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クロマティ・ヘゲモニー 万色竜の覇権  作者: 鞘沙耶
ドラゴニア王国
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20:理の変化

ヴァリエール伯爵邸の地下金庫から転移したノヴァ、クプロ、ファーンの三竜は、聖域へと姿を現した。

聖域の中枢には、ノクスが、その絶対的な威厳を保ちながら玉座に座している。

彼の傍らには、穏やかながらも深い安定感を放つ竜の重鎮、アイゼンが控えていた。

ノヴァは、ヴィクトール・レオンハルト公爵との運命の熱を抱えながらも、王の前では完璧な臣下の竜に戻った。


「ノクス様。ご報告申し上げます」


ノヴァは一礼した。


「ヴァリエール伯爵家への資金遮断は完全に完了いたしました。クプロの魔法により、伯爵の資産は無効化され、アラキラ王国との秘密契約書も改ざん済みです。作戦の成功により、ヴィクトール・レオンハルト公爵の復讐のための政治的な地盤は整いました」


クプロが「数字は完璧に凍結した!」と補足し、ファーンが「人的被害も魔力痕跡もなし」と続けた。


ノクス王は静かに頷いたが、その黒い瞳は、ノヴァから漏れる僅かな魔力の乱れを見逃さなかった。


「ノヴァよ。お前の行動には、常に感謝している。だが、お前の魔力が、これほどまでに揺らいでいるのは、極めて珍しいことだ」

ノクス王の静かな声が、聖域の冷気を震わせた。

ノクス王の鋭い指摘に、ノヴァは動揺した。ノヴァの頬に薄い赤みが差し、紫の瞳が大きく揺らぐ。


「ノクス様…」


ノヴァは、玉座を見上げる代わりに、足元の磨かれた聖域の床を見つめた。


「実は、私、個人的なことで、少し困惑していることが…」


ノクス王は、初めて見せるノヴァの戸惑いを静かに見守り、傍らのアイゼンへ視線を向けた。


「アイゼン。ノヴァが番のことわりについて悩んでいるようだ。経験者として、聞いてやってくれ」


アイゼンは、温かい微笑みをノヴァに向けた。

「ノヴァ殿。気兼ねなく話しなさい。竜にとって、番へ衝動は最も聖なる秘匿でありますが、恥ずべきことではない」


ノヴァは、恥ずかしさと戸惑いで、肩を縮こまらせた。

ファーンとクプロの視線が突き刺さるのを感じ、さらにオズオズと声が小さくなる。


「あ、あの、アイゼン様…私、その…特定の人間にね、初めて会ったその瞬間から、制御できないほどの熱と魂の渇望を、ずうっと、感じてしまっているのよ。番なんて、生まれて数百年、無縁だと思っていたのに…」


ノヴァは、ヴィクトールの燃えるような瞳と、触れられた手の熱さを思い出し、顔を伏せた。


「でも…その方は、純粋な人間ではないの。ドラゴニア血が混ざっているわ。竜と番う古の理から、かけ離れているはずなの。なのに、どうして…こんなにも、抗えない衝動が、私を支配するのかしら…」

ノヴァは、まるで罪の告白をするかのように、言葉を絞り出した。その声には、羞恥と切実な迷いが滲んでいた。

ノヴァの切実な相談を聞いたノクス王は、深く静かに息を吸い込んだ。聖域の空気は張り詰め、クプロとファーンも息を飲む。


「ノヴァよ。お前の困惑は理解できる」


ノクス王は、玉座から身を乗り出し、ノヴァへ向き直る。


「貴様が言う『古の理』は、確かに純粋な竜と純粋な人間との間に番が成立するというものだ。だが、その理が定められてから、千年以上の時が流れた。その間、加護を受けし眷属の血も混じり合った。その結果何かしらの変化が起きたのではないか?」


ノクス王の黒い瞳が、ノヴァを射抜く。  


「この千年で、世界は変わった。人間の血の中に、竜族の血が混ざり、散り、薄まっていった。貴様の相手が、人間でありながら竜の血を持つ者であるなら…」


ノクス王の言葉は、ゆっくりと、しかし確信を持って響いた。


「ノヴァ。血が薄まり、番のことわりに変化が生じたのかもしれない。貴様のその衝動は、許されざる罪ではなく、新しい時代の運命として、番う可能性を秘めている」

アイゼンが優しくノヴァの手を取る。

ノクス王の言葉は、ノヴァの数百年間の孤独と理性の壁を、一瞬にして粉砕した。


「あ、ああ…どうしよう…」


ノヴァの唇が、震えながらその言葉を繰り返す。これは、戸惑いの言葉であると同時に、理性による最後の抵抗だった。

しかし、その抵抗は、内側から噴き上がる熱い歓喜の津波によって、跡形もなく飲み込まれていった。

ヴィクトールの赤い髪、力強い手、「ノヴァ」と呼んだ熱い声、そして「番に違いない!」という確信。これらが、許された運命として、ノヴァの魂に怒涛のように押し寄せる。

ノヴァの紫の瞳から、涙がこぼれ落ちそうになる。それは、喜び、解放、そして数百年間の耐え忍びが溶け出したものだった。


(私の番なの…?)


ノヴァは、両手を胸に強く当てた。そこには、かつてないほどの激しい鼓動が響いていた。

彼は、顔を覆うこともできず、そのまま天を仰いだ。

ノヴァの表情は一変し、戸惑いの「どうしよう」は、恍惚とした熱を帯びた囁きへと変わる。


「…嬉しい。ああ、嬉しいわ。ヴィクトール…私、貴方の番になっても、いいの…?」


その瞬間、聖域に集まった三竜たちは、純粋な白竜の魂が、数千年の理を超えて、愛という名のもとに解放される劇的な瞬間を目の当たりにしたのだった。


光の収束の後、そこに美しいプラチナブロンドの長い髪に、白い肌、紫の瞳の人化したノヴァが立っていた。



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