28:潜入成功
奴隷達は船から馬車に乗せ替えられ、アラキラ王国の極秘鉱山近くの森に到着した。
ルキウス、ガルド、そして6名の工作員たちは、すぐに地下深くへと続く、長く暗い坑道へと押し込まれた。
ルキウスは、粗末な布服に身を包んでおり、その銀色の鱗が良く目立つ。竜族の魔力は圧倒的だが、彼の体力は皆無に近かった。
鎖で繋がれ、わずかな灯りしかない湿った坑道を歩かされるだけで、ルキウスはすでに息切れしていた。
「ハァ...ハァ... 鎖が重い、湿気がひどい。ガルド殿、この労働環境は報告書に最悪の評価をつけなければいけないレベルですね。」
ルキウスの情けない弱音に、元傭兵であるガルドは、ため息を吐き、彼の隣に並んだ。
ガルドの表情は厳しいが、その口調には親愛とたしなめが混じっていた。
「あんた、何を言ってんだ。
体力なさすぎるだろ。
息を整えな、お前さん。ここで倒れちゃ、洒落にならねぇんだからよ」
ガルドは、巨大な手でルキウスの背中を軽く押し、隊列を維持させた。
ルキウスは、情けなさに顔を歪ませながらも、ガルドの強引な優しさに従うしかなかった。
彼は、ガルドの優しさに大いに救われていた。
坑道の終点、地下数百メートルの場所に、目的の極秘施設は存在した。
そこは普通の鉱山ではなかった。
冷たい岩肌、厳重に閉ざされた魔導の扉がいくつも並んでいた。空気は消毒薬のような異臭が立ち込め、不気味な青白い光が、通路を照らしていた。
ルキウスたちは巨大な檻のような場所に押し込められた。
「ここがお前等の家だ。
お前たちは、坑夫として最も価値の高い鉱石を掘る。
もし作業が遅れたり、逃げようとしたりすれば、命はないと思え!」
管理官が去ると、ガルドは、檻の中を見回す。そして、部下である人間工作員たちを静かに見渡した。
「いいか、お前等時期が来るまで溶け込めよ」
ガルドは、誰も聞いていないことを確認すると、ルキウスに近寄った。
「ルキウス。あんた、ヘロヘロだな。
体力はさておき、頭を使わなきゃ意味がねぇ。あんたの役割を思い出せ」
ガルドの言葉に、ルキウスは銀色の瞳に、学者としての光を取り戻した。
「分かってますよ。
この施設の魔力遮断の強さは尋常ではない。
この地下全体が、竜の魔力を感知・遮断するように設計されている。
それに、この空気の異臭...そして、この気配対竜兵器、つまり『黒い塵』が、この奥にあることを示唆しています」
ルキウスは、疲労を知識欲に変え、冷たい魔導鋼の壁を指さした。
「ガルド殿。この特別区画は、魔力干渉を防ぐために、警備が手薄になっている可能性がある。
私は、奴隷たちが掘削作業をしている間に、壁の術式から、黒い塵の研究資料など探ります」
ガルドは、ルキウスの意見に頷いた。彼の優しくも強い眼差しが、ルキウスを安心させた。
「指揮官は俺だ。
だが、頭脳はあんただ。部下たちは、俺の命令であんたの周囲を固める。
どんな作業が課されようと、あんたが分析する時間を稼ぐ。
不器用な銀竜を助けてくれと、ノクス様からの命令だ」
ガルドの親しみやすさの中にある鉄のような決意とルキウスの解析力が、この絶望的な極秘鉱山で、ドラゴニア王国の命運を握る潜入作戦の火蓋を切ったのであった。




