第五場(林道)
登場人物
魔左衛門
新之助
権三(20) 男 新之助の子分
佐助(26) 男 新之助の子分
庄兵衛(23) 男 新之助の子分
◯林道
左右を雑木林に挟まれた林道。
魔左衛門、林道を歩いている。
新之助、権三、佐助、庄兵衛が魔左衛門をつけている。
新之助、駆け足で魔左衛門を追い抜き、振り向き様に抜刀する。
新之助「お客さん。今日はツキがなかったと諦めな」
魔左衛門「さっきの鉄火場のおやじか。なんの用だ」
新之助「お客さん、勝ちすぎなんだよ。勝ちすぎのお客さんは死んでもらい、儲けた金もこちらがいただく。負けたお客さんにはなにもしない。お客さんが勝っても負けても店は儲かる仕組みにしてあるんでね」
魔左衛門「ひでえ話じゃねえか」
庄兵衛、奇声を発して魔左衛門に斬りかかる。
魔左衛門、わずかに体をかわし、居合抜きのように抜刀とともに庄兵衛の腹を横一文字に薙ぐ。
庄兵衛、血を吹き出しながら、雑木林の中に倒れる。
魔左衛門、新之助を睨みつけながら刀を八相に構える。
新之助「気をつけろ。おれは剣の構えをみただけでそいつの実力がわかる。こいつはかなりの手練だ。
お前らが差しで戦って斬れる相手じゃねえ。全員でいっせいに斬りつけろ」
佐助の剣が魔左衛門の剣と切り結ぶ。
ほぼ同時に新之助の一撃が魔左衛門の左手首を切り落とす。
青緑色の血が噴き出し、魔左衛門の左手首が地面に落ちる。
切り落とされた手首の傷口から、ジュゥゥゥゥーと音をたてて白煙がたちこめる。
魔左衛門、右手一本で握った刀で佐助ともう一合切り結ぶと、よろけるように後ずさる。
権三「死ねっ」
権三の槍が留めとばかり魔左衛門の胸を突く。
魔左衛門は胸から青緑色の血を吹き出しながら権三を睨みつけ、無言のまま佇んでいたが、佐助が一太刀浴びせると、おもむろに仰向けに倒れる。
新之助「手間かけやがって。こんな強いやつは久しぶりだぜ」
佐助「親分。早いとこ、小判を取り戻しちまいましょうや」
新之助「まかせたぞ」
佐助、魔左衛門の死体に近づくと、しゃがみ込んで魔左衛門の懐に手を入れる。
左手の傷口からはなおも音をたてて白煙が上がる。
佐助「親分、見つけましたぜ」
佐助、得意そうに小判を新之助に見せる。
すると魔左衛門の左手の傷口から肉が盛り上がり、たちまち五本の指を持つ手の形に変形していく。
手が生えてきたのだ。
新之助「佐助、気をつけろ」
魔左衛門、突然起き上がり、生えたばかりの左手で佐助の喉元を掴む。
小判が地面に落ちる。
魔左衛門、左手一本で佐助の体を持ち上げる。
体が宙に浮いた佐助、手足をばたばたさせる。
権三「佐助!逃げろ!」
魔左衛門が右手の刀で左衛門の腹を突くと、佐助は動かなくなる。
魔左衛門、佐助の死体を軽々と権三に投げつける。
権三、投げつけられた死体の重さに耐えきれず転倒する。
新之助、「化け物だ」と叫び、腰を抜かして動けない。
魔左衛門、小判を拾い、懐にしまう。
魔左衛門の胸の傷口をクローズアップ。
CGで傷口が急速に癒える描写。
魔左衛門、何事もなかったように元の道を歩き続ける。
(つづく)