9:意図するところ
ドラゴニア王国の聖域。玉座の間には、ノクスが静かに座っていた。親書が各国に送達され、世界が動揺し始めた直後のことである。
ノクスの前には、知恵者である金竜アイゼンが控え、背後には王妃エセルが静かに控えていた。アイゼンは、六竜からのセンディングによる初期報告をまとめ、ノクスに提出するために一歩進み出た。
「ノクス様、建国宣言の親書は全大陸の主要国へ滞りなく送達されました。これに対する人間どもの初動、そして六竜からの現在進行中の初期行動を総合してご報告申し上げます」
ノクスは、その報告を促した。
「言え、アイゼン。世界は、我らをどのように受け止めた?」
アイゼンは、背筋を伸ばし、冷静沈着な声で報告を始めた。
「まず、赤竜ヴァルカンと銀竜ルキウスは、中央国アラキラにて赤竜商会を設立し、まさに今、経済圏への足掛かりを築き始めたところでございます。ノクス様のご意志に基づき、軍事産業への投資誘導という、初期の種まきをこれから本格化させていきます」
「白竜ノヴァは、西の国エルグランドにて、裕福な外国の伯爵として貴族階級への潜入を成功させました。親書通達による外交的混乱を利用し、情報の掌握を開始したばかりです」
「同じくエルグランドに潜入した緑竜ファーンは、書庫番という立場で、王国の機密文書へのアクセスを開始しております。ノヴァ殿と連携し、外交と軍事情報の両面から、エルグランドの動向を掴んでいきます」
「東の国リアルールへ潜入した青竜カイラスは、復興技師としての地位を確保し、物流の基盤整備という初期行動を着手したところです。今後の補給路の確保に向け、作業を進めております」
アイゼンは、一度言葉を区切った。
「南の国フォルテッツァの紺竜インディゴは、先ほど、血族の救出という、最も重要な初任務を完了いたしました。救出された最初の眷属が聖域へ到着しております。」
アイゼンは、最も不安定だが効果的な行動を取った銅竜クプロについて詳細を報告した。
「金融都市レムナスにて両替商クロード・マネーヴィルに偽装した銅竜クプロは、任務開始から日が浅いながらも、親書通達の混乱に乗じ、信用不安という初期の足掛かりを築くことに成功いたしました。これまで行っていた小規模な金融取引の一部を不能とすることで、アラキラ王国の軍部と繋がる特定の有力貴族の間に資金の局所的な凍結を引き起こしました」
「人間どもは、建国宣言という外交上の脅威に加え、足元の金融の動揺という最初の妨害に直面し、対応が遅れております。」
報告を聞き終えたノクスは、静かに玉座から立ち上がった。彼の瞳は、揺るぎない決意を湛えていた。
「アイゼン。ご苦労だった。すべては、我々が千年の眠りにつく前まで、歴代の竜王が果たしてきた責務を、今、我が再開し、人間どもから奪われた血族を取り戻すための、最初の小さな一歩だ」
ノクスは、玉座の間に響き渡る声で断言した。
「人間どもは、富と権力を奪われている。しかしその正体には気づいておらんだろう。彼らは必ず、禁忌の森へと兵を進めるだろう。だが、我らが竜の行動は、その軍の経済と物流と情報を、出発する前からすでに蝕み始めている」
ノクスは、静かに王妃エセルに視線を送り、再びアイゼンに向き直った。
「紫竜アメティストと番のガルドには、聖域の守りを固めるよう指示を徹底させよ。そして、救出された眷属たちを温かく迎え入れよ。我々の戦いは、これからが本番だ」
ノクス王の言葉により、ドラゴニア王国は、世界が混乱に陥る中で、静かに次の段階へと移行していくのであった。




