30:交渉
アラキラ王宮の謁見の間
ヴィクトールとノヴァの圧倒的な存在感が、豪華絢爛な宮殿の装飾を陳腐な背景と化していた。
アラキラ国王は、玉座でヴィクトールを前に、早くも苛立ちと汗を滲まる。
隣にはヴァルカンが、内心では大笑いしながら済ました顔で控えている。
国王は、テーブルの上の果物を乱暴に掴み、ヴィクトールを見下すような粗野な声で口を開いた。
「エルグランドのヴィクトール王よ。
単刀直入に聞こう。小国のエルグランドが、何の様で参った?先王との盟約である資金援助の件か?」
国王は、ヴィクトールをエルグランドという小さな国の王として扱うことで、心理的な優位を保とうと皮脂だった。
ヴィクトールは、その侮蔑を完全に無視し、微笑を浮かべる。
彼の瞳には、エルグランドの王としての威厳が灯っていた。
「国王陛下、ご心配なく。我々の意図は一つ。エルグランド王国全体の平和と繁栄です」
ヴィクトールは、ノヴァに視線を送る。
ノヴァは、無言で謁見の間の空気を支配した。
「国王陛下。エルグランド王国は資源を必要としています。
特に、極めて希少な鉱物。貴国は、最新の兵器開発に注力していると聞気及んでおります。
そのため、特定の希少資源の採掘地を独占しているのではないですか?」
ヴィクトールは、エルグランドの王として、ただ玉座を奪った簒奪者ではなく、
国の内情も詳しく、極秘施設の存在を知っているかのようなブラフを仕掛けた。
「我々は、貴国の研究開発を支援したい。その見返りに、対ドラゴニア王国安全保障の名目で共同管理させてもらいたいのです。」
ヴィクトールの規格外な要求に、国王の顔は瞬時に赤く染まった。
対竜兵器の開発を許可するに等しい内容だった。
「馬鹿な!それは内政干渉だ!エルグランド如きに、我々の研究を共同管理させるなど、あり得ん!」
国王は、玉座で身を震わせ、テーブルを叩いた。
その瞬間、ノヴァが冷たい瞳で国王を見据えた。
彼女の声は、清涼な水晶の透明感を持ちながら冷徹さを帯び響く。
「国王陛下。私たちが求めるのは、エルグランドとしての利益です。
私たちは、貴国が『平和な経済協力』とはかけ離れた危険な開発を進めているのではないかと、
深く憂慮しています」
ノヴァは、ヴィクトールと並ぶ長身で完璧な王妃の威厳を保ちながら、言葉を続けた。
「是とのお答えがなければ、彼の国に情報を流してもよろしいのですよ?」
ノヴァの完璧な圧力に、国王は言葉を失った。彼の頭の中では、
「対竜兵器の情報が、竜族全体の盟主であるドラゴニア王国に漏れてしまう」
という恐怖が渦巻いていた。
ヴァルカンは、商売人として状況を収拾するように一歩進み出た。
「陛下、エルグランド王国は、経済的な支援を惜しまないと保証しています。
この提案は、国の安全保障と経済の双方に利益をもたらすものです。
ご一考いただければ」
ヴィクトールは、最後の決定打を静かに放った。
「国王陛下。我々の要求は友好の証です。先王からのお付き合いを復活させてはいただけませんか?
回答は即座でなくても構いません。
しかし、一週間以内に肯定的な回答が得られない場合、残念ながらドラゴニア王国へ使者が走ることとなります。また、私たちに、何かあっても国から使者が向かうよう手筈は整えてあります。」
経済支援という現実的な脅威と、ノヴァの完璧な圧力、
そしてドラゴニア王国に追い詰められたアラキラ国王は、顔を青ざめさせた。
「...わかった。この提案は重すぎる。
一週間の猶予をもらおう。
その間に、内部で検討する」
ヴィクトールとノヴァは、エルグランドの王でありながらドラゴニアの盟主としての権威を見事に使いこなし、完璧な外交勝利を収めた。
この一週間という猶予こそが、極秘鉱山にいるガルドとルキウスが情報を掴み、破壊工作を開始するための貴重な時間となる。




