)
アルテミシアは、偶然に目のあった山賊兵の表情から、何か異様なものを感じ取った。
(恐怖を克服…? それとも…戦闘欲求…?
軽い精神操作、ってとこかしら?♪)
士気上昇系の魔法を祝福というが、神聖な祝福という感じというよりは、その逆…邪悪なものを感じる…
敵側には、多数の者の心を操る系の術者がいる可能性がある。
そんな交戦のさなか…
広場での戦闘を回避した敵の一隊が北へ向かうのが、フローレンの目に映った。
その数、およそ十、それが左右両側から、計ニ部隊。
遠目でよくわからないし、じっくり見ていられないけれど…
他の山賊兵とは違う…一段上の兵士のような気がした。
その片側の十人が、ロロリアたちのほうに襲いかかった。
加護や連絡に集中するロロリアは、目を閉じたまま動けない状態…
彼女を守る、花月兵団所属のオノア女子三人が、武器を構えて迎撃の構えを取った。
その矢先…敵兵どもは、伸びてきた何本もの銀鎖、その槍のような穂先に次々に貫通されていった。
陰になって姿の見えなかった、小柄なアルジェーンの仕業だ。
残った敵兵に対しても、先を剣や鎌に変えた銀鎖を振るっている。
ロロリアの守備は万全、といったところだ。
その十名のうち半数が倒された時点で、もう一つの部隊はロロリアたちに近寄らずに、さらに北へ抜けていった。
そちらはオノア民の居住区だ。
広場で交戦中のフローレンたちは追っていられない…
オノア民男女の健闘を祈るしかない。
抜けた敵が十人程度なら、対処できるだろう。オノア男子は戦士だから、山賊ごときに遅れは取らないだろうし、女子たちは大樹の加護で守られている。
負傷者が出れば、そのすぐ北側にある療養所に運ばれる手はずだ。
そのさらに北に続く高台は、村の非戦闘員の避難場所だから、その療養所近くにも最終防衛線として戦える者が何人も待機している。
(だから、それ程心配はいらない、はず…!)
アルジェーンの銀鎖から逃れロロリアのほうに向かった敵兵最後の一人が、オノア女子たちに刻まれるのを横目で確認しつつ…
考えを割り切って、フローレンは眼前の指揮に意識を集中させる…
と、その時…
ドゴァァァ…!
豪快な音を上げ…
村を守る柵の一部が破壊された。
そこから山賊兵どもが村になだれ込んできた。
倒した以上の数が補充され、広場の味方が、敵の数に押されるような状況が強くなる…
柵の切れ目からは、一気に、という感じではないが、敵兵はまだまだ侵入してくる。
アルテミシアの眠り魔法が解けて、復帰したものから入ってくる感じだ。
そして…
「よぉ…こないだは世話になったなぁ…嬢ちゃん…!!」
巨漢の戦士が戦斧を肩に担ぎ近寄って来る。
柵を打ち破ってきたのは、フローレンが先日戦った、あの赤髭の豪傑だった。
完成次第UPしますが次回投稿は未定…




