冷たい愛情
保護された後も心配でエセルの部屋の外でシオンは佇んでいた。
彼女は泣き叫び、姉であるアメティストが宥める声が聞こえた。
彼女の慟哭は、彼の心に深い傷と、燃え盛るような爪跡を残した。
ノアの冷静な強さに太刀打ちできないことを痛感した今、彼に残された道は、感情を力に変えることだった。
シオンは、村人たちを集めた。
「山賊は、エセルとリルカを連れ去ったことで、すでに我々への宣戦布告をした。彼らを野放しにすれば、村の未来はない」
シオンの瞳は、これまでにないほどの決意と憎悪に燃えていた。
彼は、個人的な後悔を山賊へ向けようとしていた。
「昨夜得た情報を元に、奴らの逃走経路を全て塞ぐ。俺は、今日からこの村の斥候として動く。必ず、奴らの残党を一掃する!」
シオンは、村の男たちと共に、森の警戒と追跡ルートの徹底的な捜索に乗り出した。彼の献身は、純粋に村を守るためであり、エセルの敵を打つためだった。
一方、ノアは、治癒院で静かに雑務を続ける傍ら、夜になると行動を開始した。
エセルの身に起こったことは、ノアにとっては取るに足らないことの様に思えたが、彼女の姿を見て放っておく事はできなかった。
ノアは、魔法は使わず、夜の闇に紛れて、廃鉱に引き返した。彼の目的は、山賊の残党を追うことではない。山賊の背後にある、エセルの誘拐を依頼した貴族の存在を突き止めることだった。
廃鉱の地下、ノアは山賊の遺留品を、驚異的な速さで調べ上げた。そして、一通の古びた羊皮紙を発見した。それは、東の国の印章が押された依頼書だった。
ノアは、その依頼書を見て、静かに微笑んだ。その笑みは、ノアという仮面を打ち砕くほどの、冷酷で残忍な悪魔の表情だった。
ノアは、エセルの精神的安定のため、今はまだ、この事実も明かさないと決めた。彼の計画は、シオンのような人間的な行動ではなく、何か底知れぬものを感じさせた。
シオンは、村の男たちと共に、森で山賊の残党を狩り、必死に村の平和を取り戻そうと尽力した。彼の行動は、エセルへの純粋な愛と、ノアへの強烈な対抗意識に支えられていた。
ノアは、村の片隅で静かに暮らし続けながら、エセルの心を慰めた。
エセルをめぐる、熱い人間的な愛と冷たい愛情、二つの異なる使命が、動き始めた。




