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花月演義 ~~花月の乱~~  作者: のわ〜るRion
第2章 焼け崩れる山砦
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10.山砦探索 護衛と奪還と討伐と


村娘たちが囚われていた部屋から、通路を曲がって少し戻ったところ。

潜入してきたバルコニーが見える曲がり角まで戻ってきた。


ここにいる四人の山賊どもは、まだつまらない話題で盛り上がっている様子だ。

うち二人は立ったまま。二人はバルコニー側に腰掛け、酒を片手に談笑している。

こいつらは見張り…ではなく、女の子の順番待ちをしてたのではなかろうか、とさえ思えてくる。

壁の向こうで喧騒の物音がしていただろうが

「おっ? やってるなァ」「激しいぜ、おい!」とか笑い飛ばしていそうだ。


アルテミシアが曲がり角の向こうから眠りの歌を歌う。


《月夜の子守唄》スリープソング☆ムーンナイトモード

《上記魔法の発生位置を指定》

   →前方の空間、十五(メートル)先を起点に指定


だいたい賊四人の中心から、歌が聞こえているはずだ。


談笑していた四人の男どもが、眠気でひるんだ。

そこを、座位を保っている二人をレイリアが容赦なく蹴り落とし、床に崩れた二人はユーミが足を持ち上げ、投げ飛ばした。

もちろん全員崖下に、だ。


「あ、ごめんなさい♪」

こちらでは女の子たちまでもが、眠気で姿勢を崩していた。

月の当たる場所まで来たので、魔法の威力、というより効果範囲が上がってしまったのだ。抵抗力の弱い普通の村娘たちは、距離は遠いが余波にちょうど巻き込まれてしまったようだ。



アルテミシアが作った石壁の階段はもう消滅している。

たとえまだ残っていたとしても、あんな細くしかも落ちれば即死間違いない危険な階段を、村の娘たちに歩かせる訳にはいかない。

こちらから脱出させるのは、あきらめたほうがいいだろう。


「屋上に上がるか、一階に下りて正面から出るか、ね」


そう言いつつ、フローレンは、実際どうすればいいのか、わかりかねている。

砦の外に安全な場所があるかと言えばそうでもない感じだった。

日が高い頃ユーミが狩りに行こうとして止められていた。感覚鋭敏な彼女は獣の気配を感じていたという事だ。ということは、砦の外に逃しても夜行性の獣がいて襲われない保障もない。


ここに来た目的は山賊の討伐だけれど、まずはこの村娘たちの安全が最優先だ。

この子たちの安全を確保した後、山賊どもを殲滅し、物資を奪い返す。


騒ぎ立てば人が集まってくる。敵のほうが数が多く、囲まれるとこの子たちを守るのが難しくなる。だから静かに行動し、騒ぎや戦闘を起こさないようにしながら、まずは安全な場所を探すのが良さそうだ。

賊を片付け、物資を取り返す。その二つだけなら、自分たちには簡単な行動だけれど、誰かを守りながらだと難易度が一気に上がる。

守ることの難しさを感じずにはいられない。


ネージェとディアンは、山賊の持ってたの棒とかナタとか拾って手にしている。

ふたりとも、気の強い子たちだ。そういえば村人も不良娘とか言っていた。

無茶しそうなだけに、怪我をさせないよう、気を付けなければならない…

とフローレンは思ったけれど、ふたりとも武器の振り方を見てると、なかなかに筋が良い。

ネージェは敏捷な感じで、ディアンは力負けしていない、身体の特性を活かして武器を振っている。二人とも農作業で鍛えられているのか、身体と動作がしっかり出来ている感じだ。なので、ちゃんと鍛えればわりといい戦士になるだろう。


対称的に、家庭的な雰囲気の強いあとの二人、年上のウェーベルとちっちゃなアーシャは、抱き合うようにして怯えている…

と、思ったら…


「なんでそんな物持ってるの!?」

フローレンが驚いたのは、ウェーベルが湾曲した刀を抱えていたからだ。

もちろん抜き身ではなく、(さや)に入ってはいるが。


「え…その…私の衣服と一緒に…」

この子の衣服を取ってきたのはユーミだ。


「という事は、その部屋にいた賊の物?」

「そうです…あの男がいつも部屋に来る時、持ってきているのを見てますから…」

「へやに、あったの、もってきた!」

そういう事はちゃんと報告しなさい、とレイリアが叱っているけれど、ユーミには言っても無駄だろう。


フローレンはその刀を預かり、少し鞘から抜いてみる。

刀身の色、返す光、見たところ、結構良い物のような気がする。

「レイリア。これ、どう思う?」

レイリアは最近、町の鍛冶屋に頼まれて手伝いをしている。炎を自在に操れるので、鍛冶屋では重宝されているのだ。こういう一般の武器については自分よりは詳しいだろう、とフローレンは思った。


「業物だね。とてもいい鋼だよ。それは間違いない。これ、どんな奴が持ってた?」

レイリアは小柄な相方から、状況を聞き取ろうとしている。

「えーとね…おとこだった!」

「わかってるっつーの! オマエが斬ったの、どんな男だったか聞いてるの!」

「ごっつかった!」

「ゴツいでわかるか! 背が高いとか、身体が大きいとか!」

「んとねえ、まっちょ!」


このふたりのいつもの感じの遣り取りが続いている。そちらは任せておいて刀に目を戻す。

「桜花の…紋章…? 何だろ…?」

柄には特徴的な刻印があった。


「桜花の意味するとことは多いのよ♪ 大地神スィーラティガの座す所も桜の木だし、北のブロスナム王国の紋章も、桜花でしょ♪」

アルテミシアはその刀にちょっと触れて、軽く鑑定しながら、桜花に関する知識を述べた。

フローレンが用いる花の術にも、桜花を扱うものがいくつもある。


「ま、この紋章は謎だけど、今どうこう言う事でもないわね」

とりあえず考えるのはここまでだ。続きはこの仕事が終わった後で良いだろう。


「でも、こんなもの振り回しちゃダメよ。ちゃんと訓練しないと、かえって危ないわ…」

とフローレンは言いながらも、この刀をウェーベルに渡していた。

彼女が受け取ろうとしたからだ。通常なら村娘に持たせる物ではないけれど…。


「ええ…はい、大丈夫、だと思います…」


ウェーベルに刀を返す時、フローレンは一瞬、身構えるような気を感じた。この子に対して、だ。

(何だろ… 今の…?)

眼の前にはおっとりした家庭的な女子がいるだけだ。


「ちなみにこれ、魔法強化されてるわよ♪ 最低レベルの、いわゆる+1相当だけどね♪」

アルテミシアは魔法使いなので、当然魔法の感知には優れている。魔法により強化がなされた装備などは触れるだけでわかるし、意識を集中して調べれば触れなくてもわかる。


魔法後進国であるルルメラルア王国では、武器の魔法強化技術は継承されていない。

むしろ軍神を崇めるルクレチア地方ではその技術が残っているはずだ。

とは言っても、古代ヴェルサリアならいざしらず、現在の技術では量産は難しく、一般兵クラスでは手にする機会もない。


この刀は彼女たちには必要ないけれど、魔法強化のなされた武装は、売ればそこそこの値はつくはずだ。





さて、入ってきた北側バルコニーの西の端。

そこにあった扉を開く。最初にバルコニーを上がってきた時に見た扉だ。

あの時はここに山賊がいたので、この扉を開くと気付かれる可能性があった。


そっと、中の様子を伺う。

見た所、逆の東側と同じようなまっすぐな通路が続いている。


すぐ左手に通路が分かれていた、そして下に降りる階段になっていた。

山賊共が談笑する声がいくつも、焼いた肉の匂いと共に、階下から上がってくる。ユーミでなくてもしっかりと感知できる、焼いた肉のいい匂いだ。

「…ぬぬぬぬ…!」

「ユーミ、まだよ♪」

こよなく肉を愛する娘が、暴走しそうになるのを、引っ張って戻す。

女の子たちの安全を確保するまでは、なるべく戦いはしたくない。


感覚の鋭いユーミを先頭に、外壁通路をまっすぐに進んだ。その次にレイリア。村娘たちを真ん中に、フローレンとアルテミシアは後衛を務める。


右手の壁、つまり西側の外壁、その明り取りの窓から月の光が差し、外の空気が入ってきている。

左手の壁、砦内側の壁は所々が崩れている。そして、所々足元まで崩れていた。

この通路も床が抜けてしまっていて、厚い木の板を渡し、それをしっかり固定して足場をにしている場所がいくつかあった。


板の足場は歩く度にしなり、悪くすると体勢を崩しかねない。それでも木の板を渡るしかない場所もあるので、そこは一人ずつ慎重に…。

まずユーミが軽快に渡り、レイリアが続いた。

次は村娘たち…活発なネージェとディアンは何気なく渡ったけど、お姉さんなウェーベルはおそるおそる少し時間がかかる。

そして問題は、ちっちゃなアーシャだ。


「足元に気をつけて…あわてちゃダメよ、あわてたら…あっ!」

フローレンの言ってる端から、アーシャが…転んだ。


「しっかり!」

レイリアが手を取って助け起こす。

ちっちゃなアーシャは「ありがとうございます!」とおじぎをして、板の最後でまたバランスを崩しかけ、レイリアに抱きつくようになりながら渡りきった。


「ごめんなさい…あたし…慌てると…よく転ぶんです…」

アーシャは涙目になりながらも、ちょっと顔を赤らめている。長身なレイリアに抱きついたままだ。

この子はどうも、バランスを崩してよく転ぶようだ。小柄な割に突き出たように大きい胸の重さで転ぶんじゃないか、と思ってしまう。


最後にアルテミシアとフローレンも何事もなく渡ってきた。

冒険者ならこの程度のバランス感覚は自然と身についている、ものなのだけど…普通の村の娘、しかもあまり外向きではない家庭的な子だと、こうなってしまうものなのか。

バランスを崩しやすい子がいるなら、配慮してあげる必要がある、とアルテミシアは思い直す。

「次があれは魔法でなんとかするわ♪」


警戒しながらしばらく歩くと、少し広く部屋のような場所に出た。

今いる場所がちょうど、砦の西の門扉の真上くらいか。

そこで一度止まって状況を確認し合う。


「本当に、街道を見張るだけの砦だね」

レイリアは歩きながらもずっと、この建物の造りを調べていた。


「というと?」

「通常の砦と違って、攻撃を受けても防衛するようにできてない、って意味。

 例えば、入口の門扉(もんぴ)の上から迎撃するような作りになってないでしょ?

 適当なのよ。建築の仕方が」


レイリアがそんな話をする、という事は、おそらくそうなのだろう。


「そして作りが(もろ)い。材質も良くないし石積みの技術も未熟な感じ。

 石壁かと思ったら、中は木組みでごまかしてる部分もあったりするしね。

 だから石壁だと思っても、簡単に焼けて崩れたりするよ。

 年代も経ってる感じだし、脆さはなおさらだね」

レイリアの言う通り、通路のところどころ、壁の石が崩れている。

反対側の、東側の壁はまだしっかりしていたが、この西側は本当に破損が厳しい。


事実、外から見た感じでも、上の方はだいぶ崩れていて、木材で支えたり空中に通路を通したりしていた。

ちょうど反対側でも石の通路が崩れてなくなっており、材木を組んで木の板を渡した通路になっている。

右手の石の外壁は残っているのだが、左は壁がなく階下まで吹き抜けている。


「いい? ああいうのが暴れたら衝撃が伝わって、建物のどこが崩れてもおかしくない、って言いたいの。気をつけて」

と、小柄な相方の方を、返した手の親指で指した。

目があったユーミは「あーし?」という感じに疑問符を浮かべながら自分を指さした。話の内容を聞いていないだろうし、また聞いていても理解しているかどうか怪しい。


そして「ああいうの」もといユーミは、ダメだと言っても暴れるだろう。

なぜなら、暴れるのが大好きだからだ。


とは言え((でもそれ、後先考えずに行動するという意味では、貴女にも言えることだよね)♪)

とレイリアに対し、フローレンもアルテミシアも実は思っている…。



「!」

ユーミが気配に反応した。逆側の、つまり南側に至る通路を警戒している。

この娘は獣人族の特性で知覚能力に優れる分、誰よりも先に気づくのだ。


手で、下がって、という合図を送っている。

向こうから、誰か来る、という事だろう。


四人の女の子たちを挟み守るように、来た道を下がっていく。

木の板だけの場所に、アルテミシアが魔法をかける。


 《硬質化》ハーデニング


木の板が鉄の硬度くらいにまで固くなり、歩いても(きし)まなくなった。

ただし、硬化しているだけなので、重さはかわらないし、木なので容赦なく燃える。

村娘たちも渡りやすくなった。お姉さんなウェーヴェルも普通に。問題はちっちゃなアーシャだれど…軋まない事で安心して渡った…だがそれでも一度コケそうになったけれど。



そうやって敵を避けるために、後ろへ下がってきた。入ってきた扉の場所まで、だ。

入れ替わって先頭になったフローレンが入ってきた北西の扉に手をかけた。が…


「!」

扉の向こうから、大きな声がした。それもいくつも。

いるべき場所にいない仲間を探して、大声を出している感じだ。

と、いうことは…?

(きっと…この子達がいない事にも…)


「そうね、…気づかれちゃったみたいね♭」

フローレンの考えを読むように、アルテミシアも同感な意見を述べる。


そこで、どう行動するか、だ。


この扉を突破して戦うか、

それとも宴会しているらしい下の階へ下りるか、

南側からくる敵と向き合う選択もある。


どっち? という感じにアルテミシアが目線をフローレンに向ける。


こういう時いつも、フローレンの決断は実に速い。

そして感がいい。

これまでの冒険でも、大きく判断を誤ることはほとんどなかった。


フローレンは迷わず「下へ」と指で合図を送った。


「じゃあ、この扉は封鎖ね♪」

敵が多数訪れている。なのでこの扉は、開かないほうが良いことになる。


《重量化☆月影》インクリーズ・ウェイト☆ムーンエフェエクト


鍵の無い扉なので、施錠はできない。

なので、アルテミシアは扉に重量を付与した。

西側の石壁の明り取りの隙間から注ぐ月光を、魔法に乗せ、強化する。

扉の材質は木だけど、石くらいの重さになっただろうか。月が照らす限り、この扉は重いままだ。あちらからの引き戸だから、重くなれば開くのは困難だろう。


フローレンは下の階へ続く階段のある通路の前に立った。

この下ではおそらく、賊どもが宴会の真っ最中のはずだ。


「レイリアはそのまま後ろを! わたしとユーミで奇襲をかけるわ! 

 アルテミシアはこの子たちを守って、様子を見ながら下りてきて」


「「了解」♪」」「りょーかーい!」


フローレンの掛け声で、戦闘態勢に入る。

その緊張感は四人の村娘たちにも伝わっている感じだった。




フローレンとユーミは、談笑の声と肉の焼ける匂いが上がってくる、横道の階段を下りる。

階下からは宴会の雰囲気が相変わらず伝わってきている。つまり下の敵からはまだ気づかれていない可能性が高い。どれ程の数がいるのかはわからないが、酔っ払っている今のうちに不意をついて、一気に倒したほうが良いだろう。できるだけ数を減らす事だ。



階段を降りたその場所では、まさに山賊たちによる宴会の真っ最中だった。


フローレンとユーミが訪れたことで、一斉に談笑の声が止み、賊たちの視線が、一気に集まった。


見慣れない男が現れたらさすがに警戒するだろう。

が、その場に現れたのが、二人の可愛い女の子だった、ということで、山賊たちは歓喜した。


「おおお!?」

「きれいなネーチャン、キター!」

「ちっちゃな嬢ちゃん、カワエエな~、ええぞ、ええぞ」

「お! 下着姿のおねえちゃん、ええなぁ、その格好~!」

「ん~たまらん! もっと脱げ~!」

酔った賊共はやんや、やんやと(はや)し立て、大盛りあがりになった。


「はぁ…」

フローレンは、こういう下衆(ゲス)な男どもが大嫌いだ。生理的に受け付けない。

姉ちゃん一緒に飲もうや、とフローレンに寄ってきた大柄な山賊の男。

露出したその肩に手を回そうとした瞬間…

「ぐへ…?」

その太っい背中から剣が生えた。

反射的に花園の剣(シャンゼリーゼ)を抜いて、刺したと言ってもいい。当のフローレンは不機嫌な無の表情のままだ。


賊の大半は酔っ払っていて、思考が死んでいるため、何が起こったか理解できていなかった。

残りの賊は酔い潰れていて、意識が飛んでいるので、そもそも気づいてすらいない。


剣を引き抜く。

呼吸にして二、三くらいの間、そのままの姿で立っていた巨体の賊が、ゆっくりと、しかし派手に後ろに倒れた。


その音を合図に「まってました!」と言わんばかりに、ユーミが山賊どもの中に飛び込んだ。

その右手に鋭い光を返す大斧が現れると同時に、前方に旋風が巻き起こる。


酔っ払っている影響で、賊共の身体の動きが鈍い。その上武器もなく、叫ぶだけでロクに反撃もできない。

そもそも半数くらいは酔い過ぎて頭の動きも鈍そうだ。眼の前で戦いが始まっていても、まだぼけーっとしていたり、半分寝ていたりしている。

戦いというよりは、一方的な殺戮(サツリク)になりそうな雰囲気だった。

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