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花月演義 ~~花月の乱~~  作者: のわ〜るRion
第9章 花と月と天の契り
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97.気高き清明

アップロード間隔遅くなってます、申し訳ない…

ちょっとしばらくはこんな感じが続く、かも…


その青の令嬢は席に付く前に、昨日ダンジョンで獲得した青銀色の鎧に装備換装していた。

露出度はやや低いけれど、上下セパレートなのでビキニアーマーだ。


重厚な板金鎧(プレートアーマー)姿では、席につきにくい…という理由もあるだろうけど、

他の兵士や大衆の前でこの鎧を晒すことを拒否している彼女にとっては…

この着替えによって、ここには内輪の者しかいない、と示しているのだ。


焼き菓子と紅茶をお共に、四人のが窓際にあるテーブルを囲んでいる。

仲の良い四人の冒険者女子が、冒険後に女子雑談をしている気楽なお茶会…そんな風に見えるだろう。

この部屋や家具の高級感を除けば、だけれど…。



エヴェリエの女騎士イヴ、

もとい、エヴェリエ公爵令嬢、麗将軍ファリス…


誰もその名を呼ばずとも、彼女がその人であることは、クレージュもフローレンもアルテミシアも、三人とも気付いているし、当の本人もそれがわかっている。


だけれど、まだ本人がそう名乗ってはいない。

だから今の彼女はまだ、この三人に対しては、昨日一緒に冒険した、女騎士イヴのままなのだ。この青銀の鎧に着替えたのも、昨日の自分のままでいたい…その気持ちも含まれている…。



「私の…、私の、名は…」


それでもやっぱり、名乗らなければいけない。

いつかは、その時が来る。

彼女たちの前で、誰かが自分の名を呼ぶかもしれない…そうなる前に名乗るべきだ…


だけど…

名乗ることで、身分を明かすことで、三人との距離が開いてしまう…

まだそんな事を気にしている…


彼女の人生の中で…ただ、名を名乗るだけの事に、こんなに勇気を要することが、あっただろうか…?


青の令嬢は、そんな気持の中で揺れ動いている…




だけど…

この令嬢が、そうやって勇気を出そうと頑張っているのに…


「あー…無理しなくていいのよ、ファリス! 麗将軍、なんでしょ?」

「名乗っちゃってよ♪ 貴女がエヴェリエの公女だって、もうわかってるから♪」


ふたりに、名前も、身分も、先に言われてしまった…。


で、この空気を読めているのか、いないのか、よくわからない二人に対して…


「あー! もう…! 先に言わないでよ!

 こういうのは、まず私が言ってからでしょ!?

 まったくぅ…」


…と、()ねて顔を赤らめている…。

フローレンもアルテミシアも「「はいはい」♪」という感じにほほ笑み返すだけ…

クレージュだけは口を挟まず、その遣り取りを眺めている…優しい笑みを浮かべたまま…



当のファリスは、照れた感じに目を細め、顔がちょっと赤いままだ…


なんか可愛い。


王国全土にその名を響かせる才色兼備のエヴェリエ公女…麗将軍ファリスが見せる、意外な一面、というところ…

そしてそれを知るのも、ここにいる内輪の女子だけ。二人の侍女もご令嬢の意外な面を見た、って感じの驚きを浮かべた表情を隠せない…。





「では…改めて…

 ええ…その……私が、ファリス、です…」


当のファリスは…居住まいを正して、やっと名乗った。


何と言うか、この不器用な感じ…


まあ、クレージュもフローレンもアルテミシアも、既に気付いている訳だから…

ちょっと場が浮いたような感じになる…


「ああ…遅くなってごめんなさい…名乗ってしまったら、貴女達との間に壁ができちゃう気がして… もうちょっとだけ、一介の騎士イヴのつもりで話せたらって、そんな事を考えてしまって… ああもう…不器用でごめんなさい…」


第2位の貴族位である公爵の、その令嬢であれば…少なくとも第5位か6位の爵位に相当するはずで…そもそも「麗将軍」正しくは雑号の一般将軍という第5位の武官位、に就いている女性である。

第5位といえば、貴族で言えば伯爵…町の領主の格なので…つまり第9位の助爵とでは、身分に差がありすぎる。

フローレンとアルテミシアは、そういった王国の階位序列の事には詳しくはないけれど、ファリスが気にしている貴賤的距離はなんとなく理解できた。


それによって、自分たちとの距離が遠くなるんじゃないか…という、彼女の気持ちも含めて…。


「変わらないわよ、イヴでも、ファリスでも!」

「そうよ♪ 一緒に冒険したのは事実だからね♪」


まあ、そこはちゃんと、否定してあげるところだ。


「ええ…ありがとう…」


当のファリスも、その言葉を待っていた、というところはある。

重い荷が下りたように、その表情も自然とゆるんでゆく…



「でも、可愛かったわよね?♪ あのちょっと赤くなったおカオとか♪」

「これって、わたしたちだけの、ヒミツ?

 それとも…みんなに言いふらしちゃってもいい?」

「ああー! こらぁ! フローレン! 誰かに話したら承知しないわよ!」


打ち解けた…というか…

身分とか関係なく、なんかフツーの女子みたいになってしまっている…


クレージュは、自分より一回り年下の女子三人のじゃれ合うその光景を、微笑んで優しく見守りながら、そっと紅茶のカップを口に含んだ。




女子会がさらに柔らかい雰囲気になった。

エヴェリエ令嬢である事を明かしたけれど、距離が開くどころか、かえって近くなったようだ…


完璧美人将軍だと思っていたら、意外な不器用なところが、妙な可愛げに感じられ親しみも湧くというところだ。

というより、これもファリスの人間の幅の広さ、美徳の一つ…なのかもしれない。



「私のこと…気付いているのはわかっていたけれど…いつから?」


で、麗将軍であるところのファリスが、三人に対して質問を投げかけた。



「そうね…私としては…」


まずクレージュが口を開いた。

さすがにここでは来客だから、重すぎる胸をテーブルに乗せたりはしていない…

軽く腕を組んだ上に乗っけると、顔を傾け、少し考えるような表情で語りだす…


最初にこの町の宿でお持て成しの御馳走を受けた時だ。

兵士の隊長は「領主からの命令」だと言っていた。

だけどそこにはちょっと違和感を感じ、領主ではなく、領主に近い人物…側近の誰かの指示、というように解釈していた。


それが、あの小鬼(ゴブリン)に襲われた山間の村で「女騎士イヴ」に始めて会った時…

自分たち三人を見ただけで名を言い当てた時、「この人物だ…」と気付いた。

その女騎士から麓の村に支援を要請する手紙を受け取った時、それが確信に変わった。


村ひとつ分の備蓄食料を提供させ、その代替を保証できる権限…それは決して小さな物ではない。

役人ではなく武人、それも女性でそこまでの権限を持つ人物など、考えうる限りエヴェリエにはひとりしかいないだろう。




「まあ…わたしは、最初に見た時から…」


フローレンの場合は、直感だ。

自分と同格かそれ以上の実力が見て取れるこの女騎士は、麗将軍ファリスである、と初観で直感した。


フローレンは、冒険者、貴族女性問わず、強い女性に興味がある。

その名を必ず記憶するし、実際に会ってみたいとも思う。

そしてできれば…手合わせをしてみたいものである。


フローレンの知る強い女性冒険者の半数は、今ラクロアの村で一緒にいる仲間たちだ。

あとは、商業都市アングローシャの冒険者の集まる店や宿で知り合った者たちだ。

かつては一緒に冒険したものだけど、彼女たちとは近頃会わなくなって、消息も聞かなくなった…


だがそもそも女冒険者ですら、総合戦闘力でフローレンの上を行く者はそういない。

フローレンが自分より確実に強いと認めた相手はただ一人…鉑の妖精プラティナム・ミネラリアンの剣聖イゾルテ、ただ一人だけだ。


しかし…戦いは単純な強さだけでもない。それもまた事実だ。

十回戦って十回勝てる相手、というのもないだろう。

一度勝利しているレイリアやユーミに再戦して敗れることもありえるし、状況によっては到底敵わない相手を倒すこともあり得る。



この大陸における、女性武人で有名な人物と言えば…


ブロスナムの王女、「戦姫」グェン・グレイス

神聖王国ラナの「聖王女」ファラナ


その両王女の名が挙げられる。

グェン・グレイス王女は、軍神シュリュートに仕える戦巫女の中でも、ルクレチア神軍最強の女戦士との呼び声が高い。

ファラナ王女もまた、ラナ建国以来の姫将軍と称えられる。



このルルメラルアに限れば、女性の武人の存在は珍しいものだ。

そんな中で自分と同格、あるいは…自分より強い女性といえば、当然限られる。

フローレンもこの国の各地を旅して、直接接することはなくても、その数少ない女性の武官や貴族女性を見かける機会はあった。


かつて王都オーシェを訪れた際、王都の警備を担当する紫微兵団フェルエーテリア女将軍の姿を、間近で見る機会があった。

その…王国一の美女と称えられる三十半ば過ぎの女将軍…他の一般庶民の女性兵士たちと同じような食込みの激しいボディスーツ姿はあまりに妖艶で、それでいて優しげな聖母のような、慈愛に満ちた女将軍…


この王国一有名な女将軍でさえ、フローレンの見立てでは、単純な武術勝負ならまず負けることはない、と思えた。もちろん、兵を統率する軍事的能力、為政者としての政治的能力、王国じゅうの民に慕われる人望的魅力など、純粋な戦士としての強さ以外では、フローレンは何一つ彼女に敵わないだろうけれど。


彼女の二人の娘を含め、紫微兵団の他の女性武官たちも、そこそこ腕は立つだろうけれど、フローレンには遠く及ばないであろうと思えた。

つまりルルメラルア王国の貴族女性の武官でも、戦士としてはそんな程度だ。


そしてもうひとり、有名な女将軍がいる…

そう、今、目の前にいる、「麗将軍」ファリス…その人だ。


以前この町に来たときにアルテミシアに教えられた時からずっと、フローレンはその名が気になっていたところである。

このエヴェリエ領の女騎士で、あれほどの実力を見せられれば、まず麗将軍ファリスその人であろう。

…彼女の他にそんな強力な女性がいる可能性など、フローレンは考えもしなかった。そしてその見立てが間違っている事もなかった。

あのダンジョンで一緒に行動し、共に戦うにつれ、その確信は揺るがないものになっていった…。





新たに追加された高級な焼き菓子を一通り食べ終えたアルテミシアは、残った紅茶をゆっくりと飲み干すと、メイドにおかわりをお願いし、ファリスのほうに向き直った。


「私は…貴女の青い剣を見た時に、ぴん!ときたのよね♪」


彼女の持つ、あの青の剣…あれは…


「エヴェリエ公国の至宝、蒼穹の剣オートクレール、そうでしょ?♪」


古き言葉で“気高き清明”という意味をもつその剣は…

旧ヴェルサリア時代にも天下十剣に数えられる名剣。

代々、エヴェリエ家の令嬢がその手にするとされている事を、アルテミシアは知っている。


流石(さすが)…よくご存知ね…」


ファリスは席を立ち、両手で捧げるように、青の剣をその手に現した。


「そう…この剣が、エヴェリエの守護剣、オートクレール」


金属特有の光沢はあるが、晴れ渡る天空のような剣身を持つ剣…

少し傾けた剣が光を返す…それは、蒼天の陽光のように輝いた。


「やっぱり♪

 それが…その剣の、空みたいな青が…天空聖銅(オリハルク)なのね…♪」


アルテミシアは、感動的な瞳でその青の剣を見つめていた…



この世界には…魔法的な希少金属が数多く存在する。


ユーミの持つ斧の金剛鋼(アダマンタイン)も、

レイリアの持つ火色金(ヒイロカネ)のオリジナル、炎を纏う緋緋色金(ヒヒイロカネ)も、

クレージュの剣に含まれる虹色の流星鋼(メティオライト)も、

妖精の銀とも真成銀とも呼ばれる月光銀(ミスラール)も、

他にも、ルクレチア戦巫女たちのビキニ鎧に用いいられる姫紅鉱(エレミア)という紅桃色の金属も、雷を纏う合金の電雷銀(エレクトラム)や、超重量合金の虚重鉛(グラヴィディア)、その輝きが夢に導くという魅夢鉱レヴェ・ファンタージュ…など…この他にも多数の魔法金属がある。


その中でも天空聖銅(オリハルク)は、最も伝説的な部類の物質である。

伝承の中に、その名のみが現れ、その名のみが知れる…

ただの伝説で、そのような物質は存在しない…とまで噂されるほど、伝説的な金属であるのだ。


わりと実践知識の多いアルテミシアでも、天空聖銅(オリハルク)を目にするのは始めてなのだ。

なので…アルテミシアはすごく感激していて…


「見せて!#♪ 見せて!#♪

 これ…触っていい?♪

 …うわぁ…これが、天空聖銅(オリハルク)

 …伝説じゃなくって…実在したんだ…♪

 すごい…♪ 触れるだけで、魔奈(マナ)の流れが伝わってくる感じ…♪」  


…という感じに、ひとり感動を味わっている…

もしここに、何でも感激してやかましい陽キャラの子を連れてきてたら、多分、一緒になって、すごく騒がしかった事だろう…





まあ、要するに…

三人とも、最初にこの女騎士に出会った時点で何かに気付いている。

そして、それは段々と確信に変わっていった…


クレージュは現状からの状況分析で、

フローレンは相手の力量の見立てで、

アルテミシアは古代遺物の知識で、


「麗将軍」ファリスの政治的な大きな権限も、類稀な武人の実力も、伝説級の名剣も、あらゆる面で彼女が身にまとう貫禄は、隠しようがなかった訳だ。





「でも、貴女がイヴって名乗っていたのは…?」

伝説の剣と金属に夢中になっている魔女っ子を他所に、クレージュがそれを尋ねた。


「イヴっていうのは、私の、三つあるミドルネームの一つなの。公式の場以外では、だいたいミドルネームの一つめのマリアか、三つめのイヴを名乗る事にしているのよ」


「名前、みっつもあるの…?」

フローレンが驚きを顕わにした。


正確にはミドルが三つ、ファーストの「ファリス」を含めると四つ、なのだけど、フローレンはそういう知識に疎いので、こういう聞き方になったのだろう…

名前なんて「フローレン」だけで充分。名字すら持っていない。


助爵の地位を得た時に、名乗る機会を貰ったけど、面倒だし興味もないから名付けてない。

家の名前(ファミリーネーム)も無いし、出身地を名乗るにも出自が曖昧…なので、せめて父の名前「マキアス」の子である事や、母の名前「ソニア」でも重ねて、名字らしくして名乗ってもいいのだけど…

まあ、もともとそういう事を気にしない。「フローレン」で充分なのだ。



「ええとね…ミドルネームもそうだけど…正式名は…すごく長いのよ…」


ファリスが言うには…

正式な場では、それら三つもあるミドルネームに、その前に来るファーストネームの「ファリス」最後に来るファミリーネームの「エヴェリエ」の家名、その間には…母型の姓やそれに連なる姓などをいくつも名乗る、という…

さらにそこに、ご先祖様の名前だとか、神官としての名だとか、守護する精霊の名だとかまで、重ねて名乗らねければならない…


ファリスの正式名は、途中で息を継がなければ、一息では名乗りきる事もできない程、長ったらしい名前…という事だ。


「あ、うん…なんか、すごいね…」


単なる「フローレン」でいいフローレンは、ファリスの名前の大げささにちょっと呆れつつ…


「でも…あなたの名前が多い、って事は…

 それだけあなたを縛るものも多い…って事…なんでしょ…?」


フローレンは…ファリスがそれだけ多くの物を背負っている事だけは、直感で理解した。


その言葉に、ちょっとだけ、重たい空気が流れた…

せっかく打ち解けた雰囲気を、少し「現実」に戻してしまったような…


「そうね…」

ファリスは、上品な動作でに口に含んだ紅茶のカップを置くと、ゆっくりと立ち上がる。

自然な動作で、アルテミシアの手から蒼穹の剣を受け取ると、そのまま窓の方に歩み寄った。


「確かに、貴女の言う通り…

 私は…数多(あまた)の制約の中で生きている…」


青の剣を手に下げたままに…ファリスの瞳は、遠く、エヴェリエの城下町を見つめていた。

その横顔はあまりに凛々(りり)しく、そして美しく…彼女が有数の名家の令嬢である事を思い出させる…


「従い、守り、そして…戦う…

 それが…私の生き方だから…」


そしてその剣を両手持ちに胸の前に掲げ、そっと瞳を閉じた。

まるで祈るような…あるいは何かを誓うかのような姿…

他のために尽くす高潔な生き様が、その横顔に映る…

また先程とは違う、気高い麗しさを感じずにはいられない…


家名に縛られ、立場に縛られ、そしていずれは嫁ぎ先に…そこでも一生、縛られた生活を送る…それを宿命付けられた人生なのだ…


そして、この高潔な青の令嬢は…


それらすべてを受け入れて、生きている…

この先も、すべて受け入れて、生きていく…



フローレンは、そんなファリスの姿がら、目が離せなかった。


自分とは、あまりに対象的な生き方…

自分には、とても真似はできない…


ファリスのあまりに高潔なその姿は…自由気ままに生きるフローレンの心にも、深く刺さるものを残していく…。



「それでもね、フローレン」

ファリスは向き直り、その瞳をじっと見つめ返した。


「私は…いえ、私達は…そんな中でも、自分で人生を切り開いていくのよ」


自らの守るべき者たちのために剣を取り、迫る脅威に対し、戦いを挑み、勝利する。


ファリスも、あの村を救うため、自ら剣を取った。

歴代、エヴェリエの女子たちは、そうやって自らの運命を切り開いてきたのだ。


エヴェリエは、水と風と光を崇める聖地に、ヴェルサリア圏で崇められる十二神の一柱である、神王ロエルを祀る聖廟が融合した地である。

神王ロエルは天権と必然の神とされ、貴族や人の上に立つ者たちに崇拝される。


運命は自らの手で切り開くもの。


それがロエル神を信望する者たちの揺るがぬ信念である。

たとえ制約に縛られた人生であろうと、戦い、切り開いて行かねばならないのだ。



(…わたしにはゼッタイ無理な生き方…)


フローレンは、ただ自由に生きたい。

何にも縛られず、好きに冒険し、好きな仲間たちと一緒にいたい。


でも…

こんな立派な友人のために、何か力になってあげたい。

フローレンはそう思い始めている自分に気がついた。



「またこっそり、冒険に連れ出してあげたらいいのよ♪」


アルテミシアが、フローレンのほうに身を寄せて、小声でそう言った。

彼女もまた、フローレンと同じ気持ちを抱いているのだろう。

ファリスのために、何かしてあげた、と。


昨日のあの冒険は…

そんな彼女にとって、その束縛から開放された、そんな僅かな自由な時間だったのかもしれない…


「そうよね! ダンジョン、また行きましょうよ!」


まあ、あのようなダンジョンは、そう簡単には出てくるような物でもないのだけれど…


(そうよ…ファリスの生き方にだって、自由がないわけじゃあない)

自分が、自分たちがしてあげられる事も、必ずある。必ず…





「さて…フローレン…

 じゃあ、ちょっとだけ、私の我儘(ワガママ)に付き合ってもらえるかしら?」


二人の会話は聞こえていたのか、いなかったのか…

それはわからないけれど、そんな空気だけは察したのだろう…


ファリスは蒼穹の剣(オートクレール)を手に下げたまま、フローレンのほうに歩み寄った。


「え…?」


ファリスは、窓の外を示した。

そこには、お庭かと思えるくらい、広々としたバルコニーが広がっている。


「私と…手合わせを…お願いするわ」


彼女の手の中で、蒼穹の剣は、また陽光のような輝きを照らした。


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