ーノクスーat 聖域
短いお話です、ノクスサイドです
鱗月村から遥か離れた聖域。
クリスタルの柱が立ち並ぶ玉座の間で、竜の王ノクスは、巨大な水鏡を前に佇んでいた。
彼の傍らには、彼の臣下である、ヴァルカンとアイゼンが控えていた。
彼らは人間の姿を取っているからか、ノクスの放つ冷ややかな魔力と、王の苦悩する気配に、常に緊張感を漂わせていることが見て取れる。
水鏡の中には、エセルが薬草を束ねたり、ガルドやシオンと共に森を歩いたりする、鱗月村での日常が映し出されていた。
ノクスの視線は、エセルがシオンと共にいる場面から離れなかった。
シオンの隣で笑うエセル。傷を負ったシオンを気遣うエセル。
ノクスの胸には、エセルへの募る想いと、シオンへの燃えるような嫉妬が渦巻いていた。
(彼女の求める人間らしい営み。その笑顔は、私に向けられるべきではないのか!)
ノクスは、エセルが対価や義務のない、純粋な繋がりを求めていることを理解していたが、その繋がりが、彼女の心が遠ざかっていくように見え、耐えがたかった。
ノクスは、理性で感情を押し殺そうとしていた。
しかし、水鏡が映し出すエセルとシオンの距離が縮まるたび、番に会えない寂しさと、彼女の心が離れていく恐怖が、彼を深く苛んだ。
彼はそっと水鏡に手を伸ばしたが、鏡の中のエセルに触れることはできない。
その水鏡は、ノクス自身の焦燥と孤独を映し出す、残酷な境界線でもあった。
傍らで、ヴァルカンとアイゼンは、ノクスの苦悩を静かに見守っていた。
「ノクス様、お休みになられては・・・・」
ヴァルカンが、主を心配して小さな声で進言した。
ノクスは、エセルへの強い愛と、彼女を失うことへの恐れに耐えきれず、激しく息を吐いた。
「……エセル」
隣に控えていたアイゼンが、一歩前に進み出た。
アイゼンは、ノクスの耳に、そっと囁いた。
「ノクス様。一つ、提案がございます・・・・・・」
アイゼンは、ノクスとエセルが直接会うという最も危険な行動を避けつつ、王の願いを叶えるための手段を提示した。
ノクスの瞳に筋の光が宿った。
「…それを、準備しろ」




