氷と炎
シオン、ノア、エセル、リルカの四人は、夜明けが完全に訪れる頃、鱗月村へと戻った。村の門前で待っていたガルドとアメティストは、彼らの無事な姿を見るなり、安堵と同時に激しい動揺に包まれた。
リルカは、アメティストに抱きしめられ、再度泣き崩れた。
エセルは、アメティストの元へ歩み寄ったが、その足取りは重く、動きは緩慢だった。アメティストは、エセルの美貌が、昨夜の出来事によって深く傷ついていることを即座に理解した。アメティストは、何も尋ねず、ただ強く彼女を抱きしめた。
「よく頑張ったわね、エセル。もう大丈夫よ。」
エセルは、アメティストの温もりの中で、初めて張り詰めていた緊張が緩み、小さな声で嗚咽した。
アメティストは、ガルドに目配せし、エセルをすぐに治癒院の奥の部屋へと運び、静かに休ませた。
一方、アメティストはシオンとノアに向き合った。
「二人とも、ありがとう。あの子を助けてくれて。」
彼女は心からの感謝を述べたが、すぐに表情を険しくした。
「だけれど、何があったの?あの子の様子から想像はつくけれど。」
シオンは、ノアよりも先に口を開いた。彼の声は震えていた。
「俺が…俺が悪いんだ。こんな事に、なって。山賊に、エセルは・・・・。」
「おそらく、その身と引き換えにリルカの安全を願ったのだろうな。」
シオンは、エセルが山賊に何をされたのかを具体的に口にすることはできなかったが、ノアが彼女にしっかりと告げた。
「山賊は、リルカ殿を売買目的で拐った。エセル殿は、リルカ殿を守るために、誰が助けにくる、その時間を稼いだ。彼女の精神的疲弊は著しいが、命の危険はない」
ノアの報告は事実のみであり、彼の声には一切の感情がなかった。
シオンは、その冷徹さに耐えられなかった。
「あんたは…!エセルに何があったか、本当に分かっているのか!なぜそんなに冷静でいられる!」
シオンは、ノアがエセルを救出したという事実に感謝しつつも、エセルの心に寄り添おうとしないその態度に言いようのない怒りと嫉妬を覚えた。
ノアは、ただシオンを見つめ返した。彼の青い瞳の奥には、シオンの感情的な爆発とは全く異なる、底の見えない静かな確信が宿っているように見えた。
ガルドが、エセルを寝かせた後、静かに治療院の広間へと戻ってきた。
「ノアさん。あなたには感謝します。ガルド、あなたは村の警備と、情報収集を徹底して。シオン、あなたは安静にして。かなり疲れている様にみえるわ。」
アメティストは、エセルの身に起こったこが不思議だった。
こうなる前に自分の主人たるノクスが黙っているはずがないからだ。
(ノクス様…あなたの番が、こんな目に遭っている。何故あなたは動かないの?)
アメティストは、一抹の不安を胸にエセルを看病するため奥に下がっていった。




