敗戦処理
会議室には元からいるメンバー分の椅子しか無かったので、怪我人や病人以外は立つ事になった。
「レナさん……?」
私は怪我人でも病人でもないレナさんが躊躇なく椅子に座るのを見て、ある意味感心した。
「立つ気分じゃない」
レナさんが立つ気分じゃないのは自由として、私を巻き込まないで欲しい。
レナさんの膝に座った状態でシートベルトをされてる私は、周りの視線を感じながら苦笑いをした。
新人で罪人の私が座って良いのだろうか。
「ノゾミさんは怪我をしているので無理をしないでください」
優しいお爺ちゃんの言葉に、他の皆さんが頷いてくれる。私は抱っこされた状態のままお辞儀をした。
「ありがとうございます」
で、良いんだっけ?就業経験が無いから分からない。
この優しいお爺ちゃんは、『毒虎一家』の元 首領で鉄虎さんというらしい。
私を死刑にしない為の都合で、毒虎一家の元首領 鉄虎さんと、スマパラの現ボスの妹 ヒナちゃんが結婚する事になった。
やはり、自分の陣地に侵入し窃盗を犯した人間をただで生かしてしまうと他からナメられて同じ事をされてしまう。
そうならないように、外から見えるキッチリした罰が必要なんだそうだ。
70代と10代の結婚で、両方に申し訳ない気持ちでいっぱいになって謝った。
けれど、2人とも元々知り合いで初恋同士だったので
「むしろ、チャンスをくれてありがとう」
と言われてしまった。
どゆこと?
ヒナちゃんは良いとして、鉄虎さん初恋遅くね?
と思ったけれど、2人のお互いを見る目が本当に優しかったので、全部が嘘ではないと感じて、気持ちが軽くなった。
そして、再犯防止の一環で私には莫大な借金が課せられた。
その額【3,000,000,000J】。
これは何があっても、私の手で返済しないといけない条件だ。
そうでなくても、これ以上スマパラのみんなに迷惑をかけたくない。この方が色々と好都合だ。
月末のカゲ退治と雑用、私の能力が見える能力(プレイヤー特権)が役に立てば、その分給料が支払われるらしい。
知らない世界の30億と言われても、いまいちピンと来ないが、やるっきゃない!
ここがゲーム世界で、これがゲームマネーなら、すぐに返済出来るはず。
ただ黒金さんの話しかしない白夜さんが珍しく
「命の値段だと思って頑張りな」
と言って励ましてくれたので、相当な額なのだろう。
不安だ……!
ここまでで話した
・ヒナちゃんと鉄虎さんの結婚
・私の30億Jの借金
が、私の死刑を回避する為の代償。
次に話すのが、スマイリー向日葵パラダイスが毒虎一家とのゲームで負けた分の代償だ。
・スマイリー向日葵パラダイスのメンバー(3048年12月3日時点)は、毒虎一家の傘下に加わる
・今回の戦いで損なわれた物品の弁償を行う
・スマイリー向日葵パラダイスは、毎月末のカゲの退治で得られる純利益の1割を納めなくてはならない
・7番街の住人は7番街のルールが、8番街でも適応される
・7番街の住人が犯罪を起こした場合、8番街で裁くことは出来ない
…………etc
本当に申し訳ない。稼ぎ頭になって返します。
今じゃゲームとか出来ないから、異世界産のスマホとか競売にかけたら良い値段にならないかな。
自分の借金もあるし……まず、能力を見る能力って何の役に立つんだろう??
「あはは!ノミちゃん、悩んでるね〜」
「初めに想定していた条件よりは良いから気にしないっすよ!」
ベチベチッ
ヒナちゃん、ボムちゃん、ハチちゃんが、私の背中をさすってくれた。
みんながずっと気を遣ってくれているので、私には落ち込む暇なんて無い。
「私は大丈夫です!」
問題は、白夜さんだ。
極度のストレスと呼吸器のダメージで、ダウンしてしまっている。
回復効果があるらしいハチちゃんの首輪を着けているが、効果は見えない。
このまま黒金さん不足が続けば、冗談抜きに死んでしまう。
私はレナさんにあるものを用意してもらえるように頼むと
「保管庫にある。待ってて」
と、快く頷いてもらえた。
もう夜も遅いので、1番重症だったハチちゃんは医務室へ。
ハチちゃんの看病に、ボムちゃんとアチョーさん、何故か敵側の狂犬さんがくっついて行った。
ヒナちゃんとミラさんは、毒虎一家の参謀 ロキさん、元首領の鉄虎さんとお孫さんで話し合いを継続。
残りの面々は、自分の武器の手入れや戦場になった階段の始末に向かった。
階段へ向かった面子と入れ替わりに、レナさんとアッサムが入室する。
「急いで持って来た。中身はたぶん、無事」
「ありがとうございます」
狂犬さんが私から、毒虎一家から持ち出したものを取り返すと同時に私物まで持って行ってしまったので、戻ってきてくれてありがたい。
鞄の中には、私の物だけでなく私が盗んでしまったものまできちんと入っていた。
食料品、裁縫道具、銃、靴擦れを起こすハイヒール。
ここに来てまだ1週間程なのに、あの日の出来事たちが遠い過去のように思える。
鉄虎さん達は忙しそうだったので、まずは持ち主のレナさんに謝る。
「勝手に持って行ってすみませんでした」
あの日、毒虎一家から持ち出した銃には、クマさんのマークが付いていた。
私から銃を受け取ったレナさんは、素早く分解すると
「撃った?」
と言った。
撃った覚えはないが、撃ったかもしれない場面に心当たりがある。
なので、それを説明した。
護身用に銃を持ち出したこと。
自分を殺そうとした長谷川さんと和解をしたこと。
突然現れたタイプど真ん中の美少年が長谷川さんを殺したこと。
その時に、銃を撃った可能性がある事。
「…………よく分からないから、時間がある時に話して」
銃の事は、仲間だから許すと言われた。
あとは狂犬さんと日記の持ち主さんに謝ろう。
それは、今日は無理そうなので別の心残りを消化する。
鞄からスケッチブックを取り出して、鉛筆を走らせた。
絵を描きはじめた私を見て、レナさんが興味深げに背中にくっつく。
シャッシャッシャッ
サカサカサカ……
シュッシュッシュッシュッシュッ……
シャパシャパシャパ……
ザラザラザラ……
カリカリカリカリ……
シャシャシャシャシャッ
「ふぅー、ふぅー、」
「右肩、大丈夫?」
黒金さんはとにかく美形で、歩く(?)石油王だ。
彫りは深く、顔のバランスは神。
髪はサラサラで、まつ毛はバッサバッサに描いていい。
美形だもの。
「集中してるのか……」
画面に顔を近づけて、目に細かい描き込みを入れる。
透明感のある絵が好きだ。
興奮で息を荒くしながら、下まつ毛を描く。
はぁ〜、美しい!美しい!いいよいいよ!良い絵描けてるよ!
褐色の肌はなめらかに。
陰影を出しつつも、テカリ過ぎず美しい肌を。
全体のバランスを薄目で見ると、髪の色が負けている。
「はぁはぁ……」
良い絵になる。これは絶対に良い絵になる。
とんでもなくニヤけながら、黒金さんの髪の毛に陰影をつける。
お絵描き、たんのしぃーーー!!
カリカリカリカリ……
トントントントントンッ
シューーー、シャッシャッシャッ
シュパッ!シュパッ!シュパッ!
ガガガガガガガ!
「ぶひひ、ぶひぶひ……!じゅるりっ」
この表情。この表情こそ、黒金さん。尊い!
「でへへへへ!ふしゅー、ふしゅー!」
「ノゾミ。嗚呼、ノゾミ。君は、こんな笑顔も魅せてくれるんだね」
机を舐め回す勢いで紙にへばりつくノゾミ。
気持ち悪いノゾミを見て、身悶えするレナ。
興奮しまくる美術組に、会議室にいる面々はドン引いた。
混ぜるな危険が出会ってしまったかもしれない。
「この話も大事だけど、みんなが休む事も大事だね。続きは明日にしようか」
鉄虎の一声で、毒虎一家とスマイリー向日葵パラダイスの会議はお開きになった。
部屋に残っていたお嬢とミラが車椅子を押して、会議室のドアがパタンと閉じる。
残ったのは、ぶひぶひと興奮する美術コンビと黒金の事を考えて上の空になっている白夜だけだった。
2時間経ち、ノゾミの手と集中力に限界が来た。
カラ……
と転がる鉛筆を見て、震える右手を見る。
「っ?」
集中の海から引き上げられる感覚と一緒に、水中から顔を出したような空気の新鮮さを味わった。
鉛筆を握りすぎて固まった手を伸ばして、左手を使ってグーパーさせた。
両手に鉛筆を擦った後の黒いのが付いていて、
久し振りに描いたなー。と思った。
この疲労感もまた、愛しい。
私の後ろにいたレナちゃんが、隣の席に座って手を揉み揉みしてくれた。
「右手、大丈夫?」
「真っ黒」
レナちゃんにもくっ付いた黒いのを見せ、照れ臭い気持ちで謝る。
「鉛筆好きだから良いの」
握って熱くなった鉛筆が、画面の上で転がった。
後はハイライトを入れて調節をしたら、画面を綺麗にして提出しよう。
すっかり楽しんでいたけど、これは白夜さんの為に描いた絵だった。
作品を仕上げながら、レナさんと美術トークをする。
そうだよなー。まだ色んな物を作りたいのに、死ねないよなー。
作品が完成した。
私と黒金さんの付き合いは短いけれど、私の感じた黒金さんの好きな部分と白夜さんが好きな黒金さんの部分は重なるはずだ。
だから、きっと届く。
部屋の隅でじっとする、白夜さんの元へ足跡を忍ばせ近付いた。
白夜さんは、今すぐ黒金さんを出す方法が無いと分かってから、自分の体力を回復させる為に隅でずっと赤い箱に耳を付けていた。
白夜さんの耳は“情報が聞ける”特殊な耳で、箱の音を聞いていれば黒金さんが生きているのが分かるらしい。
私が近付いてもピクリとも動かない白夜さんの前に、そっと黒金さんの絵を置く。
「…………。」
白夜さんは微動だにせず、聴覚に意識を尖らせていた。
私の絵じゃ、駄目か。
音だけより、顔が見える方が安心すると思ったんだけど……白夜さんは、そもそも現実を見ていなかった。
箱を持っていた白い手が、ペラッとした紙1枚に手を伸ばす。
白夜さんの目が、じっと黒金さんを描いた絵を見た。
無表情で張り詰めていた顔が少しずつ溶けて笑顔になって、最後にまた元に戻った。
白夜さんの唇が微かに動いて、何かを言おうとする。
「ありがとう。……クロの顔を見れて、安心した」
「良かったです」
私の絵で白夜さんの心が少しでも楽になったのなら、嬉しい。
白夜さんは本当に感心した顔で、
「ノゾミは、こんな凄いことが出来たんだね」
と言った。
こんなに褒められると照れくさい。
白夜さんに笑顔が戻ってよかった。
「話しかけてくれたついでに、僕を寝室に運んでくれないかな?2.3時間前から尻と腰がヤバいんだよ」
「はい?」
今、絶世の美人の口から「尻」って聞こえた気がする。
バタッ
同じ部屋にいたレナさんとアッサムが、ショックで気絶した。
分かるよ。こんな神秘的な人が「尻」とか「乳首」とか言うんだもん。
ショックだよね。
「ちょっとした事情で自力で歩けないんだ。会議も終わったし、早く寝たい。正直、声を出すのも辛い。頼むから、医務室に連れて行って欲しい」
銀色の目からバーッと涙が溢れる。
今まで相当、我慢してたらしい。
白夜さんは黒金さんがいないショックで落ち込んでいたんだと思っていたけれど、尻が限界で大人しくしているだけだった。
思えば牢屋にも来てくれてたな。
「アルテミス飲みますか?」
「なにそれ?」
この痛み止めは女の子に優しい薬なので、特にアレルギーも出ないはず。
鞄から常備薬を出して、白夜さんに握らせる。
「いっでぇぇぇーーー!」
まずは意識のある白夜さんを医務室に運んだ。
根性で医務室まで運んだ。
医務室に着いたら、包帯を変えるついでに自分もアルテミスを飲んでおいた。
「ありがとう」
白夜(飼い主)さんを助けた事で、ハチちゃんに髪をワシャワシャされた。
討ち入りの時、玄関で助けてくれたハチちゃんが、こうして褒めてくれて嬉しかった。
次に、意識の無いアッサムと自分の荷物を運んだ。
レナさんは狂犬さんが運んでくれた。
やっぱり面倒見の良い狂犬さんは、レナさんの顔をメイク落としで拭いた後
「お前、よく生き残ったな」
と褒めてくれた。
この世界に来て最初の方からお世話になっているけれど、狂犬さんの本名を知らない。
「ありがとうございます。……狂犬先輩?」
狂犬さんは敵だった時の事が嘘みたいに、爽やかな笑顔をみせてくれた。
「俺の名前は賛月。狂犬の方は通り名だ」
通り名。ふむふむ。
確か、この世界で名前は自分か親が付けて、光の国では個人識別ナンバーとかも存在して、通り名で呼ぶ事もあり、あだ名もまた………。
こうなったら幼名とか真名まであるかもしれない。
「分かりました!賛月先輩!」
賛月先輩は特に気にした様子もなく頷いたので、毒虎一家の人達との距離感はこんな感じで良いのかもしれない。
【気分屋な男の娘 レナさんを紹介】
レナさん。正式な名前はレオナルド。
ぬいぐるみ作りの他にも家具や武器、作曲なども出来ます。
彼の価値観的に、女の子の方が綺麗なので女の子の格好をしています。
とっても似合うでしょう?
一般の方が驚かないように、女の子の格好をしてる時は一人称を「レナ」男の子の格好をしてる時は「レオ」にします。
周りにもなるべくこの法則で呼んでもらってます。
オシャレをする気力が無い時は、髪の毛は一つ結びにして作務衣でダラダラしてます。
化粧やカツラを取ると、黒髪に青っぽい目になります。
声や身長をどう変えているのかは知りませんが、彼の気力が無い状態だと声は低めに。
160cm程だった身長が180cmに戻ります。
どうやって変えてるのかは、私も知りません。




