第31夜 コペルニクス的展開
賛月の下でピクリとも動かないハチは、ついに血を流さなくなっていた。
呼吸も浅い。
でも、大丈夫だ。まだ死んでいない。
「それから、俺が『狛犬』をもらった18の夜の話に戻る。ハチには分かんねぇと思うけど、俺の身長が伸びるのは誕生日の時だけだったんだ」
それも、6番街はボスのイメージで成り立っていて、毎日少しずつ身長を伸ばすのは難しいからだ。
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みんなからもらった誕生日プレゼントを開封する為に早めに部屋に帰った俺は、新しい身長に合うジャージを着て古い奴は思い出箱にしまった。
俺が『6.66』に拾われてから、毎年3月14日になると親父が赤いジャージをプレゼントしてくれる。
お陰で箱の中には、6歳から10歳になるまでの12着のジャージが入っていた。
俺に毎年プレゼントをくれるのは、親父だけだ。
12年も生き残ったのが親父だけとも言う。
「俺が18歳になるまで、あと8歳。俺が大人になるのは、3×8だから24年後か」
その頃には、箱のジャージが倍になっている。
賛月は算数の出来る子だ。
他のみんなからもらうプレゼントは、オモチャ、時計、お金、全部持ってるものだった。
付き合いの長いおじさんとかは賛月が欲しいものをわかってくれるので、美味しいお菓子とか武器のマニュアルとかをくれる。
読んだことのない本は隣の部屋へ持っていって、工作に使う道具と時計は衣裳部屋に持っていった。
お金はあまっているので、使ってない部屋にポイして片付ける。
次の誕生日は、3年後だ。
『ボスBOX』に、新しい首輪と口枷をしまった。
この2つはもったいないから、特別な時に使おう。
誰かが掃除をしても見つからないように、机と椅子に登って天井裏に宝物を隠す。
「こんばんは、お疲れ様です」
ちょうど、自分の部屋の上で死体の始末をしている人がいた。
確かこの人は親父の部下で、死んでるのが……誰だろう?
人間の頭にネズミの体をしているから、屋根裏でみんなを守る仕事の人だろう。
部下さんの隣には見知らぬ人もいる。
「お疲れ様です!」
「ぉ、お疲れ様です……」
「おやすみなさい」
お誕生日なのに、大人は夜まで働いて大変だな。
と思いながら、『ボスBOX』を天井裏から別の場所へ移した。
誰かに知られては、意味が無い。
『ボスBOX』はひとまず、ベットの下に置いておいた。
額の朝をふぅっと拭う。
「任務完了……!」
賛月はやたらカッコ付けたい時期だった。
やる事は終わったけれど、寝るには早い時間。
今日は3年に1度の誕生日なのだ。
「今夜は寝かせないぜ」
鏡の中の自分にウィンクする。
天井から親父の部下達に見られていた。
鏡に映った部下さん達に気付かないフリをして、恥ずかしさを誤魔化す為に
「ちょっと勉強しようかな」
と大きめの声で言ってみる。
机に座って、算数のドリルを開いた。
単位に気をつけながら、水の容積を計算する。
「頭がいたい……気がする」
まだ視線は感じていたが算数は止めて、『15分で読める名作シリーズ』を開いた。
これは勉強になるし、物語なので良い。
しばらくすると視線は感じなくなった。
たまご大会で地産地消の大切さを学んだ俺は、国語にも飽きたので遊ぶ事にする。
ここでふと『親孝行』を思い出して、今年はボスからプレゼントを2つ貰ったことを思い出した。
プレゼントのプレゼント返しをしたら、ボスが喜んでくれるかもしれない!
衣装部屋から工作道具を持って来て、画用紙に宝石や触り心地の良い、キラキラした布を貼り付ける。
それからボスといろんな記念日に撮った写真をたくさん切って、画用紙の真ん中あたりに貼り付けた。
これを、親父の分も作る。
ボスのは赤、青、黄、白、黒の宝石と布を使って、親父のは緑色のとパチンコが好きみたいだから、パチンコのチラシからパチンコって文字を付けておいた。
2人は特別だ。
「どんな言葉が、1番喜んでくれるんだ……?」
ボスには仕事を頑張ります系で、親父には仕事を頑張れ系か?
これは絶対に感動して泣いて喜ぶ!
自分の画用紙に名作の予感をひしひしと感じながら、
最近覚えた「精進」という言葉を頑張って書く。
「精進の進ってどんなだっけ?」
なんか違う感じのを書いた気がするが、これはこれで良い意味だったはず。
ボスには、「いろいろとがん張って、たくさん精通します」と書いて、
親父には、「いろんな仕事、精通してください」と書いておいた。
「これは褒められる……!」
2人とも、俺のこともっと好きになっちゃうかもしれない。
最終チェックで2人のを見比べた時、親父の方が地味だったので宝石を足すことにした。
『パチンコ』の部分が地味だったので、“パ”の丸に大きい宝石とリボンを付けておいた。
ちょっと文字が読みにくくなったけれど、親父なら分かると思う。
今日もらったお菓子も何個かポケットに入れて、序列順でボスの部屋に行く。
ボスの部屋は不定期に移動するので、探し方にはコツがいる。
賛月と同じフロアの1番大きいドアだ。
「ボス、失礼します!」
ノックと同時に入室して、でんぐり返しをした。
「親父もいたのか!」
「賛月?!?」
ちょうど良かった。
満面の笑みで、ソファに座るボスの膝に飛び乗る。
「ボス、失礼しま……」
親父の隣には、さっき屋根裏で会った人達もいた。
「仕事中でしたか?」
親父と部下さん達が視線を交わし合う。
そろぉっと、ボスの膝から降りてお辞儀をした。
「この子が新しい仲間?」
声のした方を見ると、窓の外から赤いサングラスがのぞいていた。
そのお姉さんはここが6階であることを忘れさせるような身軽さで、大きいオッパイを窓枠に乗せて頬杖をついた。
窓枠でスイカが潰れている。
俺の視線に気付いたお姉さんは、ニヤッと笑って舌を出した。
「マセガキ」
「すみません」
確かに、女の人のオッパイは凝視したらいけない。
代わりにぼーーっとヨダレを垂らしてるボスを見る。
「頭、弱ソー。ここで殺した方が幸せなんじゃないの?だってほら、外来種でしょ?」
「賛月は俺の息子だ」
親父がお姉さんの視線から、俺を隠すように前に立った。
ボスは目を開けたまま寝てるのか、袋の中にずっと金の塊を入れていた。
金が貯まるたびに、親父の部下さんがお客様に袋を渡して何かをさせてある。
「定着」
ピカッと光った金は、すぐに窓の外に投げられて新しい袋が渡された。
ボスはまだ、袋の中に金を詰めている。
「賛月、今から何をされても声を上げるな。良いか?特に、絶対に泣くな」
「え?」
親父は窓の外のお姉さんを気にしているようだった。
何度も窓の外を見ながら、俺の肩をガッチリ掴んだ。
「これは命令だ」
「かしこまりました」
絶対に声を出さない。泣かない。
「終わった?じゃあ、ヤるよ?」
お姉さんが窓から部屋に入ってきた。身長が高い。2mはある。
「んふっ」
革製の上着をゆっくり裂いて、お姉さんの胸の間から20cmほどの棒が出てきた。
「マイ、スウィーティ〜〜」
甘い囁き声に誘われ、深紅の髪から火花が散る。
お姉さんは棒をオッパイごと、ムチッと持ち上げた。
そして、スルスル体内から出る鞭に、キスをした。
この後、何が起きるかを予測して、2枚の画用紙を親父に預ける。
「私の鞭はパックリ裂けるわよ〜!」
バチンッ
避けた鞭は、床にパックリ穴を開けた。
ここはボスの部屋なので、穴はすぐに塞がる。
「あら?ごめんなさいネ。もう、死んじゃったかしら?」
パンッ
「わっ」
乾いた音がして、お姉さんの頭から血が噴き出した。
大きな体がバタンッと倒れて、ビクビク痙攣する。
銃を撃った反動で窓の外に落ちかけた俺は、慌てて窓枠を掴んだ。
どうしよう、声出しちゃった。
親父の顔をチラリと見ると、死んだお姉さんを見て呆然としている。
「コイツ……!」
親父の部下さんが俺に向かって発砲した。
ボスがくれた首輪が自動で避難させてくれるので、ちゃんと仕返しとして撃ち返す。
「賛月……、お前……?」
次々と部屋に入ってくる人達が、俺と親父を殺そうとするのでボスからもらった首輪と口枷に助けられながら撃退した。
床に死体が積み重なる。
パンッパンッパンッ
最後の1人が完全に絶命したか確かめてから、ボスと親父の元に戻った。
画用紙は親父が握りしめたせいで、クシャクシャになっていた。
バシッ
親父が俺の頬をブった。
「賛月、人の命は尊いんだ。殺しちゃいけない!」
親父は怒っていた。
でも、ボスに頼んで生き返らせれば良いし……。
俺が何か喋ろうとして口を閉じたのを見て、親父は涙を流した。
「もう、声を出しても良い……」
「親父……?泣くなよ」
「こんな時まで……!何で……。お前はいつだって命令に忠実なだけだ……。俺の育て方が悪かった……。全部、俺のせいだ……。本当は、人を気遣える優しい子なんだ。こんな所で育てたから腐った……。6番街に毒された……」
親父が泣くので、頑張って作った画用紙を見せた。
俺の渡したプレゼントを受け取り、親父は少しずつ泣き止んでいく。
「親父、」
「賛月。俺と一緒にこの街を出よう。2人で太陽の当たる場所で暮らそう」
親父が金の詰まった袋を担いで、俺の手を引いた。
「ぇっ…………?」
この街を出る……?それはボスを裏切る事と同じだ。
親父の口からとんでもない言葉を聞いて、頭が真っ白になる。
ボスは目を開けたまま眠っていて、袋から金を溢れさせていた。
今になってやっと、俺はこの状況がおかしい事に気付いた。
目の前で街を抜ける話をしても、ボスが反応しない。
親父と話していた人達はなんだったんだ?
親父はボスを裏切った……?こんな金なんかの為に?
「ここは駄目だ。人間の住む所じゃない。本当の世界が分かって、自分の罪を知ったら俺と一緒に償おう」
親父が俺を抱き上げ、耳元で鼻水をすすった。
この人が何を言っているのか分からない。
この部屋に来る前は、自分の父親のように大事だった存在が、異星人のように思える。
「俺は……そんなに悪い事をしたのか?」
「そうだ。お前は悪い事をした。死んだ人の命は戻らない。例えそれが戻ったように見えても、それは五色 天罰が与えた紛い物の命でしかないんだ。人間の命はたった1つなんだよ。自由意志のもと存在するべき、尊いものなんだ」
「だから……」
人を殺すのが悪いのか?
それはボスを裏切る以上の罪なのか?
人は死んでも元に戻るけど、ボスの信頼は2度と戻らない。
それが、親父には分からないのだろうか?
「お前は外の世界を見たことが無いよな。6番街の外には、自由な子供がいるんだ。光の国に帰ったら、お前の母さんになるはずだった人と、兄ちゃんに会わせてやる。光の国には花が咲いていて、太陽も平等に降り注ぐんだ。こんな国と違って、カゲだって滅多に現れない」
「嬉しそうだな」
親父が笑う。
「空元気だ。これ以上、お前にダサい所は見せられねー」
『6.66』で支給される銃は弾が無くならない。
自分を抱きしめる親父の頭に手を添えて、銃を持ち上げる。
コイツはもう、駄目だ。
「大丈夫。お前は俺の息子だから、絶対に見捨てない!」
「俺も、親父の事を本当の父親だと思ってる」
お互いの頭がくっ付いたままだと危ないので顔を離すと、驚きながらも嬉しそうな親父の顔が見えた。
コイツはとんでもない罪を犯したが、俺の親父だった人間だ。せめて安らかに死んでほしい。
俺も穏やかな笑みを浮かべて、引き金を引いた。
パンッ
乾いた音がして、親父の命が消える。
『6.66』を裏切った人間は、二度と生き返らない。
親父がちゃんと死んだのを確認してから、自分の頭に銃口を押し付けた。
親父の息子として、せめて一緒に死んで罪を償おう。
ボスはまだ、袋の中に金を入れていた。
腰を90度に曲げて、御礼をする。
「すみません、ボス」
ここまで育ててもらったのに、何の恩も返せなかった。
パンッ
乾いた音がして、銃口から真っ赤な花が咲いた。
「…………。」
空白が脳味噌をブチ抜く。
俺は生き生きとした花を見て、首を傾げた。
んん???
6.66式の銃に、自害しようとすると花が咲く機能があるなんて聞いてない。
首輪の機能か?
花の咲いた銃が、手品みたいにポンッと、白い鳩になって飛んで行く。
こんな事ができるのは、ボスだけだ。
ボスの能力で床に転がる死体が消えて、血まみれの部屋は普通に戻った。
「疲れた」
袋に詰めていた金を何処かに消して、ボスが天井を仰ぐ。
俺はいつの間にかボスの膝の上に座らされていた。
言わなきゃいけない事、聞きたい事が、たくさんあった。
あー、でも、なんだか……俺も疲れたかもしれない。
ボスの胸に頬を付けて、目を閉じる。
「疲れた」と言いながらも、ボスは俺の首輪と口枷をわざわざ手で外した。
いつもあるものが無いと、空気が冷たくて無防備になった気がする。
「さっき、死のうとしたね」
「はい」
「裏切り者」
喉をグッと圧迫された。視界が狭まる。
「バカヤロウ」
ボスが疲れた顔で、首を絞めている。
無意識に掴んでいたボスの服から、手を離した。
「逃げるならまだしも、死ぬなよ」
雨が降る音がする。ボスが泣いてる。
「つまらない理由で、世界を1人にするなよ……」
1番信頼していた仲間に裏切られたんだから、俺を殺したくなるのも当然だ。
首を絞める手が離れて、ボスは白い正方形になってしまった。
部屋もどんどん白くなって、家具も消える。
俺はボスを地べたに置かないように、正座をして膝の上に置いた。
「ボスは、俺が死んだら悲しいですか?」
「それを聞いてどうする?」
膝の上で箱が振動した。
「俺が望めば全てが思い通りになるのに、俺の意思を確認する必要はあるのか?」
「それもそうですね」
何の音もしない部屋。
自分の心臓の音だけが、ドクドク聞こえる。
ボスが黙っている間、自分はどうするべきか考えていた。
親父の後を追って死ぬべきか、ボスの為に生きるべきか。
親父は何で、ボスを裏切ろうとしたのだろう。
下を向いたまま、考えたことが口から出る。
「俺、ちゃんと人は死んだら生き返らないって知ってるんですよ」
人が生き返るのはボスが特別だからで、外の街では死んだ人は元に戻らない。
たぶん、これは俺から遠い価値観だ。
親父自身は覚えてなかったけど、これまで何回も死んだ。
その度にボスに生き返らせてもらっていた。
だから俺がここで殺さなくても、親父は6番街から出た瞬間に死んでいたはずだ。
『6.66』を裏切った親父は、もう生き返る事がない。
ボスのルールに例外は無い。
親父が明日も普通にパチンコ行って仕事もして、勉強の成果を見てくれるって、当たり前に思っていた。
ずっと遠い未来に、俺が大人になったら酒を飲む約束もしていて、18歳には親父の部下になって、親孝行もたくさんする予定だった。
それがもう、ああ。
そうか。これが死んじゃう事なのか……。
箱が自分の体温で温かくなっていく。
「ぐすっ……」
気付けば涙みたいに鼻水が垂れていた。
「俺、悪い事しました」
死ぬ事の痛みを知って、はじめて親父の言っていた事が分かるようになった。
自分の知識が全部、新しい角度からガラガラ変わっていくのを感じる。
「ぅっ…………。」
それは気持ち良さと一緒に、吐き気も持ってきた。
「おえ……」
悪い事と正しい事がグルグルと押し寄せて、口を抑える。
親父は正しい。でも間違ってる。ボスは正しい。でも間違ってる。
疑いたくない。ボスを疑う自分が嫌だ。でも、間違ってる。間違ってる。
俺は、もう駄目だ。全部汚い。最初から間違っている。
生まれた時から駄目だった。
人の血をすすって生きてきた。人を殺してご飯を食べた。
俺はボスが指示したから、そうした。こんな事、考えたくない。ボスを疑ってまで汚らしく生きたくない。
「賛月」
ボスの低くて甘い声がした。
「ぐっ……はい。」
久しぶりに名前を呼ばれた気がして、姿勢を正す。
例え正方形の姿をしていても、ボスが言葉を詰まらせているのを感じた。
ボスの考えがまとまるまで待って、ようやくボスは口を開いた。
「お前には、たくさんの選択肢がある」
白い空間に読み聞かせをする時のように、いくつもの標識が立った道が現れた。
その道はバラバラに別れて、どこかに続いている。
「この先何が起きてお前がどうなろうと、世界にはお前を育てた恩がある。これは絶対だ」
「はい……」
ボスが俺を育ててくれた恩は絶対。
全てがぐちゃぐちゃになって吐きそうな時に、『絶対』と言われて安心した。
俺が親父みたいに変になって、ボスを恨んだり裏切る事があっても、俺はボスに恩があるのは『絶対』だから、何があってもボスの味方でいれば間違いはない。
「お前がこれまで親父に言われていた言葉を理解するように、いつかお前は『自由』と『未来』を知ることになる。それを念頭に置いて話を聞け」
白い箱から手が生えてきた。
「人間には未来がある。その瞬間、苦しくても未来は変わる。だから苦しくても、そこで終ろうとせずに未来の為に準備をし続けろ。これをいつかの未来に、理解しろ」
「ぐずっ……。はい」
ボスは無限の中から、俺に選択肢を与えてくれた。
「まず、世界はお前に隠していた事がある。それを知る権利と知らない権利が、賛月にはある」
「次に、ここで死ぬ権利と6番街から去る権利もある」
「最後の特別サービス、全部忘れて時間を巻き戻す選択肢もやる」
「お前はどうする?」
【全てを知って去ります】←次の話へ
【全ては知らずに去ります】←そのまま下へ
【全部……何も知らなかった頃の自分に戻して下さい】←そのまま下へ
【全ては知らずに去ります】
選択肢を並べられても、俺にとって大切なのはボスだった。
白い箱になったボスの表情を見て、ボスは義務感から秘密を喋ろうとしているのを感じた。
それに俺も、今すぐ全てを知る気にはなれない。
正直頭はパンク寸前だし、ボスが言うように、俺には未来があるのだから。今じゃなくても良いんだ。
「そうか……」
と言って、ボスは残念そうな、ほっとしたような声を出した。
「俺が外の世界を知って、ボスの隠してた事を知る勇気が出たら戻ってきます」
「そう。自由にしな」
白い空間に黒い線が引かれ、それはドアになった。
音もなく開いたドアの先には、青い空と草原が広がっている。
風と一緒に、青い草の匂いが鼻を刺激した。
空への遮蔽物が無い。どこまでも続く空と大地。
美しい景色に吸い寄せられるように1歩踏み出すと、絨毯とは違うやわらかさが足に伝わる。
振り向くと、ボスが涙を流していた。
こんなに晴れて空は綺麗なのに、ボスは泣いていた。
ボスが泣いても雨が降らない事で、ドアの先が6番街の外だと実感する。
この草原の先は、どんな世界が広がっているんだろう。
太陽の光で、ボスの赤くなった目元がキラキラ光った。
バッテンのついた口角がフッと微笑む。
「外の世界が素敵過ぎて、帰りたくなくなった?」
「そんな意地悪しなくても、帰ってきます」
俺は全身を、外の世界へ出した。
黒いドアが閉じて、白い空間が見えなくなっていく。
いつ戻れるのか分からない。
ドアがゆっくり閉じていって、寂しい気持ちになった。
外の世界は魅力的で、すぐには帰って来れないだろう。
それでも、俺は必ず6番街に帰る。
「ボス、」
俺はボスが見えなくなる前に何かを言おうとして、やめた。
ボスはおかしそうに笑って、頷く。
ドアが消えた。
俺は振り返らずに、まずはこの草原の先へ行くことにした。
To BE CONTINUED…
【全部……何も知らなかった頃の自分に戻して下さい】
これ以上、何も考えたくなかった俺は、全部無かった事になるように、ボスに懇願した。
「分かった」
ボスは俺の肩をポンッと叩いた。
ピ、ピ、ピ、ピ……ピピピピ! ピピピピ! ピピピピ! ピピピピ!
目覚ましを止めて、布団を上げる。
「10歳になって初めての朝だ」
カーテンを開けると空は曇っていて、ところどころ微妙な顔をした生き物がニョロニョロと飛んでいた。
ボスの機嫌があまり良くないみたいだ。
「まったくボスは!俺が何とかしないとですね!」
9歳の俺とは違うので、サッと顔を洗って首輪と口枷を装着する。
「まだ大きいな!」
昨日、親父からもらったジャージは成長を見越して大きめに作られていた。
俺の身長が伸びるのは、次の誕生日だから3年後!
その時には新しいジャージをもらうから、実は大きめに買う意味がねぇ!!
というのは、親父には内緒だ。
大人になると、間違いを指摘されるのが恥ずかしくなるらしい。
8×3で24年後、俺も大人になれば分かるかもしれない。
コンコンコンッ
部屋のドアがノックされた。
「賛月、支度は出来たか?下に降りて朝飯、食うぞ」
俺の準備は既に出来ていたので、すぐにドアを開けた。
「おぉー!親父だ!」
10歳になって改めて親父を見ると、何故だか感動した。
M字型をした前髪も、剃り残した髭も、こうして見ると感慨深い。
「なんか今日、カッケェな」
「はぁっ?急にどうした?」
「なんとなく」
親父は照れ臭そうに俺を叩いて、先に行ってしまった。
高級なスーツなのに、どことなくくたびれた背中を追う。
「そうだ。18歳になったら色々話すって約束、18歳まで待ってもらえるか?」
「元からそのつもりだけど……?」
「まぁ……、そうか。実は俺の部下が昨夜いきなり天の国に行ってしまってな……。またNew Gameか……」
親父の元気がない理由が分かった。
「また出世か〜」
親父の部下は、よく光の国の支部へ転勤させられる。
上はよほど忙しいのか、いつも急に転勤が決まる。
親父はこの組織のNo.2のはずなのに、また部下に先を越されたみたいだ。
親父の背中をバチンと叩いて、喝を入れる。
親父は痛そうに腰をさすって、俺の背中を叩き返した。
「気長に行こうぜ」
確か、誰かがこんな事を言っていた。
「俺らには未来があるんだから」
「そうだな」
俺と親父はみんなのいる食堂の扉を開いた。
To BE CONTINUED…
この物語は一応ゲームの世界なので、今回はゲームのマルチエンディングっぽくしてみました。
『6.66編がゲームイベントになったら妄想』
『水平線上ノ煌星』はスマホで遊べるパズルRPGです。
五色 天罰【SSR】
(通常進化)万能型。(特殊進化)万能型。
スキル1「世界は間違っていない」
自身のHP(MAX時)の3割を使い、範囲内の敵に攻撃。
スキル2「世界の理」(通常進化)
今まで与えたダメージに比例して、回復。敵が「スキル反射」
を使用している場合、敵のHPの1割で防御。
スキル2「お前は何も分かってない」(特殊進化)
今まで与えたダメージに比例して、回復。敵が「スキル反射」「回復スキル無効」を使用している場合、敵のHPの2割で防御。『賛月』を編成している場合、「世界による天罰」の効果で、全員のスキルがフルチャージされる。
スキル3「6.66の悪魔」(特殊進化)
任意解除。編成した『賛月』の見た目とボイスが犬化。『賛月』以外の見た目とボイスが鳥人間になる。
賛月【SR】
アタッカー。
スキル1「俺は犬です」
その場にいる同属性の味方の攻撃を補助(効果値500)しつつ、指定した敵に攻撃。『6番街』のキャラが編成にいる場合、1体につき効果値がプラス50。
スキル2「狛犬」
1クエストにつき1回発動。その場にいる敵に「狛犬」がつき、継続ダメージを与える。対象が少ないほど、効果が上がる。
幼少期ハチ イベント報酬【SR】
補助型。
スキル1「喋れない少女」
味方を∞ターン補助する。(攻撃力 30 防御力 10 属性値 8)『8番街』のキャラが編成にいる場合、1体につき効果値がプラス。(攻撃力 60 防御力 60 属性値 6)
スキル2「ししょーからもらった首輪とジャージ」
自身のHP(MAX時)の8割を犠牲にして、味方を1体蘇生。
『8番街』のキャラが編成にいる場合、敵に遅延効果。(1体につき1ターン)
『6番街】のキャラが編成にいる場合、さらにHPをMAX時の1割削り、任意の敵を1体消滅。(ボスや一部の敵には使えません)
『6番街の狛犬 賛月』を編成している場合、HPを全回復。
親父(旧 ヒモこんにゃく)イベント報酬【R】
回復役。
スキル1「また改名」
味方を回復させるブロックを横に1列出現させる。
スキル2「お前は自慢の息子」
味方を回復させるブロックを横に1列出現させ、下半分を自属性のブロックに変える。『6番街』のキャラが編成にある場合、変色したブロックのうち3マスが強化ブロックになる。




