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童話系

燃え尽きたくない

作者: 北田 龍一

 空の上で漂う、流れ星たちの卵。今日も彼らは遥か宇宙で、地球の周りをまわっています。彼らはキラキラとした青い海の星、地球にいつ頃飛び降りるか考えていました。


「地球は綺麗だなぁ……あの星の地面に触れてみたい」

「そうだね! 森はどんな匂いがするのだろう」

「それより海に降りてみたいな。宇宙は全く水がない」

「いやいや、地面から生えてる灰色の何かにぶつかってみよう。中になんか変な生き物がいる。あいつらをびっくりさせてやるんだ」


 流れ星の卵たちは、宇宙から地球を見下ろして……いつ頃、どこに飛び降りるかを考えています。そして勇気と覚悟を決めた流れ星の卵たちが、地球に向かって飛び込むのです。

 しかし、地球に向かって降りていくのは大変です。宇宙から地球へ落ちていく時、分厚い空気の壁に触れて、全身を焼かれていくのです。それはとても苦しく、痛みを伴う行為でした。

 そして地面にたどり着くまでの間に、ほとんどの流れ星は消えてしまいます。沢山の苦しみと痛みを引き換えに、ほんの一瞬だけひらめいて消えていくのです。

 たくさんの流れ星になって消えていく者たちを見て、一つの流れ星の卵が呟きます。


「全く、なんであんな事をしているんだ? 望み通り輝けるとは限らないのに。それに苦しい時間の方がずっと長いじゃないか。誰かに見てもらえるとも限らないじゃないか。ほんの少しの憧れのために、あんな熱い目に遭ってまで地球に降りたくない。おれは流れ星なんてならないぞ!」


 そうして一つの流れ星の卵は、周りの卵たちが地球に向かって落ちていくのを見つめます。流れ星になっていく星屑たちは、色んな事を言いながら落ちていきました。


「ぼくは、砂漠の真ん中に落ちて見せるぞ!」


 そういって落ちて行った星屑は、砂漠に落ちる途中で、分厚い雷雲に突っ込んでしまいました。彼は望みを果たせず、砂漠に落ちることなく燃え尽きていきます。


「よぉし、人間の町の真ん中に落ちて、注目を集めてやるぜ」

 そういって落ちて行った星屑は、時間が昼間だったせいで、誰にも見つけてもらえずに消えて行ってしまいました。


「おいらは森の中に落ちて、静かにしたいなぁ……」


 その星屑は、確かに森の中に落ちる事が出来ました。けれど熱く燃えていた流れ星は隕石となり、森に落ちた途端に炎が上がります。森の中でゆっくり過ごしたかった流れ星は、自分が下りたせいで森を山火事で燃やし尽くしてしまいました。

 他にも、色んなところを目指して、色んな望みを持って流れ星の卵たちが地球の目指し、赤く燃えながら落ちて行きます。

けれど、望み通りの場所に降りる事も難しく……仮に望み通りに降りれたとしても、すべての望みが叶う子はとても少ない。

 そもそも、途中で燃え尽きて消えてしまう星屑の方が、圧倒的に多いのです。

 苦しみながら燃え尽きて、こんなはずじゃなかったと泣いて消えていく。その星屑たちを見て、流れ星になる事をやめた卵たちは言いました。


「ほらみろ、言った通りじゃないか。何か望みを持って頑張るのは、とても痛くて苦しい事じゃないか。それにどんなに苦しんでも、悲しんでも、ちっとも良い事なんてなかったじゃないか。だったらじっと、流れ星になっていく奴を見ているのが賢いじゃないか。馬鹿な奴らだ」


 そうして、燃え尽きて苦しんで、消えていく星屑を馬鹿にします。けれど不思議と、彼らはその星たちから目を離さないのです。

 ――その日、一つの大きな星の卵が地球に向かって落ちて行くと決めました。


「おれは、ロシアの昼間に降りて――そこにいる奴ら全員をびっくりさせてやるぞ!」


 とんでもない事を言う流れ星です。これには流れ星になる事をやめた卵も、これから落ちて行く流れ星たちもびっくりしました。


「昼間に落ちたって、誰も見やしないよ。夜中に落ちたって、誰かに見てもらえるかは一瞬なのに――明るい昼間に落ちたら、絶対に誰にも見つけてもらえないじゃないか。馬鹿だなぁ」

「そこまでは言わないけど……ちょっと無謀じゃないかな?」


 その流れ星の卵は、胸を張って言い返します。


「おれはやりたいからやるんだ! やってみなければ分からん!」


 そして、その流れ星は――ロシアの昼間を目指し、本当に降りる事に成功します。その流れ星は巨大な火球となり、強烈な光と衝撃破をもたらしました。この流れ星は燃え尽きてしまいましたが、消えたその時まで、どこか満足げに消えていきました。

 残った流れ星の卵は悔しそうに、けれどこう言いました。


「けっ、アイツはたまたま上手くいったんだ。ものすごく運がよかったんだ。見ろ、ほとんどの流れ星は、望みを叶えられず消えていくじゃないか。全く割に合わないぞ。絶対に流れ星になんかなるもんか」


 ですが、その口ぶりはとても悔しそうです。その後も、燃え尽きていく流れ星を眺めるのですが、いつの間にかいつまでも降りない流れ星の卵は、誰にも相手をされなくなっていました。

 ――みんな、自分がよりよく輝くために、せめて後悔なく燃え尽きるために必死なので、誰かの悪口ばかり言う人の話を、聞くことをやめてしまったのです。

 いつまでも輝けず、暗闇の中で漂う流れ星の卵は……いつまでも卵のまま旅立てません。周りが苦しみながら、一瞬の光を発して消えていくのを、眺める事しかしないのです。


「お、俺も流れ星に……いや、でもあんな苦しいのは、痛いのは嫌だ。けれどこのままじゃ誰にも見てもらえない……」


 流れ星になれなければ、暗く冷たい宇宙の中で、一人さまようことになります。けれど流れ星になるのは、痛くて苦しくて、しかも望み通りにいくとは限りません。

 けれど、何もしなければ……燃え尽きていく一瞬の光さえ、発することなく消えてしまいます。周りの流れ星たちが、光を放って消えていくのを見つめながら……



 ――君は、流れ星になれるだろうか?

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― 新着の感想 ―
[一言] 「冬童話2022」の企画より読みにきました。 流れ星の卵という言葉が良いと思いました。 それぞれの流れ星の卵達の運命が、哀しくも切なく書かれていると思いました。 最後の一文、とても好きです…
[一言] ロシアに落ちた隕石の話を思い出しました。 燃え尽きる際の一瞬の輝き。 大切に眺めたいですね。
2021/12/16 13:14 退会済み
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