オーク達は異世界人からの偏見に迷惑しています。
行間色々入れてますが別に誰が喋っているとかあんまり重要ではない内容だったりします。
とある集落。
その中央にある巨大な建物に緑色の強靭な肉体を持つ戦士たちが集結していた。
彼らはオークという種族だ。
部屋の最奥に鎮座するのは白いひげを蓄えたオークの老王ミラツ。
「族長たちよ、よくぞ集まってくれた。ジネよ、頼む」
「はい!」
王の息子ジネが進行役を務める。
タキシード風の衣装に身を包んだ礼儀正しい所作をするインテリオークである。
「族長の皆様に集まっていただいたのは最近我らの集落に武器を持った人間の冒険者達が攻め込んで来た件についてです」
皆に緊張が走る。
先日、とある冒険者のパーティーがオークの集落に現れ突然攻撃を仕掛けて来た。
結果、4名のオークが命を落とすという惨事があったのだ。
現在、冒険者ギルドに抗議をしている最中である。
「我らが人間に攻撃される謂れ等ないはずだ。彼らは何かしら精神的な病を抱えていたのか?」
族長のひとり、ウルテが疑問を口にした。
「それについてですが……現在拘束中の冒険者たちが持っていた荷物を調べた所、こんなものがありました。ご覧ください」
ジネが何冊かの本を族長たちに回す。
表には煽情的な女性の絵が描かれている。
ただ、そこに書かれている文字は見たことないものだった。
「ま、待ちたまえ。これはいわゆるムフフな本では無いのか?」
若き族長トンビが慌てふためく。
「その通りです。ですが皆さま、内容をご覧ください」
族長たちは本の中身を見て思わず唸った。
そこにはオークと人間の女性のセンシティブな営みが描かれているではないか。
しかもかなりハードな内容であることが絵からも見て取れる。
「な、何と卑猥な!これは有害図書にあたるのではないか?」
「子どもには見せられないですな」
ため息が出る。
せいぜいセミヌードが描かれているだとかそういうレベルだと思っていたらそんな事は全然なかった。
「というかこの本に描かれているオーク、何だか女性をモノみたいに扱っていないか?」
族長たちの間に動揺が走る。
「見ての通り。書いてある文字についてはわかりませんがどうもこれらの本の中でオークは人間の女性を襲い、その……無理やりみだらな事に及んでいる風に書かれているのです」
族長たちから小さな悲鳴が漏れた。
「まさかそんな……」
トンビが頭を抱える。
「拘束した冒険者たちを尋問したところ、オークは人里を襲い女性を連れ去る邪悪な存在だから退治しに来たのだと証言しています」
「人里を襲うだと!?」
ウルテが怪訝な顔をする。
「それはどう考えても……犯罪だろう?ダメだよ。それはちょっと……世間は許してくれませんよ!」
他の族長もうなずく。
「オークにはメスが居ないので他種族に子を産ませ繁殖するために女性を浚う、と言っておりました」
「そんなバカな!」
族長ビルカが怒りを顕わにして叫ぶ。
「確かに我らオークにメスは居ない。だから他種族の女性を妻に迎え子を産んでもらう。それは確かにそうだ。だがその為にするのは女性を浚うことでは無く婚活だ。そして我らは妻として迎えた女性を生涯大切にする種族だぞ?モノ扱いなどしない」
そうだそうだ、と皆が叫ぶ。
そんなビルカの妻はとある王国の元騎士で大恋愛の末結婚した。
『くっ……好きだ!』が口癖のツンデレ系騎士なのだ。
そして彼はオークの中でも愛妻家で有名なのだ。
「そもそもこの本ではオークを粗暴な種族のように描いているがこれも失礼じゃないのか?確かに我らは恵まれた体躯を持っているが決して粗暴ではない。まずこのオークたちは服を着ていないでは無いか」
「だけど、そういった行為に臨むときはやはり服は着ていないものでは無いのか?」
「トンビよ。そうは言うがお前は森の中でも裸で歩くのか?」
「バカを言え。そんな事をすれば虫に刺されるでは無いか。それに公共の場で裸になるなど変態のすることだ」
オークたちは口々に我らはこんな種族ではないと言い合っている。
「待て、そもそもこの本ではオークの食事シーンがあるがおかしくないか?」
「本当だ。このオーク共、肉ばかり食べているぞ!?」
「サラダが無い!野菜も食べなければ身体に悪いでは無いか。オークキャロットはどうした?ラプラムのスープはどうした?これでは長生きできないぞ」
更にトンビがある事に気づく。
「ちょっと待て。今気づいたがこのオーク……ちょっとあれが大き過ぎやしないか?」
確かにそうなのだ。
描かれているオークの備えている伝家の宝刀があまりにも巨大に描かれている。
「本当だ。これはあまりにも誇張されすぎている。これでは我々オークに対してあらぬ誤解を招いても仕方ない」
「ああ、気分が悪くなってきた。これは我らオークに対するヘイト犯罪ですよ。王よ!こんな狼藉、それはちょっと世間は許してくれませんよ」
皆が王の方を見ると王は物差しで自身の宝刀を測り一人落ち込んでいた。
皆が沈黙する。
「どうも近年、異世界から転生して来る人間が増えているそうです。彼らの中にどうやらこういった間違ったオーク観があるようです。この書物も異世界人が描いたものらしいのです」
何という事だ、と皆が宙を仰ぐ。
「これらは根も葉もないうわさです。しかしこの様な見方をする者たちが増えてる中、我らは一層紳士的なオーク道を歩みそれを後進達に伝えていかねばなりません。それでは王よ、何かお言葉を」
ジネに話を振られ王は唸る。
そして……
「何かワシ、自信無くした……」