110.逃げ心の民
この森の難民村の西側、南北に走る高い岩壁の中段、岩を削ったように設けられた空間に、長たちの集会所があった。
この村で一番高い場所でもあり、村のほぼ全体の様子が見渡せる。
ここを訪れた花月兵団側の面々は…
総長のクレージュ、
大樹の村の長であるロロリア、その隣りにぴったりくっついているアルジェーン、
先日、問題の敵であるその山賊と実際に遭遇し殲滅したレイリアとユーミ、
そして兵団長のフローレンとアルテミシア、
要するに、今ラクロア大樹にいる冒険者組…幹部七人全員だ。
このオノア難民の人たちにとって、花月兵団は…
「山の北側を拠点としている行商女子の集団」という認識のようだ。
まさか、山の断崖の東に聳える、巨大すぎる一本木の中に村があるなんて、夢にも思っていない。
この大きな村の長との話し合いは、既に先日一度行われていた。
あのブロスナム部隊と遭遇し壊滅させたすぐ次の日。
実際戦って敵兵を尋問までしたレイリアと、大樹村の長ロロリアで村を訪れていた。
代表のクレージュたちが行商で不在だったけれど、二人はその時に協力体制を確認し、花月兵団が団体でこの村を訪れる事も、許可をもらっている。
オノアの難民たちは、ブロスナム残党にも山賊にも、事あるごとに略奪を受けている。
なので彼らも、この両者の連合に対しては、相当に警戒心を持ったようだ。
この大きな村から、他の六つの集落にも連絡していたという。
オノアの民はこの森の中に別れて住みながらも、普段から何らかの連絡手段をもっていた事がわかる。
なかば洞窟のような岩壁の集会所には、各部族の代表…あるいは各集落の長と思しき面々が集っていて…すでに激しく議論を交わしていた。
他の村の各長のうち、二人は老域にある男性、あとは比較的若い男性が一人、壮年の男性二人と、壮年の女性も一人いる、様々だ。
全員、着ているものや髪型、肌の色などが違う。
村ごとにそれぞれ民族や習慣が異なる、ということだ。
この一番大きな村の長の、温厚そうな老年の男性を含め、彼らはみな、花月兵団に対してはかなり恭しい。議論を一旦中断し、一人ひとり丁寧に礼をする。
普段から、ここでは手に入らない食料や貴重な物資を、それも格安で譲ってくれる、友好的な女子集団…丁重に接しない訳が無い。
七人の長たちがみんな、花月兵団に対しては友好的…それは間違いない。
それとは別で、彼女たちが訪れる前から話し合われていた彼らオノア難民の間の会議は、かなり混沌としている…
つまり、戦うか、否か、に関する話し合い、なのだけれど…
花月兵団との挨拶が終わるやいなや、また収拾のつかないくらいの言い争いが始まった…
この大きな村の南側に、六つの集落が点在している。
その数はどこも二十人前後。
それぞれが同じ部族、または民族的に近い者同士が集まっているのだ。
集会場に集まっている長たちがそれぞれ違う格好をしているのは、その異なる民族の代表だからだ。
今いるこの村が五十人規模、と一番大きいので、他の村の難民が集まる先は、当然ここになる訳だけれど…
他の村がほぼ単一の親近民族で纏まっているのと違い、この一番大きい村だけは多民族が集っている…いわば難民の中でも、少数民族の受け皿のようなところがある。
つまり、人数は多いけれど纏まりは全く無い。
そういう訳でこの村は、最多人数の割に発言力は強くはない。
本来なら、一番大きな集落の指導者が会議の中心になるべきところなのだが、そうなってない…
つまり、七つの村は優劣なく横並び状態であり、中心になる村がなく…
話をまとめる者がいないので、意見が割れる話し合いになると、収拾がつかないのである…
元々…
この山に住むオノアの難民たちは、一つの大きな議題と常に向き合っている。
神聖王国ラナの庇護を受けるか…
小さな集落であっても独立を貫くか…
それは、彼らの民族自立の是非を問う議題である。
一方の意見は、山を西に下りて、神聖王国ラナの民となる事を受け入れる意見。
当然、彼らの部族としての独自性は消滅する。
宗教国家であるラナにおいて、異なる思想は一切が否定されるからだ。
代々行ってきた部族独自の儀式などは、認められない事になる。
ただし生活の場は与えられる。
食料を自給し、子供たちは育まれ、その子々孫々まで血を残すことはできる。
そうやってラナ王国に融和し、民族性を捨てる事を肯んじるのが、オノア難民の中の左派の人たちだ。
その一方で…それを受け入れられないのが、右派の人々だ。
たとえ小さくとも、民族的に独立した、自分たちの国を建てる。
土地は失えど、代々受け継がれてきた民族としての誇りを失わない。
そういう考えである。
部族内で生き残ったのがほんの数人、などというレベルでは、民族の復興などありえない…そういった少数右派の人々は、より近い部族を同族と見なして纏まって、無理矢理にでも民族自立の意志を掲げたりするのだ…
だがもともと、この山にいたオノアの人々の多くは、とっくに山を下りている。
ラナの辺境の地をもらい、小麦畑の開墾に勤しんでいる。
この山で厳しい暮らしを強いられるうちに、考えが軟化して左に寄っていく人が多いのだ。
そして冬に向い、意見は大きく左に傾くことになる。
この山は今のように暖かい季節は、環境的にも食事的にも、なんとか生活していく事が可能だ。
だが、寒い季節になると、事情が大きく変わってくる。
山の冬は、想像を絶する過酷な環境となる。
木々や土からの実りが絶え、獣たちが姿を消す…それまでに十分な食料を蓄えていなければ、まず生き残る事はできない。
だから寒くなる前に、あきらめて山を下る者たちが大半だ。
これが、このスィーニ山で昨年もその前年からも見られる、難民集落の傾向である。
残っている人たちは、比較的あたらしく西方から流れてきた人たちか、あるいは部族の自立性を強硬に捨てきれない者が大多数を占める集落、という事になる。
厳しい冬の寒さに耐え、食料の備蓄によって凌ぎきる…そうしてまで民族の自立性を保持する…山に残る者とは、そういうしぶとい人たちである。
この民族存続の是非を問う問題は、同じ集落に住むの者の中でも、右と左に意見が分かれている…
同じ部族出身の者同士でも話がまとまらず、まるで収拾がつかない…
この問題は、彼ら難民のひとりひとりに、常につきまとっているのだ。
そうしているうちに、今回のブロスナム残党と山賊の、大勢力の出現だ。
ここにきてまた、その大勢力と戦うのか否かで意見が分かれている訳だけれど…
先の見えない話し合いこそが、オノア難民のお過芸とでも言う事なのか…
この場での話し合いが、先程から全然進んでいない。
激しい論争が飛び交っている…
七人の長のうち二人は交戦派、三人は戦うことに否定的…残り二人、この村の長と女性の長は何も発言しないが、やはり戦いに否定的な様子が見受けられる…
花月兵団は最初に挨拶をしただけで、そこから全く意見を挟んでいない。
総長のクレージュが、ちょうど高さの良いテーブルに上に大きすぎる胸を乗せた姿勢のまま、ずっと黙って聞いているだけで全く発言しないので、他のメンバーも同様に何も言う余地はない。
もちろん花月兵団は「ブロスナム勢力の殲滅」という方針で意見が纏まっている。
どこで話の流れをこちら側にもってくるか…
敏腕な商人で駆け引きに長じるクレージュは、その機をじっと計っているはずだ…
クレージュが口を開いた時が、その時ということだ。
それまで延々と…果てない論争が続いている…
…話が長いので、花月兵団メンバーは…実に退屈だ…
アルテミシアは「ちょっと外の空気を吸いに♪」と出ていったきり帰ってこない。
上手く逃げた、って感じだ。
じっとしているのが苦手で落ち着きをなくし始めたユーミも、一緒に連れて行っている。
ロロリアは音が聞こえないので人々の唇の動きを読んで回っている…
聞こえていないけれど、要はやっぱり「聞き」の姿勢だ。
その横にいる銀色のアルジェーンは、聞いているのかいないのか…ずっと目を瞑ったまま、人形のようにまったく身動きしていない…
もともと感情も希薄で口数も動作も少ないこの娘は…放って置いたら、このまま永久に動かないんじゃないかとまで思えるほど、動きがない…
フローレンも、なんとか退屈を我慢している。
だいたい…こういう席にいるのは、あまり性に合わない。
面倒な話はいつもクレージュに丸投げだし、今回も交渉事は全部任せるつもりだ。
フローレンの出番は、話し合いで戦うと決まった後にしかないのだ。
クレージュが、じっと聞きの姿勢に入っているので、自然と他のメンバーもそれを倣うことになるのだけれど…
にしても…
何事にも限界はある。
で…
花月兵団で最初に口を開いたのは、気の短いレイリアだった。
要するに…いつまで続くかわからない無駄話に、キレた。
「アンタらっ……いい加減にしなよ!」
レイリアの炎をそのまま声にしたような、熱く厳しい一言に…
長たちは、一様に恐れて、そしてぐだぐだ話をぴたっと止めた。
「さっきから何、ムダ話ばっかしてんの!
敵がくるんだから、戦うしかないでしょ!」
続いて巻き起こる、爆炎のような怒声に…
厭戦派の五人の長のみならず、主戦派だった二人さえ、その炎の気迫に押されたように、黙ってしまった…
「だけども…」
「戦えって、言われても…」
「そんな力…我々には…」
先程まで声高く、戦いを避ける話をしていた長三人が…
その炎の人と目を合わせないように視線を落としながら、これまた自信のない燃え残りのような声で細くつぶやく…
彼らは元々、戦いに敗れて、この地まで逃れてきているのだ。
自信をなくしてる、先に不安しかない、弱気なのも仕方がない。
「戦わない、って…じゃあ、ど・う・す・ん・だ・よ!!」
レイリアはまた一段と燃え上がるような言葉を投げた、かと思えば…
ばんっ!と机を叩き、立ち上がって勝手に退出した。
その叩きつける音にすら、炎が立ち上がったように錯覚したように…長たちは七人揃って完全に引いてしまっている…。
でもここは、キレたのがレイリアだから、まだ理性的な意見がでている訳で…
思えば、先にアルテミシアがユーミを連れ出していたのは正解であった…
だが…会議の場は呆然とした。
でもそれは、おろおろしている長どもだけで…
もともと聞き姿勢だった花月兵団側は、平然と動きがない。
総長のクレージュも、言葉どころか、身動きすらない。
ほんのちょっとだけ、フローレンに目配せ…
それを見逃さないフローレンは、席を立ってレイリアの後を追いかけた。
レイリアは集会場の外のちょっと離れた場所、岩壁にもたれるようにしていた。
どこから持ってきたのか、手にした酒のビンに直接口をつけている。
フローレンが追ってきた気配を察すると、
「あ゙ーもう…こんなグダグダやってるから、部族争いに負けてんだろっ!」
イライラ口調でそう言い捨て、お酒をまたちょっと口に含んだ。
「ちょっと! レイリア!」
その発言が中の人たちに聞こえなかったか、フローレンはすごく気にした…
これは、本人たちの前では言っちゃいけない事だ…きっと、すごく心に刺さる…
まあレイリアも頭に血が上っているけれど、中でそれを言わなかった程度には配慮はある…
そう、怒りっぽく熱いのは火竜族の炎巫女である彼女のキャラであって…
そんな中でもレイリアは意外と理知的で冷静だ。
彼女が言う「戦うべき」というのは至極当然の言い分な訳だ。
けれど…
これまでオノア難民たちは、襲われれば逃げ、拠点を移し、また襲われれば逃げる…そんな暮らしを続けてきている…
部族争いに負けて以降、逃げることを優先に考えるクセがついてしまっている…
そんな彼らにしても、フローレンたちがこの辺りにあったブロスナムの拠点を落としてからは、わりと平穏な暮らしが訪れたのだけれど…
安住の地、とはならず…その平穏の日々も、打ち破られようとしている…
で、また「逃げる」とか言ってる…
でも、ここから逃げる、と言っても…
山を西に降りて、神聖王国ラナの庇護下に入るのか…?
だけれど、民族消失を嫌う右派の人々からすれば…
「山を下りる決断も、できないだろうね」
レイリアは酒の合間に、また苛立ちながら言い捨てた。
気の強いレイリアは性格的に…というか生理的に、弱気で逃げ腰な態度が嫌いだ。
それに比べると、フローレンは性格的に慈愛心が強い。
国を追われた人たちを、かわいそうだ…と思っているし、弱い人たちを、守ってあげたい…と思う気持ちが強い。
まあでも…レイリアの意見には、フローレンも同感ではある。
自信のない者は、その決断も鈍り、つまり優柔不断になるものだ。
目の前に迫る敵と戦うこともできない…民族性を重視する人たちがそれを捨てる、などという思い切った決断なんて、できるはずもないだろう…
「だったら、なおさら…」
「なおさら、戦うしかないって、わかってもらわなきゃね♪」
アルテミシアの声がした。
振り向けば、ちょうど死角になる感じの、少し奥まった岩壁の陰のところに腰掛けていた。
ユーミがその隣で居眠りしてる…。
アルテミシアは、要領よく抜け出して何をしているのかと思えば…
いつも工房でやってる、小さな魔法装置の作成作業を行っている。
「もう…出ていったっきり、戻ってもこないで…
…
こっちはレイリアがキレちゃって…面倒だったんだから…」
フローレンは後のところだけは、アルテミシアの耳元にちょっと顔を寄せ、声を落として囁いた…
後ろでレイリアが、聞こえてるよ!って顔をしてたけど…フローレンには見えてない。
「でも、あの発言で…あの人達のキモチ、揺らいだんじゃなあい?♪」
その作業の手を休めず、アルテミシアは淡々と言い放った…
「あの…って…! ちょっとぉ…! 聞いてた訳ぇ…?」
フローレンはちょっと気を呑まれたような感じになった…
面倒だから逃げたように見えて…実は魔法で、中の様子を伺っていたようだ…
でも、言われてみれば確かに…
(戦いを恐れて避けている人たちも、本当は…みんな…わかっているはず…)
「わかってるはずよね…? 本当は…戦わなきゃいけない、って事を…」
「そうね♪」
フローレンの表情を見てとったアルテミシアは…
頃合い良し、といった感じに、作りかけの魔法装置を亜空間ポーチにしまい込んだ。
「じゃ、そろそろおハナシを動かしに行こうか♪」
そのままウサギが両足で飛び跳ねるように、アルテミシアは席を立つ。
レイリアも居眠りしてるユーミの頭を、空になった酒ビンで小突いて叩き起こした。
フローレン、アルテミシア、レイリア、ユーミがそろって戻ってきた。
彼女たちが戻ってくるのを待っていた…訳ではないだろうけれど…
あれだけ激論の交わされていた会議は…誰も発言することなく、滞っていた。
いつの間にか、冷えたお茶が出されている。
フローレンはありがたく、その木をくりぬいたカップを手に取った。
「で、貴方たち…結局、逃げる事にしたの?♪」
アルテミシアのいきなりの切り出し方に、フローレンは口にしたお茶を吹き出しそうになった。
(ちょ…! アルテミシア! 言い方!)
と、フローレンは言いたかったけど…ちょっと咳き込んでて、言えなかった…
意表を突かれた直球すぎるこの物言いに…
七人の長たちは…唖然とした表情で固まるしかない…
アルテミシアはそんな反応を気にした風でもなく、遠慮も配慮もない物言いを続けた。
「でも…どこまで逃げるのかしら?♪ 逃げる場所にも限界はあるわよ♪
そうねぇ…どうせ逃げ切れなくなるなら…
早めに降伏して、ヤツらの奴隷になる、って手もあるわね…♪
まあ、山を下るほうがはるかにマシな選択だと思うけど♪」
アルテミシアの、煽っているのか…というような物言いに、フローレンはハラハラしながらも…それを止める事は思い留まった…。
クレージュが重い胸を乗っけたまま、表情も変えずに状況を見守っていたからだ。
「でもね…♭ あなたたち…」
ここでアルテミシアは、口調を低く、落として、言う…
そして次には、叱責混じりの厳しい口調が飛んだ。
「そんな事で、どうやって守ってあげるつもりなの…!?#
ここには…小さな子供たちも、たくさんいるのよ!!##」
魂が抜けたような顔をした長たちに向けられた。
先程までの誂うような軽い口調が、別人のように感じられる…
アルテミシアはもともと、感情の起伏が激しい人物、に見える…
それは彼女が歌姫であり、歌によってその世界に入り感情を演じる…演出家であることと関係が深い。
つまり普段から、演出が地になっている、とでも言えるものである。
だから感情的には冷静で、怒っている表情を表現しているだけだ。
…そんな彼女も、スィーツを目にした嬉しい時のテンションは、人よりも↑↑だし、
スィーツを台無しにされた時だけは、心の底から激オコになるけれど…。
で、そんなアルテミシアの厳しい叱責を受け…
長たちは伏せていた目を上げた。
子供を引き合いに出され、さすがにその心にちょっと火が灯ったように見えた。
子供たちがいなければ、彼らの右派が掲げる民族の存続は成し得ないし、左派の人たちも安寧な環境を求めて下山することに、そこまで切羽詰まる事もないかもしれない。
(さすが…痛いトコ突いたわね)
と、フローレンは思ったけれど…
でもこれは単純に…アルテミシアが子供が好きだから出た発言だ。
「ここから逃げても、敵はまた追ってくるだけです」
ここで初めてクレージュが口を開いた。
ここが機、だと見た訳だ。
いつの間にか、テーブルに乗せて楽をしていた大きすぎる胸を、組んだ両腕に乗っけている。クレージュが真剣な話をする時のポーズだ。
そして、ひとり立ち上がり、会議の目を一つに集めた。
「そしていずれは、逃げる場所もなくなります」
戦いを強く否定していた三人の長に対し、それぞれの目を見て、しっかりと力強く告げる。
クレージュは、オノアの長たちが激論を交わすのを、じっと聞いていた。
ただ聞いていただけではない。
この“歴戦の”女商人は…交わされる意見を聞きながら、
彼らそれぞれの立場、考え方、心理などを冷静に見ていた…
人物を計る。
相手をよく知ってから、交渉を優位に行う…
こういうところはさすがに、やり手の商人であることを感じさせる。
「貴方がただけじゃあないわ。私達、花月兵団も一緒…
ここで力を合わせて、守り抜きましょう!」
クレージュの言葉は、彼らの不安の感情を、上手く包みこんでいく感じだ…
商談のときもそうだが、決して相手に無理強いをしないし、弱みを握るようなこともしない。
しっかり利を説く。
それも双方の利を。
商売とは、互いに得をする事。
それは彼女の商人としての信念である。
長たち全員が、クレージュの言葉に吸い込まれるように、頭を下げ懇願の意を示した。
先程の長ったらしい会議は…クレージュの中では、この七人の長の人物を読み取るには十分な時間だった。ムダに話し合いをさせていたわけではないのだ。
クレージュはこの長たちの為人を観察していた。
今回の件だけではない。
この先、この事件が片付いた後も、この山中で関わっていく事になる人たちなら、ここでよく知っておこうという訳だ…。
村人たちの恐れる感情を、上手く繕ってあげなければいけない。
他のメンバーの発言や動きも利用する。
(さすがね…)
と、フローレンも思わざるを経ない。
レイリアが怒って切って、アルテミシアが煽って諭し、クレージュが包んで収める…
考えてみれば、それぞれに役割があった。
…というより?
(これ、最初から全部、クレージュが仕組んでたんじゃあ…?)
フローレンは、そう思わざるを経ない…
まあ、聞いても教えてはくれないだろうけど…
これで問題は解決した、ように思えたが…
だが、ここでまだ一つ…長たちには懸念が残っていたようだ。
「それでも、ですね…」
「いくら共に戦おうと言われても、ですねえ…」
戦いを決意するに至ったようではない…まだまだ、彼らのに着いた火は弱い…
「我々と貴女達だけで…勝てるんでしょうか…?」
「あなたがたのような、その…麗しい娘さんがたが…ですな…」
「そう、そのブロナスとかブリスムナとかいう…
戦士までいる団体の、男どもを相手にできるとは…」
彼らの不安は尤もである。
花月兵団が交易を行う集団であることと、自分たちにとって友好な集団であることは理解している。
だが、その実力のほうまでは、理解が乏しいようだ。
まあでも…
それが理由だというなら、話は早い。
「しかたないわねえ…」
やっと自分の出番だ、と言わんばかりに、フローレンは腰を上げた。
要は、実力を見せれば良い訳だ。
いつもの事である。
 




