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クロマティ・ヘゲモニー 万色竜の覇権  作者: 鞘沙耶
王の目覚め
32/86

誘拐

村長からの通達があった翌朝、エセルはシオンと共に薬草採取に向かう準備をしていた。

しかし、待ち合わせ場所にガルドの姿はなかった。

代わりに現れたのは、昨日エセルを救ったノアだった。


「ガルドは、山賊対策の緊急任務で、村の警備に当たることになった」


ノアは静かに説明した。


「私が代わりに同行するよ。村長とアメティストさんから許可を得ている」


シオンの顔に、明確な不満が浮かんだ。彼の傍にいるべきは自分だと、無意識に主張する心が騒いだ。


「あんたは昨日村に来たばかりだろう。森の知識もないのに…」


シオンは警戒を隠さない。

ノアは表情を変えず、淡々と言い返した。


「昨日の猪の件で、私の戦闘能力は証明されたはずです。私が同行では何かもんだいでもありますか?」


シオンはノアの圧倒的な実力を知っているため、反論できなかった。

エセルは、ノアが同行することでシオンの負担が減るならと、この変更を静かに受け入れた。


村の出口で、一人の幼い少女、リルカが彼らに合流した。彼女は目を輝かせ、エセルの袖を引いた。

「エセル!私も行く!お花摘み、お手伝いできるよ!」


エセルはリルカの無邪気な姿に微笑んだ。


「リルカ、ダメよ。森は危ないわ」


「大丈夫だろ?ノアさんだっているんだし。なぁ?」


シオンは挑発するような視線をノアに向ける。





ノアは青い瞳で静かに森の気配を探っていた。二人の間には、エセルをめぐる無言のライバル意識と、警戒すべき相手の存在に対する緊張感が張り詰めていた。

しかし、採取が始まると、エセルとリルカは、薬草や珍しい花を見つけることに夢中になり始めた。


「見て、エセル!きれいなお花!」


リルカが駆け出す。


「危ないわよ、リルカ!」

エセルはリルカを追いかけ、シオンとノアの警戒範囲から、少しずつ離れてしまった。

ほんの一瞬のことだった。


「――っ!」


ノアの鋭い感覚が、背後からの気配を捉えた。

シオンとノアが慌てて二人の後を追ったが、すでに遅かった。

茂みの中から、三人の山賊が飛び出し、エセルとリルカを力ずくで押さえつけていた。山賊の一人は、


「ドラゴニアのガキだぜ!」


と叫び、リルカを担ぎ上げた。

エセルは抵抗したが、口元に布を押し付けられ、すぐに意識を失った。

リルカも同様に、布で意識を奪われた。山賊たちは、価値のあるドラゴニアの子供に加え、その場にいた人間の女性も連れ去った。


「やめろ!エセル!!!」


と叫びながら駆けつけたときには、山賊はすでに気絶した二人を担ぎ上げ、深い森の奥へと逃げ去っていく姿が見えた。

ノアは、一瞬で状況を把握した。

彼の青い瞳の奥に、底知れぬ冷たい怒りが宿ったが、彼はそれを完璧に制御し、冷静に追跡のルートを探していた。


シオンは、自分の不注意と、エセルを守れなかったことに激しく後悔し、その場で膝をついた。


「エセル…リルカ…!」



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