第25夜 アチョーーー!!
作戦名『シューティングスタァッチョ』。
この作戦で文字通り、アチョーさんは流れ星になる。
双子を盾にする私を見て、ヴィルヘルムさんは残念そうに首を振った。
「人質は通用しないと言った事を、忘れてしまったのかな?」
「「そーだそーだ!早く解放しろ〜」」
ヴィルヘルムさんの言葉に、盾にされた双子が賛同する。
双子を掴む手が汗ばんだ。
踊り場の方では、ボムちゃんとアチョーさんがチャンスを待っている。
ヴィルヘルムさんもそれを分かってて私と会話をしている。
「つまり、ヴィルヘルムさんは殺そうと思えば双子ごと斬るって事ですよね」
「そうするね」
ヴィルヘルムさんは「今日は曇りですね」と言われて頷く程度に首を縦に振った。
「「ぇっ」」
双子がどっと汗を流しはじめた。
「えっ?斬るの?こんなに可愛い兄ちゃんを?」
「あり得ない!こんなに可愛い俺を斬るなんて!」
おい、大器(兄ちゃん)。
思いがけない裏切りをされた勝器が、ムスッとした眼差しで大器を睨み付ける。
大器は自分を殺すと言ったヴィルヘルムを警戒して観察していた。
「騎士として、闘う意志のある者は女性でも怪我人でも容赦はしない」
じゃあ、ボムちゃんとアチョーさんに剣を抜かなかった理由は
なんだ。
剣が長い理由は?同じ位置から動かないのも余裕ではなく理由がある?
ヴィルヘルムさんは動かない。
これでは、隙が生まれない。
ヴィルヘルムさんに向けて双子を投げてしまうか?
そうしたって、避けるか斬られるか。
本当に双子を斬らせる気はない。どっちにも悪いから。
人が死ぬキッカケにも、殺すキッカケにもなりたくない。
あぁー、もう吐きたい。
声が優しくてもやっぱ怖いな。
ここに立つだけで自分がどう殺されるかみたいな幻覚が見える。
自分と双子が同時にバッサリ行かれて、ボムちゃんとアチョーさんも手足を切られてバサバサ切られる。
私の背後に回り込んで、私の背中を袈裟斬りにして次に行く。
私が投げた双子を避けてズバッとやる。
たぶん、あっちの頭の中で実際に斬ってるんだ。
漫画でいう殺気みたいな、絶対に殺す気迫っていうのが分かる。
こんな素人が相手でも油断なく、どう殺すかの計画書みたいなのを書いてるんだ。
逃げたい。
謝って、全部無かったことにして欲しい。
あー、吐きたいよー。
トイレ行って篭りたい。
トイレの中でゲームしたい。
こんな事してる間にも、白夜さんは苦しんでる。
もう、30分経った?
黒金さん現れないかな。
超パワーでゲームみたいに、相手をボッコボコにして欲しい。
泥棒に入ったのは悪かったけど、スマホ奪われたままだな。
ゲームずっとやってない。
全然ログイン出来てないから、イベントとかどうなってんだろ。
もう影の国エリア解禁されたよね。
シルバー君が、窓をパリーンッと割って助けに来てくれないかな。
いや、推しに戦わせるくらいなら自分がヤるわ。
自分会議は踊りに踊って進まない。
そりゃ、そうだ。アイム、ジャパニーズ。責任負いたくない。
でも、ボムちゃん達は私に期待して待ってる。
嫌だけどさ。殺されたくないし、殺すのも無理だし。
でも、本気を出さなきゃダメだ。
「すぅ……」
いつのまにか止まってた息を吸う。
命の価値は平等。命とは、みんな尊いものだ。
ボムちゃんとアチョーさんに比べたら、双子と自分の命なんて軽い。
私の価値基準は不平等だから。
「とても、良いものを見せてもらった。双子を殺す覚悟は出来たようだね」
「…………。」
集中。相手は油断も隙もない。双子を最大限に利用ならどうすればいい?
頭の中で、脳味噌が最大限に回転する音がする。
トプッ……キュルキュルキュルキュルキュル
瞼の動き。まばたきをする。
「殺せっ!!」
双子の耳元で思いっきり叫んでから、2人を蹴り出す。
私の声を合図に、ボムちゃんがアチョーさんによって投げ飛ばされた。
「くっそ女ぁ!!」「兄ちゃーん!!」
双子から数字の付いた光線が飛び、部屋中の棒やヴィルヘルムさんに当たる。
それを意に返さず、ヴィルヘルムさんが双子を弾き飛ばした。
人間2人が消え、視界が開けた場所に鬼の顔をした騎士が迫る。
部屋の真ん中あたりまで投げ飛ばされたボムちゃんは、出口に向けて鉤の付いた縄を投げた。
その隙に巨大化したアチョーさんが1歩で距離を詰め、私を抱え上げる。
巨大化したアチョーさんは、光の術符を発動させた。
振り抜かれた剣が私の首に到達する。
「あははっ!」
全部見える。
大器の能力で大きくなった鎧も、勝器の能力で小さくなった剣も。
同じ顔で部屋の隅に減り込む双子も。
爪楊枝サイズの剣に気付いて、ちょっと楽しそうなヴィルヘルムさんも。
視界を灼き尽くすような光量でアチョーさんが発光した。
ぐんっと体を上に引っ張られる。
出口に到達したボムちゃんが、落下の勢いと体重を増やしてロープを引っ張ったのだろう。
入口の方に刺した鉤がアチョーさんを経由し、出口に投げた縄をボムちゃんが引き落とす。
I (鉤で固定) (鉤で固定)
出 ↙︎ ↖︎ ↙︎
口 ↙︎ ↖︎ ↙︎
I ↙︎ (アチョー)
(ボム) (騎士)-←爪楊枝剣
【2カ所を固定する事で、2分の1の長さで上昇する事が可能】
【2人分の重さを持ち上げる力は、ボムちゃんが体重を増やす】
【この世界は攻撃以外での物の破損、怪我は無い】
※問題点
上昇したアチョーさんが天井に叩き付けられる。
発光する流れ星は、天井に衝突する寸前で足を振り上げた。
「アチョーーー!!」
「ぶふぅっ」
やばっ。
ハイテンションな声と一緒に、アチョーさんの靴底に貼り付けた【金】属性の術符が発動する。
【金】属性は、硬さや耐久力を司る属性。
攻撃の瞬間に耐久度が豆腐以下になった天井は、アチョーさんの蹴りで大きな穴を開けた。
逆バンジーみたく上の階に投げ出される。
_______( ______穴 ______)_______
「ふがっ?」
上の階で昼寝しながら敵を待っていたヨドは、床ごと蹴り上げられて、宙に浮いた。
あ〜れ〜と宙を舞いながら、穴に投げ込まれる女の子と発光する人間を確認する。
発光の収まっていく人間が小さくなると、縄にキュッと縛られたズボンが穴の向こうに消えていった。
ドタッ
「げむっ」
投げ込まれた女の子が自分の上に落ちた衝撃で、ヨドは気絶した。
「わ、何ここ?成功した?発光の瞬間に目を開けっぱにしてたから何も見えない」
床に転がった時に、ぷよぷよしたモノの上に落ちたから怪我は無かった。
下の階からはヴィルヘルムさんの笑い声が聞こえる。
「恋人の名前を刺繍したパンツとは…!いく年ぶりに見たぞ!」
パンツ?
ヴィルヘルムさんの渋い声で「パンツ」と聞こえた気がする。
「っっうっせーなぁ!見てんじゃねーよ、変態ジジィ!!」
え?あの丁寧なアチョーさんが怒った?
何が起きてるのか気になるのに、視界がチカチカして何も分からない。
ぷよっとした床の上で目を押さえて、必死に声のする方向を見ようとする。
勘違いしないで欲しいのだが、これは現状把握の為であって、アチョーさんのパンツと照れ顔を見ようとしているのではない。
アチョーさんの恋人の名前とかを気にするような下世話な気持ちは一切無いのである。
「パンツ?パンツ??」
私が戸惑っている間に、階段を登って追い付いたボムちゃんがアチョーさんの腰に上着を巻いてくれたらしい。
チャックを上げるジジジという音が聞こえる。
NOパンツなのか?NOパンツなのか?
残念ながら、視界が戻った頃にはアチョーさんはミニスカ状態だった。
何故か自分の下で目を回していた男性に手を合わせて、床に空いた穴を覗き込む。
「ハートパンツの君ー!解毒剤はいらんのかねー!」
オーバーサイズになった鎧を脱ぎながら、ヴィルヘルムさんが小さな瓶をふりふり振る。
その手には、アチョーさんの脱げたてのズボンも握られていた。
ヴィルヘルムさん、やっぱりお茶目だ。
アチョーさんが丁寧な口調にトゲを混ぜて、返答した。
「うちのボスが必ず入手いたしますので、心配しないで下さい」
「うちのボス、最強っすから!大怪我しないよう、気をつけた方が良いっすよ」
アチョーさんに続いて、ボムちゃんが流れるように自慢する。
私も何か言おう!
このメンバーで浮かないけれど、新入りとして馴れ馴れしすぎない言葉は……。
「信頼か」
ヴィルヘルムさんは何かを思い出したようで、楽しそうに笑った。
「君達に信頼されるボスに会ってみたい。良い事を聞いたついでに、君達を追うのは止めておこう」
ヴィルヘルムさんの意外な言葉に、ボムちゃん達と目を見合わせた。
ということは、作戦通り逃げ切り成功?
自分が発案して、みんなで考えた初めての作戦が成功して嬉しい!
みんなで目を合わせて、視線だけで喜び合う。
[4階と3階の間] 首無し騎士 通過
「君達の面白さに免じて、1つ忠告をしよう」
ヴィルヘルムさんの話は終わりじゃなかった。
「私の上の階にいるヨドは、ボヤッとして見えて強い。相手がどんなに変な格好をした間抜けに見えても、気を引き締めることだ」
上の階にいる、変な格好の間抜けそうな人間……。
小太りで信号カラーの服を着た男を、先程見た気がする。
「彼の能力には私もやられた。もしかするならば、その穴が何か勝利のきっかけになるやもしれん。とにかく、色と距離に……」
3人で「まさかねー」という視線を部屋の隅に向ける。
鼻水を垂らしながら目を回す男。
胸元に『ヨド』と所属や住所など書かれた迷子札を付けていた。
「どうした?ヨドはまた寝こけているのか?仕事を放棄しているようなら、私から苦言を呈するべきだろうね」
「あ、いや、その、彼なりに頑張ってると思いますから!大丈夫ですよ」
とにかく今、彼が寝てるのはサボりとかではない。
怪訝な表情を浮かべるヴィルヘルムさんに感謝の意を述べて、ささっと穴から離れた。
ヴィルヘルムさん情報では強いヨドさんから材料のレシピを盗み取り、3人で手を合わせる。
「どうか往生して下さい……」
「出番なくして、ごめんなさいっす」
「成仏してクレメンス」
相手が起きた時に黒金さんを攻撃されるとヤバいので、手足をぐるぐる巻きにして【私は降参しました】という紙と一緒に天井に吊り下げておいた。
[5階と4階の間] 三原色の墓 決着!
【アチョーさんの巨大化ってどんな感じ?】
アチョーさんの中華服っぽい燕尾服は実はかなり伸び縮みします。
なので、体のサイズを0.5〜2倍くらい変動出来ます。
アチョーの服が伸び縮みする仕組みは、裏地に【金】属性の術符と同じ文字を刺繍してます。
【金】属性は物の硬さ、強度に関わる属性で、物の使用回数や耐久度を変えられる環境にやさしい属性です。
【金】属性は、生活のさまざまな所で活用されています。
ちなみに、裏地に文字を書いたのはミラで刺繍をしたのはボムです。
愛です。(o^^o)




