109.難民村に集う
花月兵団出撃。
結局、大樹村に残る女兵士は、森妖精の四人だけ。
このラクロア大樹において、森妖精の事情はちょっと特殊で…
森妖精の半数は、大樹の村に残らなければならない、という決まりがある。
だから残る四人を選ばなければならなかった。
まず留守番が決定するのは、森妖精の副長メラルダだ。
長であるロロリアが、スィーニ山の管理領域を増やすために頻繁に外出する…という訳で、この副長は気の毒なことにいつも留守番だ。
長であるロロリア以外にラクロア大樹の管制を行えるのは、このメラルダだけだから仕方がない。毎回そういう役まわりである…
行商に参加した他の森妖精の子の話を聞いて、おみやげ物を見て…
「自分も一度、町に行ってみたい!」と熱望しているので…
次こそは行商に参加して町に連れて行ってあげたい、と思われている。
そして森妖精の料理担当のジェーディが残る。
このジェーディは以前一度クレージュの店に行った時、そこで料理長のセリーヌから習ったスィーツ作りにハマっていて…最近は食事作りの方は給食担当のキャビアンたちに任せっきりだったけれど、彼女も出かけるので、残ったメンバーの食事作りをする中心の人が必要だ。
久々の食事作り担当で、ちょっと不安がっている…けれど、ここに残る保母さんなニュクスも料理はかなり上手だし、小さな子たちも手伝ってくれるので…少ない留守番組の食事くらいなら、なんとかなるだろう。
畑担当のクリスヴェリンも残ることになった。
一週間くらいなら全員出払って、自動給水などの装置だけで畑の管理を抜けても大丈夫だけれど、何かあった時の事を考えると残った方が良い。
何しろここの畑の生産は、みんなの食料と、お金になる物を生み出す起点なのだ。
この子もいつもそういう畑事情で残留だから、次こそは行商に行かせてあげたいメンバーだ。
あと一人は、服飾担当のパティットが残ることになった。
久々の実戦、ということで、森妖精はみんな行きたがったのだけど…
この子は先日エヴェリエ領で小鬼と戦ったりしてるので、今回は他の子に譲ってもいい、と思ったようだ。
何でも…温泉街で着た“浴衣”なる衣装に大いに興味を抱き…
「次の宴会までに、ここにいる全員分を作る!」とか言ってはりきっている…
ので、留守番して服飾仕事に勤しむのが望ましい。
それ以外の四人の森妖精、薬師のペリット、もの作り担当のマラーカ、酒と加食担当のプレーナ、果樹園担当のスヴェンが、長であるロロリアに同行している。
先日小鬼と交戦したペリット以外は、実戦は久々、という感じで、どこか楽しそうにしている感がある…えらい余裕である…
まあそれ程に、森妖精の面々はそれぞれに戦闘能力が高いのだ。
女兵士とは別に、小さな子たちは八人そろって、保母さん役のニュクスと一緒にお留守番だ。
プララ、レンディ、ミウ、ブルーベリ、ルッチャ、ファラガ、フォア、フェスパ
この子達もみんな訓練に参加しているけれど、実戦に出すことはない。
ちなみに戦いにはでないけれど…小さな子の中では、ニュクスの次女のフェスパが一番の剣士だ。姉のヘーメル同様に、ブロスナムの貴族令嬢として育てられたので、剣の腕はかなりのものだ。そして姉と同様、友人と呼べる子がいなかった。
だけど、この村に来て初めて、上下関係のないお友達ができた。
そのことが嬉しいみたいで、嬉々として一緒にお手伝いを頑張っている。
次に強いのは、ずっとフルマーシュで一緒に訓練してたプララとレンディだ。
フルマーシュの店にいる頃から、年上の子たちと一緒に朝練に励んでいた。
フローレンの見たところ、その三人はまだ少女だけれど、並の大人の男性に負けないくらいの強さはある。もちろん、LV1装備の高性能武器やアクセサリの守りを加えての話にはなるけれど。
その小さな子の残り五人のうち、料理人次女のフォアは、先の三人に続いてまだ戦える感じだ。短い間だけどフルマーシュの店にいて、プララやレンディと一緒に稽古していたおかげか、けっこう体力がある。
もともと男の子に負けないくらい喧嘩は強かった、らしい…母娘三人だけの男手のない家庭だったから、自分達の身は自分達で守ろうという意識が育っていたのかもしれない。
残りの四人…
フルマーシュ孤児院のミウとブルーベリ、山中の廃墟に取り残されていたルッチャとファラガ、この子たちも訓練には参加するけれど、まだそれほど武術は得意な感じじゃあない。
だけど小さな子たちはみんな、アルテミシアやニュクス先生の元で学術魔法を学んでいるので、八人全員が何らかの魔法が使えるようになっている。その多くは家事補助のための生活魔法だけれど、中には治癒魔法を使える子も出始め、戦闘魔法を学んでいる子もいる。
それに、この子たちは単なる遊び回っている子供、というわけではない。
ここラクロアの村において、重要な働き手なのだ。
女兵士たちがみんなで払うので、家事や食事作りの手伝いは、この子たちの担うところが大きい。
出陣するお姉ちゃんたちのために、一生懸命お弁当を作ったのも、この子達だ。
出撃前に女兵士全員に手渡されたお弁当…
食べやすい形にコメをまとめた簡単なお弁当だ。
炊いたコメを丸めるというより、ちょっと三角に近い形に平たくまとめて、クルーム樹の葉につつまれている。以前フローレンたちがアヴェリ村でもらったのを参考に真似て作った。
にぎったコメの中に、野菜のお漬物や、煮付けた肉などの具材を入れたり、
山菜やキノコを調味料と一緒にコメと炊き込んだ、混ぜ飯のもある。
そこに簡易な状態保存の魔法が掛けられ、数日は傷まずに持ち歩く事ができる。
その魔法も、小さな子たちが頑張って使えるようになったのだ。
食事については、一応、野営地で全員の食事を作る段取りはしているけれど、戦いなので悠長に作ったり食べたりしていられないような状況も考えられる。
だから、保存の効く予備の食料は必要だ。
それ以外にも全員に、果物や木の実、干芋や干し肉、海産物の干物なんかも持たせている。
ラクロア産の干しブドウや、魔獣ラキアの干し肉なんて、町でも高く売れそうなくらいの珍味なのだけれど。
「おやつ代わりに食べないように」とクレージュから念を押されている…特によく食べる子には、三回くらい繰り返し言われていた…
お弁当は水筒も一緒に、肩紐でつるしたり、背袋にしょったり、腰からさげたり、女子たちの着ている鎧の形によって、動きの邪魔にならないように持ち歩き方は様々だ。
で、準備万端な女兵士たちが、そろって出陣。
オノア難民の一番大きな集落を目指している。
目的地まで大樹の支配領域の森を進むので、大樹の管理者のロロリアが先導する。
彼女の傍らには、銀色のアルジェーンがぴったりと寄り添う…ちょっと近い…近すぎる…まあこの二人の物理的距離がキケンなくらい近いのはいつもの事だけれど。
この先鋒部隊は森妖精の四人と、壱番隊の八人で構成されている。
フローレンとアルテミシアが次鋒で、参番隊と䦉番隊が同行する。
この両隊は、隊長のミミアとメメリ以外は、みんなまだ新兵だ。
参番隊は全く実戦経験がない…䦉番隊はアイーズ村に現れた魔物と少し戦った程度だ。
今回はここに、戦力補強のためなのか…両隊長と仲が良いからなのか、
普段はクレージュ直属の可愛いキューチェと活発なハンナが一緒に行動する。
ニ両の荷馬車が、その後ろに続いて、ゆっくり歩を進めている。
いつもは行商のための馬車だけど、今回は野営のための物資を運んでいる。
荷馬車の御者を務めるのは、海歌族の四人だ。
オノア三人娘と、針子のトーニャとパン焼きのベルノたちも一緒。
給食担当のキャビアンも同行して、娘と同年代の女兵士たちに混じって歩きでついてきている。可愛い系の小柄なママは、若い子に混じっていてもあまり違和感がない…
この輜重隊の指揮は、クレージュ自ら取っている。
クレージュはただひとり、馬上にあって颯爽とした雰囲気。
愛馬ローランは、アングローシャで買い揃えた馬用の装具を纏って、貴人の馬という感じになっていた。他の荷馬たちも割といい馬装をもらっているのだけど、クレージュの乗馬であるこの子だけは、ちょっと別格な感じだ。
ローランもクレージュの贈り物と自分に対する愛情を感じとっているようだ。
そんな軍馬ローランの勇姿と相まって、毅然と背筋を正したクレージュの姿は、
行商人でも飲食店の女主人でもなく、騎乗の麗人…
司令官の貫禄充分といった感じだ。
行軍の最後尾を務めるのは、レイリアとユーミ。
一番うしろを歩いているのは、何も最後まで飲んだり食べたりしてたのが理由、ではない…いや、この二人は最後まで村に残って飲んで、食べていたのだけれど。
その最後尾部隊には、火竜族の四人と、獣人族猟師のエスター、弐番隊の八人が一緒だ。
その花月兵団の女子たちの兵装は…
一部兵装を統一している部隊もあるけれど、基本的にはバラバラだ。
上は軽装の胸当てが主流…でもそれも肩当てがあったりなかったり様々。他にも革のベストや、ビキニ形状でブラ型胸鎧だけの子とか、胸を大きく開けて谷間見せつけな大胆アーマーの子も多く…参番隊は全員その形状で統一されてたりする…。
下はフレアミニの子がやや多いけれど、タイトミニの子や、ショートパンツの子、ビキニ形状でショーツ型の腰鎧の子から、フローレンみたいな前垂れ後垂れ装甲の子まで様々。スリット入りロングスカートや、ぴっちりロングパンツの子もいる。ボディスーツ姿でおしり無防備な子も何人も…䦉番隊や海歌族は全員それで統一している…。
防御的にも視覚的にもアブなすぎる格好だけれど、花月兵団の女兵士には守りのアクセサリがあるし、そこに防御魔法を重ねるので、一般レベルなら防御力のほうはまあ問題ない…
花月兵団女兵士の鎧は、もともとはアングローシャ領主が、街を歩かせる私兵の美女たちに着せていた鎧、そのお下がり品である。美しく見せるための軽装鎧…というより中には鎧の形をした装飾品といったほうが良いものもある…。
つまり実用性は低い…ので、わずかに女性冒険者に売れたくらいで、大半は買い手がつかず廃棄するしかなかった物を、クレージュが安くに譲ってもらったものだ。
だから不揃いでも仕方がないし、そもそも各女兵士が自分の身体と好みに合ったものをそれぞれ選んでいるのだ。何しろ作りと見栄えは良いので、守りのアクセサリとの相性は良い。
鎧の形がバラバラだから統一感を持たせるために、活動のときは全員がそのアクセサリを「花と月の紋章」に変形させているのだ。
そんな花月兵団は、断崖の山道を南へ進む。
山道の左手側は切り立った断崖絶壁だ。
真下を見れば…遥か下には、森の絨毯の広がりが映る…
ところによっては、崖ではなく急斜面のようになっていたり、その途中に木々が茂っていたりするのだけど…やはり落ちたら終りだ。命があっても戻ってこれる保証はない高さだ…
それでもこの山道は、横に十人以上が並んで歩ける幅はある…ので、キケンな崖側に近寄る必要はない。
みんな右側に寄るような感じに行軍していく。
まあ、花月兵団の女兵士たちは、このあたりの山道はいつも歩いているので、もう慣れたものだ。多少道が細くなるところもあるけれど、特に何の恐れもなく歩いていく。
山道の右手側は、切り立った岩壁が塞いでいる。
ずっと切り立った岩というわけでもなく、ところどころ岩壁が低くなったり奥に行ったりで、途切れている場所がある。
山道の途中、道が広がって広場のようになっている場所に出た。
馬車がすれ違うにも十分すぎる広さなので、おそらく昔にこの山道を使っていた商人や旅人は、この場所で馬車を止めて休憩した事であろう。
その広場から山道の森に入る横道がある。
山道を行く人たちからしたら、見向きもしないような草木の深い小道だ。
目的のオノア難民の集落は、その先にあるのだ。
北東方面には、まだ柔らかな午前の光を浴びながら、遠く霞ががかったラクロア大樹の姿が小さくなって見えていた。
山の東端から西の方向、山中の森に入っていく…
この辺りの森は既に、ロロリアが霊樹を作ってその三角形空間を南に伸ばした、大樹の管理領域に入っている。いま来た山道からではなく、森の北側から進んできて領域化している場所だ。
実は歩いてきた山道も、内側の森を通じて管理領域に入っている。
ので、この山道を歩く人がいれば、大樹側からすぐにわかるようになっているのだ。
オノア難民の集落はいくつもある。
それらは、この近辺の森の中に点在している。
高い木々の間から、定期的に陽の光が差し込んでくる。
十分な木漏れ日のお陰で、森の中でも暗すぎる事はない。
それでも日陰の多い森の中は、暑い季節にもかかわらず、心地よい気温を保っているはずだ。
花月兵団の女子たちはLV1アクセサリのお陰で多少の暑さはものとしないけれど、ここで生活する人々にとっては快適な環境なはずだ。
木々に囲まれた獣道だけど地面は平坦、荷馬車でも問題なく進んでいる。
その最も大きな集落が、この先にあった。
森に入ってから、古代時間でいうところの約一時間ほどで、その大集落に到着。
この村の地形は平坦ではなく、高低差がある。
西側に向かうにつれ地形は高くなり、一番西には突き出したように岩壁が聳える。
花月兵団が到着した東側の村入口は、木々のないかなり開けた広場になっていた。
ここから村の西側に向かって、膝から腰くらいの段差が何度かあって、高さで区切られるような形になっているため、馬車で進めるのはこの広場までだ。
この広場を花月兵団が宿営地とする事が決められている。
クレージュが荷下ろしの指示を出していた。
女兵士たちが、分担して作業に入る。
こういう作業には得手不得手があるので、部隊の壁を越えて、それぞれが得意な、手慣れた業務を行うのだ。
まず最初に食事作りができる簡易な設備が作られ、給食係のキャビアンはもう調理に取り掛かっている。この小柄な料理人ママは、毎日の戦闘訓練には参加していないけれど、意外と健脚で体力がある。ここまで歩いてきたけれど、疲れも見せず、いつものように食事作り…
実はかなり身体には気を使う人で…朝早く起きて二階層にある大樹の周囲バルコニーを毎朝、おっきな胸をゆさゆささせながら走り込んでいる。実はフルマーシュにいる頃から、朝の走り込みを欠かした事がない。夜は夜で、毎晩激しい夜遊びしていた、にもかかわらず…元気なものだ。
毎日全員の食事を作るには、かなりの体力が必要な訳だ。その体力づくりを欠かさないのだ。
キャビアンを中心に実娘のトリュールや、壱番隊の未亡人なウェーベルとちっちゃなアーシャ、弐番隊のユナとその二人の妹・義妹フィリアとランチェたち、いつもの面々が料理の手伝いに入っている。
その向かい側では力の強い子たち、壱番隊のネージェやディアン、弐番隊のシェーヌやレメッタたちが、木の柱と布の幕で簡易な建造物を建てている。
ただこっちはあまり慣れない感じで、みんなで相談しながら…時間がかかっている。
花月兵団は、こういう多人数での野営は初めてだ。
スィーニ山中で何度か行った、部隊ごとの野営の訓練だけだ。
野営地の建築みたいな作業はまだまだ不慣れ…しかも男性のように力が強くないので効率も悪い…今後の課題である。
森妖精たち女兵士の何人かは、周囲警戒を行っている。
特に、ブロスナム軍の拠点方面である、南側を。
この広場からかなり離れた距離まで警戒に当たっている。
もっとも、この辺りはすでに大樹の管理領域に含まれているので、敵が現れればすぐに気付く事にはなるのだ…見張っている場所よりかなり広い範囲まで。
まあでも意識の上でも、見張りという活動を行う事自体が大事なのだ。
残りの女兵士たちも、それぞれが料理や野営準備や見張りに加わった。
ここでの得意な仕事はなくても、全員何らしかの手伝うべき仕事はあるのだ。
見張りや作業は女兵士たちに任せ、クレージュたち中心メンバー七人は村の代表者に会いに向かった。
クレージュもフローレンもアルテミシアも、交易の帰り道に何度かこの村を訪れている。挨拶がてら、町で仕入れた物資を、山の幸との物々交換で取引をするのだ。
あまり裕福な暮らしではない彼らから、多くをもらうことはしない。
タダであげても良いくらいの安い条件の取引だけれど、必ず何かと交換する。
一方的にあげる、施すような事はしない。
あくまで対等、という関係は崩さない。
それでもこの毎回の取引は、彼らから感謝されている。
特に、山では手に入らない、薬の類をとても有難がっていた。
それで一命を取り留めた子供もいたようで、後日何度も礼を言われたものだ。
それ以外の花月兵団の女子たちも、山の散策のついでに何度かこの村を訪れ、物を交換したり、一緒にご飯を食べたりして、両者の親近感は強まっている。
「前に訪れた時よりも、かなり人が増えているわね」
クレージュは歩きながらも、周囲を見渡して観察している。
この集落、もともと人口は五十名ほどだったのだけれど、一目見るだけでそんな規模ではなくなっているのがわかる。
「ええ、軽く三倍近く…ってとこね♪」
アルテミシアもそう言って、自分たちを物珍しげに見つめてくる子供たちに微笑んで手を振ってあげていた。
アルテミシアは小さな子供が好きだ。
前に来たときも、子供たちに歌を聞かせてあげたりしていた。
行商の途中で寄る村でも、よく子供たちに囲まれているし、大樹にいる八人の子たちにも、魔法仕事の合間に自ら魔法を教えてあげたりしている。
まあ…スィーツを前にした時の彼女の精神年齢は、この子供たちにもかなり近いものがある…事も、関係あるのかないのか…
「この村に集まってきてるのね…」
ブロスナム残党と山賊が連合し巨大化している事は、既に伝えてある。
それを警戒した小さな集落の人たちは、早々と避難してきている訳だ。
フローレンはこの村に来る度に、オノアの男性たちに興味深そうに上から下から見られまくっているのだけど、
(オノアって、女性の戦士がそんなに珍しいのかしら?)
くらいにしか思っていない…。
わりとギリギリな花びらビキニ鎧が、耐性のない男性には刺激的すぎる格好である事を理解していない…のは、いつものことだけど…
フローレン自身、前に来た時より刺さる視線が多いことを感じてはいる…いるのだけれど…。
集まってきた村人たちの見てくれは様々だ。
部族ごとの習慣なのか、髪型が独特…
伸ばしに伸ばした髪を頭上で大きく編み上げた女性…その編み上げの形にも部族ごとの違いが見られる。
後ろで編んで地に届きそうな女子たちもいる…重たくないか心配になる…
男性のほうはというと…
伸ばしてるのもいれば、奇抜に髪を切り込んだり、ヘンなとこだけ伸ばしたり、全部剃り上げたりしたり…もっと様々だ。
もちろん男女とも普通の髪型をした人も多い。大半は黒髪だれど、中には銀髪やそれ以外の髪色の人もいる。
衣装のほうも、実に様々…
肌をあまり晒さないようにしている女性や、逆にギリギリな格好をしている男女、下しか着てなくて伸ばした髪で胸を隠している女性もいたり…
風変わりな入墨のある部族の男女もいる、やや浅黒い肌をした人も混じっている。
一口にオノアと言っても、実に多くの民族が混在する地域であることが、その姿の違いからもわかる。
花月兵団にいるオノアの女兵士三人ですら、髪や肌の色が異なるのだ。
当地の民族衣装を着ている人もいるけれど、この辺りの一般的な衣装を着た人も多い。
長い流浪の果て、ここにいる彼らは…
多くを持って来る事もできず、多くを失っているのだ。
それに失っているのは、目に見えるものだけではない…
それでも力強く生きる彼ら…
小さな子供たちでさえ、新たな土地で、生きていく事を頑張っているように見える。
中には戦乱の中で親をなくした子もいる、と聞いている。
「わたしたちだけの問題じゃないわね…」
「そうね、守ってあげなきゃ、ね♪」
アルテミシアはまた、じっと見つめてくる子供たちにまた、優しく手を振ってあげている。
フローレンも、真似して手を振ってみた…
すると…
子供たちの後ろにいた男たちが揃って、なんか嬉しそうに手を振って返してきた…
フローレンはやっぱり子供よりも、男性の目を集めてしまうようだ…




