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クロマティ・ヘゲモニー 万色竜の覇権  作者: 鞘沙耶
ドラゴニア王国
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24:商人ヴァルカン

中央国アラキラ王国の王宮、謁見の間


 重厚な石壁と、王家の栄光を謳う巨大なフレスコ画が、現在の王家の焦りを際立たせていた。

部屋の空気は重く、エルグランドで起こった軍事資金源の不可解な崩壊という報によって、緊迫していた。

国王と大臣たちは、エルグランドの新王ヴィクトールによるクーデター的な政変が、禁忌の森の竜族の差し金ではないかという強い確信を抱いていたが、証拠がないため、その恐怖を押し隠していた。


「陛下、これはあまりにも出来すぎた話です。あの資金ルートを、これほど完璧に、そして迅速に叩ける組織は、時期的に見て、禁忌の森の奴ら以外に考えられません...!」


軍務大臣が声を潜めた。


「あの極秘裏に進めていた対抗策が、この決定的な瞬間に停滞するとは...。アラキラの未来は、このままでは竜族に食い潰されるぞ!」


国王の焦りに満ちた声が響く中、彼らの目的は極秘の戦略兵器の開発を継続させるため、新進気鋭の商会「赤竜商会」の財力と輸送経路を、どうにか手に入れることだった。


「陛下、まもなく赤竜商会会長が参ります。」


「ふん、ここにも竜か⋯。気に食わん⋯。」





ヴァルカンは、王宮からの手紙を受け取った時点で、金の無心であることは予期していた。 

だが彼は、その案に乗ってやることにした。

ヴァルカンは、濃紺のうこんのベルベットと象牙色の刺繍が施された上品な外套を身に纏い、謁見室へと進んだ。彼は王宮の近衛兵が持つ威圧にもものともせず、落ち着いた足取りで王の玉座の前へと進み、そして臣下の礼をとる。


彼の服装は控えめであったが、燃えるような短い赤い髪が、その強烈な存在感を際立たせていた。

体躯は兵士のような筋骨隆々ではないが、鍛えられた均整の取れていた。

その見目麗しい青年は姿変えの指輪で額の角だけを隠しており、顔の中心で輝く鮮やかな緑色グリーンの瞳は、金の匂いを嗅ぎつける商人の鋭さと、優しく人当たりの良さを併せ持った表情を浮かべていた。


「赤竜商会会長、ヴァルカン。顔をあげよ」


緑の双眸が国王を見つめる。


「この度は、そなたに改めて交渉したいことがある。現在、我が国が置かれている状況、その方も理解しておるか?」


「お初にお目にかかります。国王陛下、そして皆々様。エルグランドの不幸な政変に端を発した金融市場の混乱でございますね。我が赤竜商会としても、彼の国の貴族様方と取引もありましたので、心を痛めております」


ヴァルカンは、優しく人当たりの良い、商会随一の成功者としての口調で語りかけた。

国王は、屈辱を必死に押し殺し、対抗するための戦略という誘惑に縋りつくように頭を下げた。


「ヴァルカン殿。貴殿の商会の力が今必要なのだ。友好国エルグランドの政変、ドラゴニア王国の台頭そのために軍備の早期強化が必要なのだ。

そこで貴殿の財力、そして商会の持つ広大な輸送経路を貸してもらえないだろうか。

その見返りとして、まず、貴殿には子爵の位を与えよう。それに加え、主要な輸送路の優先使用権と、国庫の一部の管理権限を認めよう」


国王の傲慢さが丸出しの提案に対し、ヴァルカンは一瞬の沈黙の後、大きく優しげな笑みを浮かべ、深く頭を下げた。

大笑いしたい気持ちは見事に隠しきった。


「国王陛下。陛下の深いご厚情と多大なる配慮に、心より感謝申し上げます!このヴァルカン!

子爵の位を賜るという栄光、そして事業拡大の好機とも取れる提案!謹んでお受けいたします!

我が赤竜商会の総力を挙げ、アラキラ王国の安定と発展に貢献することをお約束いたします!」


ヴァルカンは、何の条件も付けず、貴族の位と利用されるための権利を全て受け入れた。

国王と大臣たちは、


「やはり商人風情は爵位に目が眩み、王家の要求を全て呑んだ。阿呆だ」


と、内心で冷笑した。

こほんと、財務大臣が咳払いをする。


「よろしい。さて、ヴァルカン子爵。我々の国庫の管理には、いくつかの特殊な調達が伴う。

貴殿の輸送力と人脈をもって、人間と亜人の奴隷を、定期的に調達・供給していただきたい。

彼らは兵の増給、鉱山開発に必要な労働力だ。貴殿は財力と輸送のみに集中していただきたい」


極秘の研究施設に必要な「実験体」を「極秘の鉱山開発に必要な労働力」と偽り、貴族側から傲慢に要求した瞬間、ヴァルカンの鮮やかな緑色の瞳が一瞬、冷酷な光を放った。


しかし、彼の口調は、一切の疑問を持たない純粋な商人のままだった。


「承知いたしました。大規模な調達が必要となりますが、我が商会のネットワークを駆使し、ご希望道理に納入させていただきます。全てお任せください!」


この非道な要求が、貴族側から提供され、ヴァルカンが喜んで全肯定したことで、国王はヴァルカンが真の目的を知らないと信じ、胸を撫で下ろした。


ヴァルカンは、王家との正式な契約を交わすと、満足げな笑みのまま、謁見の間を辞した。


(子爵の位など、塵芥に等しい。しかし、これでアラキラ王国の財政、軍事輸送ルート、そして極秘の鉱山への潜入経路を、子爵という安価な称号で手に入れた。人間とは本当に阿呆だな)


ヴァルカンは、すぐに聖域へセンディングを飛ばした。

ヴァルカンは、エルグランドでの出来事と、アラキラが対竜兵器を開発しているという情報をすでに知っている。


「ノクス様。アラキラ王家は財政、輸送、そして極秘の鉱山への奴隷供給ルートを、子爵の位と引き換えに提案してきました。それを飲み、彼らが調達を求めた『奴隷』の行き先、それを探ります。」


ノクス王からの返信は、彼の読みが正しいことを示した。

『その隠された場所こそ、目的の獲物だ。お前が調達する奴隷の中に、銀竜ルキウスと、選りすぐりのドラコニア兵士を「奴隷」として紛れ込ませよ。その隠された資金の行き先を追え。』


かくして、ヴァルカンはアラキラ王家の傲慢さを逆利用し、赤竜商会を王家の協力者とした。


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