最期の晩餐
ゲームは私達の負けで終了した。
これにより、『スマイリー向日葵パラダイス』以下8番街は7番街の『毒虎一家(どっこファミリー』の傘下に入る事が確定。
住居侵入及び窃盗の罪により牧原 のぞみは死刑となる。
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緊急時につき、戦後処理はボス代理であるヒナちゃんが済ませた。
その間に傷だらけのハチちゃんと白夜さんは治療を受け、残った面々が食事をしながら黒金さんを救出するための作戦を考えていた。
私はというと、地下牢に軟禁されている。
「みんな大丈夫かな……」
撃たれた肩や脚はキチンと治療され、温かい食事も分けてもらった。
頑強な鉄格子はあるけど、見張りはいない。
特に持ち物を没収される事は無かった。
毒虎一家が考えてたよりも怖い所じゃないのは分かったけれど、心に余裕が出来ると色々と考えてしまう。
毒虎一家の地下室は3階まであり、どの牢屋も建物の1フロア分の広さがあってカーペットまで敷かれていた。
窓は無いけど天井はそれなりに高いし、空調が効いてて寒くもないので快適だ。
家具などは無いので、ストレッチをしながら考え事をする。
カンカラカンッ
牢屋の前にある鉄製の扉がノックされた。
人形のように美しい少女が扉を開ける。
「会議から追い出された」
レナさんが扉を押さえると、トレーの上にサンドイッチやスコーンを乗せたクマさん達が入ってきた。
その後からも、ポットや茶器、クッションなどを持ったぬいぐるみ達が次々と牢屋の前に並ぶ。
カシャンッ
レナさんが牢屋の鍵を開けて、私の前で中腰になった。
「食べれる?」
首を横に振った。
こんな状況で食べられる訳がない。
ぬいぐるみ達はクッションを2つ並べると、私達をそこに座らせた。
ハートのクッションを抱えたウサギさんが、「どうぞ」というようにクッションを差し出す。
「ありがとう」
レナさんを真似して、抱き抱えるようのクッションを受け取った。
次に、ティーカップを持ったクマさんが私の前に立つ。
そのクマは紅茶色の毛でチェックのリボンを巻いたアッサムだった。
アッサムは私にティーカップを持たせると、私の手にギュッと抱き着いてから、手を振りながら退室した。
「ありがとう、アッサム!」
私の事を覚えててくれて嬉しい。
他の子達もセッティングが終わると、地下室から出て行った。
「ぬいぐるみには笑うね」
ハートのクッションを抱っこしたお人形さんが、カタンッと首を傾けた。
「食べない?」
首を横に振った。
「最期かもしれないのに?」
そう言われると、食べなきゃ損な気がしてきた。
「あーん」
口元にサンドイッチを押し当てられ、仰け反る。
「優しくしないでくだ「やだ」」
ズッキュン!
上目遣いで頬を膨らませるレナさんが好き過ぎて、奴隷になりたい欲が噴出した。
こんな状況でも、Kawaiiものに反応しちゃう自分が憎い。
先程まで感じていた罪悪感が別の罪悪感に変わり、とんでもなく可愛い美少女から「あーん」されるのを頑張って断る。
「食べたいくせに」
「うぐぅ……!」
あまりにも私が抵抗するので、サンドイッチが床に落ちてしまった。
「「あ」」
レナさんがサンドイッチを拾って、口に運ぶ。
その手を掴んで、落ちたものは自分の口に押し込んだ。
今のはどっちもどっちな気がするが、こんな綺麗な子に落としたものを食べさせられない。
「ありがとう、美味しいよ」
トマトはジューシーで、レタスもシャキシャキ。
胡椒の入ったピリッとしたマヨネーズも良かった。
カーペットも汚れたかもしれないので、左側の袖で拭いておいた。ごめん、お母さん。
右手で体を支えて左手でゴシゴシしてると、やっぱり痛い。
思い返すと、私の対応ヤバくない?
だって、気を遣って食事を持ってきてくれた子に散々拗ねた態度取って最後は落ちたものを食べるんだよ?
「ありがとう、美味しいよ」も意味不明だし。
次に渡されたサンドイッチは、大人しく食べた。
ペンギンの音楽隊がBGMを奏でてくれる。
ここ、本当に牢屋なのかな……?
可愛い女の子とアフタヌーンティー出来るお店じゃないよね?
「ニキビって汚いよね」
「え、うん」
何でいきなりそんな事を言ったのか分からないけれど、レナさんはそんなことを言った。
「二重顎も見苦しいと思うよね」
「あ、うん」
「ホクロは?」
「位置によるかな」
目元にあるキュート黒子とか、キャラデザのアクセントになって良いと思う。
「そばかす」
「元気な証拠」
「シミ」
「模様」
「デブ」
「頑張れ」
あれ、もしかして悪口言われてる?
レナさんは「うーん」と唸って、寝転んだ。
「考えが同じとこと違うとこがある……」
何しに来たんだろう、この子。
ティーカップを持ったまま口を付けるかどうか迷いながら待機する。
「本当に異世界から来たんだね」
「えっ?」
「ノゾミちゃんがウチに侵入ったのには理由があったって、スマパラの人達が教えてくれた」
みんな……!
1人の時にたくさん泣いて、もう出ないと思ってた涙で、視界がぼやける。
「ニキビもホクロも二重顎も、この世界にとっては等しく情報だから。位置とか関係ない。情報量=美しさだから。やっぱり、違う世界の人なんだねって思った」
「ひぇっ……!」
情報量が正義な世界観に身震いがした。
人の美意識はそれぞれだから良いけれど、全員が全員情報量さえ多ければ美しいとか嫌過ぎる!
「狂ってるよね」
「信じらんない!」
「じゃあ、仲間だね」
レナさんの手が私に向かって伸ばされた。
その手を握るか、逡巡する。
この情報量=美しさの世界の中で、レナさんは自分の美しさを探求してきたんだ。
やる事はアレだけど、凄い人だ。
そんな凄い人の仲間かぁ……。
自分の前に差し出された手を、じっくり観察する。
パステル調のドレスに合わないフラミンゴピンクのマニキュアに、オモチャのような人形っぽさを感じたけれど、レナさんの手はちゃんと人間の手だった。
むしろ、親指の皮が剥けてたりしてガサガサしている。
爪は手入れをしているけれど、人差し指と親指の爪が他に比べて短い。
そして、ファンデーションとハイライト。
あと、指先にオレンジ系統のクリームチークも使ってるかな。
この2つが見事、手のゴツさを誤魔化しながら人形の血色の無さやオモチャ感をだしている。
最高!
「手ばっか見てないで、笑うならこっち」
レナさんから苦情を入れられた。
「手袋しても良かったのに……!」
私は感動で感想が溢れそうになっていた。
ファッション的に白手袋してても違和感は無かったはず。
それなのに、素手で過ごしてるのは何でだろう。
手を洗いたい時にはどうしてるんですか?
化粧道具見せてもらえませんか?
レナさんは本物の女の子よりも美しく涙を拭って、歯を出した。
「悔しいのか嬉しいのか。初めてバレた」
「レナさんによく、似合ってます」
「ありがとう」
レナさんの唇が頬に当たった。
ガタッバタバタバタバタ……
「ずびるっ」
信号カラーの人の鼻をすする音だけが地下にこだまする。
地下牢の鉄製の扉から将棋倒しで出てきたみんなは、気不味そうな笑みを浮かべていた。
「百合の花園が……」
カァーーーンッ
レナさんのウサギが銀色のトレーを持ち上げて、信号の人の顔の形に凹ませる。
ウサギはひと仕事を終え、ペンギンの楽団に讃えられていた。
優雅にお辞儀をするウサギ。
キィ……
と音を立てて、倒れたみんなの向こうに車椅子の2人組が現れる。
「この通り、悪い子じゃないので死刑は回避していただけますか?」
ヒナちゃんの言葉に、車椅子のお爺ちゃんとツインテールの女の子が頷いた。
「話の通りに」
お爺ちゃんの言葉を合図に、レナさん、ボムちゃん、ミラさん、アチョーさん、ハチちゃんが私に飛びついて歓声を上げた。
「うわぁ?!いててて!わ、なになに??!」
頭を撫でられたり背中を叩かれたり、膝カックンまでされた。みんながハイテンションな理由が分からず首を回すと、白夜さんが私に向かって親指を立てる。
その指はすぐに下を向いたけども。
階段があって部屋に入れないヒナちゃんは私に手を振って
「おめでとう」
と言う。
そこでやっと、自分の状況が理解できた。
「え?本当!?良いの??」
「良いんすよ!ノゾミちゃんは死刑にならずに済んだんすよ!」
ボムちゃん!
「ノミちゃんの毒虎一家での闘う姿勢と能力が見える能力が評価されたんだよ」
「よく頑張った」
ヒナちゃん!ミラさん!
「おめでとうございます!借金は一緒にお返し出来ませんが、なるべく援助はいたします!」
アチョ、借金?
「人手は増えたし、早くクロを助けよう」
白夜さん?
パシーンッ
言葉を喋れないハチちゃんが、私のお尻をバットでしばいた。
「なんでだー!」
撃たれた太腿と肩を気遣いながら、お尻の痛みに耐える。
視線が話す順番的にレナさんに向くと、焦ったように
「本心だよ」
と言われた。
別に、「仲間だね」とか「ありがとう」が私をテストする為の会話だったとは思っていない。
「ケホッコホッ……」
「ここは埃っぽいから、会議室へ移動しようか」
白夜さんの咳を合図に、車椅子のお爺ちゃんが手を叩いた。
お爺ちゃんの指示で、みんなが地下牢を出ていく。
ぬいぐるみ達も階段を登っている。
「行こう」
差し出されたレナさんの手を握って、私も地下牢を出た。
視界の端でレナさんがそっと微笑む。
寒くもない広い部屋で食事まで出されたのに、鉄格子の境目を抜けた時に開放感を感じた。
「サンドイッチ、美味しかった」
普段は食べ物の味とかどうでも良いのに、今になってあの落としたサンドイッチが美味しかった事に気付いた。
「気が向いたら、またお茶しよう」
「うん」
鉄の扉が大きな音を立てて閉まった。
【情報のしくみ】
情報は、神様が設定するものです。
身長、体重など成長により変動するものや、髪の色、目の色など、生まれた時から決まっている情報もあります。
そして、情報には『優性』と『劣性』があり
[例]ニキビの場合
『優性』ある(珍しいので)
『劣性』なし(大概の人にはないので)
珍しい状態の方が、情報量が多く優れている人間扱いになります。(情報は神からの愛。情報量が多い人間の方が、能力に目覚めやすい)
つまりニキビがある奴の方が有能に見える!
情報量の『優性』『劣性』は、作画コストで決まる事が多いです。
※メンデルさんと紛らわしいので、試験前の人は覚えないで下さい。




