決意
シオンは、ガルドを呼び出した。
彼の顔から疲労は消えていたが、その瞳には、決意と諦念が混ざり合った複雑な光が宿っていた。
「ガルド。俺は、村を離れる」
ガルドは驚いて目を見開いた。
「何を言っている、シオン!今はまだ残党がいるかもしれない時だ!」
「残党はもういない。ノアが全て片付けた。そうに、違いないんだ。俺の熱意だけでは、あの男の力には勝てない、エセルも救えない」
シオンは、初めてノアの力を公然と認めた。
「だから、俺がここにいる必要はない。ノアがいる限り、安全は保障されている」
シオンは、ノアの言葉をそのままガルドに伝えた。
「問題は、山賊の背後にいるという東の国の貴族だ。ノアの言葉が真実なら、これは村だけで対処できる問題じゃない。俺は、その貴族の存在と、山賊との繋がりをこの目で確認しに行く」
ガルドは、シオンのエセルへの想いが、この危険な旅立ちを促していることを理解した。
「それはノアのデマかもしれないだろう!危険すぎる!」
「デマであれ、真実であれ、俺は確かめたい。エセルを守るために、俺ができることは、もうこれしかないんだ」
シオンの旅立ちの動機は、村の安全と、ノアへの最後の意地だった。
彼は、ノアの提示した「脅威」を潰すことで、エセルの心を癒そうと考えた。
ガルドは、シオンの燃えるような決意に、かつての自分を見た。彼は深くため息をつき、渋々承諾した。
「…無事に戻ってこい。」
シオンは、旅立つ直前、治癒院の裏庭でノアを呼び出した。
「行くぞ。あんたの言った東の国の貴族を探しに」
シオンは、ノアを挑発するように言った。
ノアは、その報せに微動だにしなかった。すべてを予測していたかのように、静かに頷いた。
「合理的だ。残党狩りよりも、根源を断つ方が早い」
「ふざけるな!俺はあんたの道具じゃない!エセルの為に行くんだ。」
シオンは激情を抑えられなかった。
「俺は、エセルを守るために行く。あんたでは、彼女の心の傷は癒せない。俺は、必ず真実と村の平和を持ち帰える。」
ノアは、その熱い宣言を冷静に見つめた。
「構いません。ただし、一つ助言を。貴族は、山賊よりも賢く、冷酷だ。決して正面から挑発せず、ただ情報だけを持ち帰りなさい。」
ノアの言葉は、まるで上司が部下に与える指示のようだった。
シオンは、その尊大さに怒りを覚えたが、ノアが自分を潰さずに助言を与えたことに、どこか複雑な感情を抱いた。
彼は、ノアの力を借りて情報を持ち帰るという屈辱的な役目を、エセルのために受け入れた。
シオンは、エセルの部屋へは行かなかった。彼女の傷ついた顔を見れば、決意が揺らぐと知っていたからだ。
彼は、治癒院の窓越しに、療養中のエセルが横たわる部屋を遠くから見つめた。
シオンは、ノアへの対抗心と、エセルへの純粋な愛を胸に、静かに村を後にした。
彼の旅立ちは、ノアの計画に組み込まれた、計算された一手だった。
ノアは、シオンの姿が見えなくなるのを確認すると、初めて顔を上げ、治癒院の奥の部屋を静かに見つめた。




