26:潜入
----運河沿って設けられた、赤竜商会が独占的に使用を許された私設の港
周囲には王家の近衛兵が厳重に警備に当たっていたが、
その実態は商会が王家依頼の奴隷輸送を請け負うための表向きの警備だった。
深夜、風が金属の冷たさを運ぶ中、ヴァルカンは上質なコートを羽織り、積み込みの監督にあたっていた。彼の緑色の瞳は周りの動きに注視していた。
船が待つ波止場には、二十名ほどの人間や亜人が鎖で繋がれて立たされていた。
彼らの中には、アメティストの元で訓練を受けた優秀な元傭兵や隠密たちがいる。
ひときわ目立つ銀竜ルキウスと、アメティストの番であるガルド。
ルキウスは、粗末な服に身を包んでいても、その銀色の鱗が美しい。ガルドは兵士らしい頑健な熊のように巨大な体躯で、よく目立つ。
ーーーー決行前夜
赤竜商会のとある部屋に、転移魔法で6人の人間とドラゴニアが送られてきた。
ドラゴニアも初見では人間と思うほどの外見の者ばかりだ。
「では、はじめまして。私はルキウス。
今回の潜入に当たり、目玉商品として献上される役割のものです。」
その声に、鎖で繋がれた人間たちは一斉に姿勢を正した。
彼らは、竜の支配とアメティストの命令によって動いている。
「そんで、俺がガルド。ルキウス殿とは初見だな。今回の指揮を取る。」
「お前たちの任務は二つ。一つは、極秘施設の詳細な情報の収集。
二つ目は、ガルドの指揮の下、王家の対竜兵器の開発を内部から遅延・破壊すること」
ガルドは、一歩前に出た。彼の巨躯と元傭兵としての迫力は、沈黙をもって六名の隊員を圧倒した。
「ここから先は、敵地。任務は全て俺の指示通りに動く事。裏切り者は、アラキラ王家に殺される前に、俺がこの場で叩き潰す。良いな?」
「ハッ!」
工作員たちは、忠誠を誓うように頭を下げた。
「あの、私、魔法は使えますが体力、腕力に関しては下の下なので、よろしくお願いします」
ルキウスの情けない申し出に、場の空気が和む。
「まぁ、ここまででいいだろう。万が一の時は、私が介入する。安心して行動してくれ」
ヴァルカンはそう言うと、皆を案内し運搬用の檻に詰め込んだ。
ーーー赤竜商会専用港
奴隷の入った檻の搬入が終わると、王家の奴隷管理官が高熱を帯びた焼き印を手に、再び近づいてきた。
この烙印は、奴隷の自由な意思を奪い、持ち主の命令に逆らえないようにするための強烈な束縛の術式が組み込まれている。
管理官は、ルキウスの右肩に烙印を押し付けた。
ジュッという音と、肉が焼ける焦げた臭いが夜の港に立ち込める。
ルキウスは苦悶の表情を浮かべ、痛みと魔力の干渉を瞬時に抑え込んだ。
次に、ガルドの番だった。彼は二重に烙印を押されるという屈辱的な激痛に対し、低い唸り声を上げただけで、姿勢を崩さなかった。
彼の熊のような体躯は、忠誠と番への愛という強固な意志によって支えられていた。
ヴァルカンは、一連の作業を冷酷な商人の顔で見届けていた。
烙印を終えた奴隷管理官が、ヴァルカンの元へと戻ってきた。
「調達された実験体は、全て問題なくマーキングされました。
これより、鉱山へと輸送いたします」
ヴァルカンは、屈辱に耐えるルキウスとガルドに向かい、王家の近衛兵が聞いても問題ない表面的な指示を与えた。
「いいか、お前たち。赤竜商会からアラキラ王家に渡った以上、お前たちの命は、もう私のものではない。愚かな抵抗などするな。
さもなくば、その惨めな命は、鉱山で終えることになるぞ」
その口調は冷酷非情であったが、ヴァルカンの緑色の瞳は、一瞬だけ、
ガルドの瞳に目に見えない魔力のサインを送った。問題なく術式には抵抗できたようだ。
「—獲物の場所を特定したら、活動開始。貴様たちの真の任務が始まる」
合図を理解したガルドは、僅かに頭を下げた。
奴隷たちは船に押し込められ、極秘鉱山へと向かう、闇夜の大河へと出航した。
ヴァルカンは、船の影が運河に消えるのを見届けると、冷たい笑みを浮かべた。
(これで、アラキラ王家の心臓部に、竜王国の刃が届いた。
あとは、ルキウスとガルドが、あの極秘施設の正体を暴くだけだ)




