8:金即ち番
本日連続投稿いたします。
2〜5話程度予定。
よろしくお願いします
中央国アラキラ王国の経済の中心地、金融都市レムナス。
この街の金融街で、「クロード・マネーヴィル」と名乗る悪名高い両替商がいた。
これが、銅竜クプロの仮の姿であり、彼の潜入先での立場である。
クプロは、姿替えの指輪の力を使い、全身を高級な仕立て服に包み輝く赤茶の髪を撫で付け、神経質で瞳に狂気の色を宿す美男の姿を保っていた。
彼の任務は、静かに、しかし確実に世界経済の心臓を握ることだった。しかし、彼の心は**金**への狂愛で満ちていた。
「ああ、美しい金。この冷たい輝きこそ、世界の鼓動だ。」
クプロは、自分の金庫室に山積みされた硬貨の山に、恍惚とした視線を送る。彼の視点では、紙幣は人間の「信用」という不確かな愛の約束だが、金だけがその価値をかえない永遠の愛だった。
(ヴァルカン殿は、市場を「支配」する。だが、私が求めるのは支配ではない。私の愛するこの金を、人間どもの手から**「救い出す」ことだ。ノクス様の計画は、この世界を私**の愛する金で満たすための、壮大な舞台に過ぎない)
クプロは、ノクスから建国宣言の親書通達の報告をセンディングで受け取った。任務開始からわずか数日の出来事であり、彼はまだレムナスの主要な金融機関への本格的な侵入を始めたばかりである。ヴァルカンも同様に、巨額の資金を動かすには至っていない。
しかし、クプロは冷静だった。彼は、市場の混乱に乗じて**「信用」の崩壊**という初期の足掛かりを作ることを決めた。
クプロの渇望は、**「世界中の金がすべて自分の手にある完全な状態」**への第一歩として、アラキラ王国の貴族や有力商人との間で、短期間で結ばれた小規模な金融取引を標的とした。
彼は両替商の裏の個室で、熱に浮かされたように呟いた。
「ノクス様、世界を動かすのは戦争ではない。私の愛だ。今、私の愛を受け取れ!哀れな人間どもの信用よ、私のもとに落ちてこい!」
クプロは、親書通達の報告を受け取るや否や、これまで両替商として個人レベルで行っていた短期融資や為替予約などの取引の一部を一斉に、契約上の不備を理由に履行不可能とした。
彼の行動は、市場全体への影響はまだ小さいものの、アラキラ王国の軍部や政界と強く繋がる特定の有力貴族や大商人の間に、**連鎖的な「信用不安」**を引き起こした。特に、ヴァルカン商会への急な投資に便乗して短期で利益を得ようとしていた者たちに損害を与えた。
この結果、これらの貴族たちは急遽、王家や軍部への献金・融資を一時的に停止せざるを得ない状況に追い込まれた。アラキラ王国の軍の即時動員のための資金繰りに、局所的な問題が発生した。
クプロ、ことクロード・マネーヴィルは、事務所の窓から、混乱と怒号に包まれた一部の商人を眺め、冷酷な笑みを浮かべた。
「これで、彼らが武器を手に取る前に、彼らの動機、すなわち金を奪い去るための最初の小さな扉が開いた。これは、愛を完成させるための、最も美しい足掛かりだ」
銅竜クプロは、世界を動かす見えない黄金の鎖の最初の環を握りしめ、己の狂愛とドラゴニア王国の勝利を確信するのであった。
「私の番たる金よ、さあ、私の元に・・・・」




