32:装置破壊
極秘鉱山の特別管理区画。
掘削作業の騒音が支配する中、ガルドは、ルキウスの隣に屈み込んだ。
ガルドの巨大なハンマーは、もはや掘削具ではなく、破壊の魔力を帯びた武器だった。
ルキウスの白い顔は、疲労と極度の緊張で青ざめていた。
「ガルド殿...本当にやるのですか?あの装置を破壊すれば、施設全体に警報が鳴り響く可能性がある。
警備は、我々が想像するよりも強固かもしれないのですよ…」
ルキウスは、神経質に周囲の壁を見つめ、小声で訴えた。
ガルドは、親しみやすい低い声で、ルキウスの不安を静めるように言った。
「あんたは本当に心配性だなぁ。大丈夫だって。
あれを壊すのは、最初の一歩だ。王宮への極秘の記録書転送が途絶えれば、奴らは必ず動く。動けば、施設の内部構造がより見えてくる。だろ?」
ガルドは、ルキウスの肩に手を置いた。
その手は分厚く温かだったが、その奥にある決意は鋼鉄よりも硬かった。
「お前さんは、頭を使うことに専念しろ。破壊工作は俺の仕事だ。それに、ヴィクトール殿たちが必死で稼いだ時間を、俺たちが無駄にするわけにはいかねぇだろ?」
ガルドが無言で合図を送ると、周囲の工作員たちは、一斉に掘削作業の速度を上げた。
カン!カン!カン!
硬い鉱石を叩く金属音が乱暴に響き渡り、地下の空間全体に振動が伝わった。これは、管理官の聴覚と注意を一点に集中させるための陽動だった。
案の定、特別区画を見回っていた管理官が、苛立ちを露わにして声を荒げた。
「おい、奴隷ども!そんなに派手に音を立てるな!掘削効率が悪すぎるぞ!貴様らは、貴重な鉱石を粉々にしたいのか!」
管理官が騒音の発信源である工作員たちに近づき、罵声を浴びせ始めたその一瞬が、ガルドの機会だった。管理官の意識は、音と人間に向けられ、装置には向かっていなかった。
ガルドは、ハンマーをゆっくりと持ち上げた。その重い柄を握る手に、紫色の魔力が微かに、しかし制御され尽くした形で流れ込んだ。
彼は、掘削音が最大になるタイミングを正確に選び、ルキウスが見つけた装置に狙いを定めた。
「俺の女神アメティスト...」ガルドは、心の中で呟いた。
ゴッ!
一瞬、全ての音が消えたかと錯覚するほどの重い衝撃音が響いた。
ガルドは、魔力をハンマーの先端に凝縮し、石の破壊に全力を注ぎつつ、音波が周囲に広がるのを抑え込むという、傭兵仕込みの高度な魔力操作を行っていた。
装置はあっと言う間に粉砕された。
装置が破壊された後、数秒間の不自然な沈黙が訪れた。
管理官は、突然の騒音の中断に戸惑い、振り返った。しかし、見たのは、必死にハンマーを振り下ろすガルドと、掘削のフリをして疲弊しているルキウス、そして大量の鉱石の粉塵だけだった。
「...なんだ。作業を止めろと言ったはずだ!貴様、今何を...」
管理官がガルドに詰め寄る前に、ガルドは何事もなかったかのように、ハンマーを肩に担ぎ、汗を拭う演技をした。
「へいへい、管理官様。ハンマーが滑りやした。堅い石で力みすぎたんでしょうな。お詫びに、このデカい鉱石を掘り出してやりますぜ!」
ガルドは、親しみやすいおじさん然とした憎めない笑顔を浮かべた。管理官はガルドと、彼が掘り出した大きな鉱石を見て、舌打ち一つで引き下がった。
ルキウスは装置の粉砕を確認すると安堵の吐息を掘削音に紛れ込ませた。
「やったぞ、ガルド...これで何をしても王宮には届かない。
だが、奴らは異変に気づく...」
ガルドは、再びルキウスの耳元に低い声で指示を与えた。
「ああ、気づくさ。だが、一週間の時間がある。お前さん、次はノクス様への通信ルートだ。それこそが、俺たちの命運を握る。頼んだぞ、頭脳」
ガルドはバァンとルキウスの背中を叩くとニカっと笑った。
しばらくお休みさせていただくかもしれません。新しい連載と、愛犬ちゃんのための連載としばらくそちらにシフトします




