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水平線上ノ煌星  作者: 猫屋敷 凪音
ファミリー編
31/48

第29夜 五色 天罰

黒金とノゾミ達が別々のフロアに別れる事になった頃、ハチと賛月サンガツは思い出話をしていた。

思い出話をすると言っても、話しているのは賛月だけだ。

賛月の足元には、重傷のハチが転がっていた。

「覚えてるか?俺がお前の骨を1本ずつ折った時の事。お前はあの頃から丈夫な奴だったよな」

賛月はハチの血のこびりついた髪をそっと撫でた。




_______


ハチと賛月は今の組織に入る前、2人は同じ組織に拾われていた。

賛月サンガツの名前が賛月であるのは、3月に拾われたから。

ハチの元の呼び名が皐月さつきであるのは、5月に拾われたから。

2人を拾った組織とは、6番街にある『6.66』だった。




6番街、そこは影の国で最も混沌とした街。

ここでの違法な行為はただ1つ。


『6.66』の首領ボス五色ごしき 天罰てんばつに逆らう事。


そんな事は、6番街に関わる者なら子供でも知っている。

記憶も無い頃に親に捨てられた賛月は、スリや喧嘩を生業にして育った。

賛月の様な子供をまとめて金を集めさせていたのは、『捨て子屋』のクズオヤジ。

『捨て子屋』は、いらない人間を格安で引き取る業者だ。

もちろん孤児院の様な慈善事業では無い。

引き取った子供に仕事を与えて、稼ぎを得る。

手足の足りない子供は捨て子屋へ。

ゆきずりの相手との激しい夜の副産物は捨て子屋へ。

そこら辺を歩いてる子供は捨て子屋へ。

「手足が無い奴はバラバラにすりゃ、売れる。男なら力仕事。女なら下の仕事。赤ん坊は肉が柔らかいから犬の餌にちょうど良い」

これが捨て子屋のクズ親父の口癖だった。

何故、クズ親父が引き取るのは子供だけなのか。

大人よりも食費が浮くから?

大人よりも簡単に手に入るから?

大人よりも抵抗される心配が無いから?

違う。違うぞ。でも、それも正解。

子供は純粋でおツムも可愛らしいもんだから、何でも信じて従うのさ!!


賛月の1番最初の記憶は、捨て子屋のクズオヤジに糸ノコを投げつけられる場面だった。

「今度、勝手なマネしやがったら犬の餌にしてやるからな!」

「ぐぼっ……。ゲホッゴホッ……」

口から胃液と血が混じった苦い液が出ていた。

とてもとてもお腹が空いていた賛月は、アニキが解体していた赤ん坊をツマミグイしてしまったのだ。

今日の稼ぎが少なかったなら、賛月は犬の餌になっていた。

この家の序列は、オヤジ>オヤジの飼ってる犬>よく稼ぐキョウダイ>その他。

自分は何でも無い。その他の1つだ。

「おぇ……ぐっ……」

ドロドロになった服で床を掃除する。

家の柱を噛むと怒られるので、賛月は外に出た。

人間を噛むとやり返される。

ここら辺はキョウダイが何でも食べてしまうので、石の道しか無い。

「あーーー」

幸運な事に、排水溝の隙間に新聞が落ちていた。

「そだててくれて、ありがとうございます」

これを言わないと、ご飯を食べれないのがルールだ。

ふやけた新聞は、食べやすくて美味しかった。

「お前は美味しそうに物を食べるね」

突然、気配もなく現れた人間が、賛月に話しかけてきた。

凄く良い服を着た人間で、6が3つ円になっている金色のバッチを着けていた。

このバッチを着けてる人間から財布をスったり、逆らうなと教えられている。

何も命令されていないが、賛月は頷いておいた。

口の両端に描かれたバッテンが吊り上がる。

「お前は凄くばっちぃな。どいつもこいつも汚ねぇけど、とびぬけて臭い」

「ごめんなさい」

「よくある事だ。気にすんな」

男があまり聞かない言葉を喋るので、賛月は「汚い」くらいしか理解出来なかった。

なので謝った。

水をかけられた。

もったいないので、地面に顔を付けて舐めた。

「かわいそーに。浅ましくて、物知らずで、かわいらしい」

「ありがとうございます!」

ある程度喉が潤った事で、賛月は逆らってはいけない人間と会話していたことを思い出した。

なので、お礼を言った。

こんなに綺麗で美味しい水を飲んだのは、はじめてだった。

口の端のバッテンをくすぐったそうにしながら、男は賛月を蹴り飛ばす。

「ぅ」

男は地面に転がった賛月を足で固定して、動かないようにした。

「服を脱ぐんだ」

罵倒以外の言葉に疎い賛月は、踏まれたまま男を見上げる。

「服、脱ぐ。分かる?」

「ボス、その汚ねぇのが何かしましたか」

大勢のバッチを付きの人間を引き連れた男が、賛月を取り囲むように並んだ。

みんな金バッチ。誰の命令を優先すれば良いのか分からない。

「捨て子屋の子供だよ。純正の子供なら欲しい」

「何も、こんな汚い奴使わなくても……」

「欲しいって言ったんだけど?」

1人減った。ちょっと簡単になった。

全身から血を噴き出して倒れた人間に舌を伸ばす。

賛月の本能が栄養のあるものを求めていた。

力が出ず、ひっくり返った虫みたいにもがく。

「犬はな、野良犬の方が賢いらしい。厳しい環境で育った奴の方が優秀になるんだ。お前は最高の犬になる」

男の部下によって、賛月の服が破かれた。

「うん。ナンバーが刻まれてない。外来種(光の国の人間)じゃないね」

もったいない。血がいっぱい流れている。

賛月は素っ裸にされても、血まみれの死体を見ていた。

「この子がいるから他はいらないや」

ドォォォーーーーーーン

男が手を振ると、何も無い空から雷が落ちた。

少し先の道で何かが燃えている。

自然と発生した雲が、捨て子屋を鎮火した。

この街でやり過ぎた人間には、天罰が降る。

今回、それが捨て子屋だっただけ。

「このままだと風邪ひくよな……」

5色の瞳が賛月を見つめる。賛月も見つめ返す。

「よし。犬になれ」

男が命じると、賛月の体はたちまち小さくなって、毛むくじゃらになった。

地面がいつもより近い。

子供の顔をした毛むくじゃらの生き物に、6.66の構成員達は戦慄した。

「こ、これはどこからどう見ても立派な犬でございます!!」

「はい!どう見ても犬です!毛が生えてれば犬です!」

「流石はボス!天下一のボス!」

寒くなくなった。犬になれば食べ物もらえるかな。

お腹空いた。

「お前達は考えなしの鳥みたいにかまびすしいな」

賛月に水を飲ませてくれた人以外が、鳥頭になった。

スーツを着たピンク色の鳥がいっぱいいる。

こういうのをオヤジは何と言ってたか。

「一応、確認しに行くか」

水をくれた人が手を振ると、賛月達は捨て子屋の前にいた。

今さっきまであった建物が燃えて消えている。

賛月の見てない間に起きた出来事だったので、賛月はそこが自分の知る『捨て子屋』だと認識できなかった。

「ボス、子供に自分の家が燃えてる所を見せるのは……」

そう言った鳥の頭が人間に戻った。

「お前、物の恒常性を理解してるのか?」

水の人が賛月に質問をする。

よく分からないので首を振って謝った。

「じゃあ、大丈夫だ!世界は間違えていない。お前、犬。今日から世界のだぞ」

「?????」

お腹空いた。

燃えてる家からは、黒い煙と肉の焼ける良い匂いがした。

「返事は?」

「わん」

お腹がなく。

「おい。世界の犬が腹を鳴らしてる」

いち早く動いたのは、鳥から人間に戻った人間だった。

残りの鳥人間はシュワッとどこかに消えてしまった。

6番街では簡単に人間が消える。

「今持ってるのは、ミントと握り飯だけです」

「ほら、食って良いぞ」

白いものを渡された。

食ってイイ?たべもの……??

水の人に渡された白いものは、よく見るとオヤジが食べていためしに似ていた。

殴られても食おう。

賛月は他のキョウダイに盗られる前に、握り飯を口に押し込んだ。

チラリと目線を上げる。

「取らねーよ」

水をくれた人はそれだけ言うと、視線を鳥頭にやった。

「お前、名前は?」

「ヒモこんにゃくです」

「はっ?何でそんな名前なんだよ」

「ボスが名付けたんです」

ヒモこんにゃくの口調には、ありありと不満が見てとれる。

「じゃあ、改名。君は今日からおにぎりミントな」

「………………はい。(諦め)」

この後、五色に気に入られたおにぎりミントは、月1のペースで改名させられる事になる。

「ぅおえっ……」

賛月が吐いた。

「汚ね!」

吐瀉物を避け反射的に賛月を蹴ろうとしたおにぎりミントの足が消えた。

蹴ろうとした所で足の消えたおにぎりミントは、バランスを崩して尻餅をついた。

「そっか。お前、ロクなもん食ってないから胃がビックリしたんだな」

「ごめんなさい」

賛月の体は元の人間に戻っていた。

「よくある事だ。気にすんな」

この時初めて、五色の指が賛月に触れた。

「この身こそが世界のルール。世界が命ずる。世界の心のあるままにあれ」

五色の低く甘い声が、世界を現す。

彼が何かを切る仕草をすると、燃える『捨て子屋』は時間を巻き戻したように元の姿に戻っていた。

「おい、犬。世界は凄いだろ?って……寝てるのか」

気絶してます。







_______


それから賛月が目を覚すと、体は綺麗でお腹も空いていなかった。

骨の浮いた手はふくふくしていたし、頭もスッキリして変な臭いもしなかった。

「目が覚めたか?」

そう言って賛月の顔を覗き込んだのは、鳥人間だった人。おにぎりミントだった。

「お前の名前はサンガツに決まった。3月に拾ったからだそうだ」

「???」

「サンガツ。名前。分かるか?」

おにぎりミントは賛月に色々と説明してくれた。


まず、名前というものの概念。

「名前ってのは、お前と他を区別する為にある。それ以上でも以下でもない。だからって、どんな名前でも良いわけじゃないからな」

賛月が6番街で1番えらい『6.66』という組織に拾われたこと。

「感謝して、よく働け」

6.66で1番えらいのは五色ごしき 天罰てんばつという口の両端にバッタンがあり、目の色が5色に変わる人間であること。

「ボスの周りにいると、ボスも自分の姿もコロコロ変えられる。死にたくなきゃ逆らうな」

五色の主語が「世界」であること。

「残念ながら、ボスは世界そのものだ」

五色に『不可能』は無いこと。

「ボスの能力に制限は無い。考えた事が全て思い通りになる。ボスに気に入られれば、ボスの世界にいる限り不老不死すら叶うだろう。だからな、お前が俺の言葉を全部理解出来た時______」

おにぎりミントが賛月の世話係になったこと。

「サンガツ、お前は6.66のメンバーという自覚以前に人間の自覚が必要だ」

そして、サンガツという名前に“賛月”という当て字も当ててくれた。

「ありがとう、ございます」

「まぁ、すぐにボスが改名するだろうけどな」

おにぎりミントは照れ臭そうに鼻を擦った。




それから賛月はおにぎりミントに抱っこされて、食堂に連れて行かれた。

食堂には大きなテーブルがあり、見たこともないご馳走がてんこ盛りだった。

嗅ぎ慣れない臭いに圧倒されて、鼻を抑える。

「賛月、世界だよ。分かるよね?」

その時のボスは道で会った時と違い妙齢の女性になっていた。

ボスがどんな姿をしていても、口にバッテンがあり目の色が変わっているので分かるのだが、新入りの賛月は判断できなかった。

自分を無視してテーブルにばかり目を向ける賛月に、五色は満足そうにバッテンの付いた口を吊り上げる。

「お前はなーんにも、分かってないな〜。分かんないよな〜」

五色に頭を撫でられても、賛月はテーブルの上の料理を凝視していた。

見た事がなくても分かるのだ。こいつぁ、ムッチャ美味いやつ!!

「ボス、ちゃっちゃと食べさせてやりましょう。賛月のヨダレで部屋が埋まりそうです」

「おにぎりミント、コイツは世界の犬なのよ。ご主人様の顔と「待て」くらいは覚えさせないと」

五色が賛月の顔を掴んで自分に向かせた。

「世界は良い女でしょ?」

「はい。客が取れそうな面構えだ。大金稼いでこい」

悪意の無い賛月の後ろで、おにぎりミントが顔を抑える。

賛月のいた世界では、良い女はバインバインでよく稼ぐ女なのだ。

仕方ないのだ。全部、捨て子屋のクズオヤジが悪い。

「あのクズ男、もう1回生き返らせて殺してくるわ」

「それで気が済むなら、賛月の見てない所でどうぞ」

おにぎりミントに舌を出して、五色が退室した。

「いいか、賛月。今度、ボスに同じ質問をされたら「キレイです。」って答えるんだ」

「きらいです」

「アホ」

賛月は訳も分からず叩かれた。いつもの事だった。

「世辞ってもんが、子供ガキには分かんねーよな」

賛月の腹がなる。

「握り飯食うか?」

「そだててくれて、ありがとうございます」

今度は吐かずに食べれた。

テーブルの御馳走を眺めながら、40後半のオッサンと一緒に握り飯を頬張る。

「ボスの言う通り、しばらくは手で食える飯が良いだろうな。おい、落ちた米を舐めるな。床が汚れるだろうが」

「??」

おにぎりミントは、アングラな組織に所属してる割に子供が好きで面倒見の良い人間だった。

それはヒモ生活を続けていた事で、逃げてしまった嫁と子供の代わりだったのかもしれない。



おにぎりミントは健康で文化的な最低限の生活を知らない賛月に、根気強く人間のルールを教えてくれた。

誕生日には動きやすいジャージをプレゼントしてくれた。

その反対に、五色は自分の犬として生きるルールを、賛月に教え込んだ。

誕生日には犬らしい首輪と口枷をプレゼントされた。


五色はたまに賛月と2人きりになって、

「お前はなーんにも、分かってないよな。かわいそーに。浅ましくて、浅はかで、かわいいもんだ」

と言って撫でてくれた。

そんな時、6番街では決まって雨が降った。



五色の言う通り、賛月はなーんにも、分かっていなかった。

それが10年も経つと人間らしい生活を覚え、相手が何を言ってるかも分かるようになった。

今まで言われていた事も、自分が良い環境で育たなかった事も理解した。

【6番街について】

6番街は『6.66』という組織に治られています。

法治国家の一地域とは思えない酷さで、五色ごしき 天罰てんばつに目を付けられた人間は死にます。

この町で生きていく為には、6.66の支配下に下るか、6.66に目を付けられないようにヒッソリと生きていくしかありません。

この街に幸せになれる人なんていません。

幸せなのは、かわいそーに、彼1人だけです。

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