気づき
ある朝、エセルはシオン、ガルドと共に、薬草採取のために村の北側の森へ向かうことになった。
エセルは、シオンが傍にいることで、彼の負担を減らす手伝いができるかもしれないと考えていた。
「今日の採取ルートは村に一番近い場所だ。エセル、あんたはガルドの傍を離れるな」
「わかっている」
山賊の脅威は依然としてエセルにとってはどこか他人事であり、彼の指示は単なる作業上の注意として受け止めていた。
三人が村の石垣の出口に差し掛かった時、一人の村人が慌てた様子で走ってきた。
「ガルドさーん!村長が呼んでる!急ぎの用があるとかで!」
ガルドは表情を引き締めた。
二人の方に一瞬視線をやる。
「分かった。すぐに行く」
ガルドは即座に決断し、シオンとエセルに向き直った。
「シオン、エセル。俺が戻るまで、絶対に森の入り口で待て。俺がいない間は、絶対に中に入るな。絶対に勝手な真似はするな」
エセルに念を押した。
待機を命じられたことに不満を感じつつ、「はいはい」と軽く返事をした。
ガルドが村長のもとへ走り去った後、エセルとシオンは森の入り口で待機した。
シオンは警戒のため、エセルの隣で森を見張るように立っていた。
(薬草の知識を増やしたいのに、こんなところで待っているだけじゃ、時間がもったいない。)
エセルは、森の境界線からわずか数メートル入ったところに、珍しい赤紫色の薬草が自生しているのを見つけた。
「シオン、見て!」
エセルは、薬草を採取する目的で、その場を離れようとした。
「エセル!待て、ガルドが待てと言っただろう!」
シオンは、反射的にエセルの腕を掴んだ。
彼の心臓は激しく高鳴っていた。
初めて自ら手を触れた、の驚きに、その腕の細さに、柔らかさに。
「大丈夫よ!すぐ戻るから!」
エセルはそう言い残すと、シオンの引き留めを振り切り、薬草を摘むため、森の奥へと足を踏み入れていった。
シオンは、自分の鼓動に驚き、彼女が森の中へ消えるのを止められなかった。
シオンは、自分の心臓がこれほど激しく鼓動している理由が、ただの心配だけではないことに、まだ気がついた。




