16:協力
今回はBL表現なしです
ノヴァは、レオンハルト公爵との劇的な別れの後、空間魔法を使い、禁忌の森の奥深くにあるドラゴニア王国の「聖域」へと転移した。
彼の身体からは、公爵の熱の残滓と、抑え込んだ感情の動揺が消えていなかった。
ノヴァが落ち着く間もなく、玉座に座るノクスへ報告を求められた。
ノクス王は、ノヴァのいつになく動揺した様子と、報告内容の重大さに気づいていた。
「ノヴァ。その非嫡出子の公爵という人物、彼がドラゴニアの血を引くというのは真実か?」
ノクスの声は静かだが、重みがあった。
ノヴァは、公爵との対峙での「番の可能性」に関する言葉を隠し、冷静を装って報告した。
「はい、ノクス様。彼は私の隠蔽魔法を看破しました。これは、単なる人間の能力ではありません。それに、曾祖母がドラゴニアのどれだったとのこと。
「そうか⋯。」
「彼は現王家の反対派を集め、我々の協力を望んでいます。そして、彼は『黒い塵』の開発にアラキラの資金が流れているという、核心的な証拠を掴んでいるようです」
ノクス王は、玉座から静かに立ち上がった。
「このタイミングで、ドラゴニアの血を引くものが現れ、『黒い塵』の情報を掴んでいる。これは運命の導きとは思わんか?ノヴァ、早急に会談の場を⋯」
ノヴァは焦りを覚えた。
「ノクス様、あまりに危険です。王家が公爵の動向を察知すれば、即座に我々の計画が露見します」
ノクスは、ノヴァの不安を一蹴した。
「だからこそ、我々が先に動く。リスクは承知の上だ。彼が真の協力者たり得るか、私が直接、その目で確かめる。場所は、公爵に選ばせてやれ」
数日後。ノヴァの空間魔法により、竜王ノクスとノヴァは、レオンハルト公爵が所有する山奥の古い砦の広間へと転移した。広間は冷たい石壁に囲まれ、窓からは夜の森の黒い静寂が覗いていた。
すでに広間の中心でノクス王を待っていたレオンハルト公爵は、黒いローブ姿のノクス王とノヴァの姿が現れると、即座に深々と一礼した。
その動作は、騎士としての規律と、王族への形式的な敬意に満ちていた。
ノクス王は、公爵の前に立ち、その漆黒の瞳で公爵を静かに見定めた。
「顔を上げよ、レオンハルト公爵」
ノクス王の声は静かだが、石壁を震わせるほどの重い魔力を帯びていた。
「私は、貴方がドラゴニアの血を引いていると聞いた。そして、このエルグランド王国を破壊することを望んでいると」
公爵は、顔を上げ、燃えるような赤い瞳でノクス王を見据えた。彼の顔には、微塵の怯えもなく、ただ揺るぎない覚悟が浮かんでいた。
「その通りでございます、ノクス王。私の内に流れる血は、脈々たる竜王より賜りし加護。貴方様の建国の一助となること、この上なく幸せなことにございます。」
ノクス王は、公爵の瞳の奥底にある激しい感情を読み取ろうとした。
「貴方の憎悪は、どこから来るのだ?貴方を突き動かす動機を示せ。さもなくば、貴方を協力者として認めることはできぬ」
公爵は、強く拳を握りしめた。その時の感情が、体躯から滲み出る魔力となって、冷たい部屋の空気を震わせた。
「私の母は、前国王の側室でありながら、ドラゴニアの血を引いていたがゆえに、前王妃たちから想像を絶する虐待を受けました。私は、彼女たちが母を害す光景を、幼い頃から見続け、無力に耐え忍びました。そしてついに、彼女たちは衆目の中母を殺した。」
公爵の声は、悲痛な過去を語っているにもかかわらず、冷たい決意に満ちていた。
「私は、心に誓いました。この国を、この王家が築いた腐敗したすべてを、必ずや壊してやると。ドラゴニアの建国は、私の復讐に大変都合がいいのです。」
ノクス王は、公爵の過去の言葉を静かに受け止めた。そして、小さく頷いた。
「理解した。その憎悪と、貴方の軍事的な影響力、ドラゴニアの血。確かに、貴方は我々の協力者たり得る」
ノクス王は、そこで初めて、公爵の持つ情報へと話を移した。
「貴方が持つ『黒い塵』に関する情報と、アラキラ王国との繋がりをすべて話せ」
レオンハルト公爵は、ヴァリエール伯爵の秘密の輸送ルートや、アラキラの多額の資金が兵器量産に投じられる計画を詳細に開示した。
レオンハルト公爵との会談を終え、聖域に戻ったノクス王は、即座に結論を下した。
「ノヴァ。レオンハルト公爵は、我々の協力者たり得る。彼の情報は真実だ。我々の計画は、もはや物理的な破壊にはとどまらない」
ノクス王は、玉座の脇で待機していた銅竜クプロへと視線を向けた。
金の狂愛者の異名を持つクプロの瞳は、この巨大な資金の流れの情報を得て、興奮の色に輝いていた。クプロは、ノクス王の権威を示す黒竜の玉座に最も近い場所に、金の装飾を好む華美な姿で立っていた。
「クプロ。君の出番だ。アラキラ王国からエルグランドへ流れる、『黒い塵』のための資金ルートを完全に遮断しろ。ヴァリエール伯爵の資金源と、彼の背後にいる貴族たちの生命線を叩き潰すのだ。ノヴァとファーンの物理的破壊の前に、経済的制裁でアラキラを麻痺させよ」
クプロは、ノクス王の指令に、歓喜の笑みを浮かべた。彼の銅色の鱗が光を反射し、その指先が、早くも金の魔力を編み上げようと動いた。
「ノクス様、承知いたしました!黄金と数字こそ、この地上で最も強大な武器。彼らの血管に流れる生命線を、この私が一本残らず凍結させて差し上げましょう!」




