羨望と嫉妬
廃鉱から逃れてきたノアとエセル、そしてリルカは、森の合流地点で、山賊を撒いて戻ってきたシオンと合流した。
シオンは、二人の姿を視界に捉えた瞬間、全身の力が抜けるほどの安堵に襲われた。
彼は、一目散に駆け寄り、まずエセルの無事を確認した。
「エセル!大丈夫か!」
エセルは、シオンの顔を見て安堵の表情を見せた。
だが、伸ばされた彼の手を払いのけた。
「ご、ごめんなさいシオン。体が痛いの・・・・。」
シオンは、伸ばした手を引っ込め、改めて聞く。
「エセル…!怪我は…」
エセルは、力なく微笑んだ。彼女の体は無事に見えたが、その金髪は乱れ、顔には細かい傷もついていた。
昨夜、彼女が何を経験したのか、シオンは一瞬で察した。
「大丈夫よ、シオン。リルカも無事よ、彼女は・・・・、彼女は、何もされてないから。」
エセルの声は、感情が抜け落ちたかのように静かだった。彼女の態度は、安堵したというよりも、すべての力を使い果たしたかのようだった。
シオンは、エセルの言葉に、怒りが湧き立つのを感じた。
血と言う血が湧き立ち、あの山賊達を殺したいと体の中から怒りが湧き立つ。
その時、ノアが静かに口を開いた。
「時間を無駄にした。山賊が追ってくる前に、村へ戻ります。シオン殿、道を」
ノアは、リルカを抱えたまま、エセルに手を貸すこともせず、道具のように冷静な指示を出した。ノアの態度は、まるで感情のない完璧な救世主であり、その存在がシオンの神経を逆撫でした。
シオンの心には、沸騰するような激しい怒りが湧き上がった。
エセルは、ノアの理性と圧倒的な強さによって救われた。そして、エセルの瞳に宿る微かな安堵は、シオンではなくノアの強さに向けられているように見えた。
エセルは、シオンの動揺に気づかず、ノアの言葉に静かに反応した。
「ノアさんの言う通り。早く戻りましょう」
彼女は、シオンの熱い感情や、視線よりも、ノアの冷静な判断と実務的な行動にいまは頼りたいと思った。
シオンは、そのエセルの無意識の選択を目の当たりにして、心が凍っていくのを感じた。
「…わかった。行くぞ」
シオンは、憎しみを込めた視線をノアに一瞬向けた後、無言で追跡ルートを引き返し始めた。
彼は、エセルを救うという最大の目的は達成したにもかかわらず、彼女の身を守れなかったという現実に直面し、これまでにない激しい焦燥とノアへの憧れにもにた嫉妬を覚えた。
かくして、二人の男は、エセルを挟んで、静かなる闘争の火花を散らしながら、鱗月村へと帰路についた。




