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クロマティ・ヘゲモニー 万色竜の覇権  作者: 鞘沙耶
ドラゴニア王国
72/86

18:引き合う運命

ノヴァの話に戻っていきます。BL的表現出てきます


ヴァリエール伯爵邸への潜入作戦決行を目前に控え、白竜ノヴァは、再びレオンハルト公爵邸の私室へと音もなく転移した。

公爵の私室は、重厚なオーク材の家具と、公爵の軍人としての歴戦の歴史を感じさせる古い地図や武具に囲まれていた。部屋の隅の暖炉では、薪が静かに赤い炎を揺らし、その熱が冷たい石壁に微かに反射していた。

ノヴァは、隠蔽魔法を施していたが、公爵の存在が、自身の白い魔力の輪郭を炙り出そうとしているかのような微かな圧迫感を感じていた。

公爵は、窓辺で書類を広げていたが、ノヴァが現れるとすぐにその赤い瞳をノヴァに向けた。その瞳には、昨夜の情熱的な衝動の代わりに、静かで深い愛が宿っていた。

ノヴァは、その視線から逃れるように、仕事に集中することで自らを律した。


「レオンハルト公爵。ヴァリエール伯爵邸の構造、警備シフト、アラキラとの契約書の最終確認を終えました。伯爵は明日未明の物資搬入を控え、現在も邸宅にいます。銅竜クプロの資金遮断は、私が伯爵家の金庫へ転移し、契約を改ざんすることで完了します。」


ノヴァは事務的な口調で報告を終え、その言葉は、冷たいガラスの破片のように、暖炉の熱とは無関係な空気を生み出した。公爵は、一言一句聞き逃すまいと静かに耳を傾け、ノヴァのプラチナブロンドの髪の先端から足先まで、愛惜にも似た鋭い視線を送り続けていた。

ノヴァは、任務の報告を終えたにもかかわらず、自身の魔力が、まるで公爵の熱に絡め取られたかのように、転移の術式を練り上げることができない。


(何故だ。早くここを離れなければならないのに。この抗いがたい衝動は...)


ノヴァは、公爵に初めて出会った瞬間から、自分の心臓が制御不能なリズムを刻み続けていることを思い出す。それは、理性や計画とは無関係に、魂が求める相手と出会った瞬間に発生する運命的な現象であるとも知らず。

公爵は、そのノヴァの葛藤に気づいているかのように、ただ静かに見つめ返すだけだった。

公爵は、その熱い金瞳でノヴァの紫の瞳を見つめ、そっと立ち上がった。

その歩みは遅く、一歩一歩がノヴァの心臓を強く打たせた。


「ルクス伯爵」


公爵は、ノヴァの目の前まで歩み寄り、その低い、魅力的な声でゆっくりと口を開いた。


「貴方の仕事ぶりは、見事としか言いようがない。だが、私は貴方と仕事の話だけをしたいわけではない」


公爵は、ノヴァの滑らかな頬に触れようとした。

ノヴァの、体が動かない。


「貴方の名前を、名を『ノヴァ』と呼んでもいいだろうか?ただの『伯爵』ではなく。特別な存在として。そして、貴方も私をヴィクトールと呼んで欲しい。私の母以外、誰も呼ぶことのなかった忘れ去られた名だが、貴方にこそ呼んでもらいたいのだ。」


その名が頭に響いた瞬間、ノヴァの全身の血が熱い激流となって駆け巡った。

この男の要求は、ノヴァの魔力を熱く溶かし、拒絶の言葉を吐くこともできない。

(これは運命なの?でも彼は人間ではないのよ?)

公爵は、ノヴァが返答できないのを見て取ると、そっとノヴァの手を取り、彼の手のひらに自分の力強い手を重ねた。

その手の熱が、ノヴァの肌と魔力の層を突き破り、魂へと直に伝わる。


「貴方が私を警戒するのは理解できる。だが、お互いのことを少し話そう。時間はあまりないが、私は、貴方に知ってもらいたいのだ」


公爵は、もう一度、前王妃たちによる母の惨殺という、彼の憎悪の源を語った。

その声には、深い孤独と、その孤独を埋める愛への渇望が滲んでいた。

公爵は、ノヴァの手を握る力を強めた。


「ノヴァ。貴方ほどの竜が、なぜ数百年もの長い間、『番』を得られないでいるのだ?貴方と私が初めて出会った瞬間から、私の中に湧き上がったこの抗えない熱は何だ?」


ノヴァは、公爵の言葉の真実に心臓を抉られた。

彼は、数百年の間、竜族と人間の間で起きるという運命的な衝動を一度も感じたことはなかった。

「私は...生まれて数百年、番を得られなかった。私の魔力は、魂は、誰にも反応しなかったのよ。我らの王ですら千年の時を有したの、こんな奇跡私の身に起こるわけないの。」


ノヴァは、自分の真の孤独を吐露した。


「あなた、竜をみたことある?ドラゴニアとは少し違っていて、その姿は異形よ。」


「見せてくれ、ノヴァ」


公爵は、ノヴァの手を握ったまま、ノヴァの言葉を遮るように、力強く言った。


「貴方の真の姿を。貴方の中に流れる竜たる本質を。この運命の衝動が、真実であることを証明するために」


ノヴァは迷った。しかし、この男の熱い確信と、運命の衝動に抗うことは、自己否定に等しかった。

彼は、変身の指輪を外した。


ノヴァの体から、偽りの伯爵の衣装が光に溶ける。純粋な白い光が部屋を満たし、彼の全身は白く輝く流線形の揃いの鱗へと変化した。肩や肘には結晶めいた硬質な突起が現れ、白竜の威厳と神聖な美しさが部屋を圧倒した。

レオンハルト公爵は、驚きもせず、ただ息を飲んで見惚れた。

彼の赤い熱は、ノヴァの白い魔力と激しく共鳴し、二つの異なる熱源が互いを求め合う濃密な空間が生まれた。

公爵は、無防備に差し出されたノヴァの鱗に覆われた手をそっと取った。


「美しい…。何と神々しい、あぁ、ノヴァ」


公爵の声は、心からの賞賛に満ちていた。彼の熱い唇が、ノヴァの手の甲の鱗にキスを落とした。

公爵は、ノヴァの鎧のような肩を抱き寄せ、その硬い鱗と熱い肌を自分の鍛え上げられた胸に押し付けた。


「ノヴァ、感じているだろう?この抗えない衝動を。貴方が数百年待ったものは、私だったのだよ。」


公爵は、確信に満ちた声でノヴァの耳元に囁いた。 


「ノヴァ、私たちはつがいに違いない!」


ノヴァは、その言葉が真実であることを魂で理解した。


「そんなはずはない!」


ノヴァは、公爵の熱い腕を最大限の力で振り払った。竜の力の解放により、公爵は壁際まで押しやられ、暖炉の炎が大きく揺らいだ。

ノヴァは、白いドラゴニアに近い姿のまま、公爵の傷ついた瞳を見ることもなく、空間魔法の術式を体内に圧縮した。



「だって貴方はドラゴニアの血を引いてるもの⋯⋯」


ノヴァの体は空間の渦に吸い込まれて消えた。後に残されたのは、運命的な愛と絶対的な拒絶が刻まれた、乱れた部屋の空気だけだった。

2人には幸せになってほしいなぁ

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