第16夜 いざ毒虎一家
「門限……?」
黒金さんが頷く。
「影の国では、夜の11時〜朝の4時まで街同士の行き来が出来なくなるんだ」
黒金さん曰く、門限は法律というより神様の決めたルールの1つらしく、門限を越えると街と街の間に霧がかった空間が生まれるらしい。
そして、それを無理に越えようとすると、街の中心に飛ばされるんだとか。
不思議だ。何の意味があってそうなっているのか分からない。
更に、このルールがあるのは影の国だけのようだ。
不公平だなぁ!
「今は10時。正直、敵陣で1人夜を明かすシロが心配だけど……俺はボスだからな。みんなの心配もする。今日は休もう」
「白お兄ちゃんなら、大丈夫よ」
「うん……」
そっか。今からでも頑張れば、7番街に行けるけど、撤退出来ないリスクを考えて行かないんだ。
黒金さんは、ミラさんの言う通りボスとして考えて判断した。
なら、私の役割はきっと……。
「今日は寝て、明日に備えよう。どうせなら、万全の状態で毒虎一家に挑もう」
「「「「「賛成」」」」」
みんなが思い思いの物を叩いた。
_______
カチ、コチ、カチ、コチ
時計の秒針の音と、みんなの寝息が部屋に籠っている。
この世界の夜は、東京に比べて暗い。
みんなが寝ているのを確認して、起こさない様にソッと部屋を出た。
そーっと、そーっと、廊下を歩く。
床がキシキシと音を立てる。
「ノゾミ?」
「!」
驚いて叫びそうになったので、口に手を当てた。
「眠れないんだね?」
そこには私と同じく、男子部屋を抜けて来たミラさんがいた。
「やっぱり不安になるよな」
ミラさんが心配そうな顔で私に近づき、顔を覗き込む。ミラさんの顔は、月明かりに照らされて妙にキラキラ輝いていた。
「何で、そんなに汗かいてるんですか?」
暗くてよく分からないが、こうして顔を近づけるとミラさんが汗だくで苦しそうな笑みを浮かべてるのが分かる。
「流石にバレるか……。実は、右手の骨が折れたかもしれないんだ」
「えぇっ!」
誰も起こさない様に小さな声で驚く。
「黒金の石頭に拳骨してから……ずっと痛かったんだ。でも、みんなで大事な話をしていたから我慢したんだ」
「えぇ〜?」
ミラさんが左手で私の服をギュッと掴む。
「痛いぃぃい〜〜」
隠す事が無くなったからか、ミラさんが子供みたいな顔をしてうぇ〜と口を歪める。
「とにかく冷やしましょう」
「うぅ〜〜。俺、偉い?」
「よく我慢しましたね。でも、怪我したなら早く教えて下さいね」
「ぐしゅ……」
薄紫の頭をポンポンして、ミラさんを台所に連れて行く。
「お水で冷やしたら、指を固定しましょう。きれいな文字を書く、大事な手ですから」
ミラさんの手は我慢の代償か紫色になって、あり得ないほど膨れていた。これはかなり内出血している。
「痛かったでしょう?」
「痛か…………。そんなに、痛くなかった」
ちょっと黙ってミラさんが言い直す。
「どうして急に嘘を吐くんですか」
せっかく素直に頼ってくれたのに、今更見栄を張るミラさんに「めっ」をする。
【スマパラルールその1】
嘘を吐かない
に反しちゃうぞ!
「少しでもカッコ付けたいじゃん」
ミラさんが恥ずかしそうに目を逸らす。
えっ?好きな子の前ではカッコ付けたいって言った?言ったよね?
ミラさん、私の事好きなんですかね?!
「入ってきたばかりなのにもう弱いのバレた……」
何だ。後輩に見栄を張りたかっただけか。
そのお気持ち、よく分かる。
「大丈夫ですよ。私だって年齢はみんなより上なのに、お世話になってばかりですから」
「誇らしげに言うこと?」
「ふふふっ」
この世界に来てから、ミラさんにはお世話になりっぱなしだったから、今はお姉さんっぽい事が出来て嬉しいかもしれない。
「ミラさんみたいに優しい先輩がいる事は、誇らしげに言う事ですね」
「あっそ?」
白い頬に赤みがさす。ミラさんの耳まで熟した桃みたいだ。
照れてやがるぜ。
せっかくミラさんと2人きりになれたので、ずっと聞きたかった事を聞いてみる。
「どうしてスマパラの皆さんは、私を見捨てないんですか?」
人が良いにしろ、何にしろ、優しさにも限度がある。
「私を引き渡しても相手の下に行く事になると言っていましたが、引き渡さずに戦うより交渉すれば良いじゃないですか。そんなに悪い人達じゃないんでしょう?」
8番街と7番街はそこそこ親交があったと聞く。
私が出会った狂犬さんも、「情報を吐かせて殺す」などと言ったが、それは必要な事であって、心の底から悪い人には見えなかった。
「家族って言っても、数日一緒にいただけの仲じゃないですか。普通なら、もっとずっと一緒に居る人間を選びますよ」
「まぁ、気になるか」
包帯を巻く手から目を上げる。
「今更、説明されると難しいな……。色々あるし」
そう言うミラさんは過去に思いを馳せているようで、斜め下を見て
「んー」
と、口ずさんでいた。
随分と長い間唸って、包帯を巻き終わってしまった。
「やっぱり始まりは黒金と白夜になるか」
ミラさんが口の端のバッテンを指で擦る。
それから言葉を選ぶ様にまた、思考に沈む。
「結局は……。ノゾミも助けられた後に同じ気持ちになるから分かると思うよ」
「助けられた後にですか」
明日生き残れるのかも分からないのにな。
「人を助けたい気持ちは、助けられた人が1番よく分かる」
「なるほど……」
言ってる事は分かる。でも、言葉を解釈するだけで分からない重さを感じさせられた。
「包帯、ありがとう。明日は忙しいと思うし、おやすみ」
「おやすみなさい……」
こうして治療はしたが、やっぱりミラさんは明日の作戦に着いて行けそうにないらしい。
ミラさんは、みんなの前で泣いていた。
「お前の分は俺が活躍するから元気出せ!」
「ぐろがねぇ〜〜!!」
あのミラさんが、黒金さんの腰に抱き付いてワンワン泣いている。
それをチラッと見て、ハチちゃんは玄関の外で準備体操を始めた。
ボムちゃんとアチョーさんも少し困った顔をしただけで、靴を履いて平然と通り過ぎる。
よくある事なのかもしれない。
あの泣き顔は自分だけに見せてくれたものだと思っていたから、ちょっとガッカリだ。
「ミラお兄ちゃんは私と一緒にお留守番しましょうね」
車椅子のヒナちゃんは、7番街に行くのは危険なのでお留守番をする。
「ミラ、ヒナを頼む。ヒナは拠点を頼む」
「任せて!」
ヒナちゃんが元気に返事をした。
「ぐすん……。全員、無事に帰って来い」
「おっふ」
もしかしたら、この物語のヒロインはミラさんなのかもしれない。
泣いて目を腫らしたミラさんは抜群に尊かった。
ヒナちゃんはというと、普通の日の見送りと変わらずニコニコしていて安心する。
何はともあれ……。
「いざ毒虎一家!!」
【スマパラで腕相撲大会をしたら】
※みんなの安全を考え、黒金は審判とする。
優勝 ハチ
準優勝 アチョー
3位 ノゾミ
4位 ボム
5位 ヒナ
6位 白夜
7位 ミラ




