ゲームオーバー
アチョーさんと一緒に解毒剤のレシピを覗き込んでいたボムちゃんが、レシピをグシャッと握りしめた。
「ふざけるな!」
人形として行動を停止した彼女は、抵抗もせずにボムちゃんに殴られる。
綺麗な顔を殴られても、お人形さんはカタンと人形らしい動きで床に倒れた。
「アンタ最低っすよ!」
「…………?」
「どうして大事な物に落書きしてるんすか!内容が読めないじゃないっすか!」
ボムちゃんが広げて見せたレシピには、大きなタコ焼きが描かれていて読めないようになっていた。
「ああ」
ボムちゃんからレシピを受け取って、お人形さんは頷く。
「良いアイデアは書き留めないと。ね?」
お人形さんと目が合う。
君なら分かるのね?という風にウインクをされた。
分かってしまうから反応がしづらい。
ボムちゃんが「裏切り者!」という顔で私を睨んだ。
こちらも、ほぼ事実なので辛い。
「これはたこ焼き君。手足がない分、操作しやすいと思う。8個セットでチーム。ひっくり返すとタコが出てくるしくみにする。体当たりで攻撃する予定だから重量は大きめかな。8個チームだから八門遁甲とか合体した連携技も考えたい。爪楊枝はたぶん、木で作る」
へー!完成が楽しみ!
落ちたレシピを拾って、なんとか読めないかと光に透かしてみる。
「そんなこと聞いてないっすよ!読める状態のを出すっす!」
「面倒臭い。レナの偽物だし」
「偽物とは、どういう事ですか?」
アチョーがボムをレナから引き離す。
「レナのレシピは偽物。どうせ落書きするから本物は渡さないって」
「そ、うっすか……」
ボムちゃんはレナさんに掴みかかるのを止めた。
本物のレシピを読めるようにしてくれるなんて優しいな。
むしろ、偽物のレシピと迷わない分ラッキーかもしれない。
敵だけど、白夜さんを生かしてくれる気はちゃんとあるらしい。
「すみません。降参したのに殴って……」
「君は、綺麗な声をしてるから許す」
「へっ」
ボムちゃんの頬がボムッと赤くなった。
サッとレナさんから離れてアチョーさんの足にしがみ付く。
確かにボムちゃんは身長が低いから、子供みたいな可愛い声をしている。
「ボスがこないのが気にかかりますが……次に進みましょう」
「そうっすね!あとちょっとで白夜を助けられるっす」
「私も!戦えなくてもついていきます!私の目が役に立つかもしれません!いざとなったら降参します!」
「でゅくしっ」
「あでぇぇぇぇぇええええ!!?!?!ぎゃっ、どぅぇえっ?いだぁぁああ!!」
痛い!痛いのに慣れてきたのに、痛い!超痛い!
私の太ももを蹴った張本人は平然とレシピを拾っている。
レシピ返して欲しいなら口で言えよ!
ボムちゃんが私の代わりにレナさんの頭を叩いてくれた。
「すみません。包帯の具合を見ますね」
アチョーさんが私のスカートを申し訳なさそうな顔でズラして包帯のチェックをしてくれる。
「傷開いてないですか?」
「専門家じゃないので何とも……。ノゾミさんは安静にしてて下さい」
「はい」
流石にもう、着いて行ける気はしない。
背中も額もどっと汗が出て、気を抜くと笑顔を忘れてしまいそうだ。
何度も振り返りながら、2人は階段を登って行く。
「アンタ!ノゾミちゃんに変な事したらタダじゃおかないっすからね!」
「なるべく早く帰ります。ボスをお願いします」
あんな事をしたのに、まだ仲間として心配してくれる2人がありがたい。
「了解でーす!」
ボム&アチョー 次のフロアへ
2人分の階段を上る音がかき消された。
「やっと2人っきりになれたね」
少女漫画みたいなことを言って、とても綺麗な女の子が私に抱きついてきた。
金色の髪の毛からは甘いベリー系の甘い匂いがする。
「……。」
「えっ?えっ?えっ?」
無言でレナさんを引き剥がす。
「……。」
「なんで?」
丁寧な作品も綺麗な子も好きだけど、人が怪我した所を悪びれもせず蹴るような人間は怖い。
「腕、ごめんなさい」
「いえ……」
まさか謝られるとは思っていなかったので、首を振る。
「私も急に怒鳴りましたし、レナさんも仕事しただけですから」
大王イカみたいな無感情な目が私の肩を凝視する。
いや、撃つのはまだしも、蹴るのはないよな。
でも、謝ってくれたんだよね。うーん。
くるんとカールした睫毛がパチリと濡れて、陶器のような頬が赤く染まっていく。
お人形さんの目から涙が溢れたことで、初めて人間味を感じた。
「綺麗?」
「はい」
「許す?」
「はい」
レナさんがあまりにも綺麗なので許した。
肩に触れないように抱き締められたので、背中をポンポン叩く。
友達になったって事かな?
「ずびむ……!美しき百合の花がずびるるるっ」
前触れもなく鼻水をかむ音がして、信号機カラーの小デブが現れた。
その背後には、ヴィルヘルムさん、女騎士さん、よく分からない人と車椅子のお爺さん、階段を上がったはずのボムちゃんとアチョーさん、ヒナちゃんとミラさんまでいた。
これほど大人数の人が現れて何の音もしなかった事にビビりつつも、8番街にいるはずのヒナちゃんやミラさんがいる事から
敵の幻術……?と推測する。
それにしても、薔薇をくわえる青年と車椅子のお爺さんの意味が分からない。
「ノゾミちゃん、突然で驚くと思うけど非常事態なの」
ヒナちゃんの目配せで信号カラーの人が、赤い箱をポケットから出した。
「ゲームは私達の負けで終了。シロお兄ちゃんの命は、もちろん助かったわ」
という事は、ボムちゃんとアチョーさんが瞬殺されたのだろうか。
謎の青年とお爺さんに目をやる。
「理由は、シロお兄ちゃんが解毒剤を飲んだ事でゲームの前提が崩れたから。でも、それには理由があるの!」
白夜さんが解毒剤を飲んだのか。
1番苦しんでる人が、助かる為に行動しても責められない。
そもそも、この戦いの原因になった私に言う事はない。
「お兄ちゃんがこの赤い箱の中に閉じ込められてて、ピンチなの!頑張ってくれたのに、ごめんね」
ヒナちゃんの目元が赤かった原因が分かった。
「ごめんね」か。これで私の死刑確定なんだよね。
自分を抱き締めるレナさんの体にぐだっと体重を預ける。
普通なら問答無用で売り渡されていた。
それが知らない自分を守ってくれて、ファミリーとして心配してくれた。
思えば、新宿駅で道連れにされた時に死んでも良かったんだ。
死ぬ前に、普通では出来ない体験をたくさんした。
良い人生だった。
「大丈夫です!頑張って助けましょう!」
【ヒナちゃんとミラさんが分からない方のために】
ヒナちゃん。本名は日向。スマパラのボス黒金の妹。
黄色くピヨっとした髪の毛。ニコニコ笑顔。
フライングボードを使わない旧式の車椅子に乗っている。
年齢情報が無いので、子供にもお婆ちゃんにもなれる。
ミラさん。本名は手鑑。骨折して留守番した人。
エイプリルフール特別イベントにも登場していた。
スマパラの会議では主に書記を務め、自分の非力さが悔しい。
ノゾミに術符の書き方を教えてくれたりもしている。




