29:欲望を露わに
ヴィクトールとノヴァは、ノヴァの転移術でヴァルカンの私邸へと移動した。
ノヴァの容姿は、極めて美しく、神聖な雪のようだった。
ヴィクトールと同じような背丈ではあるが、細くしなやかな四肢がノヴァの美しさを更に形作る。今回は王妃の役を演じるため、その角を隠し、ドレスを身に纏う。
鏡の前に現れたのは、息をのむほど完璧な美貌と揺るぎない威厳を兼ね備えた女性だった。
「ふふ、私はこんなにも美しいのね。」
ヴィクトールと並ぶその姿は、王の隣に立つ王妃として、一点の非の打ち所もない神々しい調和を生み出していた。
プラチナブロンドの長い髪は光を帯び、豪華な金糸のドレスを纏い、その頭上には青い宝石のティアラを戴いていた。
ノヴァは、その美しい唇を微かに緩めた。
「どうです、ヴィクトール。
この完璧な王妃の装いは。
アラキラの貴族どもの、その醜い欲望と欲求を絡めとるには十分でしょう?」
ヴィクトールは、満足の笑みを浮かべ、その手を静かに取った。
「完璧だ、ノヴァ。彼らにとって、エルグランド王国の王と王妃が、どれほど高貴な存在であるかを、その肌で感じさせてやろう」
ヴァルカンが商人として築き上げたルートを通じ、「エルグランドの新王とその妃による非公式な友好訪問」という名目で、二人はアラキラの王宮へと足を踏み入れた。
アラキラ王宮は、中央国の名に恥じぬ絢爛豪華さを誇っていたが、秩序を欠いた成金趣味的な装飾が、二人の洗練された美意識とは対照的だった。
王宮の大広間、謁見の間へと続く長い通路。
美しい二人が並んで歩を進めると、通路の両側に控えていた貴族や高官たちは、まるで魔法にかけられたかのように、静まり返った。
ヴィクトールは、太陽のような威厳を放ち、ノヴァは、その隣で月のように静かで完璧な美貌を誇示していた。
二人の圧倒的な存在感は、宮廷の粗野な空気を瞬時に一掃した。
高官たちは、ノヴァの人間離れした美しさと、高貴さに、即座に魅了された。
小声の囁き、そして欲に濡れた下卑た視線が、ノヴァの全身に浴びせられた。
彼らの思考は、王妃を如何に閨に侍らせるかに囚われていた
「あれが、ドラゴニア王国の王妃か、なんと美しい」
「さりとて、女。財の前では体も開きましょう」
「しかし、格下とは言え、立場は王妃。手に入れたいものだ。」
ノヴァは、そうした人間たちの無礼な騒乱を、一切意に介さない。
彼女は、ヴィクトールの王妃として、顔色一つ変えずに、優雅に、そして一歩一歩、確かな威厳を持って、謁見の間へと進んでいった。
その完璧な態度こそが、貴族たちの欲を一層募らせ、静かなる騒乱を謁見の間の外で巻き起こしていた。
国王が待つ謁見の間に入ると、ヴァルカンが先導した。
アラキラ国王は、肥満体で汗を滲ませた、権力欲に塗れた男だった。
彼は、ヴィクトールの若さと威厳に強い嫉妬を覚え、ノヴァの異様なまでの美しさに本能を露わにした。
「よくぞ参られた。直接王宮まで来られるとは、光栄だ。そちらも大変であっただろうに。」
国王は、上から目線で、嫌味を込めて挨拶した。
ヴィクトールは、その嫌味を完全に無視し、太陽のような笑みを浮かべた。
「ご招待感謝します、アラキラ国王。エルグランド王国の盟主として、貴国との経済的協力を強化しに来た。そして、我が妃ノヴァは、貴国の美しい文化を学ぶことを望んでいる」
ノヴァは、国王に対して、微かに口角を上げるだけの完璧な礼をとった。
その圧倒的な美しさと冷徹さは、国王の権威主義的なプライドを無言で踏みにじる効果があった。
心理戦は、謁見の開始と同時に始まっていた。




