3:白と緑
大陸西部のエルグランド王国。王城の図書室には、緑竜のファーンがいた。
ファーンは、生真面目な青年の書庫番として潜入し、エルグランド王国の資源の根幹(食料と土地)を掌握するという使命を遂行していた。
「これで、主要な貴族が所有する穀倉地帯の記録と、水源地の権利書の写しは揃った...」
ファーンは、埃を被った土地台帳や農業記録を前に、満足げに微笑んだ。彼の指先が、隠蔽された鱗の下で微かに光る。
(ノヴァ殿の持ち込む外交情報と照合すれば、どの貴族を先に屈服させ、土地を合法的に手に入れるべきかが見えてくる。)
彼は、番を持たぬ竜としての不完全さを心の奥底に抱えつつ、生真面目に任務を遂行した。
時を同じくして、エルグランド王国の首都。最高級の貴族街にあるサロンで、白竜のノヴァは華麗に言葉を紡いでいた。
ノヴァは、富豪伯爵として貴族社会に潜入し、外交という鋭い刃で、王国の物流と資源確保に有利な条約を誘導していた。
「伯爵夫人、あなたは宮廷に咲き誇る百合の様。しかし、あなたを彩る宝石。あなたの輝きを鈍らせている。今のトレンドは、ドラゴンハートのような、情熱的な深紅の宝石。あなたの白い肌によく映えそうです。そして、宝石と同じくらい大切なのは、確実な富の運び方。ご主人の船団が、東方の新しい貿易ルートの物流権を握るのには、我々東方の協力が不可欠ですよ」
ノヴァは、貴族たちの視線が外れた瞬間、静かに独り言を漏らした。
「もう!男言葉を使うのって、本当に疲れるわぁ!こんな面倒な外交より、早く私の番を見つけて、この不完全な姿から解放されたいわね!」
ノヴァは、自分の首元にドラゴンアイのブローチを光らせ、竜族の支配がもたらす「美」と「富」を宣伝し続けた。
「これが、ヴァルカンの役に立つなら頑張らないとねん!」
その日の深夜。エルグランド王国の首都から離れた、廃墟となった見張り塔で、ファーンとノヴァは密かに接触した。
ファーンは、隠蔽魔法を解き、緑色の鱗と角を現した。ノヴァもリングの力を弱め、白い鱗と尻尾を覗かせた。
「ノヴァ殿。本日、貴婦人たちが話していた、北部の大規模な土地権利の話。あれは我が王国が資源を確保する上で非常に重要だ。外交で、あの権利を赤竜商会経由で獲得するための道筋をつけてほしい」
「あらぁ、やっぱりファーンちゃんてば、は地味だけど優秀なのね。分かってるわよぅ。あの土地の伯爵は、最新の宝石に目がなくてね。私が外交で、その土地を丸ごとエレガントに頂戴して差し上げるわ」
ノヴァは、抑えきれない感情を爆発させた。
「でもねぇ!こんな回りくどいこと、ホント疲れるの!私はもう、この白い鱗と尻尾を隠すのにうんざりよ。早く私の番を見つけたいわ!」
ファーンはため息をつくと、ノヴァに向き直る。
「我々が焦るべきは、王の計画を盤石にし、番を見つけることだ。王の計画に貢献した者が、最も早く番に巡り会う。なんてことはないが、はやく不完全な姿から解放されたいねぇ」
二人ではぁと深いため息をついた。




