第23夜 [4階と3階の間] 首無し騎士
女騎士さんと話し合いをする黒金さんを置いて、私達は次のフロアに辿り着いた。
《第3フロア》
そこには壁や床、いたる所から鉄の棒が生えていた。
その部屋の中心には、先ほどと同じ様に鎧を着た騎士が立っている。
「何だ。お前達、捕まってしまったのか?」
鎧の中から聞こえた声は、女性でなく威厳のある老人の声だった。
私とアチョーさんに背負われた双子を見て、腕を組んでいる。
「勝器殿。貴殿は女性に担がれて何とも思わんのか」
「屈辱だわ、首無しジジィ」
手が自由だったら中指を立てている勢いで、ノゾミに背負われた勝器が抗議をする。
「時間が無いっす!」
「援護します」
「ちょ、待っ?!」
またまた私がボーッとしてる間にボムちゃんが走り出して、アチョーさんも双子を放り捨て後に続く。
「ぁ、確保!」
この棒だらけの部屋をスルスル走る運動神経が無いので、アチョーさんが放り出した方の双子に覆い被さった。
2人が逃げない様に首に腕を回して、頭をぎゅっと抱き締める。
私に取り押さえられた双子は同時に叫んだ。
「「おっぱい!!」」
ガスッガスッゴンッガゴンッ
ボムちゃん方式で黙らせた。
私達が茶番を演じている間に、ボムちゃんとアチョーさんは騎士に向かって武器を振るっていた。
それを騎士さんは後ろに手を組んだまま避けている。
戦闘素人にも分かる強者ムーブ。
「確実に負けるね」
「あー、アイツ等死ぬな」
3人の戦いを見た双子が、とんでもないコメントをする。
「どうして?」
「だってさ、あの2人の武器」
「片方は鞭で片方は鉤付きの縄でしょ」
「リーチと軌道が大事な武器なんだよ」
「こんな棒だらけの場所じゃ簡単に振れない」
2人の言う通り、よくよく見ればボムちゃんはフックの部分を手で持ち、アチョーさんは援護をする様に騎士さんの気を引くだけ。
そもそも鎧を着た相手に2人の武器は通じそうも無い。
相手は剣も抜かずに、余裕で攻撃を避けている。
「2人はどうすれば良いの?」
「「そんなの敵に聞くなよ」」
双子にもっともな事を言われた。
この部屋に黒金さんがいれば、鉄の棒を1本ずつ抜くなりして普通の部屋にする事が出来る。
でも、黒金さんが来るまで待てば時間のロスになる。
女騎士さんとの話し合いがどうなっているか分からないが、1人で戦ってる可能性もあるのだ。
最高戦力の黒金さんを頼り続けてはいけない。
あっ。
「皆さん、動かないで下さい!」
私の声に、3人の動きが止まった。
先程の部屋では話し合いになり、この部屋ではボムちゃん達が突撃して忘れていたが、この双子は人質だ。
人質を取って脅すなんて初体験だが、もうやるっきゃない。
騎士さんに向けて声を張り上げる。
「お仲間の命が惜しければ、解毒剤の材料を渡して下さい!お願いします!」
双子の首を抱いたまま、真剣に頭を下げる。
「ふぁっふぁっふぁっふぁっふぁ!」
騎士さんは豪快に笑った。
「こんな優しそうなお嬢さんが、人質を取って脅す様な人間には見えませんな」
「私は本気です!」
「ああ、本気で頼んでいるね」
騎士さんは優しい声を出して、兜を脱いだ。
「へぇー、あんな顔だったんだ」
「初めて見たね。イケオジじゃん」
人質に取られているのに全く緊張感の無い双子が、騎士さんの顔に感想を述べる。
双子の言う通り、騎士さんはイケオジだった。
シワの数は経験の数。
大人の色気と老練な知性の宿った瞳、孫を見る様な優しい笑みがたまらんです。
しかも、騎士。良い!
もう、雰囲気が良いよね。
若者独特なギラギラしたものが無くて、清廉というか木枯らしの様な哀愁というか、経験を積んだからこその知性?
現実じゃそうそう見つからない枯れオジ!!
「我が名はヴィルヘルム。……今は首無し騎士と呼ばれている」
「ヴィ、ヴィルヘルム様……!」
年老いた騎士は、お辞儀ひとつだけでカッコイイ。
許して、シルバー君。これは浮気じゃ無いのよ。
推しは推し、オジはオジなの。
「勇敢なお嬢さん、君のお名前は?」
「牧原 のぞみと申します!」
「可愛い名前だね」
「んふっ」
可愛いって言われちゃった!
イケオジの魅力にハートを射抜かれて、トキメキが止まらない。
ボムちゃんとアチョーさんが見てる手前、あまり喜んではいけないけど口がニヤッとしてしまう。
「ははは、君は何だかヴィオラに似ているね」
「えへへ、そうですか?」
よく分からないけど、楽器に例えられた。嬉しい。
「レディ・マキハラ。君に忠告をしよう」
騎士のオジ様が人差し指を立て、ウィンクをした。
その姿も紳士的で様になっている。
「この先の誰も、誰を人質に取られても要求に応じないよ」
「えっ……」
オジ様の言葉を信じられず、思わず双子の頭を見た。
「だから言ったじゃん。人質なんて意味無いって」
「俺達、金が貰えるから集まっただけで他のメンバーの命なんてどうでも良いんだよ」
同じ顔がコピペみたいに並んで私を見ている。
「今回の戦いがゲーム形式になったのは、誰も人間を相手に命がけの戦いをしたく無かったからだよ」
「ウチはこう見えて、反社会的勢力じゃないからね。ちょっと物騒なカゲの駆除業者だよ」
なんとも意外な事実だ。
私が動揺している間に、ボムちゃん達は攻撃を再開する。
「でも、首無しは違う」
「アイツは元々人間を相手にする騎士だから」
「人を殺すのに慣れてるんだ」
「ここで全員殺される前に、降参した方が良いんじゃないかな?」
双子の言う通りかもしれない。
ボムちゃんもアチョーさんも必死に攻撃をしているけれど、ヴィルヘルムさんは余裕でそれを避けている。
「分かったらさ」
「さっさと解放しろよ」
「分かった……」
ヴィルヘルムさんに勝つのは諦めよう。
幸い、ヴィルヘルムさんは避けるばかりで本気を出していない。
「ボムちゃん!アチョーさん!いったん戻って来て下さい!」
2人は私の呼ぶ声に応じて、戻ってきてくれた。
ヴィルヘルムさんは紳士だからなのか、追わずに元の位置にいてくれる。
階段まで戻ってきた2人は、肩で息をしながら座り込んだ。
「何か、良い考えがおありなのでしょう……?」
アチョーさんが私に期待した目を向けてくれる。
ボムちゃんは水の術符を使って水分補給をしていた。
「あんまり自信がないんですが、聞いてくれますか?」
_________
作戦が双子に聞こえないように小声で話す。
「まず、あの双子の能力はサイズの分かる物を±100cmで大きくしたり小さくしたり出来るんです」
「何でそんな事が分かるんすか?」
ボムちゃんの質問に、私は第1フロアでした考察を話した。
数字の付いた光線の事、箱の事。
すると、2人は思った以上に感心してくれた。
「なるほど。もしかしたら、ノゾミさんには他人の能力が見えるのかもしれませんね」
「普通は見えないんですか?」
アチョーさんが頷く。
数字の付いた光線とか、エフェクトみたいな感じでゲームっぽい!と思ってるだけだった。
「ウチ等には、数字の付いた光線なんて見えなかったっすよ」
「ほへぇー」
プレイヤー特権だろうか?
こちらの世界の人間には能力は現象でしか確認出来ないけど、ゲームの外側の人間には、ゲーム画面と同じく、相手の能力が見えるらしい。
大した反応を示さないノゾミに焦れて、ボムが腕をブンブン振る。
「ノゾミちゃんにとっては普通でも、凄い事なんすよ!」
「お陰で双子の能力も分かりましたしね」
「うーん、努力せずに特別な事が出来てもツマンナイんだよな〜」
せめて伸ばし所のある能力だったらな〜。まぁ、いっか。
ラッキーだと思おう。
「それで、ノゾミちゃんの特別な目にはあの騎士がどんな能力を使ってるのか分かったんすか?」
2人が期待した目で私を見てくれる。
どうやら2人は、あの騎士が何かの能力で全ての攻撃を避け切ったのだと考えたらしい。
私は首を横に振って、2人に謝った。
「ごめんなさい。相手が何の能力か分かりません。たぶん、能力を使わないで避けてるから……」
その先の言葉を誤魔化す。
2人は明らかに落胆している様だった。
「ということは、実力で死角から来る攻撃を避けていたんですね」
「攻撃が当たったのに当たっていないような感覚は達人の技だったんすか……」
「戦いの詳しい事は分かんないですけど、大丈夫です!」
ノゾミは無駄に洗練されたウインクを2人に見せた。
【ノゾミの鞄の中身】
ハンカチ・ティッシュ・コンパクト・救急セット・筆記用具・簡単な地図・術符基本セット・今まで手に入れた解毒剤の材料




