表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水平線上ノ煌星  作者: 猫屋敷 凪音
ファミリー編
16/48

第14夜 白

とっぷり街が夜に浸かった頃、私達は拠点に帰宅した。

初めはカゲという化け物が出てこないかビクビクしていたが、ミラさんが言うには月末にしか出てこないらしいし、街の人達も警戒していなさそうなので安心して帰ってきた。

「ただいま」

「ただいま帰りました」

拠点にはボムちゃんとアチョーさんが先に帰っていたみたいで

「お帰りなさいっす」

と、出迎えてくれた。

今日の家事は、早めに用事が済んだ2人がやってくれたらしい。

「もうすぐ晩御飯が出来ますからね」

エプロン姿のアチョーさんが、おたま片手にニコリと微笑む。完全にママだ。

アチョーさんから人妻のオーラを感じる。

「ご飯にしますか?お風呂にしますか?」

「くっ!」

新妻定番のセリフで心臓がグワッてなった。

神様、この世界がデータだなんて冗談じゃ無いぜ!

「ノゾミちゃん、心臓が痛いんすか?大丈夫っすか?」

玄関でいつまでもうずくまる私を心配して、ボムちゃんが背中を撫でてくれる。

その背中を、車椅子の車輪が轢いた。

「ノミちゃん、ただいまー!大好きのぎゅうだよ!」

「げう」

車椅子から倒れ込むように、帰宅したてのヒナちゃんが私の背中に着陸した。

「お、おも、かえり」

ヒナちゃんの足が地面にくっ付かない様に、膝を伸ばしてからおんぶする。

「ヒナ、人の背中に許可なく乗ったら驚くぞ」

人を車椅子で轢く事に一切ツッコまない黒金さんが、申し訳なさそうな顔でヒナちゃんを引き取った。

「ただいま」

ヒナちゃんの車椅子を押していたらしい、白夜さんが帰宅の挨拶をする。

てか、私を車椅子で轢いた犯人この人だ。ごめん、ヒナちゃん。

そして白夜さんは今日も麗しいので許します。

「説明はどうだった?」

ミラさんが私の手を引いて、壁際に寄せる。

玄関に留まり車椅子の通行の邪魔をしていた私を、さりげなく移動させてくれたのだ。

そのお陰で、ヒナちゃんが食堂まで1人で移動出来る。

「ありがとうございます」

「別に」

ミラさんは当たり前みたいに手だけ振って、黒金さんたちとの会話に戻る。

これから3人は、スマパラに関わる重大な話をするんだろう。

私は玄関にいるよりヒナちゃんの車椅子を押す方が役に立てそうなので、追いかける。

「食堂と部屋、どっちに行くの?」

「どっちも行くのよー」

ヒナちゃんは厚着をしている上に、荷物を持っていたので、部屋に向かった。

「ちょっとずつ慣れていこうね」

私の内心を見透かした様に、ヒナちゃんが穏やかに目を閉じている。

「うん」

まだ、この世界に来て1週間も経っていない。

分からない事がたくさんあるけど、ちょっとずつ慣れていこう。

少なくともヒナちゃんは、それで良いと言ってくれているのだから。



晩御飯の後は、今日の活動の報告会が行われた。

「思っていたよりも街の人の理解が得られたから、予定を繰り上げられると思う」

黒金さんが良い事の様に、予定を早く終わらせられそうだと言う。

でもそれは、戦いが近づいていると言う事だ。

正直、私は戦いたくない。ただ、それでは終わらない。

みんなだって戦いたくて戦う訳じゃないんだから、元凶わたしが文句を言う筋合いは無い。

「明日も予定通り、Aチームは集金をしながら事情説明をして周る」

意義は無いので、全員がテーブルを叩いた。

「今日、武器をメンテナンスに出したBチームは少し編成を変える。ボム、アチョー、ハチの3人で依頼を消化してくれ」

よく分からないけど意義は無いので、流れでテーブルを叩く。

「最後にCチーム。ここは、ミラとノゾミの2人になるな。2人は敵を拠点へ誘導する看板を制作してくれ」

全員がテーブルを叩いたので、何となく自分もテーブルを叩いた。

私は美大生で、ミラさんは文字を書くのが本職。

看板を作るのに適しているのは、この2人だろう。

「すみません」

会議中に手を上げる勇気は無かったので、目の前に座っているミラさんに声を掛ける。

「何でわざわざ敵を誘導する様な看板を作るんですか?」

「ああ。他の街の奴らが攻めてきた時、地域の方々が俺達の拠点を聞き出すために暴力を振るわれたら可哀想だろ?」

「なるほど……」

スマパラが地域住民をとても大切にしている事が分かった。

誰も貴重な準備期間を潰して、看板を作る事に抗議しないのだ。

今日8番街の人達と触れ合って、その価値がある優しい人達だって事は分かった。

私も、魔法少女みたいに街の人たちを大切に守る心構えを持とうと誓った。

これはスマイリー向日葵パラダイスの暗黙のルールなんだ。

食堂にはまだ、昨日手形を付けた旗が吊るされていた。

「画力の限り、目立つ看板作ります!」

「おう」

ミラさんのバッテンが付いた口角が上がった。






_______


翌日……


私とミラさんは作業着を着て庭に立っていた。

大きくビニールシートを敷いた片方には廃材、もう片方には大量の塗料が置かれている。

この廃工場は元々服を作る工場だったらしいけど、その前には印刷所だったり、画家の工房だったりもしたらしい。

どうりで塗料が売るほど置いてある。

「ここはオーナーが自殺して、何回も入れ代わる呪われた工場だったんだ」

「えっ」

太めのハケを握ったミラさんが、お化けのポーズをしてニィッと笑う。

「そ、それって大丈夫なんですか?」

「黒金なら大丈夫だと思う」

「あー」

確かに。黒金さんなら幽霊とも友達になれそう。

「でも、ノゾミは駄目かもね」

「そんなぁ!」

ミラさんに「魔除け」と言って、顔に落書きをされた。

「擦ったら怒るよ」

「私が怒ってますよ。口に塗料が入ったらどうするんですか」

こんな寒い時期に顔に落書きをされたら、水で落とす時、絶対に冷たい!

「口に入ったら、どんな味がするか教えて」

味覚の無いミラさんがクスリと笑う。

そういえば物理の先生が紫の絵の具は美味しかったって言ってたな。

絵の具によっては、原料が鉱石だったり虫だったり、食べられるものがあるかもしれない。

紫の塗料を手に取って、材料を読んでみる。

『紫 材料 赤[R255 G0 B 0 #FF0000] と青[R0 G0 B 255 #FF0000]』

「??」

赤と青のバケツを目の前に持つ。

『赤 材料 赤[R255 G0 B 0 #FF0000]』『青 材料 青[R0 G0 B 255 #FF0000]』

「は?」

あー、はいはい。またこの世界のルールね。

データを現実に置き換えるかと塗料の材料がこうなるのか。ふん。

意味が分からない。

そういう評価をするなら、赤と青を混ぜずに直接紫を作れよ。

材料『赤[R255 G0 B 0 #FF0000]』に描かれている数字の部分は、RGBカラーだと思う。確信は無いけど。

この世界がゲームで、CMYKカラーだと印刷用のカラーで色幅が減るから……かな?

RGBは光の三原色で、混ぜるほどに白くなる。

授業で習ったから、なんとなく分かる。

この世界で扱う色がRGBカラーならば、白を最も情報量が多い色と呼ぶべきだ。

でも、この世界では白が1番情報の無い色として扱われている。

絵の具ハイタッチをした時に、白夜さんが仲間に入りたがらなかった理由を後に黒金さんが教えてくれた。



この世界では、情報量の多いものほど能力に恵まれる。色ならば、たくさんの色を混ぜて作られる黒が最も情報量があり、白が最低。

赤ならばより濃い赤が情報量が多いとされ、薄桃色などの白さが多い色は情報量が少ないと見られる。

なので、髪も肌も黒い黒金さんはモテるが、白夜さんはモテない。

そんなバカな?!

「シロは自分の情報量が少ない事を気にしているんだ。だから、ノゾミがシロを綺麗だって言ってくれて嬉しい。ありがとう」

「いえ、綺麗なものに綺麗と言うのは我々の業界の常識です」

自分で言って、自分で

どこの業界だよ……。

とは思ったものの、黒金さんの言葉を待つ。

「ノゾミの世界では、シロは当たり前に綺麗なんだな。この世界の神様がノゾミの世界の神様と同じなら……。俺とシロは……」

その時、黒金さんが言った言葉は、みんなのはしゃぐ声に紛れて分からなかった。




「もしも、この世界作った人に会ったら問い詰めたい」

色んな事が気になり過ぎる。

「ミラさん、この世界に無色透明は無いんですか?」

「消去色なら、そこに沢山あるよ」

そう言って、ミラさんが白い塗料を私に差し出す。

違う、違う、そうじゃない!そうじゃないよ!!

ミラさんの肩を掴んで揺さぶりたい衝動を抑える。

白は色なの!数字で言えば、1とか2とかと同じ自然数の仲間なの!無色透明じゃないの!存在すんの!みんな、0の概念に気付いて!!

ピンクは薄い赤。灰色は薄い黒。白を色として認知しないせいで、色の名前がとんでもない事になっている。

こんな事なら、シルバー君の銀色はキラキラする薄い黒とか呼ばれてるのかもしれない。耐えられない。

「目玉がひっくり返っている……!」

ノゾミは言いたい事を我慢した為に、白目を剥いてしまった。

眼球をひっくり返してガクガク震える私を見て、ミラさんが神に祈りだす。

普通の人間なら、こんな反応を返されれば冷静に戻って謝ったかもしれない。

それはノゾミには無理だった。

地面に膝を着き、胸を押さえて涙を流す。

「フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』は白のハイライトが美しいんです……」

「うん」

ノゾミの言葉はよく分からないけど、悪魔を浄化する思いでミラは頷いた。

「この世界のハイライトはどういう扱いなんですか?白はデータの穴じゃ無いんです。何も無い状態じゃない……」

感情が極限状態に陥り、吐きそうだ。

色、美の神、数々の芸術作品への冒涜である。

まさか看板製作をしようとして、こんな事になるとは思わなかった。

「うっうっ……」

自分の得意分野で役に立てると思ったのに。

昨日の夜から、どんな工夫をして、どんな看板にするか考えてたのに。

「黒金じゃないから、何も良いこと言えない。ごめん」

ミラさんの言葉に首を横に振る。

ミラさんはみんなの良い所をよく見ていて、それを真似ようとする凄い人だ。

私が芸術バカをした所為で、何も悪く無いミラさんを困らせてしまった。

「ペンは剣よりも強し」

ミラさんが呟く様に、その言葉を言う。

「この言葉で俺は凄く励まされたから、ノゾミも元気出るかな……って、思った」

「……ペンは剣よりも強し」

「良い言葉だよね」

ミラさんは、本当に本当に、この言葉が好きみたいで膝を抱えてニコッと笑う。

「描けよ」

その時、冬の冷たい風が仕事着の隙間に入り込んだ。

「元気出たなら仕事するよ」

「っはい」

とても綺麗なものを見た感動の余波なごりで、震えながら立ち上がる。

人差し指はカメラを持つ様に、空間を切っていた。

ここにスマホがあれば、人生のこの瞬間を形にして残せたのに。

春はあけぼのと言うように、冬は早朝。

白い光の中で息を吐くミラさんは綺麗だった。

「毒虎一家を襲撃したら、絶対に私の持ち物を取り返します」

7番街に行ってやる事が増えた。


『7番街に行ったらやる事』

謝る

出来れば話し合う

毒虎一家に勝つ

持ち物を取り返す ←new







_____


【スマパラルール その3】

家族ファミリー内での恋愛は禁止。


このルールが出来たのは、ボムとアチョーが付き合い出してから、かなり後の事だ。

スマイリー向日葵パラダイスのボスが黒金になる2年前に、当時のボスが1人のファミリーに言い寄られた事でこのルールを作った。

他の街の組織ギャングでは有り得ない珍ルールである。

元々、それに似たルールを作ろうと言う話はあった。

黒金がモテて、断り切れずに全員と付き合うと言い出したからだ。

「いひひー」

「ご機嫌ですね」

ボムを肩に乗せたアチョーが、穏やかに微笑む。

「クサリ姐さん、ここに帰ってくる頃には副長に絆されてるんじゃないっすかね?」

「通常の兵役なら、同じ地区の人間は2年間同じ場所で働きますが……。副長の能力が特殊なので、2年の1度も会えてない可能性もありますね」【スマパラルール その3】は、元ボスが副長に絆されない為の時間稼ぎみたいなものだった。

「ノゾミちゃんとミラ君、良い感じっすよね」

「ええ。でも、破局するでしょうね」

「今はそうでも、恋は分からないものっすよ。私はどっちも応援するっす!」

依頼を素早くこなしながらイチャつくボムとアチョー。

そんな2人を視界の端で見ながら、ハチは金属バットを肩に担いだ。

アチョーを指名して出された依頼は、料理の下拵え。

クリスマスの時期なのだ。どこも色んな事情で助っ人が欲しい。

それを一気にクリアする為、多くの料理人が8番街唯一の学校にある体育館へ、集まっていた。

「ハチさん、そちらの進捗は……ひぃっ!?!」

2時間前にクッキーの型抜きを頼んだ青年が金属バットを素振りするハチにビビる。

ハチの側で作業をするお姉さん達もヒエヒエしていた。

「ハチさん?ハチさぁーん……?」

クッキー生地に星型をペッタンする。

それだけの単純作業が、何故かハチには出来ない。

こうして何も出来ないから、自分は犬になるしか無かった。

自分が着ている赤いジャージの様に、赤い髪をした少年、賛月サンガツ

師匠と同じ組織にいたのは1ヶ月もない期間だったけれど、犬としての生き方を教えてくれた。

師匠は、ハチが元いた組織に捨て駒にされ、風の噂で犬死したと聞いた。

役に立たない人間は捨てられる。

角が千切れてベタベタした星を見下ろす。

あの新入り。ノゾミを見ても分かる事だが、スマイリー向日葵パラダイスという組織は、厄介な事情を持つ使えない人間ほど好んで仲間にする。

その理由は、ご主人様とボスが過去にたくさんの人を殺したから。

その罪滅ぼしとして、捨てられる様な人間を好んで集めるらしい。

ハチと師匠が過ごした最後の時間、師匠は言っていた。

「自分の命は自分のものだ。俺がこの後犬死にしても、それは俺の責任だ。……口無し。お前は、お前の命を大事にしろよ」

自分の命の責任は自分しか取れない。

全ての事象は(イコール)を1つで語る事が難しく、1つの結果に対して、因果は複数存在するのだ。

責任を追求する事が生きる上で邪魔になるのならば、自分の(イコール)を切って、他の因果に責任を押し付ければ良い。

ボスとご主人様が何人殺していようが、それはソイツ等の責任なのだ。

「ハチは賢いね。僕もそう思うよ。でも、クロがそう思うなら、僕も殺した命の責任を背負う」

ご主人様は白い髪を耳にかけて、聖母の様な慈愛をたたえていた。

ハチにとってのご主人様が白夜なら、ご主人様にとっての第一優先がボスなのだろう。

そんな事が、ハチには少し寂しかった。

ご主人様がそう言うのなら、ハチも見習って一緒に罪滅ぼしをするのだ。

役立たずの新人は可愛がるし、何も出来ない自分も大事にする。

「ハチさん?」

ハチが振り返ると、背中に手を伸ばそうとしている青年がいた。

この青年は菓子屋の料理人の見習いで、ハチにクッキーの型抜きを頼んだ人物だ。

あまりにも作業が遅いので注意をしに来たのだろう。

「ハチさん、生地がベタベタする時は小麦粉を付けると良いですよ」

「?」

青年が紙袋から白い粉を出して、型やめん棒に振りかける。

ハチも青年の真似をして、袋に手を突っ込んだ。

「ぁあっ」「!」

空気を含んだ袋に勢いよく手を突っ込まれ、青年が困惑の声を上げる。

紙袋がくしゃみをして、目の前が白くなった。

「けふんっ」

「………。」

またやってしまった。

顔中に白い粉をつけたハチを見て、フフフと顔を綻ばせる。

「雪が綺麗ですね」

小麦粉をかぶった青年は髪が真っ白で、ご主人様みたいだった。

「ごめんなさい」が言えないので、腰を直角に曲げて謝る。

「気にしないでください。むしろ、良いものを見せてもらえましたから」

青年が言うには、

の国で雪が見れるなんて珍しいでしょう?とても価値のある事ですよ」

とのこと。

ハチはこの青年を、馬鹿な人間だと思った。

こんな馬鹿は、ボスの治める8番街でしか生きていけないだろう。

誰かが守ってやらないと騙されて死にそうだ。師匠みたいに。

だから、ハチ、この人間、守る。

ハチが喋れない事は知っていたが、沈黙に耐えかねた青年は得意なお菓子作りへ話題を飛ばす。

「このハート型なら、星よりも簡単に抜けると思います。ほら、やってみてください」

青年のした様に、ハート型を生地に押し付ける。

小麦粉を振ったのが良かったのか、ハート型にしたのが良かったのか、生地はくっ付かずに綺麗なハートが出来た。

「!」

青年のおかげで綺麗なハートを作れたので、1枚目を捧げようと生地から取り出す。

「あぁ、ふふふ。1枚1枚取り出さなくても良いんですよ」

そうじゃない。

ハチは首を横に振って、身振り手振りでハートがプレゼントだという事を伝える。

「そうですね!次は雪だるま型に挑戦してみましょう」

生地はハチの私物でなく店の物だと思っている青年に、ハチの気持ちは伝わらなかった。

ハチの言葉を正確に読み取れるのは、ご主人様のみ。

分かってもらえないのは日常茶飯事なので、ハチは何もなかったかの様にクッキー作りを再開した。

青年の指導の下、

「その調子、その調子です」

と言われながら、雪だるまを量産していく。

1番、上手く出来たのをご主人様とボスに献上しよう。きっと喜んでもらえる。

ハチは黒いマスクを顎までズラして、口パクで青年に

「あ、り、が、と、う」

と言ってから、手でハートマークを作った。

「なるほど!さっきのは、褒めて欲しかったんですね」

数分遅れで、青年はハチのメッセージに気が付いた。

違う、違う。そうじゃない。そうじゃないが、褒められたかったのも事実なので、褒められておいた。

「!」

首筋に悪寒が走ったハチは、有無を言わさず青年を押し倒す。

周囲が何にも感付いていない中、ボムさんとアチョーさんが

「みなさん、伏せるっす!!」

「皆さん、伏せて下さい!!」

と叫んだ。

日頃の習慣の賜物で、その場にいた全員が、スマパラの指示に従い姿勢を低くした。

青年を庇う体勢のまま、テーブルに立てかけたバットを手繰り寄せる。

キィィィィーーーー

やがて、ハチには聞き慣れた、錆びた車輪の回る音が聞こえた。

「あれれ?どうして、みんな寝転がってるの?」

体育館にやって来たのは、ボスに車椅子を押されるヒナさんだった。

肺を圧迫する様なプレッシャーの中で、ヒナさんは「良いにおーい」と、鼻をヒクつかせる。

「お仕事中にお邪魔をしてしまって、すみません」

ボスが万人を虜にする笑みを浮かべ、頭を下げた。

いつのまにか強く握っていたバットを体から離し、立ち上がる。

黒金の登場とスマパラのメンバーが立ち上がるのを見て、体育館に集まった人々も起き上がる。

「エプロンが汚れてしまいました。着替えた方が良さそうですね」

ハチが庇っていた青年が、困った笑顔で話しかける。

今、青年の言葉に応える余裕がハチには無かった。

ハチの背中からは、相変わらず嫌な汗が流れている。

「メンバーで集まって話し合わなければならない至急の用が出来てしまったので、3人を帰しても良いですか?こちらの都合で呼び戻すので、お代は結構です」

ボスがこの場で1番、大きな店を構える料理人のご婦人に話しかけた。

ボスは最短でこの場を去れる方法が分かっていたのだろう。

「まぁ、それは大変!」

『酒処 八岐大蛇』の奥様が、お上品に手を合わせる。

「3人共、どうぞ連れて帰ってくださいな!スマパラのみんなにはいつもよくしてもらっているから、お代の事も気にしなくて良いのよ!ね、あなた?」

「子供が細けぇ事、気にすんな」

八岐大蛇の料理長が、奥様の言葉に頷く。

「ありがとうございます!みんな、行くよ」

ボスにしてはアッサリとしたお礼の後に、招集命令が下った。

行きたくない。

そう思わせるほどに、ボスの笑顔が怖かった。

普段共に暮らしていない住人達は、ボスの変化に違和感を覚える程度だが、スマパラのメンバーからすれば見た事もない不機嫌なボスを見て胃を吐きそうだった。

もういっそ、吐いた方が水で洗えてスッキリするのかもしれない。

ハチもボムもアチョーも、黒金の機嫌を損ねない様に超特急で入り口に集まった。

「お騒がせしてすみません」

「良いのよー」

部外者の目が届かない場所まで来た所で、ボスの顔に貼り付けられた笑みが消えた。

胃が口から出そうな感覚が、更に強くなる。

「お兄ちゃん。3人に私を運ばせて、お兄ちゃんは『あがりかまち』に行って来たら?武器がバラされてなければ使えると思うし、移動はお兄ちゃんの方が早いから効率的だよ」

敢えて空気を読まない妹、ヒナさんがボスにメンテナンスに出した武器を回収しに行くよう提案した。

武器が必要になるという事は、そういう事だ。

ボスの不機嫌と、この場にいないご主人様の存在。

7番街から先制攻撃を受け、ご主人様に何かあったと考えるべきだろう。



ハチの予感は的中し、スマパラの会議室に集まったのは白夜を除いたメンバーだけだった。

「シロが誘拐された。やったのは7番街の毒虎一家。奴等の要求は、ノゾミの引き渡しとスマパラが傘下に下る事だ」

7番街さえ潰せば、ボスのプレッシャーから逃れられる……!

「返事は明日の正午まで。答えはもちろん分かってるよな?」

全員が長テーブルを叩いた。

【ノゾミメモ】

RGBカラーとCMYKカラーの違い。


RGBは、加法混色。

デジタルデータがこれ。ゲームとか、画面に表示されるやつが、これ。

なので、この世界は恐らくRGB。

CMYKより、色んな色を表現出来る。

Rがレッド。Gがグリーン。Bがブルー。

この3色は光の三原色で、混ぜるほどに白くなる。

RGBのデータをそのまま印刷すると、くすんだ暗い色に変換されるので、CMYKにしましょう。



CMYKは、減法混色。

印刷のインクとかこれ。

Cがシアン(青系)。Mがマゼンタ(赤系)。Yがイエロー(黄系)。Kがキープレート(黒)。

色を混ぜれば混ぜるほど黒くなる。

しかし実際、赤青黄を混ぜただけで黒は出来ないので黒も加えてCMYK。

絵の具と同じ感覚で考えてOK。


みんな、なんとなく理解出来たかな?

私は忘れがちかな!(о´∀`о)テヘ


あと、書くスペースが無かったのでミラがノゾミにどんな落書きをしたのかというと

口の両端に丸を描いてました。

バッテンは冗談でも描けませんでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ