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花月演義 ~~花月の乱~~  作者: のわ〜るRion
第10章 狭間の山の小さな三国戦
111/139

108.花月兵団、出撃!


早朝会議は終わった。



そして…もう一つ…

その話し合いのあとに…このラクロア村の長、大樹の管理人ロロリアから、大事な話があった…

実に大事な話である…

ここにいる全員に関係する、重要極まりない話、だったのだけど…


その話については、山で今起こっている問題を片付けてから、となった…

まずはスィーニ山の状況を何とかするのが急務だ。





早朝会議に続いて、今度は村の大広場での大集会だ。

朝食のあと全員が広場に残るように指示されているので、今この村にいる女子全員が大広場に集まっている。


昨晩はここで全員揃っての宴会だったけれど、

今朝はこれから全員揃って重要な話を伝えられる事になる。


会議室を出てきたクレージュたちの姿を見ると、それまで雑談で盛り上がっていた女子たちが一斉に静まった。

その重たい雰囲気の前触れを、全員が理解している様子だ。




花月兵団の女子たちを前に…

会議の決定事項が、総長であるクレージュから語られる…


まずは、このラクロア大樹の入口である、スィーニ山の状況…

ブロスナムの残党勢力が、点在する山賊どもを取り込み、巨大化している事…

その連中は花月兵団にとって、行商や山中活動の妨げになる事…

加えて、山中に暮らしているオノア難民の事…


「これまでもブロスナムの残党は、事あるごとに非道を働いてきました…」


クレージュは、アヴェリ村出身の四人が掛けているテーブルに目を向けた。

ウェーべル、ネージェ、ディアン、アーシャ、

あの山砦に囚われていた村娘だった四人はみな、強い視線で力強くうなづいた。


「そしてその非道は、ルルメラルア国内のみならず、このスィーニ山でも…」


クレージュは、また違うテーブルに目を遣った。

その視線の先には、オノアの三人娘の姿があった。

彼女たちもまた、強い目を逸らすことなく、じっと話を聞いていた。


「今…山中にいるオノアの方々も、その脅威に晒されています!」


このオノア難民の三人娘も、ブロスナム軍の砦に囚われていた。

中でもベルチェは、魔獣鷲馬ヒポグリフのエサにされる寸前だった。

残りの二人、アルセとナールも、捕虜として何人もの男どもから毎晩のように凌辱を受けている…


「力なき者たちへの横暴…平和に暮らす人々を苦しめる非道な行為…

 決して見逃せるものではありません!」


クレージュは声を高めながら演説を続ける。

その視線は今度は、南街道のグリア村の村娘だった四人に向けられた。

この子たちが、ブロスナム残党に最も酷い事をされている。


その村の長の娘だったユナは、ずっと瞳を閉じたまま、クレージュが語るのを聞いていた。その一見静かな表情の下にあるのは、悲しみであり、怒りでもあるだろう…激しい感情が渦巻いているのが見て取れる…

その隣りで抱き合うようにしているフィリアとランチェ、その向いにいるシェーヌ、その三人の目にははっきりと涙が浮かんでいる…

村を焼かれ、親しい人たちを殺された、彼女たちのブロスナム軍に対する嫌悪は、計り知れないものがあるはずだ…


「私たち花月兵団は、スィーニ山中におけるブロスナム残党、それに加わる山賊の勢力を敵と定め…」

クレージュはここで一度呼吸を整え、


「討伐を行うことを、ここに宣言します!」


声高らかに、そう言い放った。


「山賊の…?」「討伐…?」

「ブロスナムと…?」「戦い…?」


女兵士たちが顔を見合わせ、小声で話し合っている。

突然の事に対する戸惑い、という感じだろう…



「やりましょう」


鋭い一声が、ざわめきの中から上がった。

その静かな中にも激しさの秘められたよく通る声に、場は静まり返った…


その声を上げたのは、弐番隊隊長のユナだった。


「私たちは…あの日…多くを失いました…

 村を…掛け替えのない人たちを…

 突然現れた、彼らによって…」


静かに告げるユナの表情は変わらない。

だけれども、その静かな中に秘めた感情の強さは、誰の心にも届いている。


あの時の…遺跡から救い出された後、変わり果てた村の姿を目の当たりにし泣き崩れていた彼女たちの姿は、クレージュの記憶にもはっきりと焼き付いている。


「倒すべきです! 力なき者たちを踏みにじる、悪しき者たちを!

 もう…あんな悲劇は…起こさせないために…!」


ここで初めて…ユナは感情を言葉に乗せて言い切った。

その溢れ出した感情と共に、閉じられた瞳からも、激しく流れ出す…


戦うべきだ。

自分たちの復讐を果たすのではなく、新たな悲劇を生まないために。

そのユナの言葉は、ここにいる女子全員の心に確実に響いていた。


「そうよ! お姉ちゃんの言うとおり!」

「悪を、許すべきではないわ!」


ユナの妹・義妹(いもうと)のフィリアとランチェ、

そのつぶらな瞳は涙に濡れたままに、姉・義姉(あね)と同じ、強い意志の光を湛えている。


「私たちが、やらなきゃいけない!」


その三人と同じ村の鍛冶屋の娘シェーヌも続く。


「そうだ! ワルいヤツは、ぬっころーす!」


その親友、獣人族のレメッタ。

続いて次々に声を上げるのは、彼女たちと家族同然な、同じ弐番隊のメンバーだ。


「村には小さな子も、沢山いるのよ!」

「…おじいちゃん、おばあちゃんも…!」


マリエとナーリヤも続いた。

普段おとなしいこの二人にしては珍しい、ちょっと強めの口調だ。


魔獣のいた砦を落として以来、このあたりのブロスナム勢力は消え、オノア難民たちも活動しやすくなった。

そして、花月兵団とは友好的な関係を築けている。

ここにいる女兵士たちも、山の散策の折にオノアの集落を訪れている。

集落にいる子どもたちやお年寄りと特に仲良くしてるのは、心優しいこの二人だ。


「だよー! 村がなくなったら、ダメだわー!」


自由人な空歌族(ハルピュアイ)イーナの場合は…ちょっと事情が異なる…

この娘は、オノア集落を訪れた時…そこの男性と一緒に、ちょっと姿を消したりする事がたまーに…いや、よくある…毎回、ある…


だけどそんな些細な事情はこの際、気にもされず…

女兵士たちは弐番隊の面々に感化されたように、続いて高らかに声を上げ始めた。


「戦おうー!」「サンゾク、許すまじ!」

「山のヘイワを、守るんだー!」

「やっちゃえ!」「「「おーーー!」」」


全員の思いが一つになっている…


ここにいる女子たちは誰一人、戦うことに恐れを見せない。

大樹や装備の加護を受けている。

頼れる上官がいて、仲間内に強い絆がある。

日々の厳しい訓練でかなり強くなっている事も自覚している。

それらに伴って自信もついてきている。

彼女たちは、乙女だ。だけれどもう立派な兵士なのだ。


士気の高さが熱気となって、この広場に(あふ)れ返っていた。

歓声はいつまでも鳴り止む事がない…





ブロスナム残党山賊軍、オノア難民、そして花月兵団の三者による三国戦の始まり。

実際には、オノア花月連合とブロスナム残党との戦いになるであろう…

だが、オノア難民には彼らの意志があり、彼らの立場も言い分もある。

相手を尊重した上での共闘…少し難しい駆け引きを強いられるかもしれない。


花月兵団はこれまで何度も因縁のある、ブロスナム勢力の殲滅を計る。


そもそも花月兵団の頂点にいるクレージュ、フローレン、アルテミシアの三人が、ルルメラルア王国の助爵である事を踏まえれば…

名目的にも、ブロスナムの残党は敵と見なすべき存在なのだ。

その上、実質的にもいずれ交易の妨げになる事は明白。


そしてここに、女兵士全員の意志が統一された。

つまり、花月兵団にとってブロスナム残党の山賊連合は、名実ともに、そして意識的にも、戦うべき敵である事になる。





この村から、花月兵団のできうる限りの女兵士たちが出撃する…

これが、花月兵団にとって、初めての総力戦になる。


フローレンはその前線指揮官を務める事になる。

この士気の高まりに触れながら、フローレンは自分の責務の重さを感じずにはいられない…


(絶対に…誰も、死なせない!)


勝つことよりも、何かを得ることよりも、フローレンが強く願っているのはそこだった。


同数の山賊程度が相手なら、今の花月兵団の女兵士たちが圧倒するだろう。

それを率いるフローレン、アルテミシア、レイリア、ユーミ、ロロリア、アルジェーン、そしてクレージュの七人は一騎当千。

数の差を埋めるくらいは容易(たやす)い。


問題は、敵将クラスの扱いだ。

敵軍の中核にどのような者がいるのか、その情報を得ることが急務だろう。

女兵士たちに被害を出さないように、七人のうち誰かがその強敵に当たるようにする。

できれば複数で当たって、仕留めてしまいたい。




集会が終わると、総出で出撃準備に入った。


森妖精(ドライアード)はロロリアの、火竜族(サラマンド)の四人はレイリアの、

海歌族(セイレーン)の四人はクレージュの指揮下に入る。


そういった妖精族以外の女兵士に対する編成は、フローレンの仕事だ。



フローレンは各部隊長と相談し、出撃メンバーを決める。

自分の目で兵士たちの実力を見極めるところだけれど、さすがに村を空けている期間が長かったので、各隊長の意見は重視するところだ。


壱番隊ウェーベル、弐番隊ユナ、参番隊ミミア、䦉番隊メメリ、

四人の隊長を集めて各部隊について聞き取りを行った。



「壱番隊は、全員問題ありません…」


壱番隊隊長を務めるウェーベルが言った。

おっとりした家庭的な未亡人ウェーベルは、どう見ても“兵士”という感じじゃあない…

けれど、戦場の状況を見極め、的確に指示を出し、時に援護し、時に自ら刀を抜く…そんな援護系の指揮官だ。


ウェーベルと同郷の二人の妹分、活発なネージェと勝気なディアンが前衛を務める。

そしてもう一人の妹分、ちっちゃなアーシャが、敵の足止めや攻撃の魔法で援護する。

料理人長女のトリュールも武器戦闘は今ひとつだけど、その分魔法を頑張って覚えて支援できるようになった。


そして前衛にはもう二人の強力な女兵士、イーオスとヘーメルがいる。

さっきの会議にも出ていたこの二人…

妖精族以外の女兵士の中で一番強いのは、この一歳違い叔母姪コンビだ。


ヘーメルは武を尊ぶブロスナムの地方領主の娘で、イーオスは彼女の母である領主側室ニュクスの妹だ。

幼少の頃から毎日のように剣の稽古に明け暮れ、戦乱がなければ今頃はルクレチアの巫女兵になって、銅製ではなく姫紅(エレミア)鉱のビキニアーマー姿だったかもしれない。


二人とも地方領主とは言え、貴族の家で暮らしていた。

ここに来てからは、その時にはいなかった、年の近い友人が沢山できた。

ここでの生活にもすっかり馴染んで、一緒に農耕にも励んでいる。

もうすっかり花月兵団の一員だ。

もし平和になったとしても、もうブロスナムに戻ったり、ルクレチアの戦巫女を目指す事はなさそうだ。


そして今回から、壱番隊にはもう一人加わることになった。

フローレンと一緒に花売りをしていたリマヴェラだ。

始めは家事が得意な、大人しくか弱い印象のリマヴェラだったけれど…

細身剣(レイピア)を武器に選んでから、急激に武芸の腕が伸びた。

その上、フローレンに習って治療や幻惑の簡単な花術が使えるようになってきた。


これで壱番隊も八人になった。

小隊としての戦力は充分だ。




続いて、先程全員が発言した、弐番隊…


「全員いけます! 行かせてください!」


さすがにユナは気合が(みなぎ)ってる。

ブロスナム残党に対しても、山賊に対しても、弐番隊は隊長のユナはじめ、みんな思うところがあるはずだ。


弐番隊は、隊長のユナが自ら前に出て戦う。

絶えず変化する戦局を読みながら、自分を中心に隊を動かしていく、ユナは戦いながらそれができる。


二人の妹・義妹(いもうと)フィリアとランチェが、姉・義姉(あね)に合わせて剣と盾を持って敵をいなし、攻撃力の高い二人、鍛冶屋娘のシェーヌと獣人族のレメッタ、レイリアとユーミの弟子コンビが敵を倒してゆく。

身軽な空歌族(ハルピュアイ)のイーナが駆け回って敵を乱し、

天翼族(アンジェ)のマリエと夜魔族(デモニア)のナーリヤが後方から魔法で支援する。

それが弐番隊の戦闘スタイルだ。


弐番隊はフルマーシュで訓練している頃から、この八人の連携が優れていた。

それが厳しい訓練や魔法の習得によって、ますますその連携に磨きがかかってきている。



壱番隊と弐番隊…麗将軍ファリスから練習空間の魔法をもらったので、一度全力の試合をさせてみたいところだ。


壱番隊と弐番隊の戦闘スタイル、というより隊長のウェーベルとユナの指揮官としてのあり様は、かなり対照的だ。

それでもこの二人は同じ歳という事もあり、親友という感じだ。


フルマーシュの店にいた頃…この二人が閉店後のカウンター席に並んで、お酒を手に涙にくれている姿を、フローレンも目にしたことがある…

二人とも若くして夫や婚約者を亡くしている…

その事も、この二人に親近感を抱かせている理由なのかもしれない…




続いて参番隊、䦉番隊…なのだけど…


「まだ、もうちょ~っと、かな~…」

「そこそこって感じ、ですねー」


隊長のミミアとメメリは正直に感想を言う。


フローレンは、まあムリもない…という感想だ。

参番隊、䦉番隊の八人は、ここに来てからまだ日も浅く、元々がただの村娘だから。


だけど、フローレンの見たところでは、この八人もかなり腕が上がっている。

このミミアやメメリだって、南街道での初めて戦いの時は、かなり緊張しながら戦っていたのを覚えている。今では戦士としても一人前な、女子たちのまとめ役的なところもある、立派な分隊長だ。


思えば…この二人もかなり成長したものだ。

あれだけぽっちゃり女子だったミミアは、今では微ふくよかなグラマー女子に、

あれだけげっそり女子だったメメリは、今では微ほっそりなグラマー女子に。

かなりの努力家で、戦い以外にも、文字も充分に読み書きできるようになったし、最近では多少なり魔法にも手をつけている。

そして、よく食べる…ここだけは、最初から全く変わらない…。



ミミアの故郷イアーズ村出身の参番隊の子たちは、とにかくお胸の大きさが目立つ…

隊長のミミア以下、全員が胸を強調した鎧姿だから、とにかくその大きさが目立つ…

…それはともかく、四人とも自由奔放でかつ協調性のある印象だ。

性格的にもミミアによく似てる気がする。


メメリの故郷アイーズ村とその近郊出身の䦉番隊の子たちは、とにかくお尻の大きさが目立つ…

隊長のメメリ以下、全員ボディスーツ姿でほぼ丸出しだから、余計にその大きさが目立っ…

…ということはさておき、四人とも献身的で我慢強い印象がある。

性格的にもメメリによく似ているようだ。




「まあ、あの子たち~、武器のほうがもう一つだから、魔法~頑張ってるけどね~」

ミミアが何気なく魔法、とか言いだした。


「魔法も!?」

ちょっとこれはフローレンには意外だった。


「私たちと一緒に、キューチェから学んでるんですよ」

メメリもなんか、あたりまえって感じに軽く言い放った。


武術だけじゃなく魔法が使えるなら、戦力としてはもっと上という事になる。

それはさすがにフローレンも、見てみないと計りきれない。


それがどれくらいのものか、実戦で見極めなければならない…

魔法も技も、使えるだけではなく、使いこなせなければ意味はないのだ。



壱番隊から䦉番隊までの全員、問題なく出撃。

フローレンはそう決定を下した。





それ以外のメンバーも選定がすすんでいる。


クレージュの部隊は主に本営にて指示出しと支援を行う予定なので、他の隊より戦闘になる可能性は低い。


クレージュの直属部隊は、海歌族(セイレーン)の四人。

オノアの三人娘もそれに加わる。

この三人は、オノア難民との話し合いにも同席してもらう。


野営地でみんなの食事作りが必要なので、給食係のキャビアンも同行する。


元フルマーシュ孤児組のうち、針子のトーニャ、パン焼きのベルノも一緒だ。

他の二人、花売りのリマヴェラは壱番隊に入ったし、猟師のエスターは獣人族つながりでユーミについている。



火竜族(サラマンド)の四人はレイリアの「全員行くよ」という一声で、同行が決定した。

引き籠もりの子がちょっと残りたがっていたけれど…他の三人は出撃にノリノリだ。

ちなみに、その引き籠もりの子コーラーが、武術も魔法も四人の中で一番だという…



森妖精(ドライアード)は事情があって、八人のうち半数だけが参戦する。



以上…

わずか五十と四人だけど、立派に女兵士の軍だ。

花月兵団では初めての「総力戦」に臨む事になる。





何回かに分けて“虹の橋”を渡った。

ここの景色が見えた人には、今日はよく虹がかかる、と思われたことだろう。


スィーニ山の山道。

ロロリアの同行する壱番隊を先頭に、花月兵団が南方面への進軍を始めた。



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