2:赤と銀
大陸中央に位置するアラキラ王国最大の商業都市、セイント・マーカン。商業ギルドの建物前。
ヴァルカンは、隠蔽魔法を施し、完全な人間に見えるよう、角を隠した。赤い短髪、高い身長、鍛えられた体という、人目を惹く姿で立っていた。その整った顔には、人当たりのいい商人の笑みを湛えている。
一方、ルキウスは、銀色の鱗の覆う皮膚、角、長い尻尾を持つ爬虫類を思わせる人とは違う姿。彼の奴隷の首輪と特殊な外見は、人間たちに魔力の高いドラゴニアと誤解を抱かせた。
ヴァルカンは、鱗月村の商人数名を伴い、奴隷であるルキウスを連れてギルドへと入っていった。
その瞬間、ギルドの広間にいた女性職員たちの間に、
「きゃっ」「見て、あの人...」
と、隠しきれないほどの熱烈なざわめきが走った。鍛え上げられた体躯を持つヴァルカンの姿は、南方特有のゆとりのある服装も相まって彫刻のようだった。そして、言うまでもなく彼女たちの視線を釘付けにした。
「い、いらっしゃいませ。お客様、どの様なご用件でいらっしゃいましたか?」
受付嬢は頬を赤く染め、いつもの笑顔を忘れていた。
「私の名はヴァルカン。本日商会を設立したく参りました。」
ギルドのベテラン職員は、ヴァルカンとルキウスを一瞥し、緊張しながら事務的に対応した。
「商会設立でございますね。当ギルドへの登録は初めてですね?恐れ入りますが、取り扱い商品と資本に関する機密性の高いお話となりますので、こちらへお進みいただき、面談室でお話を伺います」
ヴァルカンとルキウスは、職員に促され、静かな別室へと移動した。
しばらくすると中年のメガネをかけた男性が入ってきた。
「当ギルドでは初めてのご設立ですが、規模をはどの様になさいますか?設立資本の裏付けと、お持ちになった商品の詳細な記録を拝見してからこちらから提案いたしましょうか?」
ヴァルカンは、太陽のような笑顔をさらに輝かせた。
「私どもとしては、このセント・マーカンに店舗を置き、アラキラ全土を舞台に取引を広げたいとかんがえております。」
担当者はふむと息をつくと、差し出された書類に目を通す。商会職員の数、資本金、そして出資者、取扱商品。順に確認する。
「出資者がいらっしゃらないようですが・・・・」
「ご心配はごもっとも。これを見ていただければ全てご理解いただけます。私には出資者など不用なのですよ。」
ヴァルカンは木箱を開け、竜の力を秘めた宝石を提示した。
「これらは、大陸にはまだ知られていない、竜の宝珠です。我々商会は、この至宝を加工・流通させ、アラキラ王国の交易を、大陸最強へと押し上げたい!」
職員は並んだ宝石の圧倒的な輝きにおされながらも、最後の懸念を口にした。
「たしかにこれほどの宝石ならば...。あと、もう一点、その、彼は、どの様な、奴隷?なのでしょうか。」
「ご心配は無用。このルキウスは、私の商運の守り神。彼はこの宝珠の鑑定、加工を最もよく知っている。さあ、このチャンスを、貴方がたは逃すおつもりですか?」
職員は、ヴァルカンの言葉の力と、ルキウスの人とは違う姿が放つ圧倒的な威圧の前に屈服し、設立文書にサインした。
商会として確保された店舗件、邸の一室。ルキウスは、奴隷の首輪の冷たさに、激しい屈辱を感じながら、都市の全取引記録の監査を命じられていた。
そこへ、隠蔽魔法を解き、角を露わにしたヴァルカンが入ってきた。
「触るな、ルキウス。貴様の奴隷としてのドラゴニアの外見は、この宝石に真実身をあたえる。」
ルキウスは、ヴァルカンの角のみを残した人化の姿に、ため息をつく。
「ヴァルカン殿にはわからんのですよ、、番を持たぬ私の苦労が!この奴隷の首輪なんて、嫌でしか無い。早く運命の番を見つけたいのに!」
ヴァルカンは冷徹に言い放った。
「番は、王の計画を達成する過程で見つかれば幸運。焦るな、銀竜。お前の銀の力で、情報の全てを洗い出せ。さすれば、お前の番も、必ずやこの金の渦の中から浮き上がってくるだろうさ」
「なんですか、それ!金目当てに寄ってきた人間から探せってことですか!」
ルキウスは、屈辱と渇望を胸に、商業都市アラキラ王国の情報の渦へと意識を投じていくしかなかっ。
1日も早く、番と出会うために!




