表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水平線上ノ煌星  作者: 猫屋敷 凪音
ファミリー編
15/48

第13夜 狂犬くんと愉快な毒虎一家

「信じらんない!!」

俺の報告を聞いたお嬢が、顔を真っ赤にしてティッシュ箱を投げる。それを額で受けて、俺はお嬢に頭を下げた。

「すみません、お嬢!」

「何で泥棒を逃しちゃうのよ!」

ピンクのハート型のクッションで、頭をポフポフ殴られる。本当にお嬢の言う通りだ。

大事な報告があったとはいて、捕らえた罪人を逃すなど……一生の不覚。

くぅーーーん……。

7番街の狂犬、賛月サンガツは猛省した。

誰が見ても、存在しない犬耳と尻尾が垂れているのが見えるだろう。

しょんぼり喉を鳴らすを賛月サンガツを見て、毒虎一家の姫は胸を押さえる。

「あなた、私が毎回許してあげるからバカなままなのね」

「すみません……」

きゅうぅぅーーーん……。

「だから許さないって言ったわよね?」

「はい。どんな処分でもお受け致します」

きゅうぅーー……。

「くっ、バカな子ほど可愛いのよね」

「お嬢?」

どんな処分を下されるのか。大恩ある毒虎一家へ出来る限りの誠意で応えようと畏まっていたが、優しいお嬢は俺に処分を下すのを躊躇しているようだった。

お嬢はまだ13歳だ。本来ならご学友と遊んだり家族に甘えているはず。

一家ファミリー内部の裏切りでご両親を亡くされ、たった1人の肉親である先代も左半身に麻痺が残り実務を行う事が難しくなってしまった。

表向きは年齢による退位と言っているが、そんな事は察しが付いているだろう。

先代が引退してから、多くの人員が消えた。

毒虎一家に残ったのは俺とアホ1匹だけ。

落ち込む暇も無く、懸命に努力するお嬢を見るのは、誇らしくも辛い気持ちになった。

それでもお嬢の頑張りで、毒虎一家は息を吹き返した。

今いるほとんどの人間は、お嬢の能力で集まった奴等達だ。

同じ弱点の分かりやすい街同士、8番とは仲良くしていきたかったが……。

ハート型のクッションを抱き抱えるお嬢を見上げる。

フラミンゴピンクにビビットオレンジをインナーカラーにした刺激的な髪質。

育ちの良さが窺える高貴な顔立ちに、事務所の上から下までよく通る声。

人形ドールの様にバランスが良くスラリとした肢体。

こんなに聡明で美しいお嬢の部屋に、侵入者が現れやがったのだ。さぞ怖かっただろう。

侵入者が女の子だったのは安心した。

「な、何?賛月サンガツのクセに、私とのキスは早いわよ!まずは付き合ってからでないと……」

「いえ、俺はお嬢の犬です」

お嬢に対して一切の下心を抱いていないと見せる為、畏まった態度で手の甲に口付けをする。

毒虎一家どっこファミリーの犬である事が、俺の誇りなのだ。

お嬢と付き合うなんて、光の国がひっくり返っても有り得ない。

犬アピールの為に着用している、口枷を着け直す。

「ねぇ、8番街とは戦う事になるんでしょう?」

震える声がする。お嬢の手は、緊張からか冷たくなっていた。

「はい」

確実にそうなるだろう事なので、頷く。

お嬢には辛い事実かもしれないが、争いは避けられない。

「死んだり……しないわよね?」

「分かりません」

黒金が本気を出す事は無いだろうが、状況次第では死者が出る。

お嬢は優しいので、一家の誰かが死ぬ事に耐えられないのだろう。

「馬鹿。そこは私の為に死なないって言いなさいよ……」

「すみません」

俺が弱い所為で、お嬢に絶対大丈夫だと慰める事が出来ない。

まだ幼い少女の手を握って、何も言えないまま見つめる。

お嬢の手が、俺の口枷を撫でた。

俺に出来る事はただ1つ。

「俺が死んでも、お嬢だけは守ります」

「うぅ……!」

ポタリ。お嬢の手のひらに雫が落ちた。

その姿に動揺しながらも、見惚れる。

清廉なお嬢は、涙を流す姿さえ美しい。

「…………、賛月なんて、賛月なんて……!1週間、無視するんだからぁ!!」

「承知いたしました」

お嬢が荒々しい音を立てて、部屋から出て行ってしまう。

俺はお嬢が自分の部屋から持ってきたハート型のクッションに鼻を埋めて、ションボリした。

あの言葉の何がいけなかったんだろう?

先程までお嬢が腰掛けていたベットに倒れ込んで、布団に残るぬくもりを堪能する。

今回の俺への罰は【お嬢からの一週間無視】に決まったらしい。これは仕事に支障が出るので、早く挽回するべきだ。

きゅぅぅぅーーーーん………。

子犬みたいに情けない音が喉から出てしまう。

お嬢が一家ファミリーを引き継いで、しっかりした反面、俺に対してだけ反抗期になってしまった。

昔はあんなに懐いてくれていたのに、寂しい。

ストレスの捌け口が必要なのは理解しているが、無視は辛い。

俺の宝箱ボスボックスに、お嬢の忘れていったクッションを加える。

お嬢は今頃、何をしているんだろうか。

「やぁ、モテない街道まっしぐらの賛月サンガツクン!」

「げっ」

ノックもせずに俺の部屋に侵入はいってきた男は、毒虎一家の参謀ロトだった。

正式名称が確か色男(笑)だったはずだが、あまりにも長いのでロトと呼ぶ様になった気がする。

この男が俺と同じく一家ファミリーに残った、アホ野郎だ。

「あゝ、女の子の持ち物を収集するなんて……紳士のする事では無いね」

ロトが役者の様に大袈裟な身振りで、壁にもたれて嘆く。

「お前、羨ましがってもやらねーぞ」

俺の宝箱ボスボックスの中には先代の代からコツコツと貯めたボスコレクションがたくさん詰められている。

先代のタバコの吸い殻もお嬢の描いてくれた似顔絵も、全部、全部が大事だ。

「そんなにお嬢が好きなら、推理してあげようか?お嬢の気持ち」

ロトがどこからか出した薔薇を咥えてキラーンッと笑う。

「いや、お前の推理は毒虎一家の為に使ってくれ」

ロトの能力は1週間に10回しか使えないのだ。こんな事で消費する訳にはいかない。

あと、トゲの付いた薔薇を咥えると怪我するぞ。

「痛い!私の可憐なる唇が棘のあるレディに奪われてしまった!」

「お前、意味分かんないぞ」

ロトがさっきまで大事に咥えていたレディを壁に叩きつけた。赤い花弁がバサリと散る。

このアホ犬も俺みたいに口枷をつけた方が良いんじゃないか?

「血が出た!血が出たよ!賛月クン!!」

「顔、貸せ」

ギャーギャー騒ぐロトの顔を掴んだ。

これが年上なんて有り得ない。

「やだ、賛月クン!モテないからって私をタコ殴りにする気だね!」

「ちょっと口閉じてろ。こんなんツバ付けときゃ治る」

ロトに向け、賛月の体がのしっと傾いた。

「んぶぶっ」

見えない犬の舌が、ロトの顔を舐め回す。

すると、ロトの可憐な唇(笑)から垂れていた血が止まり、傷口も消えた。

(わんっ)

賛月の背中にのしかかった大型犬は、ひと吠えして風に溶けた。

「ありがとう……。お陰で痛くないよ。何か失ったけどね。君の犬ってオスだよね?」

能力で出した犬に性別は無いが、俺の犬は全員オスだ。そう思って名前を付けている。

「オスだと問題あるのか?」

「いや、良いんだ……。私は心が広いからね」

ロトが大切なナニカを散らせた風に身をくねらせた。

相変わらず、1人芝居が好きな男だ。

「で、お前何しに来たんだよ」

ロトが投げ捨てた薔薇を拾い、無事な部分を花瓶にいけてやる。

「作戦会議をする為に呼びに来たのさ。みんなで仲良く8番街皆殺し計画をたてよう」

ロトが爽やかに白い歯を光らせる。

「皆殺しはまずいだろ」

8番街の黒金に会ったのはあの時がはじめてだが、一目で分かる良い男だった。

お嬢の言う通り、情報量が多く綺麗な顔立ちに、誠実な態度をしていた。

噂通り、仲間から慕われる良いボスなんだろう。

股間から財布を出すなど天然な所もあるが、能力値も血統も、お嬢の相手として申し分ない。

もしかしたらお嬢は毒虎一家の心配だけでなく、スマパラの心配もしていたのかもしれない。

だから、あの言葉に怒ったのだ。

「ロト……。これはお嬢と1番長く一緒にいる俺だから分かった極秘の情報なんだが、お嬢はスマパラの黒金に恋をしていらっしゃる」

なるべく盗聴されないように、ロトの耳元でコソコソと話す。

「ご冗談を……」

ロトがヘラリと、口を歪ませる。

疑う気持ちは分かる。今や敵同士の大将2人が恋をしているのだ。

結末を考えるだけで、お嬢が可哀想でならない。

「なんとか8番街と上手くやる方向に持っていかないか?」

「それは……お嬢の能力次第かな」

「いや、あれは駄目だ」

お嬢の能力は日記に書いた事を100%事実にする能力だが、ページ数に限りがある。

お嬢の貴重な能力を消費するくらいなら、俺が爆弾を抱えて8番街に特攻する方がマシだ。

「10年来の親友の頼みだから、何とかしよう」

「頼む」







_______


毒虎一家会議室にて。


最後のメンバー2人が会議室に集まった事で、9つの席が埋まった。

他の仕事で忙しいお嬢は、この席に加わっていない。

参謀であるロトがホワイトボードの前に立ち、古株の俺が、本来お嬢の座る席の後ろに控えた。

「それじゃあ、みんな!今から8番街皆殺し計画をたてよう!」

「「「「おぉー!!」」」」

ロトの陽気な音頭で、毒虎一家の戦闘員達が元気よく拳を振り上げる。

「おぉー?」

ハッ

俺はつられて上がってしまった手を下ろし、ロトに目配せをした。

(おい、皆殺しは中止にするんじゃなかったのかよ!)

(あゝ、私が美しいからって熱視線を向けられている!なんて罪な色男なんだろう……!)

(任せて良いんだよな?)

(良いよ。賛月クンなら許そう。魅力的な私を好きなだけ眺めると良い!)

お互いのアイコンタクトは噛み合わないまま、双方満足そうに前を向いた。

「我々の家に泥棒が忍び込み、愛しのボスの日記帳や銃が盗まれた事は周知の事実だろう」

「とても許せない事だな」

ロトの言葉に頷く。

そこらで買えるような武器はまだしも、お嬢の能力の要である日記帳とペンを盗まれたのだ。

「その犯人を賛月先輩が逃したのもー」

「周知の事実だろー」

俺の失態を横縞ボーダー縦縞ストライプの双子が、猫みたいに嗤う。

逃したのは事実なので何も言えない。

「ダイさんもショウさんも、賛月さんを責めないであげて下さい。お嬢に1週間無視される事になって、落ち込んでるはずですよ」

双子を宥める魚肉の腹が鳴る。

「ぶひっ、その情報、拙者だけ知らないんだぎゃど……。賛月さん、ずぶーーーっ!賛月さんは良い人だぎゃら、責めないで欲しいだばよ」

頭の上で3つのキューブを回すヨドが、鼻水をかむ。

この2人には、会議が終わったら良い肉をたくさん食わせよう。

パァンッ

突然の発砲音で、全員が床に伏せた。

絵の具だらけの作業着を着た女子じょしの頭上に穴が開き、部屋に火薬の匂いが残る。

「つまんなくて……。撃った」

おもちゃの兵隊達がカタカタ足音を立て、レナの髪の毛の中に消える。

またコイツか。

レナがべたーっと机に額を付ける。

「この机に絵を描いても良い?」

「レナ殿、会議中であるぞ」

それを咎めたのは、椅子に座らず直立不動で会議に参加する首無し。

「うぇ〜?」

レナが不服そうな声を漏らす。そして、机の上に絵の具を絞り出した。

「貴様ぁ!!首無し公の忠告が聞けぬのかぁ!!」

超重力が振り下ろす短剣とおもちゃの兵隊がぶつかり合う。

「レナくん、暇なら美しい私でも眺めていると良い」

「うつく、しい……?」

レナがバグを起こしたロボの顔で、ロトを見上げた。

ロトの心に無用な傷を増やす前に、会議を仕切り直す。

「現状の確認は済んだ。次はやるべき事の道筋を作るぞ」

こうして、時々横道に逸れながらも8番街を壊滅させる計画は立てられた。

【毒虎一家の能力名】

毒虎一家は能力主義の組織です。

全ての戦闘員が能力を持っています。


お嬢 【恋焦がれる日記帳ダイアリー

賛月 【狛犬】

ロト 【迷推理】

ダイ 【足し算】

ショウ 【引き算】

魚肉 【何でも魚肉ソーセージ】

ヨド 【三原色の墓】

レナ 【おもちゃの兵隊さん】

首無し 【首無し騎士】

超重力 【グラビドーーーンッ】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ