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クロマティ・ヘゲモニー 万色竜の覇権  作者: 鞘沙耶
ドラゴニア王国
69/86

15:熱

BL的展開が含まれます。ご注意ください。

レオンハルト公爵の私室は、依然として薪の爆ぜる音と、二人の間の張り詰めた静寂に満たされていた。ノヴァは、公爵の力強い視線から逃れられずに、彼が注いだワイングラスを前に、仮の伯爵の仮面を維持していた。


「貴方は、私が『ドラゴニアの者』だと、なぜ気がついたのですか?」


ノヴァは声を絞り出した。その声には、竜としての最高レベルの隠蔽を見破られたことへの屈辱と、彼の低声に胸が高鳴る無自覚な興奮が混じっていた。

レオンハルト公爵は、グラスを静かに回し、その燃えるような赤い髪が暖炉の炎に照らされて揺らめいた。


「理由は二つだ。一つは、貴方から発せられる魔力。それは人間の魔力とは異なる。そしてもう一つ…」


公爵は、ノヴァの紫の瞳から目を離さず続けた。 


「私の血が、貴方を手に入れたいと叫ぶからだ。それが何故なのかは知らないが、貴方を前にすると、私はただの人間ではいられなくなる」


ノヴァは、その言葉に内心で舌打ちをした。そして、自身の高鳴る心臓を「警戒心」という名の枷で抑えつけた。

ノヴァは、公爵がノクス王の思想に深く共鳴していること、そして現王家への強い反感を抱いていることを確認した。彼の持つ軍における影響力は、ノクスの計画にとって不可欠だった。


「貴方の覚悟は理解した」 

ノヴァは冷徹に言い放った。

「貴方が、我々ドラゴニアの、ノクス様の協力者たり得るか、私は王に貴方のことを報告し、会談の場を設ける。場所と時間は追って連絡する」

ノヴァは、任務完了として立ち上がろうとした。その時、レオンハルト公爵のしなやかで力強い指が、ノヴァの細い手首を掴んだ。


「待ってくれ、ルクス伯爵」


ノヴァは、公爵の手から伝わる異常な熱に、全身の魔力が逆流するのを感じた。公爵は、ノヴァの抵抗を無視し、その手首を自分の顔の近くへと引き寄せた。


「すまないね、私はあなたが彼の国の関係者ではないかとはじめから疑っていたのだよ。」


「離して⋯。」


「怒らないでくれ、彼の国の台頭とあなたの動きが、あまりにも、連動的で⋯。気がついてしまったんだよ」


「離せと言っている。」


公爵は、深く息を吸い込む。


「貴方から、甘く、濃厚な花の匂いがする。まるで昨日、私を取り巻く令嬢たちの香水のようだが、もっと…深く、純粋な匂いだ。」


公爵はノヴァの首筋に唇を這わせる。


「あなたを見つめすぎて、気がついてしまったのかな?」


ノヴァを見つめる目に熱が揺らめく。


「あなたの、その匂いが、私を狂わせるのかもしれないね。」


ノヴァは、社交界の悪趣味な香水を嫌悪していたが、この公爵が指摘しているのは、紛れもなく竜としてのノヴァ自身が放つ魔力の匂いだと理解した。

ノヴァは、力を込めて公爵の手を振りほどこうとした。しかし、公爵の鍛え上げられた体躯から放たれる力に、ノヴァのしなやかな指先は全く太刀打ちできなかった。

公爵は、「逃がさない」と宣告するように、ノヴァを背後の石壁へと押し付けた。ノヴァの背中に冷たい大理石の感触が走る。

レオンハルトの顔が、ノヴァの目の前、数センチの距離に迫った。ノヴァの紫の瞳は、公爵の情熱的な赤の瞳に完全に囚われた。


「貴方のその冷たい瞳の奥に、私と同じ熱が見える」


次の瞬間、公爵の熱い唇が、ノヴァの唇を深く、そして強引に奪った。

ノヴァの頭の中で、思考が激しく警報を鳴らした。この熱、この感触は、竜の本能を揺さぶるものだと、彼の無意識が叫んでいた。

唇が離れた瞬間、ノヴァの理性にほころびが見えた。彼は、このままではいけないと直感的に感じた。

「馬鹿な真似はやめて!私は…私は人間じゃないの!」


ノヴァは、自分の秘密を、彼の番となるかもしれない相手に、衝動的に吐き出した。

取り繕っていたすべてが剥がれて、言葉すらいつもの自分に戻っていた。

レオンハルトは、呼吸を乱すこともなく、静かに、優しく、ノヴァの頬に触れた。 


「知っている。だが、それが何の問題だというのだ?私の血は、貴方が欲しいと叫んでいる」 

レオンハルトは、さらに続けた。

彼の言葉は、ノヴァの最も深い部分に触れた。


「私の曽祖母は、ドラゴニアの血を引いていた。彼女はいつも、伝説の竜には、魂の片割れとなる『つがい』がいると語っていた。貴方から発せられるその匂いと、私の中に宿る血のざわめき…私と貴方は、伝説のそれではないのか?」

ノヴァは、公爵の言葉に動揺した。

その通りだ。竜には番がいる。だが、彼は人間だ。

ノヴァは、公爵の頬に触れた手を強く払い除け、冷徹な竜の顔に戻った。


「ありえない。ありえないのよ。竜は、人間としか番えない。貴方は…その条件を満たさない」


その冷たい言葉は、公爵の顔から一瞬にして熱を奪った。公爵の手が、ノヴァから力が抜けたかのように緩んだ。

ノヴァは、その一瞬の隙を見逃さなかった。彼は、自らの内に渦巻く焦燥と、公爵の熱い唇の感触を切り捨てるように、瞬時に空間魔法を圧縮した。


「会談の詳細はまた連絡するわ」


ノヴァの言葉が響き終わる前に、彼の体は空間の渦に吸い込まれて消えた。

後に残されたのは、暖炉の音と、レオンハルト公爵の燃えるような赤い髪と、裏切られたような寂しげな瞳だけだった。




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