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水平線上ノ煌星  作者: 猫屋敷 凪音
ファミリー編
17/48

第15夜 ノゾミの活躍

※文章中に出てくる【バナー広告】とは


1,ポップ広告分野で、紙やプラスチックで長方形や半円形に作った旗状の広告物。


2,インターネットのホームページに表示される帯状の広告。クリックすると広告主のホームページへつながる。

Twitterとかで見る、なろう漫画の宣伝や「抱かせろ」などが、バナー広告の仲間。

と言うと、馴染み深い……?

スマイリー向日葵パラダイスの会議室兼食堂には、7人のメンバーが着席していた。

その空気は重い。

「こんな寒い時期に誘拐されたシロが、どんな扱いを受けているか……」

黒金さんの震え声で、誘拐された白夜さんを想像する。

縄で縛られ、目隠しをされた美少年。

そこに迫る不埒な魔の手。

少年に抵抗するすべは無く……。

今、思いっきり脳内がバナー広告だった。

「どうぞ私を引き渡して下さい!」

テーブルに身を乗り出し、項垂れる黒金さんへ両手首を差し出す。

自分は図太い所があるので、繊細そうな白夜さんが捕まるよりはマシだろう。

狂犬さんが良い人そうだったので、ワンチャン頼めば逃してくれるかもしれない。

「ノミちゃん。ノミちゃんを引き渡しても私達が毒虎一家の傘下に下る事になるよ」

「……はい」

ヒナちゃんが冷静に私を着席させた。

スマパラに入ってから何の役にも立ててない事に情けなくなる。

そんな私を慰める様に、アチョーさんとボムちゃんが声を掛けてくれた。

「それに、スマイリー向日葵パラダイスは家族を売る様な組織ではありませんから」

「そうっすよ!何があってもノゾミちゃんは引き渡さないっす!」

テーブルの下で誰かが私の手を握る。

「ハチちゃん……」

ハチちゃんの目は、「絶対に守る」と私に訴えかけていた。

「建設的な話をしよう」

ミラさんがホワイトボードの前に立った。

キュッキュッキュッと音を立てて、ボードに文字が記されていく。

「ボス、我々の方針としては

・あちらの要求には従わない

・殺られる前に攻撃

で、よろしいでしょうか?」

会議だからか、ミラさんが黒金さんをボスと呼んだ。

黒金さんの言葉と、今までの方針を考えると基本はこうだろう。

ミラさんの確認に、黒金さんが同意する。

「今回の目標はどうしますか?」

「シロの救出を最優先にする。救出後に相手の戦意が消えてなければ、建物ごと毒虎一家を壊滅させるしか無いだろ」

それは救出さえ出来れば、あとは何とかなるという事。

黒金さんの言葉で、ホワイトボードの文字が増えていく。

建物ごと壊滅って、普通じゃ考えられない作戦だよね。

でも、それが不可能で無い事は、黒金さんの建物解体を見ているので知っている。

この世界でATK値が大きいという事は、とても有利なのだ。

リーダーから目標を決められたミラさんが、ホワイトボードから離れて食器戸棚の下の段から紙とペンを取り出す。

それから少し視線をテーブルに彷徨わせて、自分が元いた席に座った。

黒金さんがミラさんの背後に立ち、他のメンバーもミラさんが何を書くのか見やすい位置に移動する。

これはきっとミラさんが、1番話を理解しにくい私に配慮して、ここに座ってくれたのだろう。

「ノゾミ」

「はい」

ミラさんが紙束の半分とペンを私に渡す。

「ノゾミは1回、毒虎一家の事務所に侵入したはずだ。その時の侵入方法と建物内の様子を覚えてる限り書いてくれ」

「分かりました!」

やっと明確に役に立てる!!

盗みに入ったのは良くなかったけど、こうしてスマパラの役に立てるならどんな情報でも紙に描こう!

自分の侵入方法と侵入してからの行動に沿って、建物の分かる範囲の見取り図や家具の配置を書いていく。

毒虎一家あちらも黒金が建物破壊をしたら不味いのは心得ているはずだ。だから、白夜が監禁されてる部屋に最短で辿り着く事が出来れば、被害を最小限に……」

30分後、やっと毒虎一家の事務所の隣に建っていたビルの情報を書き終わる。

「陽動作戦は駄目だ。相手の人数をバラけさせるにしても、こちらの人数も減るし、シロに何かされたら……」

みんなが話し合う横で、毒虎一家の事務所の絵を描く。

書き込む様に似た絵をもう1枚描く。

この世界の見取り図の様式がわからなかったので、そういうものを見るのに慣れてない人でも感覚的に分かる立体的な部屋をいくつも描いた。


『隣の建物を切って横から見た絵』『毒虎一家に侵入する為に使用した廊下と窓付近の絵』『初めに侵入した可愛い部屋の絵』『そこにあった家具の三面図』『毒虎一家の門から建物までの絵』

『毒虎一家の建物を横から切った場合の窓や部屋の位置を描いた絵』……etc.


私が描いて重ねていく紙を見て、ボムちゃんが「ほー」と息を漏らす。

「ノゾミちゃん、記憶力が良いんすね」

「気合入れました!」

「おや。気付いたら、かなりの量が出来上がってますね」

「ノミちゃん、私にも見せて〜!」

「どうぞどうぞ」

アチョーさん、ヒナちゃん、他のみんなにも重要になりそうな図を配る。

「おー、綺麗で分かりやすい図だな!」

記憶にある限り頑張った武器庫の図を見て、黒金さんが褒めてくれる。

「ノミちゃん……。頭、大丈夫?」

「えっ。頑張って描いたんだけど……駄目だった?」

思い出せなかったり、勘違いもあると思うけど、みんなが良い作戦を建てられる様に、少しでも多く情報を書き込んだつもりだった。

「落ち込まないで!褒めてるの!」

なら、良かった!今回の仕事は自信あったんだよね!

「間違ってるかもしれないけど、ちゃんと寸法も書きました〜!」

褒めて褒めて!と、準備万端の頭を差し出す。

「そう!それ!」

私が差し出した頭を無視して、ヒナちゃんは『初めに侵入した可愛い部屋』の絵をパシパシ叩いた。

「何で1度入っただけの建物の寸法が分かったの?おかしいよね?」

ヒナちゃんの言葉で、みんなが見取り図を見直す。

「あっ」「げっ!」「本当ですね」「おぉー!」

みんなが驚いている所申し訳ないが、その大きさは絶対では無い。

「それは絶対にこの長さってわけじゃなくて……」

私はどうして毒虎一家の建物の寸法が分かったのかを説明した。

「私の世界には建物を建築する為の法律があるの。それから、人間のサイズも大体同じだから家具にも基準の高さがあったりしてね」

自分が座ってる椅子と机を例に話す。

「椅子の平均的な背もたれの高さは45〜48cm程度。座る部分のサイズは一辺42〜45cm程度。椅子の足の部分は34〜38cm」

食堂の椅子はたぶん、背もたれ45㎝・座面45㎝奥行き44㎝・椅子の高さは可変してコロコロ移動出来るタイプ。

「なるほど。それで、体の長さと目測を使って、大体のサイズが分かったんだね!ノミちゃんの世界で学ぶ事はちょっと変だけど、なるほどね」

「私の世界は、そんなに変じゃないよ」

全人類が私と同じ事が出来るとは思っていない。

ノゾミが身の回りのサイズを気にする様になったのには、キッカケがあった。

それは『呪いの13階段』。

彼女はMy Tubeで怪談話を聞くのが日課であり、その日は建物に関する怪談特集を聞いていた。

「さっきから13階段の怪談ばっかだな。どうせダジャレで考えた話でしょ」

みんなも似た怪談ばかりで飽きてるだろうとコメント欄を漁る。


【13階段の話って、全国にあるんか?】


【段ボールとかで毎日段数増やせば、ワンチャ生き残れる説】


【そwwれwwww】


【だが実際、13階段は少ないと思うぞ。忌み数だから嫌われてるのもあるが、たしか建築基準法でその段数になる事がマレだったはず……。お前らも、自分の家の階段数えてみろ】


【ワイの学校にも13階段の話あった気がしる】


【12段だったわ】


ノゾミの家は14段だった。

「何これ勉強になるぅ〜!!」

それからノゾミは、何かに使えるかもと思って身の回りのものの大きさを測り、文化祭などでたまに活躍した。

この世界が日本人らしき人物に作られているなら、元の世界と同じルールがある程度通じるはずだ。

何故なら、人間の考える範囲には限界があるし、設定の説得力には、ある程度の既視感が必要だからだ。

「ノゾミちゃん、凄いっす!」

「ノミちゃん、最高!」

「ノゾミさんが居てくれて助かりました!」

「えへへ、もっと褒めてください」

図を見続けるボスとミラさんの横で、みんなにワッショイ×ワッショイ胴上げをされる。

こういう時の為に勉強しといて良かった〜!




私が描いた図の中で1番の功績は、毒虎一家の強みを理解できた事だった。

「誰が考えたか分かんないけど、単純ながら凄い仕組みだと思うよ」

そう発言したのは、ヒナちゃんだった。

「毒虎一家は、能力者に合わせて部屋を用意してるみたいだね」

「「「「「部屋?」」」」」

「うん。ノゾミちゃんが通過した使用用途不明の6つの部屋」

ヒナちゃんが指差したのは、階段の途中にある部屋。

「この国の108の街には、スマパラみたいな組織ギャングがそれぞれ存在するって話したよね」

本格的な話をする前に、ヒナちゃんが事前知識の確認をしてくれる。

「うん」

「毒虎一家も、スマパラと同じく月末にはカゲを退治してるの。その時に使ってるのがたぶん、この部屋」

ヒナちゃんの指が縦に。紙の上から下に滑る。

毒虎一家の建物は7階建てで、階段は建物の両端に存在した。

1つは、普通の階段。

手すりがあって、次の階まで14段の建築基準法を守ってるっぽい階段。

もう1つの階段が、建物の半分を使うほどの広さを持っていた。

階と階の間に部屋を挟む階段。

その階段は、踊り場と呼ぶべき場所が部屋になっていた。

「わーい、何これ現代アート?どういうコンセプトだろ?」

あの時、作品と思って観察した部屋に大きな意味があったとは……!!


この時、ノゾミが普通の階段を使わなかった事が、この世界に来てからの人間との遭遇が遅れた原因になる。


「屋上を避難所に使うのは無理があるから、たぶん地下ね。光の国ほど地面から遠くなければ、カゲは湧いて出やすいはず。つまりはカゲを退治する際に上の階から下の階へ移動させる。だから階段が広いのよ。建物の高さは実力と信頼順。いや、能力のコスパも考えないと運営出来ないから……」

ヒナちゃんの呟きを、みんなは理解している。私も頑張って理解するぞ!

カゲって怪物が屋上に湧くから、数を減らしながら下に移動させてるみたいな話だよね?

「良いから本題に入ろうぜ!」

珍しくイライラした様子の黒金さんが、笑顔で机をトントン指す。

「あ。」

黒金さんのATK値が強いあまり、机に穴が開いてしまった。黒金さんの頭にミラさんの拳骨が刺さる。

ゴキッ

頭と拳骨の間で痛そうな音がした。

「焦って不機嫌になるのは仕方ない。けど、力加減は間違えるなよ。スマパラのボスはお前なんだから、しっかりしろ」

「ごめんなさい……」

この時、拳骨をして骨折をしたミラさんは、毒虎一家襲撃に参加出来なくなる。

現在いまは、カッコ付けた手前、骨折した事を言えずに青くなっていくミラを楽しんでいただきたい。

「私も考えるの楽しくなってて、ごめんね。今は白お兄ちゃんを助ける方法を考えよっか」

落ち込む黒金さんの手を、ヒナちゃんが握る。

「うん。みんな、今までごめんな!俺はリーダーだから、もっと頑張る!」

黒金さんが笑顔を取り戻しただけで、現場の空気が明るくなる。

ハチちゃん、ボムちゃん、アチョーさんも、ホッとしたように肩を下げた。

「シロが捕まってるなら何処だと思う?」

「そうね。相手は自分達の有利な方法で戦いたがるはずだから、何らかの仕掛けがあるはず。階段での戦いは避けられないと思うわ」

建物の図面を見る。


屋上


7階と6階の間

『大きな何も無い空間』※床や天井に傷多数


6階と5階の間

『オモチャの国』※無数の小さな穴が空いている


5階と4階の間

『信号機の部屋』※赤・青・黄、3色のサイコロが転がっている。


4階と3階の間

『鉄棒の部屋』※鉄の棒が壁や天井、床に刺さっている。


3階と2階の間

『歩きにくい部屋』※床に棘がついていたり、足場が不安定


2階と1階の間

『四角の部屋』※大きな箱を中心にして、同じ大きさの箱が等間隔に設置されている


「ボスに建物を壊させず、私達を絶対に屋上に上がらせない手段があるとすれば屋上にいるのが妥当じゃないっすかね」

「そうね」

ボムちゃんの言葉にヒナちゃんが頷く。

「何をするにしても後手に回ってる以上、向こうの準備が勝るわ」

「それなら、相手の準備が整う前に襲撃した方が良いんじゃないですか?」

先手必勝と言うし、夜に攻められたら相手も驚くかもしれない。

それに、敵陣に1人でいる白夜さんが心配だ。

「俺だってそうしたいけど……」

黒金さんが困った顔で時計を指差した。

「影の国には門限があるんだ」

【ノゾミの作業BGM】

怪談朗読・流行りの曲・推しイメージソング……etc


【ミラの作業BGM】

スマパラのみんなの生活音


【レナの作業BGM】

毒虎一家の生活音・勝器カツキの鼻歌

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