決定打
ノアの言葉—「東の国の貴族」—は、シオンの心に疑念を植え付けた。
彼は、村の治安回復を口実に、ノアが言及したより大きな脅威の痕跡を探すため、単独で森の奥深くへと踏み込んだ。
シオンは、潰された山賊の隠れ家を再度洗い直し、手がかりとなる遺留品を探した。
しかし、ノアが既に持ち去ったため、めぼしいものは何も残っていない。
彼は苛立ちを募らせ、もはや山賊狩りという本来の目的すら忘れかけていた。
(嘘だ。あの男のデマだ。俺を焦らせて、エセルの傍から遠ざけるための…!)
シオンはそう信じたいにもかかわらず、ノアの言葉に込められた確信が、彼の思考を支配していた。
シオンが不在の間、村の警戒は一時的に手薄になっていた。
最後の望みとばかりに山賊の残党三人が、報復と食料調達のため、村の貯蔵庫に近い裏山から侵入を試みた。
彼らは、竜人の子供か女性を再び攫うことも考えていた。
この異変に最初に気づいたのは、貯蔵庫の近くで薬草の運搬を手伝っていたガルドだった。彼は即座に警鐘を鳴らそうとしたが、残党は既に武器を構えていた。
「見つけたぞ、ガキども!」
山賊の一人が叫んだ。
村は再び、緊張に包まれた。人々は隠れ、ガルドが一人、残党と対峙する構えを取った。
その瞬間、治癒院の窓が開いた。ノアは、薬草を整理する手を止め、窓から裏山の一点を静かに見つめた。彼は、エセルの療養を妨げる不純なノイズの発生に、極度の不快感を示した。
ノアは、何の準備もなく、ただ静かに手を一振りした。
ドンッ!
空気の振動とも、魔法の轟音とも違う、極めて密度の高い衝撃波が、裏山に直撃した。
それは、山賊たちの位置を正確に捉え、彼らの体を一瞬で木の幹に叩きつけた。
衝撃は、村の誰にも怪我を負わせることなく、残党三人の動きを完全に停止させた。彼らは、苦しむ間もなく気命していた。
ノアは、衝撃波を放った後も、一切の動揺を見せず、窓を静かに閉めた。再び、薬草の整理に戻る彼の姿は、まるで虫を払ったかのようだった。
山賊の残党が完全に無力化されたことを確認したガルドは、戦慄した。
彼には、何が起きたのか正確には理解できなかった。ただ、圧倒的な力が一瞬で、脅威を消し去ったことだけは分かった。
しばらくして、手がかりを探して疲れ切ったシオンが村へ戻ってきた。
ガルドは、シオンに全てを説明した。
「そんな、そんなことがあるか!」
シオンは、ノアが残党を狩ったのではとおもった。自分が命を削って森を捜索している間に、ノアは治癒院から一歩も動かず、最も危険な最後の脅威を完璧に排除したそう考えた。
まるで叶わない。
空回りする感情にセシルはどうしよもない憤りをかんじた。




