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水平線上ノ煌星  作者: 猫屋敷 凪音
極夜祭編
48/48

空と大地とボックスと

チーーーーン


行きと同じく、エレベーターは高い音を出して扉を開けた。

上で注射を受けた人間も、下に着く頃には正気に戻っていたので、居心地の悪い場所から我先に出ようと出口へ殺到する。

人に押されるように外に出た華衣凪かいなは、新鮮な空気を吸って生き返ったような気分になった。

人の流れに沿って、移動をする。

同じ様に何本かあるエレベーターからも、続々と人が溢れてきた。

人を吐き出し終わったエレベーターは、今度は上へ行く人を数人乗せて、柱の中を登っていく。

光の国に遮られ、空が小さい国。

「感傷に浸っている暇は無いわ」

人混みに揉まれながら、【普通便】1人乗り用のフライング・ボックス乗り場へ行く。

エレベーターには大荷物を持った客が出入りをするので、色んなタイプのボックスが客待ちで並んでいた。

「女性人気No.1!お子様も合わせて乗れるクッション付きのボックス!」

「大荷物を乗せても余裕がある大型ボックス!※飲食も可」

「ドライバー歴15年のベテランによる快適飛行」

「最安!新人ですが、発着場周辺の地理に詳しいです」

「長距離移動大歓迎!軽快なトークと共に目的地へ」

「高高度飛行可能!ボックスとボードが一体となったアクティビティな飛行!」

それぞれのボックスに書かれた商売文句を読みながら、とにかく安そうなボックスを探した。

エレベーター前はボックスの需要が高いだけに、値段も強気だ。

その中でも端っこに追いやられ、塗装の剥げたボックスの前で足を止めた。

フライングボードの上に薄い板で四角く作った白いボックス。

扉の部分は冗談みたいに小さい蝶番が3つ付いていて、ネジが緩いのか触るとプカプカしていた。

犬小屋の方がマシね。

極め付けは、ドライバーのフライングボードとボックスの接合部が縄で出来ている。

空を飛んでいる間に縄が千切れれば、ボックスは空中に取り残されるか、反動力が足りなければ地面に墜落する。

これ、運が悪いと死ぬわね。

先程から、居心地が悪そうにキョロキョロしているドライバーと目が合う。

サッと目を逸らされた。

「お、ぉ、ぉお、お……おきゃきゅさまぁ?」

泣きそうな目をしながら、サイズの合わないくたびれたシャツで手汗を拭いている。

とても客商売をするような格好ではなく、オドオドとした少年だ。

家業ならともかく、まだ働く年には見えない。

裏切るつもりは無いとはいえ、なるべく光の国の奴等に見張られていたくはない。

こんな子が私の見張りな訳ないし、もしそうだとしても負ける気はしない。

「8番街までいくら?」

「はち、は、はち、はち?はち?はち……。はち??」

そんな助けを求めるような目で見られても困るわよ。

仕方がないので、少年を落ち着かせる為に私は少年の手を自分の胸の上に置いた。

「ほら。男の子なんだから、おっぱい好きでしょ?」

自分の胸のたぶん1番盛り上がってる所に少年の手を押し付ける。

まだ小さい坊やだから、特別サービスしてあげるの。

この子がもし敵だとしても、私の色仕掛けでメロメロなんだから!

「は、はは……面白い冗談ですね」

少年の手は私の肋骨をパタパタ叩いて、そぅっと離れていった。

冗談を言ったつもりは無かったけれど、お子ちゃまには刺激が強過ぎたようだわ。

「8番街までで合ってますよね?」

「そうよ」

壊れかけのボックスに荷物を置いて、椅子がないので立った。

扉を閉める鍵がないので、扉から飛び出す薄汚れた紐で開かないようにする。

「じ、実はお客様が初めてのお客様なんですよ」

「でしょうね」

少年は頼りない笑みを浮かべて、フライング・ボードを地面に叩きつけた。

浮いたフライングボードを何回も蹴って、反動力を溜める。

「はぁっはぁっ……」

「手伝いましょうか?」

「いえ!仕事なので!」

少年は両目を隠すほど長かった前髪を結んで、汗を垂らしながら発射準備を終えた。

少年の乗るフライング・ボードが浮かぶと、連動してボックスも浮く。

雛鳥のように恐る恐る飛び立ったフライングボックスは、ボックスが飛ぶべき高度まで浮かび上がった。

エレベーター前ではたくさんのフライング・ボックスが離陸していくので、すぐに進んで距離をとる。

最初は不安だったけど、なかなか上手じゃないの。

「8番街……でしたよね?」

緑に光るゴーグルをした少年が振り返る。

「そうよ。細かい行き先は着いてから教えるわ」

「かしこまりました。前方、後方、良し。左右、安全確認良し。出発進行」

少年は四方指差し確認をして、体を前に傾けた。

すでに発車してるんだけど……安全確認は大事よね。

少年は運転に集中しているのか、無言で体をくねくねさせていた。

運転手の姿勢が安定しないおかげで、私の乗ったボックスはフラフラ揺れる。

お互いの命の為にも、静かにしていましょう。

「はぁ……」

いたのに間にか、膝の上で握っていた手をパーにした。

よほど力が入っていたのか、手は痺れてスカートはしわくちゃになっている。

別に不安で押しつぶされそうな訳じゃないんだけれど、誰かと話していないと手が震えて息が苦しい。

誰の所為とは言わないが、吐きそうだった。







___________


私が影の国へ帰ってきたのには、理由がある。

それは天雲あまくもを返してもらう為、黒金ちゃんを光の国の王城へ連れて行かなくてはならないのだ。

白夜ちゃんを家族に会わせてあげると言えば、着いて来てくれるはず。

この機会を利用して、スマパラのみんなで、光の国に旅行に行くのも悪くないかもしれない。

そのついでに、王城にいる琥珀(お兄)さんに会ってもらえれば全てが上手くいくの。

そりゃあ、黒金ちゃんは王族だから普通の兄弟が仲直りするよりもハードルが高いと思うけど、家族だもの。

キチンとお話しすれば、分かり合えるはずよ。

そうは思うものの、華衣凪かいなの胸には鉛が詰まったような気持ち悪さがあった。

天雲あまくもを人質にとって、無理矢理言うことを聞かせるような人達を信じて良いのかしら。

不安が、ずくんずくんと胸を重くさせる。

「大丈夫。いざとなれば、私が全部消す……」

「お客様、着きましたよ!」

少年の声に目をあげると、ピカッと閃光が走った。

「わっ?!」

驚き目を覆っている間に、轟音と共に熱が押し寄せる。

運転手がボードの上でバランスを崩した事で、ボックスは10m垂直落下をして、V字に飛び上がった。

「すみません!」

少年がずり下がってしまったゴーグルを慌てて付け直す。

「そんな事より、状況把握よ!」

爆発したのは一体、どこ!?

ボックスの窓に掴まりながら、火の元を探す。

どうか自分の家ではありませんようにと思いながら、火柱と黒い煙を上げる建物を見付けた。

青や赤の花火を打ち上げながら、スマパラのアジトが崩れていく。

「おぅ……」

私は膝をガッカリと床に付けた。

「わー、色とりどりのビームが出ていますよ。あ、炎の色もカラフルです!煙もよく見るとウサギの形をしています!」

まさか私の家が燃えてるとは知らない少年は、呑気に火事の実況をしてくれる。

「何かのイベントでしょうか?可愛いですね!何か大きな事故があったのかと思って、一瞬ビックリしちゃいました」

大事な家をカラフルに爆発させる狂ったイベントを考える人間なんていないわよ……。

天雲あまくもとは別の問題で、吐きそうになってきた。

みんな、どうか無事でいて!!

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