狙い
ノアは、猪の討伐という手柄と共に、鱗月村に新しい村人として受け入れられた。
エセルは、昨日命を救われた礼を言うため、ノアの元を訪れた。
「ノアさん、昨日は本当にありがとう。あなたがいなかったら、私、今頃どうなっていたか…」
ノアは静かに微笑んだ。
「大したことではありません。私は、たまたまそこにいただけです。」
ノアはドラゴニアの青年で、深緑のようなカラスの濡れ羽のような鱗を持ち、瞳は青く澄んでいた。
エセルは、彼の落ち着いた対応に安心感を覚えた。ノアは圧倒的な強さを見せたが、威圧感はなく、エセルは彼を「命を助けてくれた、とても優しくて強い人」という純粋な恩人として認識した。
彼の強さは、今の村に必要なものだと冷静に考えた。
「ノアさんが村に来てくれて、心強いわ。山賊の噂もあるし…」
エセルは、村の状況を素直に打ち明けた。
エセルとノアが話しているところに、シオンが通りかかった。
彼は、エセルがノアに向ける眼差しを見て、胸の中に鋭い熱が走るのを感じた。
「エセル、もういいだろう。ガルドが呼んでいる。」
シオンは、普段より少し刺々しい声でエセルに言った。
「わかったわ」
エセルはすぐにシオンに従った。
シオンは、エセルをノアから引き離したことで、ようやく胸のざわつきが収まった。
(なんだ、あの男は。馴れ馴れしい…)
シオンは、ノアを「エセルの安全を脅かす存在」ではなく、「自分の特別な立ち位置を脅かす存在」として見始めていることに、まだ気がついた。
その日の夕方、村の中央広場に村人たちが集められた。
村長が、厳しい顔で皆に告げた。
「皆、聞いてくれ。今日、西の森で薬草を採取していた村人のドラゴニアの子供が、山賊に攫われそうになる事件が起きた。幸い、ガルドがすぐに気付き、事なきを得たが、山賊は村の弱、ドラゴニアを狙い始めた」
広場に、どよめきが広がった。
エセルは、この通達を聞き、初めて山賊の問題を他人事ではないと感じ始めた。シオンや、他の村人たちが守ろうとしているこの村そのものが、今、具体的な危機に直面していることを痛感した。
「今後は、子供たちを一人にしないこと。そして、薬草採取や交易に出る者は、必ず三人以上の集団で行動すること。警戒を厳にせよ!」
ノアは、広場の隅でその様子を見ていた。




