第18夜 命のタイムリミット
そうこうして私達は毒虎一家の事務所の前に辿り着いた。
龍を踏み付ける虎の看板が、来るものを威圧する。
キィィィイイ
建物を囲む壁の黒い門が自動で開いた。
壁の中も高い壁に囲まれた道があり、その先に1人の少年が仁王立ちしていた。
燃える様な赤い髪に、肉食獣が着ける様な口枷をはめた番犬。
「動くな」
ノゾミは、自分を逃して(?)立場が悪くなったかもしれない狂犬さんを心配していたので、元気そうな姿を見て安心した。
狂犬さんはまず黒金さんが持つ大きな箱に目を向け、それから縄で縛られたノゾミを確認した。
スマパラの面々は、狂犬さんの言う通り動かずに、彼が近づいて来るのを待つ。
そして、5歩ほど離れた場所で足を止めた。
「その箱は何だ?」
引越しとかで使う衣装ケースサイズの箱を見て、狂犬さんが当然の質問をする。
「武器だ」
馬鹿正直な黒金さんは、狂犬さんに箱の中身が武器だと教えてしまった。これでは計画の流れが狂う。
武器と聞いた狂犬さんは箱から視線を切らずにバックステップで距離をとり、両手で何かの形を作った。
「狛犬・《大》」
「わっ」
フワッと風が吹いて、人が乗れそうなほど大きな犬が2匹現れる。
他のみんなは、こんなファンタジーな出来事に慣れているのか、犬が現れても無反応だ。
その犬は狂犬さんを守る様に低い姿勢になって、箱の中身に向けて吠えた。
(ワン!)
首に赤と白の綱を巻いた方の犬が、箱にクンクンと鼻を近づけて、狂犬さんに何かを伝える。
「その中、人が入ってるのか?」
それは現れた犬に対する問いかけだったが、自分への言葉だと勘違いした黒金さんは、
「よく分かったな!入ってる」
と、感心した様な、困った様な顔で笑った。
黒金さんの背後でみんなで一斉に顔を伏せる。
あぁー!黒金さん、嘘を吐く事を覚えて〜!!
「荷物は怪しいが、一切の嘘は無し。後ろの奴らも怪しいが、用件だけ聞いてやる」
全て正直に答えられた狂犬さんは、毒気を抜かれた様でお供の犬も唸るのを止めて大人しく床に伏せる。
黒金さんが嘘を吐かなかったおかげで、いきなり攻撃をされずに済んだ。
黒金さんがこれ以上のボロを出す前に、アチョーさんが縄で縛られた私を狂犬さんの前に差し出す。
率先して仲間を差し出すのは、演技プランと印象が変わって
しまうので私は慌てて口を開いた。
「皆さん、今までありがとうございました!!」
新入りが出しゃばり過ぎたかな。
と思いつつも、
いつまでも学生気分で仕事をしない奴は良くない。
みたいなドラマも見たので、しっかり自分の役割を果たす。
「スマパラは毒虎一家に降伏します。私の事はどうなっても構いません!ですから、どうか家族には手を出さないで下さい!」
冷たいコンクリートに額を付けて、懇願する。
どんな嘘を吐いても良いから、白夜さんが無事か確認する。
頭を回転させろ。回転しながら、話せ。
怪しまれる前に丸め込め。
「こちらが武器を持ってきたのも、抵抗の意思が無いと示す為です」
打ち合わせでは、箱の中身はスマイリー向日葵パラダイスの旗と、僅かな金品、権利書だった。
それは黒金さんの正直さと相手の能力によって、武器とバレている。
この世界に来てから得た知識を総動員して、それっぽい理由を捏造する。
「この武器は月末にカゲと戦う為の武器であって、毒虎一家さんに反乱を起こす為の武器ではありません。我々スマイリー向日葵パラダイスが、毒虎一家さんからすぐさま信頼を得るのは難しいと考えましたので、手始めにコチラの武器を預かっていただこうと考え、持って参りました」
声は震えなかった。
上手く騙せたかな?
結果が分かるのが怖くて、顔が上げられない。
「そうか。そちら側の言い分は理解した。だが、いきなり武器を持ち込む行為は疑われると思わなかったのか?」
狂犬さんの言葉を、頭を下げたまま受け止める。
犬の大きな足が、私の視界に入った。
獣の荒い息が耳元でする。
「それに、箱の中に人が入っている事の説明は無いぞ」
どっと背中から汗が出た。
こんな命懸けの圧迫面接を、今まで受けた事が無い。
駄目だ。嘘を考えれば考えるほど、現実的な理由から離れていく。
人間が箱に入ってる正当な理由って何だ?
視界が狭窄して、頭がどんどん真っ白になっていく。
どうしよう。どうしたら、どうすれば……?
「た、た、たす、たすけ……」
自然と口から助けを求める声が出ていた。
バキッ
背後で何かが壊れる音がした。
その音の出所を全員が見る。
「ごめんな」
そこには困った顔でバンザイをする黒金さんがいた。
その姿に違和感を覚えるが、その正体が分からない。
黒金さんが謝るという事は、私は見限られたって事?
カラララララララ……
金属バットが地面に擦れる音がした。
心臓の鼓動が、金属の擦れる音に掻き消される。
誰も動けないこの状況で、ハチちゃんが歩いている。
「動くな」という命令を無視したハチちゃんに、狂犬さんの出した2匹の犬が飛びかかる。
「ぅぅぅう〜〜(新入りをいじめるな)」
ハチちゃんの黒いマスクの奥から出る唸り声に、狂犬さんの犬が怯んだ。
飛びかかって距離を詰めた分を、ジリジリ後退させられている。
「ぐるるるるる……(ヒナさんが命令した。だから、新入りは守る)」
ハチちゃんの喉から、犬が唸る様な低い音がしていた。
その背後で、大きな木の破片が体重の無い女の子と共に降ってきた。
ガコンッガタンッガラッ
ボムちゃんが投げ渡した布袋を、アチョーさんが受け取る。
そして、私の前に立ったハチちゃんの赤いジャージが、ふわりと風に浮いた。
ハチちゃんが、バットの頭を地面に打ち付ける。
ガツッ
「ハチちゃん……」
狂犬さんと私の間を通せんぼする様に、ハチちゃんが立ちはだかった。
その姿は、まるでヒーローだ。
「ハチさん」
アチョーさんがハチちゃんに声をかける。
ハチちゃんは狂犬さんを睨んだまま、指をくいっと建物に向けた。
「失礼しますっ」
土下座の姿勢からアチョーさんに担ぎ上げられ、ハチちゃん以外は建物に向けて走り出す。
「やっぱりロトの言う通りになったか」
狂犬さんの犬は私達に攻撃はせず、真っ直ぐにハチちゃんへ襲いかかった。
狂犬さんも背中から鉄パイプを抜き出す。
「すみません!」
自分を担いで走るアチョーさんと、自分が助けを求めた所為で、計画途中に箱を破壊してくれた黒金さんに謝る。
「大丈夫っすよ!」
「ひとまず、例の階段を避けて安全そうな階段を登りましょう」
相手の長所を活かされない様に、例の特別な階段は避ける。
「あっちです!」
私は記憶にある普通の階段の近くにある入り口を指差した。
「まだシロの安否確認が出来てないんだけど、どうする?」
「それは心配に及ばないさ!」
私達が来るのを予見していたかの様に、入り口から虎のお面を付けた人間がゾロゾロと出てきた。
スピーカーとモニターを持って現れた10人ほどの集団は私達を通すまいと銃を構える。
「シロは無事なのか?」
黒金さんの問いかけに、モニターを持った人物がこちらに手を向け「ちょっと待って」のポーズをした。
「私は7番街のドン・ジュアンと呼ばれている!そう、とても美しいと評判の」
スキップ ▶︎▶︎▶︎||
モニターの中で喋る人間の言葉が早送りされる。
他のお面達も「ごめんねー」と言う様に両手を合わせるので、モニターの人の準備が整うのを待ってあげた。
「私が元からモテていたという事が真実なせいで」
スキップ ▶︎▶︎▶︎||
「そんな訳で、マイプリンセスお嬢と賛月クンが」
スキップ ▶︎▶︎▶︎||
「それで賛月クンには内緒で花屋のレディーに」
スキップ ▶︎▶︎▶︎||
モニターの中の人が関係ない話を長々している所為で、部下っぽい人達が苦労している。
なかなか本題に入らないし、敵側を待たせているので、お面の集団はザワザワしていた。
そしてどうでも良いけど、モニターに映ってる人の服が3回とも別の物になっている。
「そう、私の【迷推理】でね!」
ここでモニターを持つ人の手が止まった。
「やっぱり悪い事はしたくないものだし、黒金クンを怒らせると怖いからね!白夜クンは丁寧に扱っているよ!」
本題らしきものが始まったので、モニターを持つ人がグッと親指を立てた。
周りのお面の人達がペコペコ頭を下げて、私達にモニターを見せてくれる。
敵なのに、なんか憎めない集団だ。
「ヨドクンとレナクンが白夜クンを誘拐した時は、確かに強引な手段を使ったと思う。ごめんよ。美しい人が傷付くのは私も本意ではないのさ」
「は?」
黒金さんから掠れた低い声が漏れる。
あの聖人黒金さんがブチギレているのを感じて、怒りの矛先を向けられない様に黙ってモニターを見続ける。
「だから白夜クンには『dress code』で3ホール限定の、美味しいケーキを食べさせておいたよ!許しておくれ〜」
大袈裟な動きをする緑のロン毛の代わりに、緊張した顔の白夜さんが映し出された。
「えっ?良いの?毒とか入ってる??」
「シロ!」
黒金さんがモニターにくっ付くのにつられて、私達もモニターの前に集まった。
「い、いただきまーす。わー、可愛くてもったいない」
左手に手錠をつけられた白夜さんが、プラスチック製のフォークでケーキに付いた蝶の飾りを口に運んだ。
「びゃっ!美味しい……!」
かわいい。
ケーキも白夜さんもひたすらに可愛い。
敵地に居て、現在ハチちゃんは交戦中だというのに和んでしまう。
「良かった……」
白夜さんの無事な姿を見て、黒金さんはホッとしたようだ。
「ご馳走様でした。けほっけほっ」
モニターの中の白夜さんが咳き込む。
「おや、もしかして白夜クンは体が弱いのかい?」
「体力が無いのと、肺が少し……」
そっか。よく咳をしてると思っていたら、白夜さんは体が弱いのか。
「あははは!マズイな!」
白夜さんに向いていたカメラが縦回転して、緑ロン毛に戻った。
「白夜クンの体が弱いだなんて知らなかったから、普通の人間と同じ量の毒を盛ってしまったよ!」
「…………は?」
「えっ?」
カメラの映っていない場所から、ガチャンという音が聞こえる。
「ほら、私の【迷推理】ではスマパラの諸君は要求を飲んでくれないと出ただろう?だから、どうすればこちらの被害を最小限にして、最大の利益を出せるか考えたんだ」
画面が映像から、イラストに切り替わった。
今いる入口から、例の階段へ行く道が書かれた地図が映し出されている。
「ゲームをしよう、黒金クン!私達は命を取って、君達は解毒剤の材料を取るんだ」
「解毒剤の材料……?」
「そう。どんなゲームか気になるよね?」
テレビ電話では無いので、黒金さんの疑問から少しズレた事を緑ロン毛は話し始める。
「君達には、それぞれのフロアに待機する毒虎一家の戦闘員と戦ってもらう。フロアは全部で6つ!その内の4つが当たりのフロアだよ」
3つの瓶と『レシピ』と書かれた説明書のイラストが映し出される。
「我々は解毒剤に必要な3つの材料とレシピを用意している。そして、ダミーが3つ。これらを手に入れる為、スマパラ諸君は階段の部屋で戦っておくれ」
イラストが特殊な階段を縦から見た図に変わる。
「ルールは簡単。こちら側はいくらでも君達を殺せるけど、君達は1人でも毒虎一家のメンバーを殺した瞬間に解毒剤の材料を破棄するよ。もし、そちらのメンバーが【降参】をした場合は、こちらも命は奪わない。その代わりに、最初にした要求の通り毒虎一家に従ってもらうよ。どちらにとっても優しいルールだね!」
今すぐモニターを叩き割りたい衝動にかられているが、何か大事な事を話すかもしれないので歯を食いしばって映像を見続ける。
「今、君達は「そんなルール優しくない!」と、思ったかな?ならば、特別ボーナス!全ての戦闘員を降参させ、材料を集めた暁にはそれまでに【降参】をしたそちらのメンバーも解放してあげよう!逆に、君達が全員【降参】をしても、白夜クンは助けてあげるよ!その代わり、君達は全員奴隷。泥棒をした少女は死刑だ!」
私達が勝っても負けても、白夜さんは助かるのか。
厳しいゲームを持ちかけつつも、希望を持たせる。
見事な飴と鞭。
「どうだい?私達はとても優しいだろ?」
優しいか優しくないかは別だ。
「えーと、普通の人が毒が回りきって死ぬまでが12時間。今は何時だ?タイムリミットは何時間!って宣言したいんだがな〜。この動画を黒金クン達がいつ見るか分からないし……。うん。とにかく、体の弱い白夜クンを早く助けようね!」
モニターにタイマーが映される。
タイムリミットまであと11時間。
しかし、その時間まで白夜さんの体がもつかは不明。
「屋上に正解の材料とレシピを持って辿り着ければ勝ちだよ!」
動画が終わると同時に、私達は駆け出した。
【ゲームのルール】
白夜クンを助けるために、解毒剤を手に入れよう!
フロアは6つ!
必要な材料は3つに、レシピは1つ!残りの3つがダミーさ!
白夜クンが死んじゃう前に、上手く敵を倒しながら、材料を揃えよう!
我々はいくらでも相手を殺せるけど、スマパラ側が毒虎一家のメンバーを1人でも殺したら解毒剤の材料を破棄します!
でもでも!こちらも鬼ではないので、このゲームには【降参】というルールが存在します!
毒虎一家側が【降参】をした場合は、スマパラに材料を渡します。以後、一切の攻撃をしません。
スマパラ側が【降参】をした場合は、誰からも攻撃されません。しかし、ゲーム後は毒虎一家の下僕になります。
⭐︎★⭐︎スペシャルルール⭐︎★⭐︎
毒虎一家側が全員【降参】したら、それまでに【降参】したメンバーは全員自由になります。
もし、スマパラ側のメンバーが全員【降参】しても、白夜クンの命は助かります。
このゲームは、時間の短縮と【降参】の使い方が鍵になるね!




