誓い
ノアの宣告から一夜明け、シオンは自分の部屋で、静かに自分の武器の手入れをしていた。彼の心には、ノアへの激しい嫉妬や怒りよりも、受け入れざるを得ない絶対的な事実だけが残っていた。
シオンは、ガルドを呼び出し、淡々と告げた。
「ガルド。俺は、強くなりたい」
ガルドは、シオンの顔を見て、彼の心が既に敗北を受け入れていることを察した。
「俺の、エセルを思う熱意も、命懸けの努力も、あの男の絶対的な力の前では、何の役にも立たなかった。エセルは、俺の不安を煽る愛ではなく、ノアのくれる揺るぎない安寧を選んだ」
シオンは、武器の手入れを終え、それを壁にかけた。
「俺は、エセルへの想いを胸に、彼女から身を引く。これ以上、彼女の心の安寧を乱したくない。俺は、この村の戦士として、二度と村が外部の脅威に晒されないように。それが、俺にできる、最後の、そして唯一の貢献だ」
シオンは、ノアとの競争から完全に手を引いた。彼は、エセルの傍にいるという個人の望みを捨て、村の未来という共同体への義務を選んだ。彼の表情は、熱狂から、静かな諦観へと変わっていた。
シオンがガルドとの対話を終えた頃、ノアはエセルの部屋を訪れた。
エセルは、窓の外を静かに眺めていた。彼女の表情は穏やかで、ノアが側にいる安心感に満ちていた。
「ノアはノクスだったのね。」
「すまない、其方との約束を違えてしまっただろうか」
ノアは、部屋の扉を静かに閉め、エセルの傍に歩み寄った。
「いいの、何となく気がついていたし、あなたの優しさが痛いほど伝わってきた。復讐したい心を沈めて、私のそばにいてくれた。それだけでいいの。」
「私は、竜王ノクス。其方を、番として迎えてもいいだろうか。其方を愛し、愛されたいのた。」
「不思議ね、ノアの外見なのにちゃんとノクスの気配がする。私が気がついたから?」
その瞳の青い光を、深く、そして力強く輝かせ、彼の視線は、エセルの魂を直接見つめていた。
「あなたの身に起こった全ての苦しみは、其方が、我を一人にした罪であろう。だが、それよりもこの先の数千年、其方を愛し続けると誓おう。」
エセルは、ノクスの告白を聞いて安らぎと情熱を感じた。あの日、初めて体を重ねたあの日の様な。
「ノクス…」
エセルは、親密な響きで彼の名を呼んだ。
ノクスは、その呼び方に満足し、エセルを抱き上げ、強く、真剣な眼差しで告げた。
「我は、其方を深く愛する。其方の身体も、心も、全てが我のものだ。其方は、私にとって、この世界で唯一の宝だ」
ノクスの告白は、彼が人間としてではなく、竜王としてエセルに抱く、支配的な、そして永遠の愛だった。
エセルは、その抱擁の中で、ついに真の安らぎを見つけた。彼女は、ノクスの首に腕を回し、顔を埋めた。
「ノクス…あなたが、本当に私のものなら…もう、どこにも行かない。私を、あなたの永遠の中に閉じ込めて」
エセルは、もはや人間的な愛ではなく、ノクスという絶対的な存在による、支配された愛を選んだ。竜王ノクスと、彼の番エセルの関係は、ここに確固たるものとなった。




