23:復讐相成る
ヴィクトールとノヴァは、王宮の地下、王族の秘密の書庫にて、現国王を追い詰めた。
王は、黒い塵との契約を示す証文を握りしめ、顔面蒼白で震えている。
彼の周りを、ヴィクトールの魔力とノヴァの魔力が包み込み、王の魔力による抵抗を一切許さなかった。
ヴィクトールの黄金の瞳は、もはや人間の情を持たず、運命の理を執行する冷酷な神のようだった。
「兄上」
ヴィクトールの声は静かだったが、その響きは地獄の底から響く絶対的な審判の音だった。
「お前は、このエルグランド王家の権威と、母の尊厳を、黒い塵という穢れた異形に売り渡した。我が王国の血を汚し、民の安寧を破り、ただ己の保身と魔力への渇望のために、最も冒してはならない罪を犯したのだ」
ヴィクトールは、王の眼前に、回収した証文を突きつけた。
証文には、現国王自身の血判が、黒い塵の忌まわしい紋様と共に刻まれていた。
「これが、貴様が犯した罪の全てだ。貴様が母にしたこと、そして私に与えた苦痛。その償いを、ここでしてもらう」
王は、命乞いの言葉を発しようとしたが、ノヴァの威圧がそれをさせなかった。
「私の愛しいヴィクトールの裁きを、邪魔するなんて許さないわ」
ノヴァは、優雅な口調で、美しい笑顔で制した。
ヴィクトールは、腰に佩いていた剣を抜き放った。
その刃が黄金の光を浴びて輝く。
「貴様の罪は、我が復讐と正義をもって、この手で浄化する」
そして、ヴィクトールは、一瞬の躊躇もなく、愛憎の全てを込めて、その剣を現国王の心臓へと突き立てた。
剣は、魔力を纏い、現国王の穢れた心臓を一突きで貫いた。
血飛沫は、ノヴァが展開した魔力障壁によって一滴も散らされることなく、美しく静止した。王の顔は、苦悶と驚愕のまま、虚無の闇へと沈んだ。
ヴィクトールは、復讐の終わりを感じながら、ゆっくりと剣を引き抜いた。
現国王の処理を終えた後、ヴィクトールは、ノヴァと共に、王宮の迎賓の間へ移動した。
そこには、すでにヴァリエール伯爵の失脚により希望を失った前王妃、王妃、側妃、王子、王女たちが、絶望的な怯えの中でラインハルト公爵家の私兵により集められていた。
彼らは、ヴィクトールと、その隣に立つ美しい白竜ノヴァを見て、恐怖で声を上げることもできない。
ヴィクトールは、冷酷な視線で彼らを見下ろした。
「お前たちは、黒い塵の恩恵を受け、あるいは見て見ぬ振りをしてきた。そして、私の母を衆目の中なぶり殺し、今ものうのうと生きながらえている。」
ヴィクトールは、王族を前に、最も残酷な相談を始めた。
「ノヴァ。貴方の意見を聞きたい。この醜く怯える者たちを、どのように裁くのが最も効果的か?知恵を貸してくれ」
ノヴァは、その要求を慈愛の視線で受け入れた。
「そうね、美しい復讐のためには、汚い血を流す必要はないわ」
ノヴァは、艶然とした微笑みを浮かべた。
「この者たちの命を奪うのは簡単すぎる。彼らの魂を、王族というプライドを、永遠に蝕む裁きがふさわしい」
ノヴァはその提案を、甘い口調で囁いた。
「私の空間魔法を使えば、彼らの王族の記憶と魔力の根源を切り離すことは容易よ。
彼らを王都から遠く離れた辺境に転移させ、王族であった記憶を完全に封印する。二度と王族の光を知らず、ただの無力な庶民として、生涯を苦しむのが、最も美しい、生きながらの地獄ではないかしら?」
ヴィクトールは、その残酷で完璧な提案に、満足げな笑みを浮かべた。
「あら、間違えたみたい。記憶はそのままでいいわね。」
「ああ、ノヴァ。その裁きでいこう。生かしておくことが、最大の罰となる」
ヴィクトールが、王族への裁きを下した、その時。
迎賓の間全体が、漆黒の魔力によって満たされた。
次元の壁が裂け、ノクス王が、その絶対的な威厳と共に現れた。
「楽しそうだな」
ノクス王の声は、恐怖に満ちた空間を震わせた。
「これより、エルグランド王家に新しい芽吹きを与えよう」
ノクス王は、ヴィクトールとノヴァを静かに見つめた。
「ヴィクトール・レオンハルトよ。お前は、竜の番という力に頼らず、穢れに満ちた王権を己の力のみで掌握した。お前の復讐は、実ったようだ。結果として、我がドラゴニア王国の利益繋がった」
ノクス王は、玉座にではなく、ヴィクトールとノヴァの前に降り立った。
「お前は、王の血と竜の加護2つをを併せ持つ。これ以上に国を収めるのにつ語のいい人間はいないだろう?」
ノクス王は、ヴィクトールの肩に手を置いた。
「ヴィクトール・レオンハルト。貴様に命ずる、ドラゴニアの友好国として、エルグランド王国を治めよ。ノヴァを伴侶として、その叡智をもって、2人でこの国を治めよ」
ノクス王の言葉により、ヴィクトールによる王家掌握が、公然と認められた。
怯える王族たちには、もはや一筋の希望も残されていなかった。
王権掌握の承認を終えたノクス王は、最後の指令を与えた。
「ヴィクトール、ノヴァ。そして、ファーン」
ノクス王は、空間を隔てて待機していたファーンを転移させた。
ファーンは、ノヴァの人化した姿と、ヴィクトールの姿を見て、複雑な表情を浮かべたが、すぐに跪いた。
「ヴィクトール、ノヴァよ。王権掌握は始まりに過ぎない。黒い塵の組織の残党と残された技術は、未だ王国の地下に潜んでいる」
「お前達は、黒い塵を根絶せよ。その穢れた痕跡を、この世界から完全に消し去るまで、責務を果たすのだ。ノヴァ、お前であれば容易いことだろう?」
ヴィクトールとノヴァは、深く一礼した。
「承知いたしました、ノクス様。全てを浄化いたしますわ」
ノヴァは静かに頭を下げた。
その姿は美しく、自信に満ち溢れていた。




