二人の追跡者
エセルが連れ去られた夜、シオンとノアは、休むことなく山賊の追跡を続けていた。
森は濃い闇に覆われ、追跡は困難を極めた。
シオンは、先導しながらも、感情の制御を失いかけていた。
「俺たちがそばにいたのに…!エセルとリルカをあんな奴らの手に渡して…!」
シオンの心には、自己嫌悪とノアへの苛立ちが渦巻いていた。
彼は、エセルの身に最悪のことが起きているのではないかという恐怖に耐えられず、ただ闇雲に走ろうとした。
ノアは、一歩も乱れずシオンの後ろを追った。彼の表情は夜闇に紛れて見えなかったが、シオンはノアから発せられる冷たい怒りを感じていた。
「シオン殿、感情的になるな。山賊は逃走のプロではない。必ず足跡が乱れる場所がある。それを探すんだ。」
ノアの声は、周囲の闇よりも冷たかった。
「私たちが、冷静でなくてどうする。焦れば焦るほど大切なことを見落とすぞ!」
ノアの言葉は常に最も正しかった。
だからこそシオンは、自分を許せなかった。
夜が明けきらない早朝、二人は山賊が通ったと思われる、岩がちで足跡が残りにくい難所に差し掛かった。シオンは追跡の継続を諦めかけた。
「…もう、見失った。こんな場所、素人じゃ足跡なんて追えない」
シオンは絶望を滲ませた。
その時、ノアが地面の岩の隙間を指さした。
「ここです。微かな、血の匂い」
シオンは、その場に屈み込んだ。言われてみれば、確かに薄い鉄の匂いがする。山賊の誰かが、岩場で足などを傷つけたのだろう。
ノアはさらに、木の枝に引っかかった金色の細い髪の毛を見つけた。
それは間違いなく、エセルの金髪だった。
「これは…」
シオンは息を飲んだ。
ノアは冷静に分析した。
シオンは、エセルを思い、追跡への決意を新たにした。
ノアは、エセルの金髪をじっと見つめた後、確信めいた口調で言った。
「このルートは、我々が想定していたよりもさらに奥へ、大きな街道に近い方向に向かっています。山賊の隠れ家は、この街道の近く、廃墟か人目につかない場所にあるはずだ」
ノアは、エセルが時間を稼いでいることを知っているかのように、的確に山賊の最終的な目的地を予測した。
「行きましょう、シオン殿。急げば、まだ間に合います」
エセルの身体と精神を犠牲にした時間稼ぎは、ノアの冷静な判断力とシオンの熱意によって、確実に実を結び始めていた。
二人は、エセルが残した希望の痕跡を頼りに、さらに追跡を続行した。




